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インタビューELEKTRONIK PRAXIS 掲載

2025年1月7日

ロームが汎用アナログIC事業を強化ノイズに着目して市場攻略へ

※ 本コンテンツは2025年1月7日にELEKTRONIK PRAXISに掲載された記事を、Vogel Communications Groupの許諾を得て日本語に翻訳・転載したものです。
※ 内容、登壇者の肩書は取材当時のものです(2025年1⽉)

―――最近ロームは、オペアンプICの新製品を矢継ぎ早に市場に投入している。その理由は何か?

吉井 

IoTの普及でセンサ社会が到来していることが理由です。今や、圧力センサや照度センサ、ガス・センサ、温度センサ、重量センサ、加速度センサなどがさまざまな用途で使われています。こうしたセンサは、それ単体だけでは十分に機能しません。検出した信号はとても微小なため、そのままではマイコンなどで処理できないからです。そこで、信号を増幅するオペアンプICが必要になります。実際のところ、センサ社会の充実に伴って、オペアンプICの需要は堅調に伸びています。

吉井佑介 LSI事業本部 電源・標準LSI事業担当 標準LSI商品開発部 統括課長
吉井佑介 LSI事業本部 電源・標準LSI事業担当 標準LSI商品開発部 統括課長(出典:ローム)

―――オペアンプICと言えば、米国や欧州の半導体メーカーが得意とするアナログICというイメージが強い。ロームは、どのような方針でオペアンプIC事業に取り組んでいくのか?

吉井 

当社のオペアンプICは、約10年前までは、一般品と呼ばれる製品しか扱っていませんでした。一般品とは、スピードが遅く、精度も低い製品です。

しかし数年前に、オペアンプICやコンパレータICの事業を強化していこうと方針を転換しました。開発者を増員し技術開発を進めました。スルーレートが高い製品や入力オフセット電圧が低い製品などを開発し、高性能化した製品ラインアップの拡充に取り組んでいます(図1)。

図1 オペアンプICの製品ラインアップ

図1 オペアンプICの製品ラインアップ
約10年前までは、左下に位置する一般品しか用意していなかった。現在は、スルーレートが高い高速の領域と、入力オフセット電圧が低い高精度の領域に製品ラインアップを広げている。(出典:ローム)

オペアンプICは汎用品であり、基板上で同一性能のものを載せ替えて使えるものです。このため競合他社品との差別化はとても難しい。しかし差別化を図らなければ、欧米の半導体メーカーとの競争に勝てません。当社は、差別化ポイントでノイズに注目しました。「ノイズを受けない」。「ノイズを出さない」。この2つを軸として、製品開発に取り組んでいます。

―――ノイズとは具体的に何か?

吉井 

一言で言うとEMC対策に注力しました。EMCとは「Electromagnetic Compatibility(電磁両立性)」の略です。これは、電子機器や電気機器が周囲の環境や他の機器と電磁的に干渉せず、また逆に干渉を受けずに正常に動作できる能力を指します。これには2つの要素が含まれています。EMI(Electro-magnetic Interference)とEMS(Electro-magnetic Susceptibility)です(図2)。

図2 差別化ポイントとしてノイズに着目(出典:ローム)

図2 差別化ポイントとしてノイズに着目(出典:ローム)

EMIは、ほかの電子機器の動作に悪影響を与えるノイズをどのくらい放射するかという特性です。ただしオペアンプICは、そもそも大きなノイズを出しません。そこで当社は、出力信号に含まれるノイズに焦点を当てました。オペアンプICの出力信号には必ず「揺らぎ」が含まれており、これも一緒に増幅してしまいます。つまり揺らぎが大きいと、センサで検出した信号を正確に読めなくなる。そこで、この揺らぎを抑えることにしました。いわゆる「低ノイズ・オペアンプIC」です。

EMSは、外部から飛び込んでくる電磁波の影響をどれだけ受けるかを示す特性です。この特性が低いと、電磁波の影響でオペアンプICの出力信号が変動してしまいます。この結果、センサで検出した信号を正確に読めなくなってしまうわけです。EMS特性が高いオペアンプICは、EMIに対して強い耐性をもったオペアンプICと言い換えられるため、当社では「高EMI耐量オペアンプIC」と呼んでいます。

入力換算雑音電圧は業界最小クラス

―――低ノイズ・オペアンプICのノイズ性能は?

