わずか60gのスリッパを遠くへ跳ばすという
常識外れのミッション。
小さな機体にエンジニアとしての
意地とプライドを込め、
極限まで“跳ばす技術”を突きつめた日々。
その舞台裏に迫る。
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リーダーN.Nジマ -
R.Mダ
設計担当 -
M.Nダ
設計担当 -
A.Iトウ
制御担当 -
K.Sトウ
制御担当 -
K.Nムラ
制御担当 -
H.Kマツ
はばたきモンスターの
設計と制御担当 -
S.Fハシ
はばたきモンスターの
設計と制御担当
「極限のスリッパ跳ばし」
「極限のスリッパ跳ばし」
―『スリッパ跳ばし』というお題に
どのように向き合いましたか？
60ｇでどう跳ばす？挑戦のはじまり 60ｇでどう跳ばす？ 挑戦のはじまり
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R.Mダ お題を聞いたときは、意外と驚かなかったんです。「スリッパを跳ばすなら、なんとかなるかもしれない」と思いました。でも、“60g以下で”という制約を聞いた瞬間に一気に現実味が増して、どうしようかと頭を抱えましたね。跳ばす方法は、ロケット、羽ばたき、パラシュート、グライダーと、様々なアイデアが出ました。ただ、それぞれのメリット・デメリットがわからない。そこで実際につくって試してみて、ようやく「こうすれば良い」「これは難しい」と見えてきました。最終的に本番で使われたモンスターの“変形させて滑空させる”というアイデアは、Nダさんの発案でした。
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M.Nダ 「履いた状態で足を振り上げ、どれだけ遠くに跳ばせるかを競う」というルールだったので、まず“スリッパとして履けること”が前提条件でした。そこで、途中で“変形する”要素を入れてはどうかと考えました。最初はスリッパの形をしているけれど、空中で飛行機のように形が変わって滑空する。変形したら絶対に面白いだろうと思ったんです。
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R.Mダ この案に絞られたのは、期間の3分の2以上が過ぎた頃でした。残り約10日で、どうにか形にしなければならない。重さを抑えつつ、変形のタイミングをどう取るか、空中で本当に変形できるのか、そして変形した後に安定して飛べるのか。すべてを詰めていく必要がありました。そこからは、もう全員ががむしゃらに動いていましたね。
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A.Iトウ 制御チームとしては、形が決まらないと動かし方を決められないのですが、毎日新しいアイデアが出る中で、「これはとりあえず準備しておこう」と話し合いながら、できることを並行して進めていました。
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K.Nムラ その段階で「これは終盤、相当忙しくなるんだろうな」と覚悟しましたね（笑）。案が徐々に固まっていくにつれて、あらかじめ準備しておいた要素をそぎ落とし、最終形のモンスターに載せていく。そんな進め方でした。
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K.Sトウ 必要な機能を要素分解して、「どんな仕組みが必要か」は早い段階で整理していました。モータを動かす、変形させるためのトリガーをどう設けるか。60g以下という制約をクリアしながらも、必要な制御回路をどう載せるか。そこが一番の課題でした。機体の重量と回路の重量、それぞれの目標を定めて、お互いに相談しながら詰めていきました。
―形にするまでにどんなところに苦労しましたか？
どんな工夫で乗り越えましたか？
傘のように開く―知恵と連携で突破した変形の壁
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M.Nダ 変形の仕組みは、ジャンプ傘が開くイメージです。ゴムでスライダーを引っ張って留めておき、スリッパを蹴り上げたあとにそれが外れて開くという方式にしました。60gという制約の中でモータや強いバネは使えません。どうやって軽く確実に開かせるかという点に知恵を絞りました。
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A.Iトウ 変形機構のトリガーとして、 最初は釣り糸で固定しておいて、電流で発熱するニクロム線を使って焼き切る方式を考えていました。ところが、エネルギーをかけ過ぎるとニクロム線が溶けて固定が外れず、逆に弱いと釣り糸が切れないという問題が、本番1週間前に判明したんです。そこで発想を逆転し、固定自体をニクロム線に変更。通電で“固定材そのもの”を切る方式に切り替えました。あとは展開のタイミング制御が肝で、その部分はNムラさんが中心となって詰めてくれましたね。
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K.Nムラ 加速度センサで蹴り出しを検知し、上昇と落下の動きをリアルタイムで監視します。スリッパの回転や、頂点に近づいた挙動をセンサが捉えると、展開の信号を出して翼を開く仕組みです。さらに、落下に転じてからは尾翼を自動で制御し、姿勢を安定させながら滑空していきます。案が固まる前から「位置や挙動のデータは必須だ」と考えていて、どんな動きをしたときにどんな値が出るのかを確認するため、早い段階から試験を重ねていました。その結果をもとに、どの加速度の範囲で開けば最もきれいに飛ぶかを計算して詰めていきました。
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R.Mダ 私たちメカ側の機体づくりに時間がかかっている間に、制御チームは発泡スチロールの玩具飛行機に回路とセンサを載せ、先にデータ取りを進めてくれていました。おかげで機体がようやく形になった段階で、回路は完成・プログラムも適用済み。実際に投げてみたところ、狙いどおりに展開してくれたんですよね。そのスピード感は見事でした。
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A.Iトウ データは早めに欲しいよねとみんなで話していたところ、買い出しの途中でちょうど良い玩具飛行機を見つけて、「これだ！」と。
