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産業用インバーターの電力変換効率を高めて省エネ化を実現する半導体

11/10/2023

脱炭素社会へのシフトや、エネルギー不足による再生可能エネルギーへの期待が高まる中、エネルギー効率を向上し、省エネ化の鍵となるインバーター技術の向上が求められています。そして、そのインバーターの省エネ性能と効率を大きく左右するのが、パワーデバイスとアナログICです。最先端のパワーデバイスアナログICを最適な用途で用いることで、インバーターの電力変換効率がさらに高まり、産業機器の消費電力を削減し、省エネ化が実現します。そこで今回は、最新のインバーターに採用が進んでいる最先端のパワーデバイスとアナログICについて、その特性や特長を解説します。

目次


省エネ化を実現するインバーターとは

インバーターは、直流電力(DC)を交流電力(AC)に変換し、必要な電力を効率よく供給するためのする装置です。効率の良いインバーターを用いることで、設備や機器の性能を最大限に引き出し、エネルギー消費を抑えることが可能となります。

インバーターといえば、一般的にはFA用途におけるモーター制御や、ポンプ、ダンパ、ファン、送風機、エアコンなどの運転をスムーズに制御するための技術というイメージが強いかもしれませんが、電気エネルギーを効率良く変換するのも、インバーターのもう1つの主な用途であり、産業機器の省エネ化を実現するキーテクノロジーです。特に、脱炭素社会やカーボンニュートラルへのシフトが世界的に進む中、太陽光発電設備に用いられるPVインバーターや充電ステーションなどの成長市場で、エネルギー変換効率に優れたインバーターの需要が高まっています。ではここから、インバーターの電力変換に焦点を当ててご説明していきます。

インバーターの主な用途

インバーターと、それに伴うパワーデバイス・ソリューションは、太陽光発電システムをはじめ、様々な産業設備や機器において、省エネ化、高効率化を実現するための中心的な役割を果たしています。
また、インバーターの効果的な運用は、半導体技術の進歩に強く依存しています。高度な半導体を活用することで、インバーターはより高効率かつ安定した運転を実現することができるのです。さらに、機器の寿命の延長などのメリットも期待できます。

高効率なインバーターが求められる産業用エネルギー機器の例

なぜ、今のインバーターをもっと省エネ化しないといけないの?

インバーターが世界で初めて開発されたのは1958年のこと。日本でも、1966年にインバーター製品が登場しています。
インバーター自体は決して新しい技術ではありませんし、皆さまの設備や電気機器にもすでにインバーターが搭載されていることでしょう。
ところが今、稼働中の設備や機器のインバーターを見直される方が増えています。

その大きな理由の一つは、製造現場での電気使用量、電力量が増大していることです。
現在、多くの生産設備で自動化やスマート化が加速しています。機器の一つ一つは省エネ化が進んでいますが、設備全体でみると電力量が増えているケースが多く見受けられるのです。
設備の省エネ性能を最大限に発揮するためには、インバーターもそれに見合った性能が必要となります。

また、高電圧化や小型・軽量化も大きな理由の一つです。例えば、太陽光発電設備では高電圧化やパワーコンディショナーの小型・軽量化が進んでおり、電力変換装置であるインバーターも、それらに対応したものが求められているのです。

インバーターの省エネ効果を高めるカギはパワーデバイス

インバーターで電力変換が行われる際に損失してしまう電力の約90%がパワーデバイスによるものです。
そのため、インバーターの性能を左右するのは、パワーデバイスの性能だといっても過言ではないでしょう。

産業機器の分野では現在、これまで主流として用いられてきたSiパワーデバイスから、SiCパワーデバイスGaNパワーデバイスへの置き換えが加速しています。インバーターも同様です。

では、インバーターに最適なパワーデバイスは何を選択すれば良いのでしょうか。
実は、単純に最新のSiCデバイスやGaNデバイスに置き換えれば良いというわけではありません。設備の規模や求められる要望によって、最適なソリューションが異なるからです。設備や用途に合わせて、最適なパワーデバイス・ソリューションを選択することで、よりコストパフォーマンスが高く、エネルギー変換効率に優れたインバーターの運用、インバーターによる省エネが実現します。