吉井 

当社が開発した低ノイズ・オペアンプICである「LMR180xxx」や「TLRx37xxx」、「BD728xxx」は、業界最小クラスの低ノイズ性能を実現しています。出力信号に含まれる揺らぎに相当する入力換算雑音電圧は2.9nV/√Hz(@1kHz)と極めて低い値に抑えました(図3)。

図3 ノイズを出さないオペアンプIC

図3 ノイズを出さないオペアンプIC
入力換算雑音電圧が2.9nV/√Hzと小さいオペアンプICなどを製品化している。競合他社品に比べて、入力換算雑音電圧は低く、業界最小クラスの低ノイズ特性を実現した。(出典:ローム)

―――低ノイズ・オペアンプICは、どのような技術で実現したのか?

吉井 

当社は、設計から製造までのすべてを手がける垂直統合型の半導体メーカーです。低ノイズ化には、垂直統合の強みを生かしました。

オペアンプICのノイズには2つの要因があります(図4)。1つは製造プロセスに起因するノイズ。もう1つは回路設計に起因するノイズです。前者はフリッカ・ノイズと呼ばれるもので、製造プロセスの「きれいさ」に依存します。原子配列がきれいだったら、フリッカ・ノイズは発生しません。しかし、結晶欠陥が存在すると、電子の流れが乱されて、それがノイズになる。したがって、結晶欠陥の原因となる不純物が入らないように製造プロセスを改善する必要があります。

図4 製造プロセスと回路設計の改善で低ノイズ化

図4 製造プロセスと回路設計の改善で低ノイズ化
製造プロセスの改善でフリッカ・ノイズを低減し、回路設計の改善でサーマル・ノイズを低減した。(出典:ローム)

後者はサーマル・ノイズと呼ばれるもの。これは、回路設計の工夫で対策を打てます。具体的には、トランジスタのサイズを調整したり、抵抗値を下げたりしたりすることでノイズを減らせます。

しかし、これらを改善することは簡単ではありません。当社は前述のとおり、垂直統合型の半導体メーカーなので、開発部と設計部の距離が比較的近く、融通が利きやすい。また、この距離をさらに縮めるために技術開発部門を数年前に立ち上げました。これは同じ指揮系統の中でデバイス開発と回路開発の両方に取り組む部門です。両者が協力してスムーズに動くことが可能となり製品開発を加速しています。

―――低ノイズ・オペアンプICの最新製品を教えてほしい。

吉井 

今回、業界最小クラスの低ノイズ・オペアンプICを開発できたものの、その特長だけで品ぞろえを拡充するのでは訴求力が弱いと考えています。業界最小クラスの低ノイズ特性にもう1つ特長を重ねたい。そこで開発したのが、業界最小クラスのオペアンプICです(図5)。WLCSP(Wafer Level Chip Size Package)技術を使うことで0.88mm✕0.58mmと小さい実装面積を実現しつつ、ノイズは12nV/√Hz(@1kHz)に抑えました。

図5 業界最小クラスの低ノイズオペアンプIC

図5 業界最小クラスの低ノイズオペアンプIC
製品型番は「TLR377GYZ」。パッケージの実装面積は0.88mm✕0.58mmと小さく、入力換算雑音電圧は12nV/√Hz(@1kHz)と低い。(出典:ローム)

外来ノイズを与えても出力変動なし

―――それでは次に、業界最強の高EMI耐量オペアンプICについて説明してほしい。

吉井 

高EMI耐量オペアンプICは、EMIに対する鎧を身に着けているような製品ということで「EMARMOUR™」というブランド名を冠しています。

高EMI耐量オペアンプICは当社が業界に先駆けて市場に投入し、今なお卓越した性能を誇っています。当社が新たに切り開いた製品分野と言えるでしょう。最大の特長は、外部からあらゆるノイズを与えても出力電圧が全く変動しないこと(図6)。競合他社も当社の後を追って、高EMI耐量をうたうオペアンプICを製品化していますが、ノイズを印加すると出力がかなり動いてしまいます。

図6 高EMI耐量オペアンプICの効能

図6 高EMI耐量オペアンプICの効能
オペアンプICのEMI耐量が高いと、外来ノイズが飛び込んでも、出力が変動しない。この結果、シャント抵抗を用いた電流検出回路の異常動作を防止できる。(出典:ローム)

―――具体的に、どのような電子機器が市場でこうしたトラブルを起きているのか?

