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Stories of Manufacturing #03

音楽を愛するすべての人のために
〜MUS-ICの誕生オーディオデバイス開発

ロームのオーディオデバイス

トーマス・エジソンが初代蓄音機「フォノグラフ」を発明したのは1877年のこと。それ以来、およそ100年の間、音の再生=オーディオの世界は、LPレコードや磁気テープ(オープンリール・コンパクトカセット)などアナログ信号を媒体として成長してきました。
その姿が大きく変わったのが約40年前。1980年代半ばから普及したCDを中心としたデジタル技術・映像機器との融合を経て、2000年代以降は圧縮オーディオファイルの普及、更にはハイレゾリューション音源の登場と、その進化と変容はとどまるところを知りません。

ロームのオーディオデバイス

ロームでは、1970年代から今日に至るまで約50年にわたって、その時々のニーズに対応した革新的なオーディオICの開発に取り組んできました。オーディオ業界と歩みを同じくして、素子の高集積化や高機能化が飛躍的に進んだ半導体業界において、自社の得意とするアナログ回路技術を活かしたオーディオデバイスを次々と製品化。
今日では「オーディオアンプ」「サウンドプロセッサ」「オーディオDAC/CODEC」等を主力ラインアップとして、さまざまな市販オーディオ・メーカーに採用頂いています。

カーオーディオ/ナビ向けサウンドプロセッサ市場シェア

演奏者の音楽の世界観を表現する豊かな「音楽性」

その中でも近年特に注力しているのが、ハイエンド・オーディオ機器に向けた、高音質にフォーカスした製品開発です。ハイレゾリューション音源の普及により、高解像度のデジタル音源データを、音源が持つ情報を損なわずにアナログ変換する高度な技術が求められるなか。2018年、数値性能では測れない「音楽性」を追求する「独自の音質設計」にこだわったローム・オーディオICの最高峰ラインアップ「MUS-IC(ミュージック)シリーズ」をリリース。

その思いを開発者であるLSI事業本部 佐藤氏に聞いてみました。

MUS-ICシリーズのキービジュアル

MUS-ICシリーズのキービジュアル。重厚なオーケストラサウンドが響き渡るであろうこの空間は、京都市にある「ロームシアター京都」のメインホール。

LSI事業本部 標準LSI商品設計2課 オーディオ2G グループリーダ 技術主幹 佐藤 陽亮
LSI事業本部 標準LSI商品設計2課 オーディオ2G
グループリーダー技術主幹

入社以来、オーディオICの開発部門に所属。
学生時代にJ-POPのバンドを組んでいた経験はあるが、
特に音楽教育を受けたという経歴はないとか。

佐藤

「私たちが目指しているのは一言でいえば<忠実な音の再現>です。
音楽が生み出す感動をいつでも、どこでも、リアルに蘇らせるというのがオーディオ機器に求められている究極の目的だと思うのですが、それは決して、歪みやノイズといった電気的特性に基づいた設計だけからは生まれない、ということ。この事実に、オーディオIC開発に携わって随分経ってから、初めて気付かされました。」

あるオーディオメーカーのお客さまからの指摘をきっかけに始まった長い試行錯誤の歩みは、本ページ冒頭の動画にてご覧頂くとして、「MUS-ICシリーズ」が目指す音の方向性について聞いてみました。

ローム独自の音質設計技術

佐藤

「ひとつは、コンサートホールで聴いているかのような自然な響きや臨場感です。
2つ目は、ものすごく小さな音から大振幅までをきちんと表現するダイナミックレンジ(スケール感)。そして、もうひとつが演奏が始まる前の緊張感が、その場にいるかのように伝わってくるところ(静寂感)。この3つを実現させることで、演奏者の方が生み出す音楽の世界観を、可能な限りそのまま表現したいと考えています。」

電気的特性と音質はクルマの両輪

その「MUS-ICシリーズ」のひとつ32bit オーディオD/AコンバータIC 「BD34301EKV」がラックスマン株式会社様(※以下敬省略)の最新SACD/CDプレイヤーに採用される運びとなったのが2020年のこと。
ラックスマンの新しいフラッグシップモデルとして評価の高いD-10Xに求められたパフォーマンスはいかなる音だったのか。同社開発部 部長 長妻氏はこう語ります。