例えば、ロームのパワーデバイスのラインアップでは、それぞれ次のような特長があります。

パワーデバイスのラインアップとそれぞれの特長

課題・悩みの事例パターンに応じた最適な半導体製品の特長とメリット

インバーターの用途や困りごとの内容によって、最適なパワーデバイス・ソリューションは異なります。
では、具体的にどのようなご要望が多いのでしょうか。
細分化すると非常に多岐に渡るため、ここでは代表的なご要望と、それに対応する最適なパワーデバイス・ソリューションをご紹介します。

インバーターへの期待に応える最適なパワーデバイス・ソリューションとは?

1. とにかく変換効率を高めたい

とにかく変換効率を高めて、発電力を向上させたい場合はSiC MOSFETSiC SBDなどのSiCデバイスをご提案します。
SiCデバイスは、高耐圧でありながら低オン抵抗、かつ高速スイッチング特性に優れていますので、SiデバイスからSiCデバイスに置き換えることで、変換効率を上げ、発電力の向上に貢献します。

例えば、家庭用PVインバーターで平均照度での発電量を向上したい場合、SiデバイスからSiCデバイスに置き換えることで、およそ3.4%、1kW~2kW時で約45W(年間210kWh)*もの発電能力の改善が見込めます。また、高電圧・大電流対応インバーターの需要も高まっています。
*5kW発電時では約130W(年間570kWh)。

損失Down!変換効率UP!

2. 変換効率と同時にコストも追求したい

変換効率を高めたいけれど、コストも抑えたい。そんなご要望にお応えできるのが、Hybrid-IGBTです。
Hybrid-IGBTとは、従来のIGBTの帰還部(還流ダイオード)に、ロームの低損失SiC SBDを採用したHybrid型のIGBTで、従来のIGBTと比べてON時のスイッチング損失を大きく削減できます。

電動化車両(xEV)に搭載される車載充電器(オンボードチャージャー)やDC/DCコンバータのほか、太陽光発電のPVインバーターなど、大電力を扱う産業機器・車載電装機器に向けて開発されたもので、Siデバイスよりも電力損失が低く、SiCデバイスよりもコストパフォーマンスに優れています。

また、太陽光発電等に用いられるインバーター回路やトーテムポール型PFC回路やLLC回路には、スーパージャンクション技術を採用したPrestoMOS™をご提案します。PrestoMOS™はロームの特許技術により実現した業界最速クラスの逆回復時間と、それと両立が難しい低オン抵抗を同時に実現した製品で、同等の一般品よりもインバーターの省エネ化に貢献します。

コストをおさえつつ、効率改善!

ロームの特許技術でSJ MOSは、さらに高速・高効率に

3. 装置の小型化・軽量化に対応したい

省エネ性能と並行して、装置の小型化も求められています。
特に太陽光発電設備では、分散型システムの普及によって装置の設置コスト削減のための重量削減が求められており、小型化が進んでいます。そんな中、既存の集中型PVインバーターに代わるものとして普及し始めているマイクロインバーターに最適なデバイスとして提案しているのが、GaNデバイスです。

GaNデバイスは優れたスイッチング特性および高周波特性により、市場での採用が進んでいます。
それに加えてオン抵抗もSiデバイスより低く、多くのアプリケーションでの低消費電力化、小型化が大いに期待されています。

太陽光発電設備に採用されるPVインバーターにおいては、MPPT(Maximum Power Point Tracking)や蓄電部分に採用することで、SiCデバイスよりも回路を構成するコイル部品のインダクタンスL値をさらに下げることができます。これにより、巻き線の削減や、コア材の小型化が図れるため、大幅なコイルの小型化が可能となります。また、電解コンデンサの削減も可能なため、Siデバイス(IGBT)と比較して実装面積を削減できます。

ロームでは、アプリケーションの省エネ・小型化に寄与するGaNデバイスを「EcoGaN™シリーズ」としてラインアップし、デバイス性能のさらなる向上に取り組んでいます。

