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トップメッセージ

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本インタビューは、ROHM Group Integrated Report 2025に掲載されたものです。

「原点回帰」で適正な利潤を生む企業体質へと
構造改革を断行します

2024年度の厳しい業績結果を受け、ロームは過去の反省を踏まえた聖域なき改革に着手しました。
経営体制の再構築に向け、「原点回帰」を掲げるとともに、Speed(スピード)、Speciality(専門性)、Severity(厳格な成果主義)の「3S」を重視し、信頼回復と持続的な成長を目指していきます。
市況を正しく捉えつつ、ロームの強みである「生産技術」と「顧客対応力」の更なる強化を図り、着実に利益を生み出せる企業体質へと転換していきます。

聖域なき改革に向け、決意新たに

2024年度、ロームは12年ぶりとなる営業赤字に陥るなど厳しい結果となり、PBR(株価純資産倍率)も1倍を下回る状況が続きました。私自身も2013年から取締役として経営に携わってきたことから、現状を重く受け止めています。非常に難しい環境下で課題も多いなかで、経営のバトンを引き継ぎましたが、ロームの強さを取り戻すべく、聖域なき改革に取り組む決意です。

今回の業績不振は、タイの洪水などの天災に起因した2012年度の赤字とは異なり、経営判断の遅れによる「人災」と言っても過言ではありません。中期経営計画期間を振り返ると、2021年後半から半導体需要が急拡大したこともあり、2022年度には初の売上5,000億円超えを達成。引き続き、受注も旺盛だったことから、装置発注と生産拡大を推し進めましたが、翌年11月には既に市場の潮目が変わっていました。これまでの経験で、キャパシティ拡大の頃に需要は低下する傾向があることを理解していたにもかかわらず、判断が甘く、生産調整が遅れました。

背景には、2021年に策定した中期経営計画で掲げた目標へのこだわりがありました。中計初年度に過去最高売上を達成したことから、目標を一気に6,000億円に引き上げ、SiC半導体を中心に積極的な設備投資を実行しました。装置発注のリードタイムが延びるなどサプライチェーンの混乱もあったのですが、市況の変化に適切に対応できず、設備のキャンセルも後手に回った点は痛恨の極みです。

その結果、SiCの将来性に対する不安のほか、自己資本比率の高さに反してROEが低く、資本を有効活用できていない点などが低評価につながり、PBR1倍割れが続いています。また、安定的な配当を行ってはいるものの、自社株買いに消極的で株主還元が不十分との見方も一部であると認識しています。今後は何としてもステークホルダーの皆さまからの信頼回復に努めなければならないと肝に銘じています。

「企業目的」を中心とした経営理念に基づき、新たな成長を目指す

私が経営トップとして重視するのは、ロームに連綿と受け継がれる経営理念「企業目的」の実践です。企業目的に加えて、経営・品質管理・教育訓練の3つの基本方針、さらに教育訓練基本目標は、創業間もない60年以上も前に創業者の佐藤研一郎が作り上げたもので、以来、一字一句変わっていません。これらは、ロームが正しい道を歩み続けるための羅針盤であり、これに従う限りロームの経営を間違うはずはないと考えています。

なかでも特に重視しているのが、教育訓練基本目標に記された「逆境にあっても、つねに活路を見出し、積極的に目的を貫く」という精神です。現在の状況こそがまさに「逆境」ですが、平時にも「つねに」通用するものだと考えています。

もう一つ、私が大切にしているのが、品質管理基本方針にある「企業活動のあらゆる分野において、統計的方法を積極的に活用する」です。これを今一度、徹底して会社全体の文化として根付かせ、統計やデータ分析を積極的に取り入れることで、業務のムダを省き、少数精鋭の体制を目指します。統計は品質管理や経営判断の精度を高める武器になりますし、データ活用は現在Quanmatic社と協業で進めている量子技術の活用をはじめ、製造工程の最適化を進める上でも根幹となるものです。

3Sの実践で新たな組織文化を再構築する

社長就任にあたり、経営目標として「ロームの強さへの原点回帰」を掲げました。改革を進めるにあたっては、Speed(スピード)、Speciality(専門性)、Severity(厳格な成果主義)の「3S」を軸にした組織文化の確立が不可欠だと考えています。

