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NoMaDbot™

12/26/2023

NoMaDbot™

※写真は、開発中の「NoMaDbot™」を搭載した試作ロボットです。

目次


製造業や物流業で活躍の幅を広げているAGV(自動搬送ロボット)やAMR(自律走行搬送ロボット)。労働力不足が懸念される中、工場や倉庫で人と協働できるAGVやAMRは産業界全体の貴重な戦力になりつつあります。
しかし、AGVは床に磁気テープや二次元マーカーなどの誘導体(ガイド)を貼ってルートを設定する必要があります。また、AMRも購入してすぐに稼働できるようになるわけではありません。実際に運用できるようになるまでには、走行計画や地図作成が必要で、システム導入に膨大な時間やコストがかかり、非常にハイリスクです。さらにトラブル発生時の緊急対応やメンテナンスのことまで考えると、導入のハードルがまだまだ高いのも事実です。これらのことから、AGVやAMRに任せたい作業内容によっては導入コストに見合わないとお考えの方も多いのではないでしょうか。

そこでロームでは、AGVやAMRに任せるほどじゃないけれど……という場面で活用できる、ローコストですぐに稼働できる新しい搬送ロボット走行技術を密かに開発中です。未来の社会をもっと便利にしてくれる、全く新しいコンセプトのロボット・ソリューション。今回はほんの少しだけ、そんな新しい走行技術「NoMaDbot™(No Map Driving robot:ノマドボット)」のヒミツをお教えしましょう。

※NoMaDbot™は、ローム株式会社の商標または登録商標です。
※※記載の情報は2023年12月現在のものです。

1. AGV・AMR普及の陰で聞こえてくる現場の課題

スマート化が進む産業設備や工場、物流などの現場で、AGVやAMRなどの運搬ロボットの導入が進み、活躍の場を広げています。しかし、普及とともに様々な課題も浮き彫りになってきました。

特にAMRは高機能なため、労働環境の改善にも大きく貢献するもので昨今注目を集めています。ただその一方で、「導入コストが高い」「専門のSIer(システムインテグレータ:システムを構築するエンジニア)が必要」「稼働させるまでに時間がかかる」「頻繁にフリーズする」などの理由から、導入をためらう方も多いようです。

自動運転型の運搬ロボットの課題

事実、現場ではシンプルな作業も多く、高性能なロボットを必要としない場面も多々あります。

例えば、「AからBまで物を運ぶ」場合、従来のAGVだと磁気テープなどでガイドを設置する必要があります。AMRの場合はさらに複雑です。AMRには自己位置測定と同時に地図作成を行うSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)という技術が使われていますが、SLAM導入にはSIerと呼ばれる専門のエンジニアによって設備に合わせた仕様設計や走行計画が立てられ、地図が作成されてはじめてシステムとして運用できるようになります。そのため、実際に稼働できるようになるまでには購入から数か月もかかることがあります。また、設備のレイアウトが変更された際には、それらの工程をもう一度、やり直さなくてはならない可能性もでてきます。

AGV/AMR

複雑な経路や、精密さやスピードが求められるような設備、レイアウトが長期にわたって変更されない環境では、AMRのような高性能な運搬ロボットは大いに力を発揮しますが、「不用品や不良品を廃棄場まで運びたい」とか「AさんからBさんに物を届けたい」といった単純な作業には高度な性能や連携機能などは必要ありません。むしろ、物流倉庫やスーパーの店内、催事会場のような「レイアウトが頻繁に変わる」環境では、時間がかかる地図ベースのシステム構築は運搬ロボットの採用を躊躇する原因にもなりかねません。

「運ぶだけ」でいいから、もっとシンプルでコストパフォーマンスに優れた運搬ロボットはできないの? そんなお客さまの声をきっかけに、新しいロボット走行技術「NoMaDbot™」の開発はスタートしました。


2. 生き物は、地図を持たなくても目的地にたどり着ける!

「NoMaDbot™」開発のはじまりは「生き物は、地図を持たなくても目的地にたどり着く」という、逆転の発想でした。

例えば、昆虫や動物は、ざっくりとした方向と大まかな距離、その時々の状況判断で目的地を目指します。
人間も同じです。遠方に出かけたりするときには地図やナビゲーションを頼りにすることもありますが、近所のスーパーへの買い物にまで地図やナビを持って行く人はいないでしょう。たとえ初めて行くスーパーだったとしても、大体の方向と距離さえわかれば、何とかたどり着けるはずです。また、その道が工事で通行止めになっていたり、駐車車両などの障害物があったりしても、避けたり、迂回したり、その状況に応じて臨機応変に対応し、立ち往生してしまうようなこともないはずです。

運搬ロボットにもそんな生き物のような、フレキシブルな自律走行技術を搭載できないか。
そこで、「NoMaDbot™」の開発チームが考えたのは、目的地までのざっくりとした方向をどのように推定させるか、そして、そこへたどり着くまでの障害物をどのように検知して回避させるのかということでした。

