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Stories of Manufacturing#06

GaNが拓く
カーボンニュートラルへの道次世代パワー半導体GaNデバイス開発

GaNデバイス開発はあらたなステージへ!

2023年12月。東京都内で行われた「"超"モノづくり部品大賞」の贈賞式が行われました。

この賞はモノづくり日本会議と日刊工業新聞社が主催。日本のモノづくりの競争力向上や産業・社会の発展に貢献する部品・部材を対象とし、2023年で20回目の実施となります。
6部門にわたる部品賞のひとつ「電気・電子部品賞」を受賞したのが、ロームの機器の省エネ、小型化に大きく貢献するGaNデバイス「EcoGaN」です。

近年、世界的に注目が高まっているGaNデバイス開発に、早くから取り組んできたローム。その技術力・商品開発戦略が高い評価を得たことは、まだまだ事業としては立ち上がったばかりである<パワーステージ商品開発部>メンバーにとっては嬉しいニュースであったと同時に、長い年月にわたって続けてきた研究開発が、ようやく次のステージに突入したことを告げる号砲でもありました。

左:Eco GaNシリーズ製品 右:「”超”モノづくり部品大賞」表彰式

「"超"モノづくり部品大賞」表彰式会場にて ▲

Eco GaNシリーズ製品

 上:GaN HEMTパワーステージIC 下:GaN用ゲートドライバIC

お客さまの声に動かされて

今回の受賞は、GaNデバイス単体にとどまらず<GaNの性能を最大限に引き出すゲートドライバICなどを含めた製品群全体>が高く評価されたとのこと。
基礎研究の時代から足掛け15年以上にわたってGaN開発に関わってきた大嶽さんによると「これは、次世代半導体デバイスとしてのGaNの立ち位置を物語っている」と言います。

大嶽

「ロームとしては、シリコン・SiCに次ぐ第3の矢としてGaNの研究開発に取り組んでいたのですが、思うように進めず、正直、2010年代の後半には一度断念しかけた時期もありました。
そんな中で、現場のお客さまからの声を集めてみたところ、これまでと少し違う方向が見えてきたんです。」

LSI事業本部 LSI事業部統括 パワーステージ商品開発部 GaNデバイス開発課 課長 大嶽 浩隆
LSI事業本部 LSI事業部統括
パワーステージ商品開発部
GaNデバイス開発課 課長 大嶽 浩隆 大嶽 浩隆

学生時代からGaN発光特性を専攻。ローム入社後はGaNとSiCの両パワーデバイスに従事。デバイス・パッケージ・アプリ研究・開発とかなりの広範囲でつんできた経験が、新規事業の立ち上げに大いに役立っているという。

驚いたことに、GaN採用に踏み切れていないお客さまに耳を傾けると、その多くは制御側のドライブやパッケージタイプを含めた使いやすさ、さらにはドライバICもあわせたモジュール化への期待にありました。

現場のお客さまの声を集計したグラフ

現場のお客さまの声を集計した結果

・駆動の課題/ドライブICを併せたモジュール化への要望が顕著に見て取れる

大嶽

「確かにGaNデバイスは非常に扱いにくいデバイスで、とにかく駆動がやっかい!というのが業界内でも半ば定説化していました。そもそも高周波におけるスイッチング特性がGaNの何よりの優位点なのですが、1MHzを超える領域の電源を安定して制御するには、パワーデバイス単体の特性だけを追求しても限界があるんです。

  

そこで、これまでと少し角度を変えて、ドライブICも含めたワンパッケージにするという新しい方向性が浮上してきました。そうでもしないと、いつまでたってもお客さまが安心して使える商品にならないのではないか?つまりそれは、GaNの市場というものが、いつまでたっても形成されないんじゃないか?と考え始めました。」

ロームならではのアプローチ

大嶽

「その点、ロームには豊富なシーズがあるということが、この開発をリスタートさせる後押しになったことは間違いないですね。」

半世紀以上に渡って、その時代に呼応したアナログICをつくり続けてきたという実績と自負が、エンジニア魂に火を灯したとも言えるのではないでしょうか。特に電源ICはロームが最も得意とする分野であり、これまで培ってきた幅広い開発知見とノウハウ、さらには量産における品質までをしっかり担保できる人材・設備がありました。