残念ながら今のロームは、さまざまな判断や行動にあたってのスピード感が欠けています。例えば、開発においても、多段階のチェックが入り、製品化まで時間がかかりすぎていました。これを改善すべく、意思決定プロセスの見直しや、デジタル技術を活用したシミュレーションによる開発効率化に取り組み、開発スピードの向上を図ります。また、あらゆる部門において、専門性を高める必要があります。お客様の技術的な進化に対し、半歩先を行く提案ができるよう、役割を明確にした上で専門知識の研鑽とスキルの強化を進めます。今回、マーケティング本部を新設したこともその一環であり、新たな視点と市場感覚を取り入れた「マーケットイン」の体制を構築しています。更に厳格な成果主義を導入し、成果を正しく評価する体制を構築していきます。まずは自らが先頭に立ち、これら3Sの実践を進めてまいります。

一方で、業績の回復をまずは優先すべきと判断し、これまでのグローバルメジャーの旗は一度降ろし、私の社長在任期間中には、利益体質への回帰を第一目標に据えます。そのために、事業ポートフォリオの見直し、工場再編、人員の最適化といった改革を断行します。

ロームの強みを顧客の信頼につなげる

ロームの強みは、高い生産技術力と顧客対応力だと考えています。

生産技術の象徴的な事例が、私が入社した直後に導入されたフープラインによる量産方式です。従来のマガジンtoマガジン方式とは一線を画したもので、非常に生産性が高く「どんなお客様が来てもラインを見せてはいけない」と言われるほど画期的なものでした。そのラインで生産された製品がものすごい勢いで売れていく様を今でも思い出します。圧倒的な生産性とトレーサビリティの向上により、コスト競争力と高品質を両立し、大量生産時代のニーズに合った生産体制を確立。後発ながら小信号トランジスタ・ダイオード市場でシェア1位を獲得する原動力となりました。

顧客対応力の面では、2011年に発生した東日本大震災とタイの大洪水という2つの大きな自然災害への対応が象徴的です。東日本大震災で被災したラピスセミコンダクタ株式会社の宮城工場は、社員たちの知恵や行動力もあって3カ月ほどで再稼働に至りました。また、大洪水の被害に遭ったROHM Integrated Systems(Thailand)Co.,Ltd.では、水深1.8mの浸水にもかかわらず、水没を免れた2階に高圧電線を引き込み、1カ月で生産を再開できました。このようにロームは、供給責任を果たすという強い信念のもと、他社には容易に真似できない対応力を発揮しており、それが自動車メーカーをはじめとするお客様からの厚い信頼の獲得にもつながっています。

かつて、ロームが世界で初めて開発した、トランジスタと抵抗器をワンチップにしたデジタルトランジスタという製品も、お客様との対話のなかから生まれたもので、強い顧客志向が新しい価値の創出につながった例です。しかし、コロナ禍以降はお客様のもとを直接訪問する機会が減り、そのような強い意欲が希薄化しているように思えます。現在の営業活動では自分たちが作れるものを提案しがちですが、技術の進化に対してロームがどう貢献できるのかを提案する姿勢が必要です。営業担当には専門性を高め、新たなニーズの創出に向けて積極的な提案力を磨いてもらいたいと考えています。

フープライン:大量生産に対応した生産ライン。

マーケティングの強化と開発体制の見直し

利益を安定的に生み出す企業体質への変革のためには、他社にない独自の製品をつくるか、新しい製品を出し続ける必要があります。過去にはそのためのマーケティング機能も営業と開発部門が担っていましたが、それでは今の市場のスピードに追いつかない。そこで、専門部隊として「マーケティング本部」を新設しました。ローム外の視点と市場感覚を組織に取り入れながら、市場の動向をいち早く察知し、競合やお客様の潜在ニーズに沿った製品開発を推進する体制づくりを進めています。

さらに、開発期間の短縮に向けて、シミュレーション技術の活用にも力を入れています。LSI開発では開発から市場投入までの期間を30%短縮する目標を設定し、技術強化を進めています。初期サンプルの精度を向上させることで、修正にかかる手間と時間を減らし、効率的かつスピーディな製品投入を可能にします。

