GaN HEMTとは
GaN HEMTのHEMTとは、High Electron Mobility Transistorの頭文字を取った略語で、日本語では高電子移動度トランジスタと言います。
高電子移動度トランジスタは、高い電子移動度をもつ半導体材料を用いたトランジスタで、高速スイッチング(高周波動作)が可能になります。
GaN HEMTの構造
Si MOSFETの構造は縦型の構造ですが、GaN HEMTは横型の構造を採用しています。
Si基板上にGaNを結晶成長させ、さらにAlGaN(窒化アルミニウムガリウム)層を形成しています。
GaN上に薄膜AlGaNを成長させると、圧電効果により、界面に多くの電子が集まり、
高移動度の2次元電子ガス(2DEG:2Dimensional Electron Gas)層を形成します。
この層を電流経路として活用します。

基板の大口径化が他の材料より容易で、多量に生産するのに適しているため、Si基板が採用されています。
また、GaNとSiの熱膨張係数の差が大きいため、結晶成長後の降温時に大きな応力が発生し、基板にクラックが入る恐れがあります。
この応力を緩和するため、バッファー層を設けています。
スイッチング損失
Si MOSFETと比較して、GaN HEMTは大幅なスイッチング損失低減を実現しています。
GaN HEMTを使用することにより、スイッチング損失を大きく削減できるため、電源システムの高効率化を可能にします。
Si MOSFETと比較して、
GaN HEMTは、スイッチング損失を大幅に低減できます。

その他の特性比較
パワーデバイスであるSi SJ(スーパージャンクション)MOSFET、SiC MOSFET、GaN HEMTについて、一般的な特性比較(650V電圧帯)をしました。
GaN HEMTの適用範囲である中耐圧、中電力領域では、スイッチング特性が大幅に優れています。
Si SJ MOSFET | SiC MOSFET | GaN HEMT | |
---|---|---|---|
比較耐圧 | 650V | 650V | 650V |
大電流対応 | 〇 | 〇 | △ |
高速スイッチング特性 | △ | 〇 | ◎ |
Ron・Qg*1 | 1*2 | 0.63 | 0.1 |
スイッチング速度 | 1*2 | 2 | 10 |
Qrr*3 | 0.73μC | 0.25μC | 0nC |
*1:スイッチングの性能を表す指数。低い方がスイッチング性能が優れている。
*2:Si SJ MOSFETのRon・Qgとスイッチング速度を1とする。
*3:GaN HEMTは、ドレイン-ソース間に寄生のPN接合を持たない構造を有しているので、逆導通時の電荷蓄積が「0」となる。