一方、GaNデバイスについても大きなアドバンテージが存在していました。それは早くからローム浜松でGaNを用いて量産してきた青色LEDの生産ノウハウです。
GaNの結晶をいかに高品質に・安定して生産(量産)出来るかが鍵となる開発過程において、LED製造ラインのすぐ隣に開発拠点を構えることが出来たことが、何にも代えがたい大きな推進力となったと言います。

ローム浜松 GaN製造ライン

ローム浜松 GaN製造ライン

・GaNウエハの量産を支える製造ライン。シリコン基板上に安定した薄膜結晶を成長させる技術がキーとなる。

パワーデバイスとICの両輪から事業化を目指す新しいプロジェクトを立ち上げ、それぞれの技術とノウハウを持つ技術者が集結。2020年代の節目を跨ぎながら本格的な開発が加速していきました。

大嶽

「最初は社内ベンチャー事業としてスタートしたので、設備も担当するエンジニアの数も小規模で、毎年社内で承認を取りながらという状況だったのですが、(苦笑)積み上げてきたものを実行に移す段階では、やはり総合半導体メーカーならではの強みを推進剤として、開発を加速させています!」

持続可能な社会の実現を目指して

ここであらためて、GaNデバイスへの期待値をその特性ととも整理しておきましょう。
下の図は電力/周波数を軸にアプリケーションをマッピングした分布図になりますが、それぞれのパワーデバイスで優位性を持つ領域が存在することが分かります。ハイパワー領域でのスイッチングで近年ますます期待が高まるSiCパワーデバイスとは異なり、GaNはMHz帯の高周波動作が求められるアプリケーションで強みを発揮します。

Application of power devices

Application of power devices

・GaNはミドルパワー/高周波領域でのアプリケーションへの採用が期待されている

そのひとつはMHzを超えるような高周波領域でのスイッチング効率の向上。もうひとつはセットの小型化に大きく貢献できることが最大の特長です。

現在もっともニーズが見込まれているのは、急速充電器を始めとするコンシューマー向け電源、およびデータセンターなどの通信分野です。その中でも通信分野での電力消費量は現在すでに世界の消費電力の3-5%に相当すると言われており、今後ますます暮らしに浸透していくAI搭載機器を経由したディープラーニング用のサーバーの増加や、本格的な自動運転時代の到来を考えると、その通信量は100倍にも1000倍にも増えると言われています。

大嶽

「ロームのステートメントとして<“Electronics for the Future”エレクトロニクスで社会課題を解決する会社へ>というワードがあります。電力消費量の抑制・カーボンニュートラルへの挑戦という大きな目標を前に、どれだけ自分たちの技術が貢献できるかということは常に考えていますし、やはりそれが日々の原動力になっています。」

社会インフラにおける省電力から各種ACアダプタの小型・軽量化、さらにはドローンの飛行距離伸長まで。敢えてアプリケーションを限定せずに、あらゆる分野のお客さまを対象にGaNの価値を提供していきたいとのこと。そのためには何よりも<お客さまが使いやすいGaN>を突き詰めていくことが非常に重要なキーワードになると言います。

では逆に、GaNにおける<扱いにくさ>とはどういったものなのかを、デバイス開発の観点から担当エンジニアである郡司氏に聞いてみました。

ゲート耐圧の壁に挑む

郡司

「GaNの特徴というのは高周波がキーになるのですが、高周波化しようとすると速い信号が来ます。それを受けるのがGaNのゲート端子になるんですが、その端子が速いスピードになればなるほど暴れやすいんですね!電圧が跳ね上がりやすいので、ちょっとした時に壊れてしまうとうのがGaNの<扱いにくさ>の正体になります。」

LSI事業本部 事業部統括LSI パワーステージ商品開発部 製造技術課 素子製造品質管理 G技術員 郡司 祥和
LSI事業本部 事業部統括LSI
パワーステージ商品開発部
製造技術課 素子製造品質管理 G技術員 郡司 祥和 郡司 祥和

