Point 2EV時代の到来で電動動力の性能を高める様々な技術革新が必要に

応用の拡大と技術革新が加速するモータ
駆動システムにはデバイスレベルの革新が必要 

 
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新たな応用に向けた新技術を投入する時代に突入したモータ

 モータは、エアコンや洗濯機など家電製品や工場で使う工作機など、様々な電気機器の動力源として欠かせない電気部品です。モータで消費する電力は、一般社団法人日本電機工業会発行の資料「トップランナーモータ」によると、世界の総消費量の約50%を占めていると言われています。 そんな近代文明の象徴とも言えるモータに、応用拡大と技術の進化が加速する新しい時代が訪れています。これからは、電気自動車(EV)やロボットのような、モータの応用市場が急激に拡大していく見込みです。そして、そこでは、より高性能、高効率、高信頼性、小型・軽量なモータが求められます。
 現代のモータは、単に電源をつないで回すだけではなく、駆動電力を精密制御して、利用シーンに合った動作しています。どんなに高度なモータでも、その潜在能力を引き出せるモータドライバがなければ、高性能、高効率な動作はできません。モータの進化と歩調を合わせて、ドライバも進化させていく必要があるのです。同時に、ドライバ回路を構成する、制御用マイコンやインバータ、ゲートドライバ、パワーデバイスなど、半導体デバイスも新しい応用でのニーズに合ったものが求められるようになってきています。

 

世界中で始まった自動車の電動化

 内燃機関を利用したエンジン車から電動モータを使うEVへと、動力源の移行期真っ只中にある自動車は、モータとその制御技術が大きく進化している応用の典型例です。
 世界中の国々の政府が、温暖化対策や産業振興の観点から、EVの普及を積極的に推し進めています。しかも、補助金や税優遇によって普及を後押しするゆるやかな促進策ではなく、ガソリンや軽油を燃料とするクルマの販売を禁止する、強制力の高い方法での普及が図られようとしています。既に、英国やフランスなど欧州諸国、中国、インドなどが、エンジン車の販売禁止時期を明確に示しています。
 EVでは、航続距離の延長、充電時の利便性向上、低価格化などに向けた技術開発が活発に進められています。現在のエンジン車より不便で高価なものでは、普及は進みません。このため、本格的なEV時代の到来を見据えた革新的な技術が次々と試されています。

EVでは、大出力で制御範囲が広いモータ駆動が求められる

 EV向けモータは、家電製品や工作機器などと大きく2つの点で異なります。1つは、出力が大きいことです。例えば、エアコン用の駆動出力は約3kWですが、EVの主駆動用モータの代表的なものは150kWにもなります。もう1つは、停止状態からの発進や走行時の加速、市街地と高速道路の速度の違いなど様々な走行シーンに柔軟に対応し、なおかつ高効率で動作する性能が求められることです。
 一般に、広範な動作条件に対応しようとすると、モータの特性目標値がぶれて、高効率化が難しくなります。電力効率の向上は、クルマの航続距離や環境性能に欠かせないため、ここにブレークスルーが必要になってきます。さらに、小型化は車内空間の拡大に、軽量化は運動性能の向上と航続距離に大きく影響しますから、それらの点からも技術開発が求められています。こうした厳しい条件を満たすため、回転数やトルクなどの精密制御が可能な交流駆動のACモータ、中でも比較的小型・軽量化が容易で高効率な同期モータがEV用に使われています。

 

Si系デバイスに代わるインバータの進化を加速させる技術が必要に

 同期モータでは、モータの駆動電圧を高くすることで、回転速度とトルクを高めることができます。この時、電流を増やさず、電圧を高くすることで高出力化すれば、モータ内での損失が減り、高効率化できます。また、駆動電力の周波数をインバータで制御して、回転速度を変えています。回転数とトルクの範囲を拡大しながら高効率化させるためには、モータの回転位置と駆動電力の制御の精密制御が欠かせません。
 こうしたEV用モータを駆動するインバータには、高電圧を扱いながら高い精度での制御が可能で、なおかつ高効率化と小型・軽量化ができる技術が求められています。ただし、現状のSi系のIGBTをスイッチング素子として用いるインバータでは、進化の伸びしろがそれほど残されていません。SiCやGaNなどデバイスレベルでのイノベーションが求められています。

機電一体で小型・軽量化と高効率化

 さらに、モータとそれを駆動するドライバ回路を1つのモジュールに一体化させる技術の開発が活発になってきました。機械的な動きを作り出すモータと電気的な回路をまとめる “機電一体”と呼ばれる動きです。
 機電一体によって、駆動系機構の小型軽量化、高効率化、低コスト化が実現します。モータにインバータを組み込むことができれば、両者をつなぐケーブルを短縮できるため、小型軽量化と損失軽減が同時に実現します。さらに、電気的な接点が減り、工作機やロボットでは稼働時のケーブルの折り曲げがなくなるため、信頼性も向上します。機器を組み立てる時の作業工数も減ります。
 既に、自動車業界において、パワーウインドウやステアリングを駆動する用途への応用を目指して、試作が始まっています。さらに、機電一体の動きは、家電製品や工作機械、ロボットなどを動かすモータにも広がっています。