Rohm Newslanding

特集:電源&パワーデバイス技術
窒化ガリウム(GaN)パワーデバイス技術

掲載記事

Contributing Articles

ROHMのパワーデバイス&電源IC技術

1.はじめに

半導体というと微細加工を施した大規模集積回路(LSI)のイメージが一般には持たれていると思われるが、LSIが思い通りの動作をするためには、電力を所望の電圧・電流で供給するための電源が欠かせない。この「電力を所望の形で供給する」という分野でも半導体は重要な役割を担っており、電力(パワー)を扱うという意味合いから、その中心的存在となる半導体部品をパワーデバイス、もしくはパワー半導体という。
パワーデバイスの応用先は、パーソナルコンピューター(PC)及びPC周辺機器向けが30%、デジタル家電向け、車載向けが15%、白モノ家電や産業・通信向けが30%ぐらいに大別される。パワーデバイスの世界では、電源の種類だけパワーデバイスの種類があると言っても過言ではなく、市場のニーズに応じて種々の応用回路や、使いやすいパッケージ、複合品、電流・電圧定格のラインナップの充実など、多岐にわたる技術的な蓄積が必要である。
パワーデバイス分野での主たる半導体材料は、現在においてももちろんSiである。同じくSiが主体のLSIの世界では、基本素子であるトランジスタのサイズを1/kに縮小すると同時に電圧も1/kに縮小し、低電力化する、という指導原理のもと、微細加工技術の進展によってスイッチング速度の高速化、大規模集積化を達成してきた。パワーデバイスにおいても、微細加工技術は数年遅れで取り入れられてきているが、動作電圧の限界(耐圧)の確保やアナログ性能を改善することが必要である。しかし、微細化によって性能を改善できるのは100V以下の低耐圧領域に限られ、それより大きい耐圧が必要な分野では微細加工を取り入れるだけでは性能の改善は見込めない。
そこで構造的な工夫が必要になり、2000年代初頭にはスーパージャンクション(SJ)-MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field-Effect Transistor)が商品化され、MOSFETの性能限界を超える性能改善を果たしてきた。
しかしながら、重要な特性である低ON抵抗とゲート電荷量と耐圧は基本的にトレードオフの関係にある。パワーデバイス中にはユニットとなるトランジスタがあり、そのユニットトランジスタを多数並列接続することで低ON抵抗を得る。しかし、これは同時にトランジスタに寄生するキャパシタンスをも並列接続することになり、ゲート電荷量が上がってしまう。それを避けるために1ユニットを小さくする微細化を行うと、耐圧が下がってしまう。
この問題を解決する手法として、SJ-MOSFETのような構造改善による性能向上とは別に、材料を変更することで性能向上を図ろうとするのが、シリコンカーバイド(SiC)やGaNのようなワイドバンドギャップ(WBG)半導体を使ったパワーデバイスである。WBG材料の最大の特徴は、表1に示すとおり、絶縁破壊電場強度が高いことであり、この性質を使えば、Siと同じデバイス構成にした時に耐圧の向上を図る事ができる。耐圧に余裕がある構造ができるのであれば、その分1ユニットを小さくして集積度を上げ、ON抵抗を下げるといったことが可能になる。
本稿では主にGaNのパワーデバイスについて解説を行う。

各種パワーデバイス材料の物性値比較
表1:各種パワーデバイス材料の物性値比較

2.GaNパワーデバイスの一般的特徴

GaNパワーデバイスとは、電流を流れる経路がGaNになっているデバイスのことをいう。GaNはもともと発光材料として研究されており、いまや一般的になった発光ダイオード(LED)照明の中心部品である青色LED用材料として産業化されている。同時に、WBG材料ということもあって、発光素子実現とほぼ同時期からパワーデバイス応用が研究され始めており、高周波パワーアンプとしては既に実用化されている。
GaNがSiやSiCのデバイスと違うのは、そのデバイスの基本的な「形」である。図1にGaNを使った電子デバイスの一般的な構造を示す。トランジスタはソース、ゲート、ドレインの3つの電極があるが、SiやSiCパワーデバイスでは「縦型」と呼ばれ、ソースとゲートが同一面にあり、ドレイン電極は基板側にある構造をとるのが普通である。GaNはソース、ゲート、ドレイン全ての電極が同一面にある「横型」の構造を取っている。産業化を目指すような研究では、ほぼこの横型構造がとられている。
横型を採用するのは、AlGaN/GaN界面に存在する2次元電子ガス(2DEG)を電流の経路として使いたいからである。GaNは自然に電気分極(自然分極)を持った結晶である上、結晶に圧力を印加すると電気分極が新たに発生する(歪分極)圧電材料でもある。
AlGaNとGaNは自然分極にも差があるが、格子定数が違うため、図1のようなAlGaN/GaNヘテロ構造を形成すると、格子定数を合わせようとして結晶が歪み、歪分極も発生する。この意図せず発生する電気分極の差により、図2に示すようにGaNのバンドがAlGaNに向かって下方向に自然に曲がる。
このため、その曲がった部分に2DEGが発生する。この2DEGが高い電子移動度(1500cm2/Vs近傍)を持つため、非常に早いスイッチング動作が可能になる。ただし、背反として、電子が流れる経路が常に存在するため、ゲート電圧が0ボルトでも電流が流れる、ノーマリーオンと呼ばれるデバイスになる。