全国の日本百名城巡りが趣味という燻し銀の若手エンジニア。世界のGaN市場を相手に自分の技術を採り入れながらの挑戦できることに、大きなやりがいを感じているという。

その対策として、途中の回路にゲート抵抗を入れてオーバーシュートを回避させるといった事例も見受けられましたが、副作用としてスイッチング速度が鈍ってしまい、シリコンデバイスとの差がなくなってしまうといった試行錯誤が繰り返されていました。

ゲート抵抗(5Ω)採用事例

ゲート抵抗(5Ω)採用事例

・赤グラフ/オーバーシュートが発生

・青グラフ/オーバーシュートを回避するも立ち上がりが緩やかになってしまう

ゲートドライブICを同梱させたモジュールにすることで、オーバーシュートを内部で制御するという手法も選択肢として存在し、ロームでも同時に開発を進めていましたが、その一方でディスクリートデバイスの形での需要にも応えていかなければなりません。

どれだけ強いゲートを作り込めるか・・・!その一点の課題に真っ向から挑み、かつ乗り越えるためには、半導体の構造自体はもとより、製造装置までを大幅に見直す改革が必要でした。

郡司

「開発途中で偶然できた失敗構造の特性から着想を得まして、逆に如何にそれを安定して作るか考えました。やはり性能・品質は言うまでもなく、同時に生産性も両立させなければなりませんので、本当に苦労しました。」

およそ2年間に渡る試行錯誤の末にたどり着いた<強い GaN>の性能を示すのが既存製品と比較した下のグラフになります。
5V駆動の基準では、従来のGaNでは電圧マージンが1V程度しか確保することが出来ず、オーバーシュート時に破損を引き起こす原因となっていました。対してロームが新たに開発したゲート駆動電圧技術では、8Vまでの電圧に耐え得る数値を達成。これまでの3倍の電圧マージンを持たせることで、高い信頼性を実現しています。

従来品(グラフ左)とローム新技術(グラフ右)の比較

従来品(グラフ左)とローム新技術(グラフ右)の比較

・6Vを超えた電圧領域のマージンがGaNデバイスの使いやすさを大きく左右する

GaN専用ゲートドライバ

<お客さまが使いやすいGaN>に向けたデバイス自体の進化の一方で、GaNを駆動させるゲートドライバICでも技術的なブレークスルーを生み出しています。ロームが導き出したアナログIC領域でのあたらしい答えのひとつは<GaN専用のゲートドライバIC>の開発です。

篠崎

「世の中にはGaN専用のゲートドライバは商品としてまだそれほど多くないというのが実状だと思います。我々に与えられたミッションは、オーバーシュートをはじめとするGaN特有のリスクを気にすることなく、GaNの持つ本来のパフォーマンスを最大限に引き出すことにありました。もちろんシリコンに比べて圧倒的に高いポテンシャルを持っている素材なので、エンジニアとしては興味を掻き立てられますよね。」

LSI事業本部 LSI事業部統括 パワーステージ商品開発部 電源商品設計課LV 電源商品設計 Gグループリーダー 篠崎 裕一
LSI事業本部 LSI事業部統括
パワーステージ商品開発部
電源商品設計課LV 電源商品設計 Gグループリーダー 篠崎 裕一 篠崎 裕一

精悍な風貌に相応しく、柔道3段の腕前を持つ異色(?)のエンジニア。異分野・異職種の人が集まった現在の部署は、様々な刺激に溢れ、価値観が広がったという。

そう語ってくれたのは、IC設計エンジニアとして<パワーステージ商品開発部>に参入した篠崎氏。これまで電源IC開発に携わってきた経験を注ぎ込める案件ということで、いまも高いモチベーションを持ちながら取り組んでいると言います。

この開発におけるキーワードは<ナノ秒(ns)オーダーのスピード>。
2つの特殊な回路を開発したことで、オーバーシュート発生の抑制を実現。これによって最小ゲート入力パルス幅=1.25ナノ秒の超高速スイッチングを実現し、GaNの能力をアプリケーション内で最大限に引き出すことが可能になりました。

GaN用ゲートドライバIC回路図

GaN用ゲートドライバIC回路図

・6Vを超えたオーバーシュートを抑制する特殊なドライブ回路と、GaNデバイスの逆方向特性に左右されないブートストラップ回路を採用

パルス幅

パルス幅=1.25ナノ秒(ns)は
=世界最高レベルの数値となる

Nano Pulse Control~そしてシステムインパッケージへ!