吉井 

市場ではトラブルは起きていません。実際には電子機器メーカーの試験環境で頻発しています。

一般に電子機器の開発現場では、その最終段階でノイズ試験を実施します。その際に、上記のようなトラブルに遭遇すると、再びノイズ対策をせざるを得なくなります。つまり、設計作業の手戻りが発生するわけです。その結果、設計/開発時間とコストを浪費してしまいます。

さらに、部品点数と部品コストの増大も招きます。ノイズ対策の手法として、MLCC(積層セラミック・コンデンサ)と抵抗器を組み合わせたCRフィルタを挿入する方法が多く採用されるからです。

加えて、もう1つ問題があります。それはノイズ試験を実施できる場所が限られていることです。現在、ノイズ関連の規格がますます厳しくなっており、実施しなければならないテスト項目が増えています。ノイズ試験は1発でクリアしたいところです。

こうした問題は、微小信号を増幅する箇所で発生しやすいですが、当社の高EMI耐量オペアンプICを採用すれば、外部ノイズの影響を受けないため、問題が発生しません。つまり、設計/開発に費やす時間とコストの削減や、部品点数の削減、ノイズ試験に関する負担の軽減を達成できるわけです。

複数のEMI試験で効果を確認

―――競合他社のEMI耐量を高めたオペアンプICとEMARMOUR™とはどのような違いがあるのかを具体的に教えてほしい。

吉井 

最大の違いは、EMI耐量が高いことをうたう根拠にあります。競合他社品は、ICの端子にノイズを直接印加するDPI(Direct Power Injection)試験だけで、ノイズに対して強いか弱いかを判断しています。しかしDPI試験に対するEMI耐量は、CRフィルタを挿入すれば簡単に高められる。つまりDPI試験だけの評価では不十分なのです。

当社は、DPI試験のほかに、電波放射試験やバルク電流注入(BCI:Bulk Current Injection)試験、近接イミュニティ試験を実施し、それらのすべてで出力が変動しないことを確認しています(図7)。競合他社品は、こうした試験を実施すると、出力が大きく動いてしまいます。しかもDPI試験についても、競合他社品は400MHzや900MHzといった高い周波数帯域のノイズに対しては比較的高い耐量を実現できていますが、低周波領域のノイズに対しては耐量が低いという問題を抱えています(図8)。

図7 各種ノイズ試験でEMI耐量を確認

図7 各種ノイズ試験でEMI耐量を確認
当社は、競合他社も実施しているDPI試験に加えて、電波放射試験、BCI試験、近接イミュニティ試験でEMI耐量を確認している。(出典:ローム)

図8 DPI試験の結果

図8 DPI試験の結果
当社の高EMI耐量オペアンプICは、印加するノイズの周波数にかかわらず極めて高いEMI耐量を実現した。一方で、競合他社の高EMI耐量品の中には、印加するノイズの周波数が900MHzと高ければ十分なEMI耐量が得られるものもあったが、周波数が低いと十分なEMI耐量は得られなかった。(出典:ローム)

―――EMI耐量はどのようにして高めたのか。実現技術を教えてほしい。

吉井 

回路、レイアウト、プロセス・素子の3つを見直すことで実現しました(図9)。

回路については、高周波インピーダンス調整(RF-IA:Radio Frequency Impedance Adjuster)回路をオペアンプ回路の複数箇所に組み込むことでEMI耐量を高めました。これは、単にコンデンサ(C)と抵抗(R)の素子を入れて構成したものではなく、寄生成分を利用して実現した回路です。

図9 回路、レイアウト、プロセス・素子見直しでEMI耐量を改善(出典:ローム)

図9 回路、レイアウト、プロセス・素子見直しでEMI耐量を改善

レイアウトに関しては、ノイズが載ってしまう危険性が高い信号ラインに対してシールドを徹底的に張り巡らしました。こうしてノイズが周辺の信号ラインに伝搬しないように工夫したわけです。

プロセス・素子は、競合他社はなかなかまねしづらい実現技術だと思います。トランジスタは寄生容量が大きい方がノイズを吸収しやすい。つまりトランジスタのサイズを大きく、接合部を深くするとノイズをたくさん吸収できるわけです。ところが競合他社は、マイコンなどの大規模LSIに最適化されたプロセスでオペアンプICを製造しています。コスト重視で微細化するとどうしても寄生容量は小さくなりノイズに弱くなる傾向があります。

低ノイズと高EMI耐量を同時に実現

―――今回、低ノイズ・オペアンプICと高EMI耐量オペアンプICについて解説してもらったが、この2つの技術を組み合わせることは可能なのか?

吉井 

はい、可能です。既に低ノイズ技術と高EMI耐量技術を組み合わせたノイズを出さない、ノイズを受けないオペアンプIC「BD5294EYFV-C」を製品化しています。

ノイズを出さないという点については、1kHzにおいて20nV/√Hz、10Hzにおいて50nV/√Hzの入力換算雑音電圧を実現しました。

そして、ノイズを受けないという点については、ずば抜けたノイズ耐性だと思っています。

「EMARMOUR™」はローム株式会社の商標または登録商標です。