社外取締役座談会
本インタビューは、ROHM Group Integrated Report 2025に掲載されたものです。
変革を支える社外取締役の責任
リーダーに寄り添い、ロームの未来へ共に歩む
非常に厳しい業績となった要因やロームの直面する経営課題について、ご自身の社外取締役としての活動を振り返るとともに、ご意見をお聞かせください。
中川
売上高1兆円を目指し、積極的な投資を推進してきましたが、その方向性自体が誤っていたわけではなかったと思います。しかし、外部環境の変化に対しては、社内で努力は重ねたものの、環境の先行きに対する厳格な判断ができず、手を打つタイミングを正確に捉えることができませんでした。また、リスクに対する備えも十分にできていなかったと思います。ただその当時、外部環境の変化を見極めるのは非常に困難だったのは確かです。
Kenevan
2021年当時、業界全体が成長局面にあったため、ロームは先手を打って商機(オポチュニティ)を獲得すべく、積極的な投資を開始しました。しかし、その後市況が変化したにもかかわらず業界全体の反応は鈍く、ロームもその流れに引きずられるかたちとなりました。人間は、自ら決定した方針や投資した工場、製品に対して容易に見切りをつけることができないものですが、ロームもそうだったのだと思います。
南雲
不振の原因を市況など、外部環境に転嫁してしまったのも問題です。自分の中の「ミッションを何としてもやりぬく」という責任感や執念が足りなかった。さらにマネジメント層は、市況の変化を受けて「このままでは危ない」と察した時点で、新たな施策を打ち出す判断をすべきでした。事業本部ごとに担当役員を割り当てるなどしたものの、その転換が間に合わず、後手後手になり、負のスパイラルに陥ってしまったことが悔やまれます。
中川
私も監査等委員として、社内プロセスの遵守や守りの体制の強化について意見を述べてきましたが、踏み込んで意見できなかった点は反省すべきところです。金融機関の内部監査の経験などを踏まえ、状況悪化への備えなどについて問いただしましたが、それだけで十分だったとはいえません。
Kenevan
私自身、2024年度まで社外取締役としての立場にありましたが、振り返ると、その役割を十分に果たせていただろうかと反省しています。市況が変化した場合には、抑制的な判断を下す責任もあったと思います。そうした状況では、健全なガバナンスや機関投資家による客観的な視点からの指摘が大切です。私は2025年度からは社内の財務担当取締役となりましたので、機関投資家や社外取締役が適切な判断を下せるよう必要な財務情報を的確に提供し、意見をしっかり吸い上げる体制も構築したいと考えています。既に機関投資家からも多くの有意義な意見をいただいており、それを経営陣の意思決定につなげられるように適切に情報を共有していくつもりです。
社長の選任プロセスと、東社長に期待することをお聞かせください。
中川
ロームでは取締役社長の選解任や他の取締役候補者の指名などについては、役員指名協議会が協議した結果を取締役会に答申します。今回は、松本前社長から辞任の申し出があり、これを受けて後任の人選に関する検討を開始しました。社長の交代に伴い、他の役員人事や組織ポストにも広く影響が及ぶため、役員指名協議会を臨時で回数を重ねて開催するなど、立場にとらわれることなく、隔意のない議論を重ねた結果、2025年1月に社長交代の発表となりました。
南雲
松本前社長が、どのような形で次期社長へ引き継ぎたいと考えていたかについても、当然ながら慎重に考慮しました。その上で、役員指名協議会のメンバー全員が納得できるかたちで、後任を決定するに至ったと考えています。
中川
東社長の決断力とリーダーシップに期待を寄せていました。私がロームの社外取締役に就任してから2年が経ちますが、社内でのさまざまな協議の場面において、東社長は明確な意見をトップダウンで意思決定ができる方だという印象を持っており、今回改めて、これからのリーダーとして適任だと思いました。
Kenevan
私も東社長の決断力には大いに期待しています。更に重要なのは、彼自身がこの会社のDNAを深く理解しているという点です。創業者とも関係が深く、会社の歴史や価値観をしっかりと受け継いでおり、守るべきところ、変えるべきところを理解しています。彼はこの会社をとても愛しているからこそ、変革が必要な部分についても的確に見極められる人物です。
南雲
私が東社長を選ぶ上で重視したポイントは、皆さんも述べられているような「決断力」や「行動力」に加え、何よりも強い熱意が感じられたことです。今のように厳しい局面においては、強いリーダーシップが求められる。まさに彼のような人物でなければなりません。