※EcoGaN™は、ローム株式会社の商標または登録商標です。

高周波化で商品小型化・実装面積削減 マイクロインバーターにも最低

また、上記1でご紹介したSiC MOSFETの高温環境下での優れた動作特性を活かすのも1つの方法です。低い許容損失によって発熱が低減されるため、最適な周辺デバイスとの組み合わせによって放熱部品を削減・小型化することで、インバーターの軽量化が可能です。

アナログIC

パワーデバイスと同様、インバーターの性能に大きく関わるのが、電源ICゲートドライバなどのアナログICです。
機器の動作に必要な電圧を制御する電源ICは、電気機器の心臓部に相当する大切なデバイスです。
最適な電圧に変換し、安定供給する役割を担っています。
MOSFETやIGBTの駆動制御を担うゲートドライバは、ゲート電圧を制御することで、オン・オフのスイッチングを行います。
電力損失の多くはスイッチング時に起こるため、省エネ性能を高めるためには非常に重要なデバイスになります。
また、大電流を用いる産業機器ではとくに、高耐圧であることも求められます。

電源IC

インバーターに採用する電源ICとしては、SiC MOSFET内蔵電源ICをご提案しています。
SiC MOSFETを電源ICに内蔵することで、SiC MOSFET駆動回路の設計が不要となる上、部品点数も大幅削減でき、保護回路で安全なゲート駆動も実現します。

電源IC

ゲートドライバIC

SiC MOSFETやGaNデバイスは高性能である反面、スイッチング制御が難しいため、高性能なゲートドライバICが必須です。
ロームでは、これまでご紹介した各種パワーデバイスに対して、それぞれ最適に駆動できる、ゲートドライバICを豊富にラインアップ。例えば、GaNの高速スイッチング性能を最大限に活かしてアプリケーションの省エネ・小型化を実現するために、GaN用ゲートドライバICを開発しています。

シャント抵抗器

電流検出用途で用いられるシャント抵抗器も、ハイパワーアプリケーションの小型化に貢献する大切なデバイスです。アプリケーションの高電力化が進む中、シャント抵抗器にも高電力対応で低抵抗な製品が求められています。
シャント抵抗器のポイントとしては、優れた放熱性能、優れた温度特性です。
ロームでは、定格電力4W~10Wクラスの大電力に対応する低抵抗シャント抵抗器GMRシリーズをラインアップし、高電力下での使用においても高精度な電流検知を実現。設備の安全と安心、省エネ・小型化に貢献しています。

まとめ

インバーター技術は、エネルギー消費の効率化という目的で急速に進化し、産業用途を含むさまざまなエネルギー機器に不可欠な存在となっています。この技術により、直流電力を交流電力に変換し、必要に応じて電力供給を最適化することで、エネルギーの無駄を削減し、設備の寿命を延長することが可能となりました。さらに、用途や目的に応じた最適な半導体ソリューションを用いることで、インバーターの電力変換効率をより高めることができます。ロームは、最先端のパワーデバイスやアナログICのインバーターへの採用を通じてあらゆる機器の省エネ化を進めることで、持続可能な社会の実現に貢献します。

商品紹介・詳細情報、その他のリンクなど

パワーデバイス

SiCパワーデバイス

SiC MOSFET

SiC ショットキーバリアダイオード

IGBT

SiCダイオード内蔵IGBT(Hybrid IGBT)「RGWxx65Cシリーズ」を開発

パワートランジスタ

Super Junction MOSFET

GaNパワーデバイス

アナログIC

パワーマネジメント / 電源IC

ゲートドライバ

GaN用ゲートドライバ

サーバー、ACアダプター等の低損失化と小型化に大きく貢献するEcoGaN™パワーステージIC「BM3G0xxMUV-LB」を開発

BD2311NVX-LB

1700V SiC MOS内蔵AC/DCコンバータIC

電流検出用 チップ抵抗器(シャント抵抗器)

高電力 シャント抵抗器 / 低抵抗 金属板(GMRシリーズ)

Powering Industrial Innovations ~半導体が拓く産業機器~
GaNデバイスと駆動ICが拓く産業機器【大山聡氏×ローム 対談動画】