GaNトランジスタのユニットトラジスタ本構造 GaNトランジスタのユニットトラジスタ本構造
図1:GaNトランジスタのユニットトラジスタ本構造 図2:AlGaN/GaNへテロ接合のバンドアライメント

最初の方で述べたように、WBG材料への基本的な期待は、耐圧の向上である。SiCはSiと基本的に同じ縦型構造を作ることができるため、材料の特性通りに耐圧が向上する。しかしながら、GaNでは事情が異なる。図1のような横型構造は耐圧がとりにくいということは既にSiデバイスでわかっていることであり、GaNも図1の構造をとる限り、物性上は出るはずの耐圧を出すことが難しい。ただし、そもそものWBG材料への期待が耐圧であるため、GaNデバイスの発表は耐圧を上げるというものが多い。しかし、耐圧を取る方法は基本的にはゲート/ドレイン間距離を取るしかなく、チップが大きくなってしまう。チップが大きくなるということはコストが上がることを意味する。
図1の構造を取る限り、GaNパワーデバイスの特徴は耐圧ではなく、2DEG の高速電子移動度を使うことから来る高周波動作性にあろう。よってGaNトランジスタをGaN-HEMT(High Electron Mobility Transistor)と呼ぶことも多い。ここに焦点を当ててアプリケーションを探索するのがGaNパワーデバイスを最も輝かせる方法と考えている。


3.GaNパワーデバイスの特性

弊社で開発しているノーマリーオン型デバイスの特性を表2にまとめる。ゲート幅が9.6cmのデバイスである。HEMTという名前で呼称される一方で、高周波特性を公開している文献は非常に少ない。高周波特性をなるべく保つ事を目標に開発した結果、ロームのノーマリーオンタイプデバイスは動特性が非常に優れたものとなった。表中のtd(on)、tr、td(off)、tfという特性指標は高速性を表している。ノーマリーオンタイプのデバイスなので、ゲートにマイナス電圧が入った時点がデバイスオフであり、0Vの時デバイスオンとなる。ゲート電圧信号がオフされた時(デバイスがオンに移行始める時)をt = 0 として、ソース/ドレイン間電圧Vdsが印加電圧の90%に減るまでの時間をtd(on)、90%から10%まで減少する時間をtr、また、ゲート電圧信号がオンされた時(デバイスがオフに移行開始する時)をt = 0 として、Vdsが印加電圧の10%まで増加するまでの時間をtd(off)、10%から90%まで増加する時間をtfと表記している。
既存のSiパワーデバイスでは、td(on)、tr、td(off)、tfは、数10ns~100ns程度であることが多いが、GaN-HEMTでは、全て数nsの程度となっている。仮に10MHz、duty50%のパルス動作をするならば、オン/オフ時間は50 nsしかなく、立上り立下りに10 ns使っただけでパルスの実質的な幅が30nsになってしまい、波形の矩形性を保つことができない。このデバイスであれば問題なく10MHzでも動作する。

ノーマリーオンデバイスの特性一覧表
表2:ノーマリーオンデバイスの特性一覧表
ノーマリーオンGaNトランジスタのスイッチング周波数特性
図3:ノーマリーオンGaNトランジスタのスイッチング周波数特性

GaN-HEMTには厄介な問題として、電流コラプスというものが知られている。これは、ドレイン電圧の印加状態によってオン抵抗が変動する現象で、スイッチング周波数を変化させた場合にオン抵抗変動となって、Vdsがオン時に0Vになり切らない、オフ時に印加電圧まで戻らない、といった現象として観測することができる。
ロームのノーマリーオンデバイスで、ゲート電圧のスイッチング周波数を変化させた時のVdsの振る舞いを図3に示す。ゲートドライバが最適化されていないので、10MHzでdutyが50%になっていないという問題があるが、この周波数範囲で、電流コラプスを引き起しているような傾向は見られない。よって、ノーマリーオンという点を除けば、GaNの優れた高速動作性が立証できていると考えている。


4.終わりに

最後の課題はノーマリーオフ化である。これはほぼ全てのアプリケーションがノーマリーオフを前提として設計されていることから、ぜひとも達成すべきことである。
ノーマリーオフ化については様々な方式が検討されているが、上記のような高速動作性について言及された発表はあまり見られない。
弊社で開発中のノーマリーオフデバイスは、まだ詳細は公開できないが、デバイスの静特性はノーマリーオンと遜色ない上、高速性の特性指標であるtd(on)、tr、td(off)、tfについても、全ての特性時間で数nsを達成するようなものができてきている。
このような高周波特性に優れたノーマリーオフデバイスの特性改善を進めながらアプリケーション探索することで、GaNが最も輝くアプリケーションやGaNがあるからこそできるアプリケーションを見いだすことができるようになるだろう。


この件についてのお問い合わせ