わずか60gのスリッパを遠くへ跳ばすという
常識外れのミッション。
小さな機体にエンジニアとしての
意地とプライドを込め、
極限まで“跳ばす技術”を突きつめた日々。
その舞台裏に迫る。
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リーダーN.Nジマ -
R.Mダ
設計担当 -
M.Nダ
設計担当 -
A.Iトウ
制御担当 -
K.Sトウ
制御担当 -
K.Nムラ
制御担当 -
H.Kマツ
はばたきモンスターの
設計と制御担当 -
S.Fハシ
はばたきモンスターの
設計と制御担当

リーダーが語る
「チームづくりの難しさとよろこび」
「チームづくりの難しさとよろこび」
―リーダーに手を挙げた理由を教えてください。
ものづくりに本気で向き合うために ものづくりに本気で 向き合うために
もともと私は化学系の学部出身で、ものづくりに直接関わる機会が多くありませんでした。設計の仕事に携わる中で、自分の手でものをつくる経験が少ないことに、エンジニアとしての危機感を感じていたんです。だからこそ、「魔改造の夜」という舞台で本気のものづくりに挑むことで、自分自身の技術力を高めたいと思いました。同時に、社内には素晴らしい技術を持つエンジニアがたくさんいることを、もっと多くの人に知ってもらいたいという気持ちもありました。自分がリーダーを務めることで、その思いを形にできるのではないかと考えました。もちろん、若手の自分に本当に務まるのかという不安もありましたし、会社を代表して出場するというプレッシャーも感じていました。リーダー経験もほとんどなく、うまくいくかどうかも分かりませんでしたが、先輩方から「そこまで意欲があるなら、途中で投げ出すことはないだろう」と言ってもらえたことが、大きな支えになりました。背中を押してくださった皆さんの思いに応えたいという気持ちで、「最後までやり遂げよう」と決意しました。
―リーダーを務める中でどんなことが大変でしたか。
焦りと責任の中でチームをまとめる難しさ 焦りと責任の中で チームをまとめる難しさ
お題が難しいことは最初から分かっていましたが、実際に取り組みが始まると、想像以上に時間との戦いでした。1か月半という限られた期間の中で、チームづくりも同時に進めなければならなかったことが大きな壁でした。最初の頃は「みんなで楽しもう!」というワクワク感が強かったのですが、2週目を迎える頃には、楽しさよりもプレッシャーと責任感の方が勝っていたと思います。少しずつ「スリッパを本当に飛ばせるのか」という不安が大きくなっていきました。それでもメンバーは次々と試作を重ね、チーム全体で30体、40体と数えきれないほどのスリッパをつくり続けました。私は途中でうまくいかなかった案も、「もしかしたら何かに使えるかもしれない」と思い、どれも捨てずに残しておきました。しかし、試作を重ねてもスリッパを思うように飛ばすのは簡単ではなく、「本当にこれでいけるのか」という不安がありました。
また、今回のお題はリーダーがスリッパを履いて蹴り飛ばさなければならなかったため、“蹴り手”として結果を出さなければならないというプレッシャーも常につきまといました。本番が近づくにつれ、その重圧はどんどん大きくなっていきました。毎日1時間ほど蹴る練習を続け、フォームやタイミングを何度も確認しました。それでも不安は消えず、夜になると“うまく蹴れない夢”を何度も見るほどでした。個々の創造性を活かしながらチームとして一つにまとまること。そして結果を出すためにリーダーとして責任を背負うこと。その両立の難しさを痛感しましたね。
決断の瞬間、 チームの強さを感じて胸を打たれた 決断の瞬間、チームの強さを 感じて胸を打たれた
いよいよ案を絞る段階になり、最終的な候補は二つに絞られました。どちらもメンバーの思いが詰まった力作で、簡単に選べるものではありませんでした。「これまで懸命に取り組んできた仲間の気持ちを大切にしたい」という思いと、「確実に結果を出せる案を選ばなければ」という責任の間で、何度も気持ちが揺れました。
不採用となった案には、最初から強い思いを持って挑んでくれていた若手メンバーがいました。その真剣な姿を見ていたからこそ、簡単に諦めることはできませんでした。しかし、どうしても安定した飛行の見通しが立たなくて。提出期限の朝、体育館で最後の実験を行いましたが、やはり結果は思うように出ませんでした。本当に苦しい気持ちを抱えながらもその案を断念し、もう一つの案に一本化することを決断しました。残された時間はわずかで、スリッパは一度蹴ると壊れてしまうため、再度つくり直す必要がありました。不採用となった案に懸けてくれたメンバーには、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいでした。それでも、私の決断を受け止め、「採用になった案の方を手伝います」と言ってくれたんです。本来なら気持ちが折れてもおかしくない状況で、すぐに気持ちを切り替えて行動してくれたことが嬉しく、今でも心に深く残っています。リーダーとして、一番つらく、重い判断でした。思い出すだけでも胸が痛みますが、あの瞬間にチームの強さを感じました。
本番を終えた瞬間のことは、実はあまりよく覚えていないんです。確か、最初に感じたのは“解放された”という感覚でした。目指していた結果には届かなかったものの、全力を尽くせたことに大きな満足感があり、気持ちは晴れやかで、「ようやく終わったな」という清々しさがあったように思います。
―他チームとのつながりが生まれたと聞きました。
エピソードを教えていただけますか。
互いに刺激し合える“同志”との出会い 互いに刺激し合える “同志”との出会い
今回の挑戦を通じて、他社のリーダーの方々とも交流が生まれました。放送後も連絡を取り合い、たわいもないやり取りをしていますが、その中にも学びや刺激がたくさんあります。エンジニアとしての考え方や、リーダーとしての在り方は人によってさまざまで、「なるほど、そういう視点もあるのか」と思わされることばかり。中でも印象的だったのは、他社のリーダーの一人が話していたチームづくりの考え方でした。私はとにかく課題に取り組むことを優先して進めていましたが、その方は「自分が発信源にはなるけれど、メンバー同士が能動的に動けるチームをつくりたい」と話されていました。実際に、最初の段階で小さなチームをつくり、課題解決よりも先に“チームづくり”から始めていたそうです。その話を聞いて、自分は少し焦って進めていたなと気づかされ、リーダーとしての姿勢を見直す、良いきっかけになりました。
普段、他社の方々とこうした本音の話をする機会はありません。「魔改造」という共通のテーマで出会えたからこそ、壁を感じることなく、まるで同志のように本気で語り合えるのだと思います。この活動を通して、かけがえのない仲間ができました。同じ熱量を持つ方々と出会えたことは、何よりの財産です。
Chapter02では、本番で使用されたモンスター
「ヘラクレスリッパ」の開発を担当した
チームにインタビュー。
“60gで遠くへ跳ばす”という難しい課題に、
どんなアイデアと試行錯誤で挑んだのか―
その裏側に迫ります。