かつて創業者・佐藤が「東京タワーや瀬戸大橋を実物大で試作するか?すべてシミュレーションで検証するだろう。それがなぜ私たちにはできないのか」と語っていました。その言葉を今、改めて胸に刻み、開発のスピードアップに取り組んでまいります。

また、製品の投入タイミングにも厳しい姿勢を持たねばなりません。旬の技術は旬のうちに市場に届けなければ意味がありません。競合の後追いでは差別化ができず、価格競争に陥るだけです。今後は全社的にスピード感を重視した開発体制へ転換し、業績向上に直結する製品群を構築していきます。

外部環境への柔軟な対応と新たな機会の創出

2024年度の業績に影響を与えた要因の一つに、依然として不安定な世界情勢があります。これにより欧州の電力料金が高騰し、電気自動車(EV)の販売も鈍化しました。さらに、ESGへの関心低下が環境配慮型製品への投資に二重のブレーキをかける結果となり、ロームにとっては極めて厳しい外部環境が続いています。

その一方で、AIの進展でデータセンター増設によるサーバー需要が急拡大しており、ロームには新たな成長機会が訪れています。NVIDIA社からはAIサーバーの800V化に関するパートナーの1社に選定されました。産業機器や自動車向けの領域に加え、成長分野に確実に対応していくことが、ロームの将来にとって極めて重要です。

地政学的リスクへの対応として、米国政府の関税政策については、ローム製品の対米輸出額が限定的であるため、直接的な影響は比較的軽微です。それでも、価格への転嫁を通じて利益の確保を図っており、持続可能な収益体質を維持できるよう努めています。一方、為替や市況を通じた間接的な影響については、不透明感が継続しています。

より注視すべきは、地政学的緊張の高まりです。長期化すれば、販売国ごとの地産地消モデルを検討する必要も出てくるかもしれません。

また、EV関連の需要については、EVと相性の良い自動運転など、まだ拡大の余地が残されています。日本や米国については家庭用電源が100Vで自宅での充電環境には限界があるため、今後のインフラの整備が待たれます。

国内企業との連携も引き続き模索しています。デンソーとは2025年5月に半導体分野における戦略的パートナーシップの構築に向けた基本合意に達し、アナログICの開発を中心に自動車の電動化や知能化に向けて今後も連携を強化していきます。一方、東芝デバイス&ストレージとのパワー半導体の製造連携については、グローバル市場への供給責任を果たすべく双方の工場で試作を開始するなど、順調に進んでいます。そして、東芝の半導体事業との業務提携については、現在も協議を継続しています。半導体市況が大きく変化している最中でもあるため、ロームにとって最良の形となるように、慎重に協議を進めてまいりたいと考えています。

財務基盤の再構築と対話力の強化で、信頼の回復と企業価値の向上へ

株式市場における信頼回復と企業価値向上を目指す上で、財務基盤の強化と説明責任の徹底が不可欠です。2024年度、ロームはEBITDAが過去最低水準まで落ち込み、立て直しは経営の信頼回復にとって最大の課題の一つとなっています。

このような状況下、外部からも「適切なCFOを置くべき」という声が上がり、ロームとしても必要性を感じていたことから、これまで社外取締役としてロームの経営に参画していたPeter Kenevan氏を財務担当役員として迎えることになりました。彼は財務領域に卓越した知見を持つだけでなく、マッキンゼー・アンド・カンパニー在籍時代には半導体関連企業のコンサルティングに携わっていた実績もあります。さらに、グローバルビジネスと国内事情の両方に精通しており、社内外の目線を持つ貴重な人財です。

また、株式市場の信頼回復には、やはり対話が重要であると考えています。投資家への説明責任を果たすべく、更にIR活動の質と頻度を高めていきます。財務担当のPeter Kenevan氏に加え、私自身も皆さまとの対話の機会を増やしていく予定です。PBRの改善に向けて、資本効率の向上と株主の皆さまとの対話の強化に努めてまいります。

