技術記事ELEKTRONIK PRAXIS 掲載
2024年9月2日
SiCパワーデバイスがEVビジネスを成功に導く電力効率を高めて性能向上と電気代削減を実現へ
※ 内容は取材当時のものです(2024年9⽉)
電気自動車(EV)の技術進化が急だ。最近では、バッテリー電圧を高めたり、容量を増やしたりすることで、航続距離を伸ばしつつ、充電時間の短縮が可能になった。今後さらに、EV内部の電源システムの変換効率を高められれば、持続可能性の点でも大きなメリットが得られるようになる。
電気自動車と一口に言っても、複数のタイプが存在する。代表的なものとしては、バッテリーをエネルギー源とする電気自動車(BEV)や、ハイブリッド車(HEV)、プラグイン・ハイブリッド車(PHEV)、シリーズ方式のハイブリッド車などが挙げられるだろう。これらの電気自動車には、車両を駆動する電源システムが搭載されている。その構成要素は、オンボード充電器(OBC)やバッテリー、インバータ(DC-ACコンバータ)、DC-DCコンバータ、モータなどである。
ただし電気自動車のタイプによって、各構成要素の機能や回路構成が異なる。例えば、BEVは双方向の急速充電を実現しなければならないため、オンボード充電器(OBC)は、V2G(Vehicle To Grid)に対応することが求められる。従って、回路トポロジーとしては双方向のトーテムポール型力率改善(PFC:Power Factor correction)回路と双方向のCLLC共振型DC-DCコンバータの組み合わせが一般的である。このオンボード充電器(OBC)の出力を利用して、補機用絶縁型DC-DCコンバータやバッテリー、インバータ用昇圧型DC-DCコンバータ、主機用トラクション・インバータに電力を供給する。
SiCパワーデバイスで電力損失を大幅削減
電気自動車のビジネスで成功を収めるには、それに搭載する電源回路(電力変換回路)の変換効率を高める必要がある。なぜならば、変換効率は航続距離などの走行性能や充電料金(電気代)に大きな影響を与えるからだ。変換効率を高められれば、航続距離は伸び、充電料金を削減できる。それだけ魅力的な電気自動車になるわけだ。
それでは、どうすれば変換効率を高められるのか。その鍵は、電源回路を構成する半導体スイッチが握っている。高いスイッチング周波数で動作し、高い電力処理能力を備える高性能な半導体スイッチを採用すれば、変換効率を高められる。そこで最近では、SiCパワーデバイス(SiC MOSFET)が注目を集めている。SiC MOSFETは、IGBTなどの既存のSiパワーデバイスと比べると、高いスイッチング周波数で動作し、耐圧が高く、変換効率を高められるからだ。
最新のSiC MOSFETを使えば、電気自動車に搭載する電源システムの効率を高められる。半導体メーカーのロームは、第4世代SiC MOSFETのアプリケーション・ノートにおいて電気自動車の高効率化について具体的に解説している。この第4世代品は、前世代品で確立したトレンチ・ゲート構造をさらに発展させたものだ。前世代品に比べて、短絡耐量を損なうことなく、オン抵抗を約40%も低減することに成功した。この効果は非常に大きい。電源回路の電力変換段で発生する損失を大幅に低減できるからだ。例えば、5kW出力のインバータ回路に適用したところ、一般的なIGBTを使った場合と比べて、回路全体の電力損失を約36%削減することに成功したという。
トラクション・インバータへの適用効果も大きい
電気自動車において電力変換を担う電源システムは、オンボード充電器(OBC)、補機用絶縁型DC-DCコンバータ、昇圧型DC-DCコンバータ、トラクション・インバータで構成されている。ここでは、電気自動車に欠かせない存在であるトラクション・インバータに注目しよう。トラクション・インバータの役割は、バッテリーに蓄えられた直流の電力を交流の電力に変換してモータを駆動することにある。
ロームは、乗用車の燃費試験方法である「WTLC(Worldwide-harmonized Light vehicles Test Cycle)モード法」を用いて、電気自動車用トラクション・インバータの消費電力をシミュレーションで算出した。図上は、Cセグメントの電気自動車のインバータに、第4世代SiC MOSFETを適用した際の消費電力と、一般的なIGBTを適用したときの消費電力を比較した結果である。一般的なIGBTを第4世代SiC MOSFETに置き換えると、市街地モード(Urban mode)において電気代を10%削減、市街地モードと郊外モード(Suburbs mode)、高速道路モード(Highway mode)を合計した全走行モードにおいて6%削減できることが明らかになった。
SiC MOSFETでOBCの効率を改善
オンボード充電器(OBC)は、トラクション・インバータとともに、電気自動車(EV)の電源システムを構成する要素の1つである。オンボード充電器は、電力会社の電力網から供給される交流電力を使ってバッテリーを充電する電源回路だ。双方向のトーテムポール型PFC(力率改善)回路を採用することで、それを含めたAC-DCコンバータ全体として高い変換効率を得られる。例えば、ロームの第4世代SiC MOSFETを用いた実験では、出力電力が1.5kWの半負荷時に約98%、3kWの全負荷時に約97.6%の変換効率が得られることを確認済みである。
このようにSiC MOSFETを利用すれば、電気自動車に不可欠なトラクション・インバータやオンボード充電器(OBC)の変換効率を大きく高めることができる。このため多くの電気自動車に関連する企業がSiC MOSFETに注目している。
その1社がVitesco Technologies(ヴィテスコ・テクノロジーズ)である。同社は先進的なパワートレイン技術の開発/製造に取り組む世界的なリーディング企業である。その同社は、電力効率を高められるSiCパワーデバイスの供給を戦略的に確保するべく、ロームとの間で長期的なパートナーシップ契約を締結している。
さらにパワーエレクトロニクス分野の世界的なテクノロジー・リーダー企業であるSemikron Danfoss(セミクロン ダンフォス)もSiCパワーデバイスに注目する企業の1社だ。同社は、SiCパワーデバイスを採用した電源モジュールを開発するため、ロームと10年以上にわたって協業関係を結んでいる。最近Semikron Danfossは、ロームが新たに製品化した1200V耐圧のIGBT「RGAシリーズ」を採用した低電力用途向け電源モジュールの品ぞろえを強化した。この動きは、世界のモータ・ドライブ・メーカーのニーズに応えるという両社の継続的なコミットメントを表すものだ。
これらのパートナーシップは、今後SiCパワーデバイスの採用をさらに加速させていくことになるだろう。ロームは、SiCパワー・デバイスが電気自動車だけでなく、世界中の多くアプリケーションにおいて変換効率を向上させることを期待している。