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財務戦略

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取締役 上席執行役員 財務、サステナビリティ担当 Peter Kenevan

株主視点を強化した財務戦略により、
構造改革を推し進める

取締役
上席執行役員 財務、サステナビリティ担当
Peter Kenevan

本インタビューは、ROHM Group Integrated Report 2025に掲載されたものです。

2022年よりロームの社外取締役を務めてきましたが、2025年6月より財務を担当する業務執行取締役に就任、同年8月からはサステナビリティ担当も兼任しています。財務・非財務の両輪でロームの強みを更に磨き上げ、ROEの改善とPBRの向上を目指します。

財務担当役員就任にあたっての決意

私の日本との縁は30年ほどになります。大学時代に留学経験があるほか、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社後も数年の中国勤務を経て、2000年には東京オフィスパートナーとなりました。そして、オンライン決済サービス大手のPayPalで日本事業統括責任者をしていた際、ロームから声がかかり2022年に社外取締役となりました。その後、PayPalの任期が満了し、2025年6月に財務面の強化を目的に社内取締役のオファーをいただき、東社長をはじめとする経営陣もロームという会社も魅力的に感じていたので受諾しました。

マッキンゼー時代からコンサルタントの立場で長く半導体産業に関わってきましたが、ロームは、誠実、技術力、正直といった素晴らしさを備えている反面、変化に対する機敏な対応や大胆な意思決定という面では伸びしろが見受けられました。多くの日本企業が抱える同様の課題を、ロームも持っているな、という印象でした。

ロームは今「原点回帰」をテーマに掲げた構造改革プログラムの実行に本気で取り組んでいます。変化が大きく、痛みを伴う改革になりますが、しがらみのない社外出身の私だからこそ提言できることも多いと考えています。ドライかつ第三者的な目線で改革の実行をサポートすることで、ロームが大きく変わると確信しています。

一方で、財務担当に就任して実感したのは、ロームの経理・財務部門は非常にしっかりしており、IR体制も充実していることです。情報やシステムが整備され、月次レポートのような社内資料や、有価証券報告書や統合報告書といった開示資料も高い水準で作成されています。そのため私が業務改善の細部に介入するのは避けて、もっと俯瞰的な目線で改革をサポートしたいと考えています。

就任直後の7月初旬には、早速ヨーロッパを回り20社ほどの機関投資家と面談しましたが、彼らはロームをより良い会社にするための意見を与えてくれる存在であると再認識しました。その意見を経営判断に反映させることが私の任務の一つですし、我々の想いもしっかりと説明した上で、相互に理解が深まるよう、引き続き対話を重ねていきます。

構造改革における財務担当の役割について

まず取り組むべきことは、筋肉質でアジャイルな体制を取り戻すことです。今のロームは、収益面では事業ポートフォリオやプライシングの改善が必要ですし、コスト面でいえば人員や生産拠点の適正化といった課題があります。中規模であっても競争力を発揮していたころのロームに回帰し、経営基盤の強化を進めることが大切であり、成長を目指すのは次のステップだと考えています。

構造改革を財務面からサポートするにあたり、私は3つの層で考えています。最も基本となる層は、P/L(損益計算書)やB/S(貸借対照表)に基づく近未来的な視点で、商品戦略やプライシング、事業ポートフォリオ、生産拠点の保有形態など、足元の実行レベルに直結しています。その上の層にP/LやB/Sの要素が複合するROICやROE、ROAといった資本効率の指標が存在します。最上位の層にはPBRやPERが位置付けられますが、これらは株価に関わる指標であり、資本市場の評価に委ねられる領域です。まずは基本となる層で、投資や資産の見極めを厳格に行うことで業績を改善し、ROICなどの指標を着実に上げていきます。過大となっている資産の圧縮についても議論を進めており、資産効率の改善に取り組んでいます。それらの成果が出れば自ずと株価も上がってPBRやPERも求められる水準に到達するでしょう。

私たちがコントロールできる重要な指標の一つにROEがありますが、私は2桁を目指すべきだと考えています。また、株主資本コストは7~9%を想定していますが、これを上回る収益性を実現しなければ、株主価値向上にはつながりません。収益性、資本効率の改善によって、ROE10%以上を達成することで、株主価値、企業価値の向上を目指したいと考えています。

株価や資本コストを意識した経営を進める上で、中長期的には社員にもパフォーマンスカルチャーのマインドを持ってもらうために株式報酬制度を拡充すべきだと思っています。現状、RSU(譲渡制限付株式ユニット)の適用範囲は経営陣や執行役員層に限定されていますが、社員にも拡大することで株主視点での考え方が浸透し、企業価値の持続的な向上にもつながると考えています。このあたりは人事制度の改革も必要になるので、有識者を入れた制度設計づくりも検討したいと思います。