ざっくりとした方向で目的地を目指せる走行技術

3. NoMaDbot™ のコア技術① 「方位推定」

NoMaDbot™の名称の由来は、No Map Driving robot。「地図を使わない自律走行技術」。
それを実現するコア技術の1つめが目的地の方向を知るための「方位推定」です。

NoMaDbot™では送信機となるスマートタグ(将来的にはスマートフォンなども)が目的地となります。送信機から発せられる電波を、NoMaDbot™が検知し、その方位を推定します。

目的地となるスマートタグに向かって進むことしかできませんが、単純な運搬用途にはそれで充分です。
また、AMRのように複雑な経路をプログラムすることはできませんが、スマートタグを複数組み合わせて順次切り替えることで、「AからBに荷物を届けた後、Cに向かわせる」といった動作も可能です。

目的地の方位推定

4. NoMaDbot™のコア技術② 「エコロケーション(反響定位)」

もう一つのコア技術が途中の障害物を回避するための「エコロケーション(反響定位)」です。
エコロケーションとは、発信した超音波や音の反響によって、物体の距離・方向・大きさなどを検出し、把握することです。イルカやクジラ、コウモリなどが空間把握に用いる能力をヒントに開発しました。
このエコロケーションを走行アルゴリズムに用いることで、NoMaDbot™は障害物などを検知し、回避します。

エコロケーション(反響定位)


5. 「方位推定」+「エコロケーション」=「地図が不要」

これら2つのコア技術、「方位推定」と「エコロケーション」をすり合わせることで、「地図を使わない自律走行技術」を実現したのが、世界初*、日本発の全く新しいロボット自律走行技術「NoMaDbot™」なのです。
従来技術SLAMを用いたAMRのように、高度な連携や制御はできませんが、「物を運ぶ」という作業だけなら充分、役に立つ場面は多いはず。何よりも、この新しい走行技術を採用することでSIerによる地図ベースのシステム構築が必要なくなりますので、購入した日からすぐに稼働させることも可能です。当然、設備のレイアウト変更や運用場所の変更にも影響を受けません。
*2023年12月 ローム調べ

地図を使わないといいことあるの?


6. 「地図を持たない」ロボット走行技術のさらなるメリット

地図を必要としないことで得られるメリットは、コストダウンや導入スピードだけではありません。
そもそも地図を使わないので、地図上での自身の位置を見失ってフリーズすることがありません。つまり、想定外の事態に強い堅牢な自律走行システムといえます。

また、NoMaDbot™の走行アルゴリズムは、地図上の決まった地点を目指すのではなく、スマートタグなどの発信機を目指すものなので、目的地が途中で移動したとしても、電波の届く範囲内であれば問題なくたどり着くことができます。

「リアルタイムで居場所を変えるAさんを追尾して荷物を届ける」、「Aさんに追従して物を運ぶ」といった、これまでの従来技術SLAMを用いた走行技術だけでは難しかったような作業もできるようになります。


7. ロームが自律走行技術の開発を始めた理由

ところで、半導体メーカーのロームがなぜ、自律走行技術の開発を始めたのでしょうか。
それは、ロームが「自律走行ロボットを誰もが使える社会の実現」を目指しているからです。
そして何よりも、ロームはこの世界初の走行技術「NoMaDbot™」のコア技術の中核となるMEMSやAFE、小型MCUなどの要素技術を数多く保有しており、これらをすり合わせて新しいソリューションを生み出すことはロームの得意領域だったからです。

なぜ、ロームが開発を?

8. NoMaDbot™の活躍領域

NoMaDbot™は決して、AGVやAMRを否定したり、競合するものではありません。
走行経路を確定させたいケースはAGV、フルオートメーション化させたいケースはAMR、そして安く簡単に自動化したいケースはNoMaDbot™、のような棲み分けが考えられます。

例えば、中継倉庫など時間や季節などによってレイアウトが頻繁に変わるところや、スーパーマーケットや催事会場、工事現場など、人から人へものを受け渡す必要のある場所。工場などで商品以外の不良品やごみなどを運ぶ作業での活用を想定しています。物を運ぶだけなら、AGVやAMRよりも簡単に使えて、圧倒的に便利。それがNoMaDbot™なのです。

NoMaDbot™は、こんな場所で大活躍

また、今後開発が進めば、スマートタグを持った人の後を追尾するカルガモ走行や、スマートフォンをアプリで連携させるなど、さらに便利に、広い用途や環境での活用が進むことが期待できます。

NoMaDbot™が夢見る未来の社会


9. NoMaDbot™が目指す未来の産業社会

NoMaDbot™が目指しているのは、「自律走行ロボットを誰もが使える社会」です。
高性能なロボットが必要ない場面では、より簡単に低コストで扱える運搬ロボットを活用することで、生産性も向上し、製造や物流のオートメーション化推進にも貢献します。

また、センサーフュージョンの考え方を取り入れることで、NoMaDbot™はさらなる進化の可能性を秘めています。今はまだ地上だけですが、将来的には空や海など特殊な環境下での運用も視野に入れて開発を進めておりますので、どうぞご期待ください。

自律走行ロボットを誰もが使える社会へ

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