ラックスマン株式会社 取締役 開発部 部長 長妻 雅一 様
ラックスマン株式会社 取締役 開発部 部長 長妻 雅一 様

大手電機メーカーの家電機器技術研究所勤務を経て オーディオ製品に憧れてラックスマンに移籍。
CDプレーヤーやプリメインアンプなどの開発に携わる。

長妻

「第一印象は、力強いんだけど、素直な音質であるということ。
もう少し噛み砕いて言うと、高域が立っているとか、低域がやたら力強くなっているとか、どこか突出しているところがないっていうところが、自然な感じに繋がるわけです。」

高級オーディオ機器メーカーは各社それぞれに音質の特長・傾向というものを持っており、それがブランドの個性を創り出していると言います。
ラックスマンの場合はどんな音質を目指しているのかを伺ってみると、前述のロームの目指す音質設計と重なり合う要素も見受けられるようです。

ラックスマンが目指している良い音質

ラックスマンが音質に関して目指す「5本の柱」。 普段勉強会などで話をされる機会に、
まずこの要素を話されることが多いという。

長妻

「実は、D-10Xの開発の中で、D/Aコンバータをどこの会社のものを使うかということは、ほぼ決まりかけていたんです。かなり悩んでいたのも事実ですが。そんな時に佐藤さんが新しいD/Aコンバータのチップができているので評価してください、というお話をくれたので、丁度いいから一度聴いてみよう、という話になりまして。」

オーディオD/AコンバータIC、SACD/CDプレーヤー


筐体内部に搭載された
32bit オーディオD/AコンバータIC
「BD34301EKV」

◀LUXMAN
SACD/CDプレーヤー「D-10X」

写真左:LUXMAN SACD/CDプレーヤー 「D-10X」

写真右:筐体内部に搭載された32bit オーディオD/AコンバータIC「BD34301EKV」

長妻

「その後、ICの癖を見極めながら、何回かブラッシュアップをして頂いて、お互いが歩み寄るような自然な感じで製品へとフィニッシュすることができました。
電気的特性と音質はクルマの両輪のようなものですから、どちらかが良くても駄目なんです。両方とも良くなることがすごく大切なんですね。」

満足な表情で話される長妻部長は、佐藤氏とのコミュニケーションについて、「同じレベルで音の話をできる耳を持っている」と評価。「ともすれば個人の好みに陥りがちな音質の聴き分けを、客観性と主観性を両立させて評価していたため、話がスムーズに進んだ」とのこと。長い時間をかけて音の違いが分かる耳を育て上げた佐藤氏にとって、何よりの嬉しい言葉かもしれません。

28個のパラメータと垂直統合型生産

視聴の様子、実験室

写真上:試聴の定番曲はというとEaglesの
「Hotel California」のライブバージョンとのこと。
音の分離と定位がヤバいほどイイらしいです。

写真下:新横浜駅前すぐに位置する「横浜テクノロジーセンター」内の一室にある実験室。
リスニングルームでの表情とはまた違った印象。

佐藤

「これまでの自社製品の音を聴いてみると同時に、回路設計や製造条件などを照らし合わせて、特性や条件によって音の聴こえ方がどう変化するかを把握していきました。
その取り組みを続けるうちに、音質を変える条件が段々と分かってきました。そうやって導き出したのが28個の音質に影響するパラメータです。」

音質に影響する28個のパラメータ
音質に影響する28個のパラメータ

インゴッドの引き上げからパッケージまでを
自社内で行う垂直統合型生産がロームの特色。

常に専用の試聴室で音質を確認しながら、それを回路・製品パッケージに落とし込んでいく根気が求められる開発作業。佐藤氏を中心に実践しているそのアプローチには、ロームならではの大きな特長が現れています。それは、創業以来続いている「垂直統合型生産」との密接な関係です。

「垂直統合生産」を活用することで、回路設計だけでなく、自社工程内のウエハプロセスからパッケージに至るまでの全ての工程で、多くのパラメータを探求することが出来たのです。

