Point 1莫大な電力を消費するデータ社会を支える電源システムが必須に

データ活用社会は電力の安定・高効率な供給が前提、サーバやIoT機器での新発想の電力システムが必須

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データ活用社会は、電力大量消費社会

 スマートシティ、スマートホーム、さらにはIndustry 4.0など、データを効果的に活用することで、社会やビジネス、生活をより豊かなものにしていく取り組みが様々な分野で進められるようになりました。そこでは、ビッグデータを解析するための人工知能(AI)や、身の回りの状況やあらゆるモノの動きのデータを収集するIoTといった、高度なITシステムが活用されます。
 これらのITシステムは、すべて電力をエネルギーとして動き、データ活用が広がれば広がるほど、扱うデータが高度になればなるほど、より多くの電力を消費することになります。データ活用の動きは加速する一方であり、クラウド上でビッグデータ解析を行うデータセンターや、様々な場所からデータを収集するIoT機器では、早くも電力の供給と活用に関わる多くの課題が顕在化してきています。課題解決には、必要な電力を安定供給し、しかも高効率な電源システムが欠かせません。データ活用による豊かな未来の実現は、電源システムの進化に掛かっていると言っても過言ではありません。

データセンターの維持は、電力の安定確保が最大の課題

 データセンターで使っている電力量は、富士通やNTTファシリティーズの資料によると、年間10%ずつ増大しています。マイクロプロセッサなどの動作に必要な電力だけではなく、これらを安定動作させるための冷却設備を動かすための電力も急激に増えているからです。米国では、既にデータセンターの消費電力が、スペインやイタリアの総消費量に匹敵(2017年現在)するまでになりました。データ活用の活発化に伴う消費電力の増加は、地球環境保護の見地からだけでなく、クラウドサービスの収益性を高めるうえでも見逃せません。データセンターの省電力化は、極めて緊急性の高い課題になっています。

電源システムを高電圧化して、電力損失を低減

 サーバやストレージに給電する電源システムを刷新し、電力効率を高めようとする取り組みが既に始まっています。
 Google社は、サーバボード収めるラックの給電システムの電圧を、従来の12Vから48Vに高めた新しい仕様を2016年に公開 しました。半導体チップの電源電圧は約1Vと低く、12V仕様の給電システムでボードに供給する電力の電流は数百Aに達するようになりました。配電バスでは、供給電流の2乗に比例した電力損失が起きるため、大電力化は看過できない問題でした。Google社は、安全性維持が可能な範囲内で供給電圧を4倍に高めることで、理論上は損失を1/16に低減できると考えたのです。
 同社は、大規模なデータセンターを運営する世界有数の企業であり、サーバを自社開発する企業でもあります。このため、その開発方針は、サーバを開発する多くのメーカーに多大な影響を与えています。
 給電システムの電圧を高めたかったのは、データセンターだけではありません。出力が大きなアクチュエータや負荷が大きな電子機器を扱う電気・電子機器では、同じ課題を抱えていました。今後は、FA機器や通信機器、ストレージ装置にも48V電源は広がることでしょう。

IoT機器では、電力供給が利用シーンの拡大の足かせに

 一方、消費者や働く人の手元で扱う機器、現場からデータを収集するIoT機器では、電源システムに関わるまったく別の課題が持ち上がっています。
 冷蔵庫やエアコンのような家電製品や工作機など産業機器をIoT化する場合には、データ伝送にも、電力供給にも有線ケーブルを利用できます。これに対し、道路インフラの老朽化を監視する機器や農作物の生育状況や農地の状況を見守る機器、生活の中での生体情報の変化を記録するヘルスケア機器では、有線ケーブルがあると設置場所が限定され、使い勝手が悪くなってしまいます。
 無線技術の発達によって、様々なシーンでのデータ伝送を無線化できるようになりました。しかし、電源の供給については、一部を除いて、無線化のメドは立っていません。このため、バッテリーを利用するしか手立てがなく、定期的なバッテリー交換もしくは充電といったメンテナンスが不可欠になり、この点が使い勝手に制限を加えていました。

IoT機器で使う多様な電源に合った技術が求められている

 ところが、ここに来て、IoT機器を電源ケーブルのくびきから解放する技術に大きな進展が出てきました。光や振動、温度差といった自然環境の中にあるエネルギーを電力として取り出し活用するエネルギーハーベスティングと、電力を無線伝送するワイヤレス給電が実用化の段階に入ってきました。
 ただし、現時点で、こうした新しい給電手段に最適化した電源システムはそれほど多く登場していません。IoT機器の形態と利用シーンは多様です。また、エネルギーハーベスティングで得られる電力の仕様は多様であり、しかも1μW〜1Wと極めて微量なものが多くあります。一方、ワイヤレス給電も利用する環境や条件によって扱う電力の仕様が大きく変動します。規格化が進み、比較的安定した電源を扱うことを前提とした従来の電力システムとは、発想の異なる技術が必要になってきます。
 さらに、IoT機器では、データを取得し伝送する頻度は高くありません。このため、電子回路の動作時の消費電力より、待機時の消費電力の方が連続利用時間や使い勝手に、大きく影響します。
 IoT機器の利用シーンの拡大は、こうしたIoT機器固有の特徴を勘案した、組み込まれている電子回路に電力を安定的かつ効率的に供給できる技術が実現するかに掛かっていると言えます。