また、現在、役員報酬制度の見直しも進めています。取締役報酬協議会では、固定報酬と業績連動報酬の適切なバランスを他社状況や自社を取り巻く環境など、さまざまな観点から客観性・透明性を持って議論しています。今後、株式報酬の比率を引き上げることで、より一層、業績達成へのコミットメントや株主との価値共有を高めてまいります。なかでも社長報酬については、金銭報酬と株式報酬の比率を「1:1」にすることも検討しており、これは、経営成果に対して責任を取る構えを示すものです。

ロームの未来をつくる人財戦略

企業の持続的成長には、人的資本の強化が欠かせません。まず、優秀な人財を確保するために、給与体系の見直しを行い、給与水準も引き上げたいと考えています。そして、社員が能力を発揮するには、一人ひとりが自己成長を実感できることが大切です。ジョブローテーションや昇進、教育の機会を適切に提供することで、社員が成長と共に「世の中の役に立っている」と実感できる制度を整えていきます。

また、若手社員が自由にテーマに取り組めるよう、若手だけの課を新設するなど、自主性と挑戦を後押しする環境づくりを進めたいと考えています。さらに、権限移譲や幹部の若返りも進め、新たな発想や視点が経営に反映されることを期待しています。

教育の面では、社員が統計学・会計学・語学を学習する体制を充実させたいと考えています。これは、ローム・アポロ株式会社の社長を務めていた時に「ロームグループで最も優秀になろう」と呼び掛けて始めたことです。こうした取り組みを通じて、社員が自信と実力を兼ね備えた社内外で活躍できる人財になることを願っています。さらに、今後は、IT、特にAIの活用が不可欠となります。AIなどの先端技術を使いこなす力を養う研修や実践の場を提供し、全社員が知識の習得と業務への応用を進めることで、一人ひとりの生産性を上げ、企業競争力を高めていきます。

最後に、成果を正しく評価する仕組みの整備を進めます。成果を出した社員にはしっかりと報いる一方、チャレンジした社員が失敗したからといってマイナス評価をしないことで、失敗を恐れず挑戦できる風土を構築します。

次期中期経営計画への展望

東 克己

新しい中期経営計画の発表に向けて、現在社内でディスカッションを進めています。この計画で目指すのは、どのような市況変化にも対応でき、持続的に利益を生み出せる体質への転換です。そのためには、事業ポートフォリオの再構築、生産拠点の再編成、人員の適正配置といった抜本的な構造改革を着実に進めなければなりません。これは、例えるならば「ジャンプする前に一度しゃがむ」ことであり、仮に一時的に規模を縮小してでも、利益率の向上を追求することが最優先です。装置産業である半導体分野では、設備投資のタイミングと規模の判断が極めて重要であり、これも利益体質なくしては成り立ちません。

2025年の半導体市場は前年度並みと見込んでいます。このなかでロームは、パワー・アナログ半導体に加え、自動運転に欠かせないLiDAR用レーザーダイオードなどのセンシング向けオプティカルデバイスへの注力を進めており、将来的にはこの分野で「ロームならでは」の価値を確立していきます。これらの領域では開発スピードが成長の鍵となるため、他社との協業やM&Aも選択肢に入れています。

また、研究開発においては、既存製品の延長ではなく、新しい製品群の開発割合を7割とし、次の売り上げの柱となるような事業の創出につなげていきます。

ステークホルダーの皆さまとの信頼関係を更に強固にするために

経営基本方針には「社内一体となって、品質保証活動の徹底化を図り、適正な利潤を確保する」とあります。まずは、これを実践することが私の大きな使命だと考えており、早急に利益率20%の企業体質に戻したいと思っています。そのための私の任期は最大でも6年と考えており、理想は次期中計の終わるタイミングで社長を次に引き継ぐことです。

適正な利潤の確保は、創業以来の原点であり、未来への道標ともいえます。その実現のためにも構造改革を断行し、市況が変化しても利益を出し続けられる企業に鍛え直してまいります。その上で、パワーやアナログ、そしてオプティカルデバイスを中心に商品力を高め、グローバル市場においてなくてはならない存在感のある企業へと変革を進めていく所存です。

その一歩一歩が、皆さまとの信頼を築く礎となると信じております。今後とも、変わらぬご理解とご支援を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。

2025年9月
代表取締役社長
社長執行役員
東 克己

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