音質要因を調査するためのテストチップ

音質要因を調査するためのテストチップ

既存製品などを調査する中で気になるポイントを盛り込んでテストチップを設計。これを使用して28個のパラメータを特定していった。

佐藤

「思えば、音を追求するにあたっては、一緒に開発しているメンバーや、(回路設計以降の)後工程を担当する製造部の方々にも、いろいろ無理を聞いてもらいました・・・。」

製造部の証言

濱澤

「いろんなパターンでテストのチップを作成したいという要望が上がってくるんですが、量産条件ってそんなに簡単に変えられるものではないんですよね。なので、面倒なことをいう人だなと思いました。」

LSI事業本部 技術開発担当 統括部長 濱澤 靖史
LSI事業本部 技術開発担当 統括部長 濱澤 靖史

京都市にあるローム本社工場の見学スペースからクリーンルームを臨む。「VLSI研究センター」という名前だが、通称「V研」と呼ばれている。

当時のことをこう語るのは、技術開発担当 統括部長の濱澤氏。
京都にある本社工場から、佐藤氏の在籍する横浜テクノロジーセンターまで、何度か足を運び、実際に音の違いを聴いてみると、その考えも段々と変わっていったと言います。

濱澤

「実際に音を聴いてみると、私にも微妙にその差というのが分かるようになってきました。それに、彼の情熱も伝わってきましたし。」

濱澤氏に伝播した音作りへの情熱は、頼まれてもいない自主実験/テストチップ作成までを実施してしまうことになったと言います。濱澤氏は音質とチップ冷却の関係に着目し、試作品まで作成したが「ちょっと硬い音になってしまって、採用までには至りませんでした」と苦笑い。しかし、そのなんとも言えぬ表情に、「ものづくり魂」を感じずにはいられませんでした・・・。

ノウハウの共有と継承

ノウハウの共有の様子

「ギターの弦の音は明瞭に感じますね!」
「でも、定位は狭くなっていない?そこに注目して聴いてみて!」
言葉少なだが、聴くべきポイントを共有している感覚が大切。

佐藤氏を中心にして、長い時間を費やしながら、丹念に編み出されたロームの「音質設計」。
現在、そのノウハウをオーディオ部門の開発メンバー全体で活用しながら製品づくりに取り組んでいます。
ラックスマン長妻部長の言葉にもあったように、非常に個人の感覚に左右される「聴感」を他人と共有することは、思ったより曖昧で難しい作業であると言います。

このように感覚的なノウハウや熟練の技と呼ばれる特殊なものを「標準化・活用」することによって、組織としての成長を図ることも、これから先の「ものづくり」にとって重要なことであると考えさせられます。その試みのひとつとして使用されているのが、下の音質比較チャートになります。

音質比較チャート

音質比較チャート

透明感・臨場感・広がり・解像度・定位感・低音の量感・ 歪感・迫力の8項目からなる比較チャート。
聴き分ける耳を持つ技術者を育成するための標準化の一例。

佐藤

「オーディオ部門のエンジニア達は、最高の音を追求したいという気持ちに貪欲ですね。さらにどのメンバーも繰り返し試聴することで、目指す音質を共有できてきていると思います。同じベクトルを向いていることは何よりも心強いですね。」

LSI事業本部 商品設計担当 標準LSI 商品設計2課 白谷 裕子
LSI事業本部 商品設計担当 標準LSI 商品設計2課 白谷 裕子

製品だけでなく、
お客さまに提供する評価ボードにも
音へのこだわりを目一杯詰め込んでいます!

LSI事業本部 商品設計担当 標準LSI 商品設計2課オーディオ1G 小川 徹弥
LSI事業本部 商品設計担当 標準LSI 商品設計2課オーディオ1G 小川 徹弥

耳で聴くというすごく感覚的なことをどこまで回路にに落とし込めるのかという、あくなきチャレンジですね・・・!

LSI事業本部 商品設計担当 標準LSI 商品設計2課オーディオ1G 居藤 悠馬
LSI事業本部 商品設計担当 標準LSI 商品設計2課オーディオ1G 居藤 悠馬

ミュージシャンの方々は魂を込めて
音楽を演奏されると思うんですけど、
それと同じような気持ちで、私たちもICの設計
に取り組んでいきたいなって思っております。

ミュージシャンが音楽を追求することに終わりがないように、高音質の再現にも終着点はないと佐藤氏は言います。 つまり、音楽がこの世界から消えてしまうことが無い限り・・・彼らの挑戦は、まだまだ続きます。

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