Kenevan
社長就任直後から、事業部のトップを海外へ派遣して事業の立て直しを図るなど、思い切った施策を打ち出しました。会社の歴史に対する深い理解と、未来を見据えた大胆な行動力を併せ持ち、バランスよく改革を推進できる社長だと感じています。
南雲
今、東社長に最も期待されていることは、今後3年ほどの短い期間で成果を上げ、この危機的状況を乗り越えることです。そのためには、リーダーシップが不可欠ですが、単に周囲を引っ張ることだけでなく、多様な意見に耳を傾ける姿勢を持つことが重要です。そうでないと“裸の王様”になってしまう。社長がそうならないよう、我々社外取締役に求められる役割は、彼が孤立することなく客観的な視点を保てるようしっかりと意見し続けることだと考えています。
Kenevan
そのためにも、私の役割は、財務担当役員として数字をドライに見極めることだと考えています。たとえ愛着のある製品であっても、利益を生んでいないのであれば、それを裏付ける確かな数字を示しつつ事実を率直に伝えることが、私の責任です。
中川
体制が変わって以降、ここ数カ月の東社長の取り組みを見ていて、私が感じているのは、危機感の強さです。そのような人物ほど、変革への意識が高まり、果敢に行動を起こす傾向があります。今のように経営改革が必要な場面では、やはり危機感の強いリーダーが必要だったと感じています。
南雲
私も同感です。今、東社長は取締役全員に対し、積極的に外に出るよう強く求めています。現場に出て直接情報を得なければ、将来の事業環境にどのような危機が待ち受けているかを正確に見極めることができないという意識があるからでしょう。
ロームの経営改革を進めるためのご自身の役割や、改革に関わる一人ひとりの意識はどうあるべきとお考えですか。
Kenevan
直近で取り組むべき課題は、設備投資の圧縮による過剰投資の是正や、滞留している在庫の解消などがあります。今回の業績不振を受けて、まずは一度「膿を出す」ような思い切った施策に着手しています。中長期的には、開発の効率化が重要です。ロームは、お客様との密な関係性が強みです。現在、アメリカのAIデータセンター市場が急速に注目を集めており、ロームにとって大きなビジネスチャンスがあると見ています。現地のお客様と密接に連携しながら、まずは「Low-hangingfruit(すぐに取り組める課題)」に着実に取り組んだ上で、将来的にロームの底力となる領域もしっかり育てていく必要があるでしょう。
南雲
新しい中期経営計画の策定を進めるなかで、いろいろな策が出てくることを期待しています。コストダウンに向けた取り組みのほか、構造改革でマーケティング本部も新設するなどの改革は既に始まっています。我々は出てきた策に対して、それでいいかをしっかりと見極めるのが役割だと思っています。
中川
業績回復や収益力の強化に向けては、ガバナンスの改善だけでは不十分であり、すべての組織と社員一人ひとりが、自分の業務を見直し、改革に主体的に取り組む必要があります。特に、組織間の「壁」を遠慮することなく乗り越えて、部門間で互いに協力し合う姿勢を持たなければなりません。業界の状況が厳しさを増すなかで、売り上げを急速に回復させ、収益力を高めるためには、自分の領域や役割だけにとどまらず、改革に関わる一人ひとりが「自分が変わることからスタートする」という決意を持つことが重要です。
南雲
社員一人ひとりのやる気を引き出すことも業績向上の鍵です。モチベーションの有無によって、仕事の質も量も大きく変わるからです。そのためにはまず、東社長が社員から信頼され、愛される存在になることが不可欠です。「この社長のために頑張ろう」と思えるリーダーであれば、人員を増やさなくても生産性が高まり、業績の向上も期待できるはずです。現場のマネージャーも同様で、部下から好かれる存在となり、「どうすれば部下のやる気を引き出せるか」を真剣に考える必要があります。そうした取り組みにより組織全体の効率や連携が向上し、結果として業績にも良い影響をもたらすのです。
中川
私は常勤の監査等委員として現場の声に直接触れるなかで、ロームの社員には優秀な人財が数多いと実感しています。その力を企業の収益や成長につなげるには、やりがいを実感できる環境整備が欠かせません。私の持論として、個人が納得感を持って仕事に臨めば、1から10まで言わなくても、組織自体のスピードは速くなっていくと考えています。今回変わるんだということをトップが発信し、皆がその意識を持つことが重要です。
Kenevan
