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第一夜 Interview ものづくりへの情熱を乗せて 走れ!ブランコ・デ・R

普段は精密部品をミクロン単位で制御している
ロームのエンジニアたちが、
まさかの“巨大ブランコを走らせる”という
挑戦に立ち向かった。
スケールも発想も桁違いのものづくり、
その舞台裏に迫る。

  • リーダーJ.Kトウ
  • M.Sダ
    設計担当
  • Y.Kミツ
    制御担当
  • M.Mダ
    リモコン担当
  • S.Iムラ
    設計担当
  • T.Eスミ
    制御担当
  • N.Nグチ
    設計担当
  • T.Aマコ
    設計担当

番外編
「“漕ぐ”を再現したもう一つのブランコ」

―本番で走った「ブランコ・デ・R」とは別で、
皆さんが進めていた案はどんな構想だったのですか?

重心移動で“漕ぐ”を再現したチームの奮闘

  • N.Nグチ

    私たちが進めていた案は、長いアームの先端におもりを取り付け、そのアームを振ることで座面を揺らすという仕組みを採用していました。この機構の推進力の原理は「重心移動」にあります。座面とおもり付きアームの重さの差が大きいほど、つり合いを取るために座面が外へ逃げようとし、大きな揺れが生まれるんです。このアイデアを最初に出されたのは、Eスミさんでしたね。

  • T.Eスミ

    人がブランコを漕ぐとき、足と上半身の動きでタイミングよく重心差を生み出し、その揺れを増幅させていきますよね。それと同じように、重いものの位置を変えることで揺れを生み出し、その反動を推進力へと変換するという発想から生まれた案でした。私は電気制御担当として、モータでアームを動かす制御系を設計しました。

  • N.Nグチ

    私はメカ設計を担当し、構造を実際に形にしていく役割を担っていました。

  • T.Aマコ

    私はアームの根元の設計を担当しました。ブランコ全体を動かすためには非常に大きな力がかかるため、その力をしっかり受け止められる構造を検討しました。

  • N.Nグチ

    実はすべての案の中で、最初に動いたのがこの案でした。ミニチュアサイズで試作を行い、中間サイズでも問題なく動作していました。その時点で他の案がまだ動いていなかったので、正直「この案で行ける」とチーム全員が信じていましたし、「この案がこけたらロームがこける」くらいの気持ちで取り組んでいました。

  • T.Aマコ

    ミニチュアの時は軽い構造でもうまく動いたのですが、実機サイズになると話がまったく違いました。ブランコ自体が重くなる分、重りも大きくしなければならず、結果としてアームの根元には1トンを超える力がかかることが判明したんです。

  • T.Eスミ

    そのスケールアップによって、設計上どうしても耐えきれない部分が出てきてしまいました。小型では成立していた構造が、実際に大きな力をかけて動かすと想定どおりにいかない。実機にしてみて初めて見えた課題でしたね。

▲ミニチュアサイズの試作機

―最終的に採用された案と比較し、
優れていた点と課題だった点を教えてください。

剛性と軽量化のはざまで―立ちはだかった技術の壁

  • N.Nグチ

    揺れのコントロールという点では優れていたと思います。重いアームを動かして強制的に揺れを生み出す仕組みなので、腕の重さや長さ、倒す角度によって揺れの幅をある程度コントロールすることができました。採用された「ブランコ・デ・R」の支柱を揺らして全体を動かす方式に比べると、より速く、意図したリズムで振れるという点が強みでした。もう一つ挙げるなら、この案は、「漕ぐ」という動作をより素直に再現できていたのではないかと思っています。

  • T.Eスミ

    当初から、リーダーをはじめチーム全体で「ブランコが揺れる」という本質そのものに向き合おうという意識がありました。
    「ブランコをどうやって揺らして進ませるか」という課題に取り組む中で、人が実際にブランコを漕ぐときのような“座面での動き”に近づけたのは、この案の成果だったと思います。

  • T.Aマコ

    根元の構造を仕上げていく中で、Nグチさんと「ここをどうつなぐか」「軸をどの位置に出すか」といった細部を何度も調整しました。モータのギアから軸を出し、その先にアームを固定する仕組みだったのですが、軸の位置が少しでもずれると全体のバランスが崩れてしまう。そのため、図面を見比べながら連日、細かな修正を重ねていました。

  • N.Nグチ

    こういうときは、技術的なハードルよりもむしろコミュニケーションのハードルが出てくるんですよね。でもAマコさんとは同期で、もともと話しやすい関係だったので、意見のすり合わせもスムーズにできました。連携は本当に良かったと思います。ただ、実際に構造を詰めていく中で、剛性と軽量化のバランスに苦しみました。

  • T.Aマコ

    ブランコを動かすには、アーム先端をできるだけ重くする必要があります。先端に重量物を取り付けた1メートル超のアームを前後に揺らすため、回転軸には膨大なトルクがかかります。その力に耐えられる構造を確保しつつ、高速で揺動させる機構を両立させるのが難しかったですね。結果として、モータの出力が限界に達してしまい、思うようなパワーを引き出せませんでした。

  • T.Eスミ

    機構が複雑だった分、製作や開発に時間がかかり、問題点の洗い出しにも苦労しましたね。課題を一つ解決しても次の問題が出てくるといった連続だったと思います。

  • N.Nグチ

    最終的には、アーム駆動部の剛性不足と座面側ユニットの軽量化をどうしても両立できず、ミニチュアでは成立していた力のバランスを実機で再現することができませんでした。

―情熱を注いで取り組んだ自分たちの案が見送りと
なったとき、どんな思いがありましたか?

