独自材料で世界トップ級の極短焦点な平面レンズを実現!
テラヘルツ発振器に搭載し、3倍の高指向性化に成功!!
-6G通信やセンサでの応用に向けて-

2021年7月7日

国立大学法人東京農工大学大学院の遠藤孝太氏(2021年3月修士課程修了)、関谷允志氏(2019年3月修士課程修了)、佐藤建都氏(修士課程2年)、鈴木健仁准教授(工学研究院)は、ローム株式会社と共同で、超高屈折率・無反射な新材料(メタサーフェス 注1)により焦点距離1ミリメートルの極短焦点な平面レンズ(メタレンズ 注2)を開発しました。平面レンズの直径は2ミリメートルです。平面レンズのF/D比(注3)と開口数NA(注4)は、それぞれ0.5と0.7です。さらに0.3THz(波長: 1ミリメートル)のテラヘルツ波を放射する発振器の共鳴トンネルダイオード(注5)に搭載し、パワー密度3倍の高指向性化に成功しました。
従来の市販のテラヘルツレンズは、焦点距離が短くてもおおよそ10ミリメートル程度で、形状も厚さ10ミリメートル程度のドーム型です。これを24マイクロメートル(1マイクロメートル=1000分の1ミリメートル)とはるかに薄い平面形状のメタレンズに、パワー密度は保ったまま置き換え、テラヘルツ発振器の小型化を実現しました。
コンパクトで高指向性なテラヘルツ発振器の製品化に向けた第一歩で、6G(Beyond 5G)超高速無線通信、各種センサ機器、X線に代わる安心安全なイメージングなどでの展開が大きく期待されます。

本研究成果は、応用物理学会Applied Physics Express(2021年7月7日付)に掲載されました。
報道解禁:2021年7月7日(水)18時00分(日本時間)

URL: https://iopscience.iop.org/article/10.35848/1882-0786/ac0678

研究背景:テラヘルツ波は、5G高速無線通信で使用されているミリ波と呼ばれる電磁波よりも高い周波数の電磁波(1秒間に、10の12乗回、1兆回振動する波)で、6G(Beyond 5G)超高速無線通信などでの利用が大きく期待されています。共鳴トンネルダイオードは、テラヘルツ波を室温で放射できる光源です。共鳴トンネルダイオードから放射されるテラヘルツ波を制御するためなどに用いられる従来の市販のテラヘルツレンズは、焦点距離が短くても10ミリメートル程度で、形状も厚さ10ミリメートル程度のドーム型でした。そのため、コンパクトで高指向性なテラヘルツ発振器の製品化に向けて、極短焦点で薄い平面レンズが求められています。

研究体制:本研究は、東京農工大学大学院工学府電気電子工学専攻の遠藤孝太氏(2021年3月修士課程修了)、同大学院工学府電気電子工学専攻の関谷允志氏(2019年3月修士課程修了)、同大学院工学府電気電子工学専攻の佐藤建都氏(修士課程2年) 、同大学院工学研究院先端電気電子部門の鈴木健仁准教授、ローム株式会社による共同研究として行われました。

研究成果:東京農工大学の研究グループが独自に開発した超高屈折率・無反射な新材料(メタサーフェス)による焦点距離1ミリメートルの極短焦点な平面レンズ(メタレンズ)を、ローム株式会社の0.3THzのテラヘルツ波を放射する発振器の共鳴トンネルダイオード(図1(a))に搭載(図1(b))し、パワー密度3倍の高指向性化を実現しました。平面レンズ(図1(c))は、直径が2ミリメートルの円形構造で、厚さ23マイクロメートルのシクロオレフィンポリマーフィルムの表と裏の両面に、厚さ0.5マイクロメートルの銅のワイヤーを対称に配置しています(図1(d))。平面レンズのF/D比と開口数NAは、それぞれ0.5と0.7です。シクロオレフィンポリマーフィルムの両面に配置した銅のワイヤーがメタアトム(注6)として動作し、屈折率がメタレンズの中心部から端部に向けて低くなるようになっています。メタレンズの中心部の屈折率は18.5で、シリコン(屈折率3.4)に比べて5倍以上と非常に高い屈折率です。メタレンズの端部の屈折率も3.5と高い屈折率です。この屈折率の勾配を利用して、共鳴トンネルダイオードから発振された放射状のテラヘルツ波を、指向性の鋭い平面波に変換しています。実験(図2(a)~(d))により、パワー密度3倍(図3)の高指向性化を確認しました。yz面(図3(a))とxz面(図3(b))のビーム半値幅は、共鳴トンネルダイオード単体ではそれぞれ32度と42度ですが、メタレンズによりそれぞれ18度と14度まで鋭く絞れています。

今後の展開:今回、極短焦点な平面形状のメタレンズにより、テラヘルツ発振器の高指向性化を実現しました。取り扱いやすくコンパクトで高指向性なテラヘルツ発振器の製品化に向けた第一歩で、6G(Beyond 5G)超高速無線通信、各種センサ機器、X線に代わる安心安全なイメージングなどでの展開が大きく期待されます。

(a) 共鳴トンネルダイオードから放射されるテラヘルツ波、(b) 独自なメタレンズによる高指向性化、独自なメタレンズの(c) 全体構造と(d) 単位構造
図1 (a) 共鳴トンネルダイオードから放射されるテラヘルツ波、
(b) 独自なメタレンズによる高指向性化、
独自なメタレンズの(c) 全体構造と(d) 単位構造

独自なメタレンズの(a) 全体写真と(b) 拡大写真、(c) メタレンズを搭載した共鳴トンネルダイオード (d) 実験に用いた光学系の全体図
図2 独自なメタレンズの(a) 全体写真と(b) 拡大写真、
(c) メタレンズを搭載した共鳴トンネルダイオード (d) 実験に用いた光学系の全体図

図3 (a) yz面と(b) xz面の指向性の実験結果
図3 (a) yz面と(b) xz面の指向性の実験結果

用語説明:

注1 メタサーフェス
原子より大きいが電磁波の波長に対しては微小なサイズの構造体を原子や分子に見立てて配列することで、自然界には存在しない電磁的性質(誘電率、透磁率)を実現できるスーパー材料(メタは“超”の意味)のこと。

注2 メタレンズ
メタサーフェス(注2)によるレンズのこと。今回実験に成功した東京農工大学の研究グループが独自に発明したメタレンズの正式名称は、両面構造ペアカットワイヤーアレーアンテナ。日本特許第6596748号, 米国特許第10686255号, 他。

注3 F/D比
レンズの焦点距離(Focal length)とレンズの直径(Diameter)との比のこと。

注4 開口数
レンズの中心軸とレンズに入射するテラヘルツ波の光軸との最大の角度をθとした場合のsinθのこと。

注5 共鳴トンネルダイオード
テラヘルツ波を室温で発振できる光源のこと。6G(Beyond 5G)超高速無線通信、各種センサ機器、X線に代わる安心安全なイメージングなどでの展開が期待されている。

注6 メタアトム
メタサーフェスを構成する、電磁波の波長に対して微小なサイズの構造体のこと。

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