業界最高8Vゲート耐圧の150V GaN HEMT量産体制を確立
EcoGaN™の第一弾「GNE10xxTBシリーズ」が
基地局・データセンターなどの低消費電力化や小型化に貢献

 

2022年3月23日
※2022年3月23日現在 ローム調べ

<要旨>

DFN5060

ローム株式会社(本社:京都市)は、基地局・データセンターをはじめとする産業機器や各種IoT通信機器の電源回路向けに、業界最高8Vまでゲート耐圧(ゲート・ソース定格電圧)*1を高めた150V耐圧GaN HEMT*2GNE10xxTBシリーズGNE1040TB)」の量産体制を確立しました。
一般的にGaNデバイスは、低いオン抵抗と高速スイッチング性能に優れていることから、各種電源の低消費電力化や周辺部品の小型化に貢献するデバイスとして活用が期待されていますが、ゲート耐圧が低く、スイッチング時におけるデバイスの信頼性に課題がありました。
この課題に対して、新製品は、独自の構造によりゲート・ソース定格電圧を一般的な6Vから8Vまで高めることに成功。これによりスイッチング時に6Vを超えるオーバーシュート電圧*3が発生したとしてもデバイスが劣化しないため、電源回路の設計マージン向上および高信頼化に貢献します。また、大電流対応かつ放熱性にも優れる汎用性の高いパッケージで製品化しており、実装工程でのハンドリングを容易にします。
新製品は、2022年3月から量産体制を確立しており、生産拠点は、前工程がローム浜松株式会社(浜松市)、後工程がローム株式会社(京都市)となります。
ロームでは、省エネ・小型化に寄与するGaNデバイスを「EcoGaN™」としてラインアップし、デバイス性能のさらなる向上に取り組んでおります。今後は、「Nano Pulse Control™」*4をはじめとするアナログ電源技術を生かした制御ICやそれらを組み込んだモジュールの開発も進め、GaNデバイスの持つ性能を最大限引き出すパワーソリューションを提供することで持続可能な社会への貢献を目指します。

名古屋大学 大学院工学研究科 山本真義教授
今年度、経済産業省はあと10年と待たない2030年における、新設データセンターの30%の省エネ化を目標に掲げております。ただし、その性能には、省エネ化だけでなく社会インフラとしての堅牢性・安定性も問われます。
ローム社はそういった未来への社会要求に対し、省エネ化を実現しながら、業界最高のゲート耐圧8Vという堅牢性・安定性を確保した新しいGaNデバイスを開発しました。本製品を皮切りに、ローム社は今後、同社が誇るアナログ電源技術「Nano Pulse Control™」との融合により、あらゆる電源の高効率化を実現し、2040年における半導体・情報通信産業のカーボンニュートラル化を手繰り寄せる大きな技術潮流を生み出していくことでしょう。

ゲート・ソース定格電圧比較
パワーデバイスのアプリケーション適用範囲

<背景>

近年、IoT機器の増加で需要が拡大しているサーバーシステムなどにおいて、電力変換効率の向上や装置の小型化が重要な社会的課題のひとつとなっており、パワーデバイスにさらなる進化が求められています。
ロームは、業界をリードするSiCデバイスや特長ある各種シリコンデバイスの開発・量産を進めるとともに、各種アプリケーションに対して、より幅広いパワーソリューションの提供を可能にする、中耐圧領域での高周波動作に優れるGaNデバイスの開発も行ってきました。

<EcoGaN™とは>

EcoGaN™は、GaNの持つ低いオン抵抗と高速スイッチング性能を最大限生かすことで、アプリケーションの低消費電力化と周辺部品の小型化、設計工数と部品点数の削減を同時に目指した省エネ・小型化に貢献するロームのGaNデバイスです。

・EcoGaN™は、ローム株式会社の商標です。

<新製品の特長>

1.独自の構造によりゲート・ソース定格電圧を8Vまで拡大

ゲート・ソース電圧(VGS)波形

一般的な200V耐圧以下のGaNデバイスは構造上ゲート駆動電圧5Vに対して、ゲート・ソース定格電圧が6Vであり、その電圧マージンが1Vと非常に狭くなります。デバイスの定格電圧を超えると、劣化や破壊など信頼性に関する問題が発生する可能性があり、ゲート駆動電圧には高精度の制御が必要となるため、GaNデバイス普及の大きな課題となっていました。
新製品は、この課題に対して独自構造を採用することで、ゲート・ソース定格電圧を一般的な6Vから業界最高の8Vまで高めることに成功しました。これによりデバイス動作時の電圧マージンを拡大、スイッチング時に6Vを超えるオーバーシュート電圧が発生したとしても、デバイスが劣化しないため、電源回路の高信頼化に貢献します。

2.大電流対応かつ放熱性にも優れたパッケージを採用

新製品は、信頼性・実装性に対する実績が確立されている大電流対応かつ放熱性に優れた汎用性の高いパッケージを採用しており、実装工程でのハンドリングを容易にします。また、銅クリップ接合のパッケージ技術を用いて寄生インダクタンス値を従来パッケージから55%低減したことで、高周波動作を想定した回路設計時にデバイスの性能を最大限引き出します。

3.高周波数帯での電源効率96.5%以上の高効率を実現

新製品「GNE1040TB」の電源効率

新製品は、ゲート・ソース定格電圧の拡大や低インダクタンスパッケージを採用することでデバイスの性能を最大限引き出しており、1MHzの高周波帯でも96.5%以上の効率を実現し、電源機器の高効率化と小型化に貢献します。

<アプリケーション例>

アプリケーション例・データセンターや基地局などの48V入力降圧コンバータ回路
・基地局パワーアンプ部の昇圧コンバータ回路
・LiDAR駆動回路、ポータブル機器向けワイヤレス給電回路
・D級オーディオアンプ

<回路例>

絶縁DC/DCコンバータ回路イメージ
LiDAR向けレーザーダイオード駆動回路イメージ

<用語説明>

*1) ゲート・ソース定格電圧(ゲート耐圧)
ゲート・ソースの間へ印加できる最大電圧のこと。動作に必要な電圧を駆動電圧と呼び、特定のしきい値以上の電圧を印加すればGaN HEMTはON状態になる。

*2) GaN HEMT
GaN(窒化ガリウム)とは、次世代パワーデバイスに用いられる化合物半導体材料のこと。一般的な半導体材料であるシリコンに対して物性に優れており、高周波特性を活かし採用が始まっている。
HEMTとは、High Electron Mobility Transistor(高電子移動度トランジスタ)の単語の頭文字を取った略称。

*3) オーバーシュート電圧
スイッチングON/ OFFする際に規定の電圧値を超える値が発生すること。

*4) Nano Pulse Control™
電源ICにおいて、ナノ秒(ns)オーダーのスイッチングオン時間(電源ICの制御パルス幅)を実現することで、従来2つ以上の電源ICでしか構成できなかった高電圧から低電圧への電圧変換を、”1つの電源IC”で構成可能にする超高速パルス制御技術。

・Nano Pulse Control™は、ローム株式会社の商標または登録商標です。

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