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対談:CTO立石×研究開発センター中原

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対談:CTO立石×研究開発センター中原

いま売れている商品も、いずれ売れなくなるときが必ずやってきます。そのときに次を担う新しい商品の「芽」が数多く生まれていなければ、その企業の未来はとても暗いものになってしまうでしょう。ロームの研究開発センターでは、その芽となる「タネ」を見つけるべく研究開発業務に取り組んでいます。
今回は、CTOの立石哲夫氏と、研究開発センター センター長の中原健氏に、研究開発のあるべき姿について座談会形式で語り合ってもらいました。テーマは3つ。1つ目は、「産官学連携への取り組み」について。2つ目は「ロームの研究開発体制」について。3つ目は「ロームの研究開発の特長」についてです。

1.産官学連携への取り組み
-大学に期待すること。より深く、より詳しく物事を追求してほしい-

座談会の1つ目のテーマは、産官学連携の研究開発についてです。ロームの研究開発センターは2016年から大学や高専、公的研究機関を対象に研究公募を実施しています。科学技術の研究に従事する研究者やグループからテーマを応募していただき、その中の複数のテーマに資金を投じて活動をサポートする取り組みで、すでに多くの成果が上がっています。そこで立石氏と中原氏に、研究公募の目的や過去の成果、大学や高専、公的研究機関に対する期待などについて議論してもらいました。

中原

中原

大学などから研究を公募する最大の理由は、企業が持たない視点で研究開発に取り組んでいる点にあります。大学は、「何かを知りたい」「何かを調べたい」という純粋な思いをドライビング・フォースに研究に取り組みます。もちろん、こうした研究の成果が企業の求めるものと必ずしも一致するわけではないのですが、成果の中には知恵が詰まっています。
一方、企業は「商品化する」「利益を上げる」ことに注力しているため、「なぜ」「どうして」という視点はあまり気にしておらず、「How(製造手段)が分かれば作れるからいいや」と考えがちです。ここに落とし穴があります。例えば、品質保証には「なぜ」=本質の理解が必要ですが、企業は「実績があるから大丈夫」「テストしているから大丈夫」とやり過ごすことが往々にしてあります。この本質の理解に、大学などが得た深い知識が大いに役立つと考えています。

立石

そうですね。企業である以上、最終的には商品化が不可欠です。それは当たり前のことであり、商品になるまでの知識は全て、広く把握しておく必要があります。一方で、大学の研究は全部を知る必要はなく、ある1つのポイントに着目し、追求していきます。中原さんのご指摘通り、商品に不具合が起きたときは、原因究明のために1つのポイントを深く掘っていく必要がある。大学に期待したいのは、この「深く掘る」という経験です。大学には深く掘る経験が蓄積されており、それを活用させていただきたいと考えています。

中原

大学の力を借りたい場面が3つあります。1つ目は、既に述べたような、原因の究明や本質の理解のために、より「深い知識や技術」が必要な場面です。無論、企業で商品をつくるにも深い知識が必要で、ロームでも取り組んでいますが、立石さんのおっしゃるように、どちらかと言えば幅の広さに重点を置きがち。大学の研究に比べると深みが少々足りなくなるので、それを補いたいのです。2つ目は、一時的に特定の知識や技術が必要な場面です。ロームには無い「深い知識や技術」をもって短期的な対応が必要な時、大学のサポートが必須です。
3つ目は、企業として手段を持てない場面です。例えば、何かを解析する際に、「Spring-8」のような大型放射光施設が必要になることがありますが、そのために施設を自社につくるというわけにはなかなかいきません。その際にも大学の助けが必要になります。

研究公募では成果が続々と

中原

研究公募では、ロームがいま必要としている技術テーマを複数記載し、そのテーマに合致した研究に取り組まれている学校や研究機関に申し込んでいただきます。
すでに研究公募をキッカケとした研究開発で、さまざまな成果が出ています。最近の事例ですと、大阪大学大学院基礎工学研究科との共同研究があります。この研究では、300GHzのテラヘルツ波を使って、8K映像をフル解像度かつ非圧縮で無線伝送することに世界で初めて成功しました。このほかにも、あまり詳しく言えないのですが、もうそろそろ商品化される研究成果があります。

立石

研究公募では、年間250万円(税別)と金額は決して多くないのですが、ロームが研究費を提供して共同研究がスタートを切れるかたちを作っています。研究期間は決まっており、その中でお互いにメリットを見いだせれば、次のステージに進むことができます。

