インタビューELEKTRONIK PRAXIS 掲載
2024年11月5日
未来への展望ロームのパワー半導体戦略「SiCで必ず勝ちます」
※ 内容、登壇者の肩書は取材当時のものです(2024年11⽉)
SiCパワーMOSFETを業界で初めて市場に投入したローム。そのロームがSiCパワー半導体市場のシェア1位の座をつかむべく取り組みを強化している。どのような戦略で、激しい競争に挑むのか。同社のパワーデバイス事業本部で本部長を務める野間亜樹氏に話を聞いた。
―――SiCパワー半導体を取り巻く激しい競争どうやって勝ち抜くのか?
―――EV用トラクション・インバータ市場で勝てるか?
野間
もちろん勝てます。そのために取り組んでいるわけですし、ロームの関係者は全員、「勝つために取り組んでいる」と断言すると思います。ただし これさえあれば勝てるというような「魔法の杖」は存在しません。勝つためには、いくつかの要素をクリアする必要があります。その中で重要なのはユーザーの要望にどれだけ応えられるのか。これが鍵を握っています。
これまでロームはSiCパワー半導体技術を磨いてきました。世界で初めて量産化した製品がたくさんあります。特に第4世代のSiCパワーMOSFETは、製品化した当時、業界で最も低いオン抵抗を誇っていました。しかし市場シェアは現在5位です。つまり、課題はあるということです。敢えて言えば、市場が急成長しているときに重要なのはスピードです。現在は生産能力によって、売上高が決まる状況にあります。従って、売上高を伸ばすために生産能力の増強を急いでいます。
また顧客(自動車メーカー)との関係は、何よりも大切です。自動車は、製造業の中で最も裾野が広く、日本にとって非常に大切な産業です。100年に1度の転換期と称されている「自動車の電動化」で勝負を決めるのはバッテリーであり、インバータなので、内燃機関(エンジン)で各メーカーが差別化を図ってきたように、インバータを構成するパワー半導体は間違いなくキーパーツになります。だからこそ、自動車メーカーは、ロームのようなTier Ⅱ、Tier Ⅲの半導体メーカーに直接声を掛けて、さまざまな関係を構築しています。現時点で公表している範囲で言えば、マツダ自動車(マツダ株式会社:Mazda Motor Corporation)や中国Geely Automobile(浙江吉利控股集団:Zhejiang Geely Holding Group)と協業を進めており、これらは象徴的な出来事と言えるでしょう。
―――SiCパワー半導体をユーザーが採用するメリットは何か?
野間
ガソリン車の燃費に相当する電費を高められることです。Siパワー半導体をSiCパワー半導体に置き換えると、電費を5〜10%改善できます。これが間違いなく最大のメリットです。EVの電費が高まれば、その分だけバッテリーのエネルギー容量を削減できます。バッテリーは非常に高価です。このためエネルギー容量を減らせれば、システムコストを低減できるようになるわけです。従って、Si IGBTをより高価なSiCパワーMOSFETに置き換えても、そのコストを十分に吸収できます。
―――Siパワー半導体をSiCパワー半導体に置き換える際、ユーザー側の設計作業は大変にならないのか?
野間
確かに、SiCパワー半導体の使いこなしで苦労するケースは少なくありません。SiCパワーMOSFETを採用すれば、導通損失とスイッチング損失の両方を削減できます。これは大きな魅力です。しかしその一方で、スイッチング波形が「暴れる」という課題に遭遇します。このためSiCパワーMOSFETを顧客が使いこなすためのサポートは必須であり、それには力を入れています。
ロームは、社内にアナログ半導体部門を抱えており、そこで絶縁ゲートドライバICを開発/製造しています。これと組み合わせれば、顧客はSiCパワーMOSFETの性能を引き出しやすくなります。SiCパワーMOSFETと絶縁ゲートドライバICをセットで提案できることもロームの強みだと考えています。
―――SiCパワーMOSFETが「暴れる」とは、どのようなことか?
野間
SiCパワーMOSFETを使う電源回路の設計が難しくなる理由は、複数の素子を並べて使う必要があるからです。3相インバータであれば、6個のスイッチを使います。ただし1個のスイッチは複数個のSiCパワーMOSFETを並列で構成する必要がある。並列にすると、SiCパワーMOSFET同士の動作が干渉してしまい、望まないオンやオフが発生し、最終的にはSiCパワーMOSFETが壊れてしまいます。
信号波形が暴れないようにするためには、顧客に対するサポートや顧客との設計のすり合わせが重要になります。
―――SiCパワー半導体とGaNパワー半導体は、どのようにすみ分けるのか?
野間
結論から言うと、SiCパワー半導体とGaNパワー半導体のすみ分けは、顧客が決めるとしか言いようがありません。ただし、GaNパワー半導体を採用した方が好ましい市場があることも確かです。
EV用途でもオンボード充電器は、スイッチング速度が高いGaNパワー半導体の方が間違いなく魅力を発揮できるでしょう。ただしSiCパワー半導体の主力市場であるトラクションインバータでは、GaNパワー半導体が普及する可能性は低いと考えています。そもそもインバータのスイッチング周波数は、高くてもせいぜい20kHz程度だからです。GaNパワー半導体の魅力は、もっと高い周波数で動作させても、損失が少ないことなので、低い周波数で使われるインバータには採用されないでしょう。オンボード充電器は、SiCパワー半導体とGaNパワー半導体が争う構図になるかもしれません。
―――ロームは2023年11月に宮崎県国富町にあるソーラーフロンティアの太陽電池工場を取得して宮崎第二工場として整備/運営し、SiCパワー半導体の主力工場として2024年中に稼働させることを発表した。新工場を作る最大の目的は何か?
野間
生産能力の増強スピードを高めることが目的です。新たに工場を建設するよりも、2年ぐらい早く製品を供給できるようになります。さらに、大きな箱(工場)をあらかじめ用意しておけば、需要に応じて設備投資額を調整することが可能になります。
今まではSiCパワー半導体しか、日本国内では生産していなかったのですが、宮崎第二工場ではSiCウエハの生産も予定しています。いずれ業界一のSiCパワー半導体工場にしたいと考えています。
野間
これまでSiCパワー半導体は、太陽光発電システムやサーバー用電源といった限られた産業機器に採用されてきました。しかし現在、需要が伸びていて今後も伸びると期待されているのは、電気自動車(EV)のトラクションインバータです。
2021〜2022年のSiCパワー半導体市場は年間約1000億円の規模でしたが、これが2028年もしくは2030年になると1兆円を超えると予想されています。そのうちの7〜8割はEV用トラクションインバータ向けと想定しています。つまり、この市場で勝てるかどうか。それでロームがSiCパワー半導体市場で勝てるかどうかが決まると考えています。