キャッシュ・マネジメントと株主還元

現状の海外系顧客売上高比率は約50%ですが、国内と海外の市場規模を考えると本来もっと高い数値であるべきです。海外系顧客売上高比率を上げていくためにも、製品群だとSiC、市場だと自動車、産業機器、AIサーバーといった分野に注力していく必要があります。生産能力に関しては既に充足している状況であり、需要を見極めつつ設備投資はコントロールし、生産ラインの最適化を進めていきます。また、将来の成長に向けた種まきとしては、ロームが求める技術や商品、販路を持つスタートアップ企業のボルトオン又はタックインによるM&Aなども検討しています。

今は過渡期ですが、2026年度にはキャッシュフローをポジティブな水準に回復させるつもりです。今年度も利益は低いものの減価償却費が高い水準にあるので、EBITDAベースだとそれほど悪くありません。構造改革の成果が実れば中期的にキャッシュの創出力は更に高まります。

構造改革に目途がつき、キャッシュバランスが安定してくれば、フリーキャッシュフローを積極的に株主還元します。先述したROE10%を目指す上でも純資産の圧縮は必要です。ロームの株主の皆さまは、安定的な配当を期待する方が多いため、業績が厳しい局面においても配当水準を維持する方針をとっています。現在は配当性向30%を目安にしていますが、固定することは考えていません。成長投資や運転資金を除いた部分は、株主還元を進める方針で、配当のほか、自己株式取得など株価を見ながら総合的に判断します。

東芝との協議に関連する3,000億円の資産と負債について

東芝への出資の目的は、シナジー創出にあります。ただ業界の動きが激しく、マーケットのボラティリティも高い状況にあるため、慎重に協議を進めている状況です。この関連で転換社債型新株予約権付社債(CB)を発行しましたが、当時は金利上昇局面においてP/Lへの負担を抑える適切な調達手段だと判断しました。多くの投資家が懸念する希薄化リスクや転換した場合の資本コストなど、もう少し多角的な視点で意思決定をするべきだったとも思いますが、最終的に皆さんの納得が得られるよう適切に対応していきたいと考えています。東芝との協議は慎重に進めていますが、株主価値の創造につながらないと判断した場合は当然、B/S両側のクリーンアップを進めます。

第2期中期経営計画について

Peter Kenevan

中期経営計画“MOVING FORWARD to 2025”は、最初こそ順調だったものの、半導体市況の急変もあり、途中から現実との間にギャップが生じました。それにもかかわらず、計画に忠実であろうとするあまり、判断が遅れて柔軟な対応ができなかったのが実情です。こういったこともあるので、私自身は中期経営計画を立てることが必須とは考えていません。しかし、今回のような抜本的な構造改革を行うには、社内外に進むべき道筋をはっきりと示す必要があります。同じ轍を踏まないように、第2期中期経営計画では「原点回帰」をテーマに、地に足を着けた計画づくりを進めています。

計画の策定にあたっては、目指すべきターゲットを明確にした上で、構造改革とも連動させることが重要です。事業部門を中心としたボトムアップの計画に、機能別で検討している改革の要素を織り込み、一体化させることで進むべき道が確かなものになります。今回の財務目標は、売上高よりも利益目標のほうがよりチャレンジングになると思いますが、事業成長を主軸に置いた計画よりもコントローラブルであるとも言えます。コスト面の施策が中心になるからです。実行段階では、計画通り進んでいるのか検証を繰り返し、追加施策が必要になれば素早く対応する。情報の粒度を高めて、経営の議論を活発にすることで実効性を向上させたいと考えています。

計画におけるKPIは、最終的に労務費や減価償却費のようなP/Lの項目にどれだけのインパクトがあるかという観点で判断します。一般的に構造改革を進めるなかでは、拠点数や人員数が注目されがちですが、一口に人員と言っても労務費には個人差がありますし、各拠点にある設備も償却済みのものとそうでないものがあります。会議でもさまざまな改善策が提案されますが、ボトム・ライン・インパクトにそれほど影響しないのであれば優先度は高くありません。この数年で膨れ上がった設備投資についても、使う見込みがなければ減損や売却を進めています。

この構造改革がしっかりと実を結ぶまで、全力で取り組んでいきますので、ステークホルダーの皆さまにおかれましては、一層のご支援を賜りますようお願いいたします。

Total Shareholder Return(TSR):株主総利回り。キャピタルゲインと配当を合わせた総合投資収益率

TSRの計算は、ロームは累積配当額と株価変動により、TOPIXは配当込の株価指数により算出(Bloombergデータ等により当社作成)

グラフの値は、2015年3月末日の終値データを100としてTSRによる時価を指数化したもの(保有期間は2025年3月末まで)

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