さらに、会社をより良くしていくためには、何よりも「将来性」を感じられる企業であることが重要だと思います。強いリーダーシップがあれば、「会社の将来は必ず良くなる」と社員は思えるものです。多くの社員が不安を抱えている今だからこそ、そうした信頼が社員のモチベーションを高める原動力になります。社員の間に「会社が良くなれば自分自身も成長できる」という、モメンタム(勢い)を作り、更に一歩進んで、社内文化として社員が株主と同じ目線で会社を応援する意識を醸成していきたいと考えています。
中川
東社長は「原点回帰」を掲げていますが、先祖返りをして既定路線で行こうという意味ではないでしょう。企業理念としてのロームの精神を再確認することです。この原則が揺らげば、製造業としての根幹が失われかねません。だからこそ、この精神に社員皆がついていき、守るべき価値を守りながら、変革すべきことには全社で挑戦していくべきだと思います。
経営改革を断行した後、ロームは中長期的にどのような姿を目指していくべきでしょうか。
南雲
ロームはSiC半導体の開発に先駆的に取り組み、成功に向けて努力してきました。2030年に向けて、最大の懸念は中国の動きですが、今後も中国の技術的進展や市場の動きを慎重に見極めつつ、“絶対に負けない”という気概を持って技術力と競争力ある製品開発をしていく必要があります。そのためには、まず技術開発がなければ前に進むことはできません。ロームは潜在的に高い技術力を持つと考えており、それをいかに社会に価値として提示していけるかが今後の成長の鍵となります。
Kenevan
ロームは、技術力を基盤として非常にフレキシブルに、イノベーティブな成長を続けられる会社です。機敏さもあり、リソースを最大限に活用する力も持っています。そうした体制のもと、お客様と共に新たな付加価値を発見しながら、継続的に成長を遂げることが理想だと考えています。今後もロームがそういう会社であり続ければ、株主価値の向上や企業価値の最大化につながる成長曲線を必ず描けるはずです。それこそが、ステークホルダー全員がハッピーになれる形ではないでしょうか。
中川
私は企業目的の実現という視点から、ロームの長期的な成長と信頼の構築を目指していくべきだと思います。一般的に言えば、ロームという会社は、技術力と顧客志向の高さを兼ね備え、ユーザーにとって親しみやすく、お客様の要望に的確にこたえる技術を持つ企業だと認識されています。この魅力を更に高め、お客様からも一目置かれる存在へと進化することこそ、あるべき姿だと考えています。
Kenevan
あるべき姿を実現するため、社長をはじめ全社員が、ステークホルダーからの多面的な期待やPerspective(観点)をしっかりと受け止めた改革案を模索しています。私自身も、今後一丸となってこの会社をより良くしていきたいという思いを強く抱いています。
中川
私自身は監査等委員として、取締役会の実効性を向上させるとともに、職務の遂行を通じて健全かつ安定した業績を残せるよう、プロセスの面から組織を支えていきます。「業務は適切に行われているか」「会計や財務に問題はないか」といった運営の健全性は、当然ながら取締役全員が見ていくべきですが、実際にはすべてに踏み込むのは難しい部分もあります。内部監査部門や監査等委員などの専門的な立場から、プロセスをしっかり見守り、私自身が押さえるべきポイントは的確に確認したと言える働きをしたいと思っています。
南雲
ロームは製造会社ですので“技術立社”であるべきです。技術力を軸に信頼されるものづくりを、コスト面も含めて着実に進めていくことが重要です。この技術への回帰こそが、「ロームとしてあるべき姿」であり、その姿が実現されれば、ステークホルダーの皆さんに「これからこの会社は良くなる」という実感を持っていただけるはずです。私はロームが確実にステークホルダーの期待にこたえる力を持っていると信じていますので、その期待を裏切らない会社作りに貢献していきたいと考えています。
南雲
まず、2021年度~2022年度は、市況が非常に良かった。ロームも好調な業績を収め、当時は皆、右肩上がりの成長を信じていました。しかしその好調さゆえに、時代の潮流の変化を見誤ってしまった。2024年度の業績不振の要因は、この変化への対応が遅れたことにあります。長年製造業の経営に携わってきた経験から分かることなのですが、順調な時期は変化を読み取る感覚が鈍ってしまい、勢いだけで進めてしまうことがあります。現場の感覚が鈍ると細かなルールも守れなくなる。ロームも好調な勢いに流されず、本来のプロセスを遵守し慎重に進めていれば、ここまで悪化しなかったはずです。