テラヘルツ波とは
テラヘルツ波とは、おおよそ100GHzから10THzの周波数を持つ電磁波で、ミリ波と遠赤外線の間に位置します。波長は約3mmから0.03mmの範囲です。テラヘルツ波は物質を通過しやすく、直進性が高い特徴があり、またX線のように生体組織を傷つけることがないため安全です。このため、非破壊検査、成分分析、医療診断、無線通信といった多岐にわたる用途での実用化が進み始めています。
テラヘルツ波を発振する方法としては、周波数を整数倍にする周波数逓倍方式、異なる周波数の光を混合するフォトミキシング方式、そして小型化に適した共鳴トンネルダイオード等があります。
今後の課題としては、発振器の効率や出力の向上、小型化、そしてシステム全体のコスト削減が挙げられます。これらの課題を解決することで、さらなる実用化が期待されます。
テラヘルツ波の周波数帯
テラヘルツ波は、電磁波の中で、電波と光の間にある領域を指します。周波数はおおよそ100GHz(0.1THz)から10THz、波長は約3mmから0.03mmです。
※ 電磁波:電気の力が働く「電場」と、磁石の力が働く「磁場」が交互に振動しながら伝わる波のこと。
※ 周波数(Frequency):電磁波の波が1秒間に振動する回数を表し、周波数が高いほど波のエネルギーは大きくなる。単位はヘルツ(Hz)。
※ 波長(Wavelength):電磁波の波の頂点から次の頂点までの距離を表し、波長が長いほど周波数は低くなり、波のエネルギーは小さくなる。単位はメートル(m)。
テラヘルツ波の特徴
テラヘルツ波の特性と応用について詳しく説明します。
- 1. 透過性:誘電体を透過する
- テラヘルツ波は、紙やプラスチック、セラミック、木材、繊維などを透過しやすい、つまり「中を見る」ことができます。この特性は、物質の内部構造を破壊することなく調査できるため、その活用が期待されています。例えば、食品の異物検査や建物の壁の中に隠れた配線、障害物などを検出するのにも利用できます。
※誘電体:絶縁体と似た性質を持つ、電気をため込む特性を持った、電気を通しにくい物質のこと。 - 2. 直進性:電波と比較して直進性が高い
- テラヘルツ波は、レーザー光線のように高い直進性を持ち、ミラーによる反射やレンズでの集光などの光学処理が可能です。この特性は、センシングや物体を画像化するイメージング技術に利用できます。例えば、材料の欠陥検出や、医療分野でのがん検出などの実用化に向けた研究が進んでいます。
- 3. 吸収性:水による吸収が大きい
- テラヘルツ波は水に非常によく吸収されます。この特性は、皮膚や果物などに含まれる水分量の検出、物質の成分分析などに活用できます。また、大気中の微量の水分を検知することで、局所的な降雨など気象情報の予測精度を向上することも可能です。
- 4. 指紋スペクトル:物質を見分けられる
- 物質によって吸収される周波数は変わります。テラヘルツ波の分光における特徴的なスペクトルのことを「指紋スペクトル」と呼びます。多くの生体分子、たんぱく質、高分子材料などは特有の吸収特性を持ち、その吸収率を測定することで対象の物質を特定することができます。禁止薬物の検出や絵画の鑑定、物質の成分分析などへの応用が期待されています。
- 5. 高速通信 :高速で大容量のデータ伝送が可能
- テラヘルツ波帯の信号を通信に用いた場合、従来の無線通信システムと比較して大幅な高速通信が可能です。一方で水分(雨、湿気など)に吸収されることや、直進性が高いことで障害物(建物、人など)の影響を受けやすい特性は、通信においてはデメリットにもなります。様々な技術的課題はありますが、より高速で大容量のデータ伝送が期待できるテラヘルツ波による無線ネットワークは、次世代の通信規格として実用化に向けて研究が進められています。
- 6. 安全性:物質や人体を破壊しない
- 一般的に紫外線やX線などのエネルギーの高い電磁波は細胞を傷つける可能性があり、過度に浴びると人体への悪影響が懸念されます。テラヘルツ波は可視光よりも低エネルギーで、人体への被ばくリスクがありません。そのため、空港ゲートなどでのセキュリティスクリーニングや医療診断などに活用が期待されています。
テラヘルツ波の特徴を活用した、想定される実用例:
Engineer Social Hub™記事.人類に残された唯一の未開拓周波数 テラヘルツ波 (rohm.co.jp)
実用化に向けて
優れた特性を持ち、これまで電波や光では困難だった様々な分野でも活用が見込まれるテラヘルツ波ですが、実用化にはまだ多くの課題があります。そうした課題の解消やその活用先をさらに広げるために、新しい素材や技術の研究・開発が進められています。さらに便利で安全な未来へ向けて、テラヘルツ波を応用した新たなデバイスやシステムの登場が期待されています。
ロームの取り組みについて:
Engineer Social Hub™記事.LEDサイズのテラヘルツ波発振器・検出器は社会を変え得るか? (rohm.co.jp)