研究開発における取り組み
「社会に役立つ」テーマを選定し、
資源を配分
研究開発センター長
中原 健
本インタビューは、ROHM Group Integrated Report 2024に掲載されたものです。
私は、企業とは、社会に買っていただける商品・サービスを生み出すことを目的とする機能集団だと考えています。したがって、新技術を云々するよりも、その目的の達成を目指すのが正しいはずです。そこで、市場における「満たされていない課題を知る」ことをまず徹底する、を基本方針としています。例えば、ロームが力を入れているパワーデバイス分野では、新材料によるトランジスタ開発ばかりが注目されがちです。しかしパワーデバイスの機能は電力変換です。その視点から見たとき、トランジスタが新しいだけでは不十分です。この着眼点に到達したのは「パワーデバイスの本当の課題を知る」ために、ハード・ソフト両面から研究した結果で、企業研究にかなうものであると思います。
このように、ロームが主に開発している半導体デバイスの視点からだけで物事を考えても、社会課題解決に直接結び付かないと考えています。私たちが取り組むべきなのは、「デバイスを使う人」目線でのデバイスの開発です。ただ、技術者集団であるだけに、市場情報に強いとはいえません。その弱点の強化のため、これまでマーケターの意見が主だった市場の見立てを、AIによってデータの裏付けを持たせることを目指しています。このような研究を行う技術者が近くにいることで、すべての技術者が市場に敏感になることを期待しています。
一方、いくら情報が的確でも、それをもってどうするかを考え出すのは人間です。そこで、技術者育成にも気を配っています。その一つに、博士号取得の推奨があります。理由は、博士号取得の過程とは、現状を俯瞰した上で研究課題を抽出し、それを解決する研究計画を作成、遂行することだからです。これは、研究開発活動フローと同じです。つまり、博士号を目指すこと自体が人財育成になりますし、何より、技術者本人にとっても個人としての称号が残るため、大きなメリットがあります。
研究開発体制とリソース配分
事業成長が求められる企業の研究開発においては、ポートフォリオ・マネジメントが必要です。そこで、技術と市場をそれぞれロームにとっての既存と新規に分け、各々を掛け合わせてできる4つの象限を使って、研究開発のリソース配分を可視化しています。将来の成長のため、より新規技術開発にリソースを割くよう、2024年はリソース配分を見直しました。
また、ロームの研究開発では、各自の努力が評価につながることを重視しています。すべての技術的取り組みは失敗も含めて「知恵」であり、必ず何かに横展開できます。商品化に至らなかった場合でも、社外での技術発表を技術者の成果として評価しています。社外で評価を得ることは技術者のやる気を促しますし、ひいては、グローバルメジャーへの足掛かりにもなると考えるからです。また、積極的に論文発表や学会講演を行うほか、研究公募制度を通した大学との連携も実施し、研究者が広い視野を持てる環境をつくることで、長期にわたって持続的成長をもたらす研究開発力の強化を図っています。
ロームの研究開発体制におけるリソース配分
研究開発人財の獲得・育成
研究開発では、能力を評価軸とした人財戦略をとっています。人員配置はもちろん、人財獲得や育成においてもその能力を基準としています。結果として、研究開発の現場では高い多様性が実現され、強力なシナジー効果を生み出しています。
人財の能力を高めることは研究開発の活性度向上につながります。大学などの研究機関と共同研究開発を行うことで最先端の技術を習得するだけでなく、ロームの一員となってからの博士号取得を環境面でサポートするなど、未来に向けた技術と、「人」への投資を続けています。
しかし、人財の獲得現場では、ロームもまたB to B製造業であるがゆえの知名度不足という課題を抱えています。そこで、ロームという会社、そしてその取り組みを直接伝えるために、ロームのメンバーが次代の研究開発人財が集う学術集会へ出向き、技術発表に加えてランチョンセミナーの開催といった活動を始めています。
研究公募制度
ロームは、未来に向けた研究開発を効果的に進める手法としてのオープンイノベーションに、積極的に取り組んでいます。その一例が、研究公募制度です。学術研究に助成金を支援するのではなく、産学協働により成果を求める共同研究の入門編と位置付け、一定のリソースを確保することで継続的に実施しています。自社だけでは持ち得ない解決手法やアイデアの提案を公募し、協働により成果が見込める提案について、最長3年の共同研究テーマとして採択することで、未来の研究開発を芽吹かせる取り組みです。更なる進展が期待される場合には、規模や期間を拡大した本格的な共同開発へ移行し、その成果を実現します。
研究開発事例
テラヘルツ波応用の新天地を切り拓く!ロームの小型テラヘルツデバイス
電磁波における最後の未踏領域といわれるテラヘルツ(THz)波は、光波の直進性と電波の透過性を兼ね備えたその特長から、今後の応用製品と潜在市場への期待が大きく高まっています。ロームは、共鳴トンネルダイオード(RTD)を用いたテラヘルツ波発振・検出デバイスを開発しました。デバイスの特長である「小型、軽量、低消費電力」を最大限に生かすべく、オープンイノベーションを活用しながら、その応用技術の研究開発を進めています。設置場所を選ばない4mm角サイズ、電池で動作可能な電力消費10mWを実現したデバイスに加え、放射テラヘルツ波を制御する光学デバイスも併せて開発しています。放射波の収斂によって指向性を高めることで、超高速無線通信やセンサへの応用展開を切り拓こうとしています。