立石

経験は必ず人に残る

中原

僕は、大学との共同研究に対するポリシーを持っています。共同研究する際には、ローム社員の中で担当を決め、人とリソースをきちんと当てることです。このポリシーは意外に当たり前ではなく、研究費だけ出してあとは研究成果だけを待つ、というケースが少なくないようです。ロームは技術を深めることを目的としているので大学の研究を最大限尊重します。社員を付ける理由はもう1つあります。残念ながら、研究がうまくいかない場合があるからです。そのときでも何か学びにつながるように、社員をアサインしています。その研究がすぐに商品に結び付かなくても経験は残り、将来につながると考えています。

立石

さらにローム側でも、同じテーマの研究に取り組みます。私たちは企業なので、大学で生まれた知見や技術を商品に落とし込まないといけない。いかに落とし込むか、そのために研究しているわけです。大学による技術の深堀と、企業による出口戦略が融合することで、ロームの研究公募は数多くの成果が出ているのではないでしょうか。今後も多方面からの応募をお待ちしています。

2.ロームの研究開発体制
-ロームならば本当の研究開発に取り組めます-

ロームは、2019年にエンジニアのためのキャリアパスとして「スペシャリスト職制度」を設けました。この制度は、技術や法務など、ある1つの業務を深く追求したい人たちに向けたものです。そこで本テーマでは、立石氏と中原氏に、研究開発に新しく携わる人財に期待することや、スペシャリスト職制度を導入した背景や目的などについて議論してもらいました。

立石ロームの研究開発って、まぁまぁ変なことをやっていますよね。研究開発センターの報告会では「このテーマのゴールはどこにあるのだろう?」という発表がある。報告会では、あまりそういったコメントは出さないですが(笑)。

中原

いや、僕には言ってもらわないと困るなぁ(笑)。

立石

私が研究開発を担当するようになって、最初の印象は「きちんと研究開発をやっているなぁ」でした。研究開発にしっかり取り組みたいという学生さんがいたらロームにぜひ来てください。物事を突き詰める本当の研究開発ができます。

中原

出る杭は打たない

中原

僕は大学で講義するとき、学生さんに対して最初に「君たち、半導体はパッとしないって思っていないですか」と必ず聞きます。日本で生活していると、半導体はパッとしないと感じることが多い。しかし実際は全然違う。過去、半導体市場は伸びたことしかない。だから「半導体産業に加わらないと損するぞ」と伝えています。それから学生さんには、「本気で仕事に取り組みたいのなら、ロームは良い選択肢だと思う」とも伝えています。

立石

ロームには「出る杭は打たない」という社風があります。個々の能力を存分に伸ばせます。

中原

無難な道を望んでいるのであれば、ロームを選ばない方がいいかもしれません。しかし何かを成し遂げたいのなら、ロームの門を叩いてほしい。

立石

私は、2014年にキャリア採用でロームに入りました。入社当初に感じたのは、「1人の社員に任せる業務が幅広い」ということ。特に事業部は非常に幅広い。

中原

ロームはオールラウンダーが好きですよね。

立石

そうなのです。ただ、そこはバランスを取ろうとしています。いままでは「担当者に全部を任す」という傾向が強かった。もちろん全部こなせる人も必要ですが、一方で専門性が高い人も重要です。そこで2019年度に『スペシャリスト職制度』を導入しました。対象は技術だけでなく、ITや法務などの業務も含みます。この制度によってスペシャルな分野にフォーカスしたキャリアパスを選んだ人をきちんと評価できるようになりました。さらに高度な技術者には、「フェロー」「シニアフェロー」と、次のステップを用意しており、今後5年をかけて10名程度のフェローを選任する予定です。キャリアプランとして専門性を高める選択肢を用意しています。スペシャリスト職制度は任期制で、任期は4年。つまり、2022年度でちょうど一巡することになります。任期が終わるタイミングで再選しますが、そこで定員近くまで認定する予定です。

スペシャリスト職任命数変遷(累計)

スペシャリスト職任命数変遷(累計)