また、制御回路側も高周波化に対応が必要になるわけですが、その礎になっているのがロームが持つ独自の電源時術である<Nano Pulse Contorol>です。2017年にロームのアナログテクノロジーの粋を集めてリリースされたNano電源技術のひとつであり、高耐圧化・高周波化するアプリケーション群に対応した電源ソリューションをご提案してきました。

省エネ・小型化を極めるロームの革新的な「Nano」電源技術 
https://www.rohm.co.jp/support/nano

3つの先端電源技術からなる「Nano」

3つの先端電源技術からなる「Nano」

・GaNに採用されているのは上図の左端Nano Pulse Controlとなる

安藤

「先Nano Pulseがデビューした当初は世界最小値の9nsというパルス幅だったんですが、現在では1ns~2nsというところまで技術的には進化させています。Nano Pulse技術は48V電源からの降圧させるアプリケーション/市場をメインに開発・進化させてきました。
従来DC-DC変換する際に2段階(2チップ)での降圧が必要だったものを、1チップで実現できる技術として、セットの飛躍的な小型化・省電力化への貢献を謳っています。

  

この技術を<強い GaN>と組み合わせることで、シリコンでは実現できなかった領域でのお客さまの幅広いニーズにお答えできるようになると確信しています!」

前出の篠原氏と同様に<パワーステージ商品開発部>に招集された安藤氏は、この<Nano Pulse Control>技術が持つポテンシャルを、GaNと組み合わせることで更に引き出す商品開発を目指しているとのこと。

LSI事業本部 LSI事業部統括 パワーステージ商品開発部 システム電源商品設計課LLC 商品設計 G技術主査 安藤 弘明
LSI事業本部 LSI事業部統括
パワーステージ商品開発部
システム電源商品設計課LLC 商品設計 G技術主査 安藤 弘明 安藤 弘明

四半世紀をこえる年月にわたって様々な部署で電源ICを開発してきたこの道の熟練者。日々、少しでも電力効率を上げることに力を注ぐ中、現在は<Nano電源>シリーズのひとつ<Nano Energy>にも着目しているらしい。

安藤

「コンバータ回路を2段階から1段階に減らすことができる、というメリットは、GaNデバイス・ゲートドライバ・そして超高速の司令塔となるコントローラICを束ねてワンパッケージ化への道を拓くものと考えています!」

すでに<Nano Pulse Control>を採用したコントローラICとしては、製品化レベルまで達しているという安藤氏。その先に見据えたオール・イン・ワンパッケージ商品に向けて、フルスロットルで開発を進めているといいます。

EcoGaNシリーズの開発ロードマップ

EcoGaNシリーズの開発ロードマップ(2024年時点)

大嶽

「2022年を皮切りにECO GaN製品を順次量産スタートさせてきましたが、これは我々にとってファーストステップに過ぎません。お客さまの現在のニーズ、将来的なニーズを的確に捉えた商品をご提案しながら、信頼をひとつひとつ積み上げていくこと。そして、お客さまが使いやすいGaNパワーステージICをどんどん増やしていくことが、我々のミッションです。」

アプリケーション別につくられたGaN評価ボード

アプリケーション別につくられたGaN評価ボード

・お客さまへのGaN製品の提案と同時に、簡単に製品評価できるボードを作成し、製品開発をサポートしている

海外大手半導体メーカーも次々と参入を表明し、ますます活性化が予想されるGaNデバイス市場。
その中で、デバイス/ICの両輪からGaNの価値を最大化していくメーカーとして存在感を発揮していくことこそが、ロームに期せられた未来であることは間違いありません。

シリコン、SiCに次ぐ第3の矢としてのGaNの成長ストーリーは、今ようやく、あらたなステージに立ったところです。

GaNパワーデバイス 
https://www.rohm.co.jp/products/gan-power-devices

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