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K.Sトウ Iトウさんが玩具飛行機を買ってきたのを見て、最初は「何して遊ぶのかな？」と思ったくらいですが（笑）、投げてみると本当によく飛ぶ。参考データとして最適でした。私は、電熱線を焼き切るための回路を担当し、確実に動作するように、電気の流し方を何度も試して調整しました。
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R.Mダ 私自身は「お題の達成条件」を軸に考えていました。まずはスリッパとして履けること、歩けること、そして蹴り出せること。そのうえで「遠くまで跳ぶ」必要があります。跳ばし方のアイデアは多く出ましたが、“履く・歩く・蹴る”との相性、60gに収まるか、スリッパらしく見えるか。全体として成立するかを常に意識していましたね。
―初めて跳ばすことができたときはどんな気持ちでしたか？
思い描いていた滑空に成功、努力が報われた
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R.Mダ 手で投げて初めて空中でパッと翼が開いた瞬間のことは忘れられませんね。思わず「わぁっ」と声が上がって、全員が興奮しました。さらに滑空中に急降下したあと、自動で頭を上げて水平姿勢に戻る “自律制御”が初めて機能したときも、本当に感動しました。まるでパイロットが操縦しているような動きでした。
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M.Nダ それまではうまく跳ばなかったり、開かなかったりの連続で。軽量化のために部品の数もギリギリまで抑えていて、1回跳ばすと壊れてしまうことも多かったですよね。そんな中で投げたスリッパが初めてきれいに開き、ふわっと滑空した瞬間は、本当にモヤモヤが晴れるようでした。
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A.Iトウ 私も本当に嬉しかったです。場の雰囲気が一気に明るくなって「よし、もう一度頑張ろう！」という気持ちが自然に湧いてきました。頑張りが報われた瞬間でしたね。
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K.Sトウ 理想の動きをしてくれた瞬間は「やっぱりこのアイデアで合ってたんだ！」と、みんなの考えが正しかったと証明できた気がしました。
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K.Nムラ 「よっしゃ！」という喜びと、何とも言えない安心感がありました。実は前日まで展開がうまくいかずに遅くまで調整していました。だからこそ、みんなの前でちゃんと開いてくれたときは、興奮して疲れも一瞬で吹き飛びましたね。
―今回の挑戦で印象に残っていることを教えてください
立場を越えて想いが重なり、チームが動く 立場を越えて想いが重なり、 チームが動く
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M.Nダ 社内のあちこちの部門に、すごい人がたくさんいるんだなと改めて感じましたね。そうやって集まってきた人たちが、同じ方向を向けば一体になって動けるんだということを強く実感しました。目的や目標がはっきりしていれば、組織なんて関係ない。互いに意見を出し合いながら、がむしゃらに前へ進む。そうした一体感こそ、私がこれまで感じてきたロームらしさ。今も変わらずしっかりと息づいているのを目の当たりにして、嬉しかったです。
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A.Iトウ 短期間でひとつのものをつくりあげるというのは、普段の業務とはまったく異なる経験でした。今回はとにかく、フラットに意見を出し合えたのがすごくよかったです。今後の業務でも、他部署とのつながりや知識共有の重要性、そしてあの時のチームのような雰囲気を意識していきたいですね。
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K.Sトウ 最初は、ベテランから若手まで幅広いメンバーが集まっていて、正直少し緊張していました。でも、いざ始まってみると役職や立場は関係なく、みんなが同じ目的に向かって全力で取り組むことができました。リーダーも若手が発言しやすい雰囲気をつくってくださっていて、ありがたかったです。今後の業務でも、他部門との関わりをきっかけに、もっと新しい発想や広がりを生み出していけそうだと感じています。
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K.Nムラ 私は入社3年目で、今回はほとんどの方が初対面でした。最初は「自分にできることがあるかな」「発言してもいいのかな」と不安もありましたが、皆さんが気さくに接してくださって、次第に話しやすくなりました。この経験を通して、今では他部署の方とも臆せず意見を交わせるようになりましたし、同じチームのメンバーとの連携もよりスムーズになりました。自分にとって大きな自信につながる経験になりましたね。
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R.Mダ 私は部下がいる立場として、これまでは「なぜこれをやるのか」を論理的に説明することを意識してきました。しかし今回の経験を通して、人は“想い”で動くのだということを実感しました。上下関係のないフラットな環境で、それぞれが「こうしたい」という気持ちを持って集まる。そこに自然とエネルギーが生まれていました。実際の仕事でも、「これを実現したい」「会社をこうしていきたい」と、自分の想いを言葉にして伝えるようになりました。そうした気持ちを共有できると、みんなの動きも確実に変わる気がしています。これからも、あのときのような “心で動くチームづくり”を大切にしていきたいと思っています。
Extra Chapterでは、
本番では使われなかったもう一つの可能性を
追求し続けた開発チームをフィーチャー。
「ただ遠くに跳ばしたい」その一心で没頭した
若手技術者の挑戦に迫ります。