専門分野による応募傾向

中原

立石さんは、スペシャリスト職制度に対する社員のみなさんの反応についてどう感じていますか。

立石

制度を運用しながら気づいたのは、LSI分野の人たちからの応募の方が、ディスクリート分野の人たちより多い傾向にあります。LSIとディスクリートの開発手法を比較すると、LSIの方が仕事の階層が1つ深い。なぜなら製造プロセスを確立した後、その上に回路を乗せるからです。一方、ディスクリートは、製造プロセスそのものがデバイスの構造を決定づけることになります。その分だけ、LSIの方が専門性を持つ人が多くなる状況にあるのでしょう。

中原

LSIの業界はきっちりと分業化されているので、それぞれの分野での専門性が極めて高く、またそれを求められるが、ディスクリートは、ウエハから最終製品までを1人の技術者が担当できます。このため、「全部を1人でできてこそ一人前」とスペシャリストよりオールラウンダーを目指す人が多いことから、スペシャリストの志望者数に差が出てくるのではないかと思います。

運に左右されない人事評価

中原

研究開発に携わる人を評価する場合、難しいのは研究テーマ。商品化までたどり着けるかどうかという意味での運・不運があることです。
そこで僕は、2種類のアウトプットを使って評価するようにしています。1つは技術報告書。これは普段取り組んでいる研究の成果を一定期間分まとめたもの。もう1つは特許や学会論文などの外部への発表です。これは社外評価が入るため、技術報告書よりも高いレベルに位置づけています。アウトプットで確認するのは、体系付けられたロジックに基づいて、データのバックグラウンドを確保しながら研究を進めているかどうか。商品化うんぬんは関係ありません。アウトプットを提出していれば、一定の評価は得られます。
ただし、それでも運・不運の影響は排除できません。そこで僕は、研究員の上司たちと一緒に研究テーマを1つずつ丁寧にレビューし、将来性が高くないと判断したものは、方向転換を図ることを働きかけることもあります。

立石

運・不運は、当然ながら事業部にもあります。だから、それを人事評価で考慮しなければならない。私はシンプルに昇進・昇格は能力、賞与は成果だと思っています。半期や1年で評価した際に、大きな成果を上げた人には賞与で報いる。昇進・昇格については、テーマの運不運があるので、成果ではなく能力で判断すべきだと思います。
エンジニアがエンジニアとして成長できるキャリアパスを整備するとともに、待遇面も改善することで、研究に集中できる。ロームでは、エンジニアが輝ける土壌はできています。持続的な成長のため、いままで以上に多様な人財が必要になるので、新卒、キャリア採用を含めて、より多くの人財が仲間になってくれることを願っています。

3.ロームの研究開発の特長
-世の中に役立つ研究開発にこだわり続ける-

事業成長が求められる企業の研究開発において、いつも議論になるのは、その投資効率です。かつて企業がこぞって設立した「中央研究所」も基礎研究を中心としていたこともあり、いまではその多くが廃止されています。そこで立石氏と中原氏に、研究開発における投資効率や研究テーマのポートフォリオ・マネジメントなどについて語り合ってもらいました。

中原

企業の研究開発は、世の中の役に立つことが一番大事。だから、テーマはそこに立脚して考えなければなりません。よく、研究開発は、投資効率が悪いという指摘があります。しかし、それは技術が面白い、テーマが興味深いというシーズの視点でテーマを選んでいるからです。つまり、「何が、世の中の役に立てるのか」からテーマを考えれば投資効率は高められます。

立石

マネジメントの視点で、「研究開発で最も重要なことは何ですか」と聞かれることがあります。中原さんのご指摘の通り、企業での研究は成果を出すことが重要ですが、研究開発は「博打」の側面がある。成功確率が高いテーマはリターンが小さく、確率が低いテーマはリターンが大きい。この点を考慮してマネジメントすべきです。
つまり成功確率が高いテーマは数が多い方がいいでしょう。その一方で成功確率は低いが、成功したらリターンが非常に大きいテーマがあってもいい。しかしリスクが高くてリターンが小さいテーマには取り組むべきではない。こうしたテーマの組み合わせの中で十分なリターンを確保できれば、うまくマネジメントされた研究開発と言えます。

立石

打率3割超えを目指す

立石

そもそも全部のテーマで成功を収めるのは無理です。しかも、大アタリを出すのはなかなか難しい。

中原

そうですね。ロームの研究開発センターでは、事業に近いテーマにも取り組んでいるので、それらを含めれば約半分は成功していると思っています。知り合いのベンチャーキャピタリストは、成功率は1割あればいいと言っていました。

