Point 3電力の供給と利用における、さらなる効率化を推し進め社会と地球環境の未来を守る

必要な電力はきっちり使って消費総量を削減
実現の鍵は電力変換の高効率化にある

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省電力化に我慢はつきものなのか

 「省エネルギー化」と「地球環境の保護」は、継続可能な社会を実現するために欠かせない社会課題です。その解決には、電力をいかに有効利用できるかがとても大切な要素になります。
 電力の消費量を減らしたいとき、みなさんは何をするでしょうか。テレビを見る時間を減らす、冷房の設定温度を少し上げる、洗濯はまとめて行う。そんな方法を考える人が多いのではないでしょうか。省電力化の方法として、これらの方法は確かに効果的かもしれません。しかし、日々の生活や社会活動の中で何らかの我慢や妥協を強いることにもなります。
 私たちの生活と社会のあらゆる営みでの、電力消費への依存度は高まり続けています。必要な電力消費を無闇に削ってしまっては、豊かな生活と社会の成長が描けません。

発電した電力の半分は、使うことなく損失

 発電所で生み出した電力のうち、消費者の手元にある電気・電子機器を動かすために使われている電力の割合がどの位なのかご存じでしょうか。実は、約半分の電力しか利用できていないのです。残りは、すべて発電所から手元の機器に送電・配電・給電する過程で損失しています。言い換えれば、大量の石油を燃やしCO₂を排出する火力発電所も、維持にリスクを伴う原子力発電所も、その半数はムダに消え去る電力を作るために存在しているのです。
 では、送電・配電・給電の過程で損失する電力を最小限に抑えることはできないのでしょうか。損失をできるだけ少なくできれば、電気・電子機器の利用を制限することも、利用者が我慢や妥協をすることもなく、実質的な電力消費を大幅に削減できる可能性があります。現状の電力利用に潜むムダを洗い出し、見つけたムダを徹底的に解消することこそが、最優先課題ではないでしょうか。

損失削減に電力変換は必須、でもそこでも損失は起きる

 発電所から消費者の手元にある電気・電子機器までは、長い送電線やケーブル、機器内の配線を通じてつながっています。ただし、ただつながっているわけではありません。電力を送る過程で、電圧、周波数、交流と直流の違いなど電力の仕様を何度も変換しているのです。ケーブルなどの抵抗による自然損失を最小化するため、さらには扱いやすさや安全性を向上させるため、電力で駆動する電子部品や半導体の利用条件に合わせるため、電力の仕様を変える必要があるからです。そして、1回変換するたびに、5%〜15%の電力が失われていきます。
 電力変換を繰り返すうちに、実際に利用できる電力は、どんどん減ってしまいます。こうした損失は、発電所から工場、オフィス、家までをつなぐ電力網でも発生します。しかし、電源コンセントから電気・電子機器までの間、さらには機器内で行う変換や分配でより多くの電力が失われています。パソコンに電力を供給するACアダプターを使っていると熱くなりますが、まさにそうした熱の発生が電力をムダに消費していることを示しています。

大電力と小電力、いずれも電力変換の高効率化に期待

 太陽光発電のパワーコンディショナーや電気自動車(EV)の充電ステーションなど大電力を扱う設備では、電力変換を行う回路に高電圧・大電流に耐えるタフな特性を持つパワーデバイスが使われています。
 これまで、こうした大電力向けのパワーデバイスでは、デバイス自身が動作中に発熱し、多くの損失を引き起こしていました。さらに、タフに作られている分、動作が鈍く、小電力向けのパワーデバイスと比べると、きめ細かい制御が困難でした。電力変換に際しての損失を低減するためには、デバイスレベルでのイノベーションが欠かせません。
 電気・電子機器に搭載されるマイクロプロセッサやディスプレイなど、これまで比較的小電力で駆動していた電子部品・半導体も、消費電力がどんどん大きくなる傾向にあります。それでも、機器としての低消費電力化に対する要求は厳しく、機器内のどの部分での損失を削るかが設計者の課題になってきています。この時、電源回路は損失削減のターゲットになりやすい部分です。このため、電源ICなど、電源回路を構成する部品の高効率化が強く望まれています。