悔しさの涙を乗り越えてチームに貢献

  • N.Nグチ

    実機レベルでの実験を行った結果、チームのメンバーやリーダーとも話し合いを重ねたうえで、「チーム全体のために、この案はここで終わりにしよう」という判断になりました。その時点では、最終的にどの案が採用されるかも決まっていませんでしたが、“自分たちの挑戦がここで一区切りになる”という事実だけははっきりしていました。「自分の設計力が足りなかったせいでこのアイデアが途切れてしまう」と思うと、責任と申し訳なさで胸がいっぱいになり、気づけば涙があふれていました。

  • T.Aマコ

    最初に感じたのは、自分の無力さと未熟さでした。時間が限られる中、私たちの案がいち早く形になりそうだということで、多くの方に協力していただいていました。それだけに、現実的な形にまで仕上げられなかったことが本当に悔しかったです。

  • T.Eスミ

    二人は本当に真剣に取り組んでいた分、とても落ち込んでいました。私は少し年長の立場として、「ここは切り替えよう」と声をかけました。というのも、私自身この活動で一番大切なのは“誰の案が通るか”ではなく、それぞれが協力しながら全体で前に進むことだと感じていたからです。採用される案、されない案があっても、チームとしてできることをやり切る。その姿勢を一番に意識していました。モータやギア、マイコンなど、自分たちが培った技術や知見を次の案にどう活かせるかを考え、早めに気持ちを切り替えてサポートに回りました。彼らと一緒に「まだできることはある」と前を向けたのは良かったと思います。

  • N.Nグチ

    まずは気持ちを全部吐き出させてもらいました。悔しさも、やりきれない思いもすべて出し切ったことで、すっきりできたんです。リーダーやEスミさんたちがそれを受け止めて、次に向かう気持ちへと導いてくださいました。もちろん「もう少し時間があれば…」という思いはありましたが、限られた中で自分たちにできることはやりきったという実感がありました。だからこそ前を向くことができたと思います。その後はチームがそれぞれ別の案のサポートに回り、最後まで全体の力になれるよう動きました。

  • T.Aマコ

    会社の名前を背負って参加している以上、「ここからどう貢献できるか」を考え、最後までサポートに徹しようと決めました。本番で「ブランコ・デ・R」が走る姿を見たときは、本当に嬉しかったですね。活動初期からリーダーが「どんな形であっても自分たちのつくったものはブランコ。ロームとしてつくりあげたものを、自信をもって見せよう」とみんなの意識が同じ方向へ向くように導いてくれていたので、自分の中でも同じ気持ちを持って本番を迎えることができました。

  • N.Nグチ

    実は「ブランコ・デ・R」の原案は、最初のブレストのときに私が「こんな案はどう?」と提案したものだったんです。だからこそ、実際にそれが形になって走る姿を見たときは感慨深いものがありました。メインで進めてくださったメンバーに感謝の気持ちが湧きましたね。もちろん、同時に悔しさもありましたが。

  • T.Eスミ

    本番で完走したときは、“嬉しい”というより「本当に良かった」という安堵の方が大きかったです。試走を重ねて課題をつぶしても、本番当日まで結果は誰にもわからなかった。だからこそ、あの場で無事に走り切った瞬間は、心の底から「よかった」と思いましたね。

―この活動を通してエンジニアとしてどんな経験を得られたと思いますか?

チームで挑む喜びが、エンジニアとしての力を磨いた チームで挑む喜びが、 エンジニアとしての力を磨いた

  • T.Eスミ

    今回の活動は、“チームの力”を実感できる時間でした。かなりハードではありましたが、どこか学生時代のクラブ活動のような熱があって。みんなでスクラムを組んで本気で挑む、そんな青春のような時間を過ごせたと思います。エンジニアが集まってものづくりをするというのは、単にそれぞれの技術を持ち寄ることではなく、「実現させたい」「こういう形にしたい」という気持ちが重なって初めて形になるんだと改めて感じました。

  • T.Aマコ

    やったことのないものを形にしなければならないという状況で、「どうすれば形にできるか」を考え抜く力が鍛えられましたし、アイデアの幅を広げて柔軟に発想することの大切さも、身をもって実感しました。また、普段関わることのない人たちと協力しながら取り組む中で、自分がチームの一員としてどんな役割を果たせるかを常に考えて行動していました。今後、仕事で大きな課題に直面したとき、この経験が必ず役に立つと思います。

  • N.Nグチ

    「これを形にしよう」と決めてからの行動の速さは、今回の活動ならではでした。前日に話していたことが、翌日にはもう形になっている。そんなスピード感の中で、やりきる力が大きく磨かれたと感じています。また、いろんな人の力を借りながら一緒に形をつくる中で、自分ひとりの想像をはるかに超えるものが生まれるということにも気づけました。この経験が大きな自信につながり、仕事に対して一歩引いた目線で全体を見渡せるようになったと思っています。今後はこの経験を活かして、業務でのスピード感やチームとの連携、そして自分の思いをしっかり伝える力をさらに磨いていきたいと思います。