立石

その1個が投資総額の10倍以上に膨れ上がるということですね。

中原

そういうことです。研究開発もこのくらいの意識でいいかもしれない。つまり打率は1割ぐらい。しかし、僕は1割で終わらせるつもりはありません。3割超えを目指したい(笑)。

立石

それは難しいかなぁ(笑)。

中原

研究テーマのポートフォリオ・マネジメントをしっかりすれば、実現できると思います。確かに、ハイリスクのテーマだけで3割超えは無理です。それは1割ぐらいで構わない。それにローリターンではあるけれど確実なテーマを組み合わせれば、実現不可能ではありません。

アプリケーション側の研究も大事

中原

研究開発センターでは、アプリケーションに近い分野の研究にも取り組んでいます。例えば、パワー分野では、これまでロームはデバイスの製造に特化してきましたが、2015年頃からアプリケーション側の研究に着手しました。いまではそれがロームの趨勢になっており、各部門から頼られる存在になりました。これも成功の1つです。

立石

研究開発を考える場合、カードをめくる前の話とめくった後、つまり実用可能だと世の中に認識されていない状態と、実用化の道が見えた状態の話があると思います。めくった後の話でいうと、ロームの研究開発は基本的に勝ちを収めています。それはSiCという大きな成果があるからです。実際、研究開発に投資した費用は、SiCのリターンだけで十分に回収できるでしょう。
それでは、めくる前の話はどうなのか。それは正直なところよく分からない。めくる前のテーマには比較的小さなテーマがたくさんあります。例えば、パワー分野のサポート技術です。世間一般でいう研究開発とは少々違うのですが、こうした取り組みも大事だと思います。ただし高い打率を狙い始めると、今後はリターンが比較的小さいテーマが増えてしまう。そのため、ホームラン級のテーマもある程度はポートフォリオに入れておいた方がいいですね。

中原

研究開発をマネジメントする立場としては、すべてホームランとは言えないまでも、すべてヒット以上を打つつもりで臨んでいます。その中には当たればリターンがかなり大きいテーマも含まれています。

不細工でも塁に出ろ

立石

ロームの研究開発の特色は、技術マーケティングに基づいてテーマを選定していることだと思います。ここでいう技術マーケティングとは、技術と市場をそれぞれ既存と新規に分けて、それぞれを掛け合わせた4象限にテーマを最適配分するというもの(図2)。これを目安としてテーマを選んでいます。

【図2:ロームの研究開発におけるリソース配分】

ロームの研究開発におけるリソース配分

中原

僕から株主や投資家の皆様にお伝えしたいことは、ロームは技術として面白い テーマに取り組んでいるわけではなく、“社会に役立つテーマ”に取り組んでいることです。
世の中を見渡すと、企業の中でも面白いから取り組んでいるという研究開発テーマが、まだ数多くあるように思います。そういった研究は、たまに当たるかもしれませんが、三振が多い。しかし、ボテボテの内野安打でも塁に出れば、盗塁などを重ねて、ポテンヒットでホームに戻って来られます。つまり1点になるのです。「点になる」とは社会の役に立つこと。とにかく塁に出て、世の中に役立つ研究開発にこだわり続ける。それがロームの研究開発です。
先が読み難い時だからこそ、これからも自らを鼓舞し、「未知への挑戦」を積極的に「楽しみ」、世界に先駆けた商品を創造することで社会に貢献することを目指していきます。

【PROFILE】

立石 哲夫

ローム株式会社 取締役 上席執行役員

立石 哲夫

1987年3月、京都大学大学院修士課程修了。機械メーカー、半導体メーカーにてLSI開発に従事。2014年7月、ロームに入社し、電源LSIの先行技術開発を担当。ロームが誇る先端電源技術「Nanoシリーズ」の開発を指揮。2019年2月、LSI開発本部 技術開発担当フェロー。2019年6月、取締役 LSI開発本部長を経て、2020年6月より現職。

中原 健

ローム株式会社 研究開発センター長

中原 健

1995年入社。ガリウムヒ素(GaAs)系レーザーダイオードの開発や、酸化亜鉛(ZnO)系LED、窒化ガリウム(GaN)パワーデバイスの研究に従事。2019年から研究開発センターのセンター長を務め、新素材デバイスに加えて、パワーモジュールやシステム、シミュレーション技術など、さまざまな研究を主導している。 2021年2月よりIEEEシニアメンバー。

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