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より良い音づくりに向けて ロームオーディオソリューションの鍵とは

07/03/2018

オーディオ業界はここ数十年で急速な変化を遂げてきました。1980年代に入ると、LPレコードやカセットテープなどのアナログ信号から、音質劣化がないCDというデジタル信号が主流となり、また2000年代に入ると、MP3などのデータ圧縮技術により、ポータブルオーディオでたくさんの音楽データを持ち運べるようになりました。さらに、2010年代では、ハードディスクやフラッシュメモリの大容量化が実現したことで、データ圧縮を伴わない高音質なハイレゾオーディオが注目を集めています。

1958年設立の半導体メーカー ロームは、40年以上前からこうした業界の変化に先駆けて、市場のニーズに合わせた革新的なオーディオデバイスを開発してきました。オーディオ開発課の課長である岡本成弘氏は、1994年よりローム初となるCD用LSIや圧縮オーディオ用LSIの開発を担当し、最近ではハイレゾオーディオ向けの高音質LSIの開発をマネージメントしています。26年間にわたりロームでオーディオLSIの開発に携わり、業界の進化を直に経験してきました。

今回は、なぜロームのオーディオデバイスにとって音質が重要であり、なぜ岡本氏率いるチームがその音質に関する高い専門性を持っているのか、について取材しました。

同社の新横浜オフィスにある試聴室では、音質設計されていないLSIと音質設計されたLSIの比較試聴で、音質が変わることを体感することができます。LSI内部に使用される素子の配置やワイヤ素材といった要素(パラメータ)で、音が変わるそうです。

ロームでは、こうした音質の違いに影響をおよぼす28個のパラメータを特定し、音質設計技術を確立しています。つまり、回路・レイアウトなどの設計パラメータやウェハ・パッケージに関わる製造パラメータを用いて、狙いの音質(解像度・臨場感・迫力などの音質指標で表現)に作り込んでいます。岡本氏は、人が音や音楽をどう感じるのかについて解説をしてくれました。

「ホールなどで演奏された曲の場合、人間の耳は、楽器から直接届く音以外に、ホールの天井や壁に反射して届く音、そしてそれらが届く時間差や音の余韻の消え入り方などで、ホールの広さや会場の雰囲気を感じとります。このような空気感を表現するためには、小さな音の余韻までノイズに埋もれさせず再生できる低いノイズ特性(S/N比)や、楽器の輪郭(定位)、音色(分解能)を正確に再生できる高い分解能と低歪特性が重要になります。音質が良くなれば、実際にホールで聴いているかのように小さな音でも臨場感を感じることができるようになります。

目標の音質を作り込むためには、音質のわずかな違いを聴き分ける能力が必要です。岡本氏のチームに所属する音質責任者の佐藤氏は、製品開発時に開発ステージの節目で音質を評価し、担当するエンジニアに音質改善の指導を行っています。

「高音質な製品を開発する際には、開発担当者と音質責任者が密にコミュニケーションをとり、ともに音質を評価し、評価結果を共有しながら一丸となって製品をつくりあげていきます。」と岡本氏は語ります。

オーディオ機器メーカーのほとんどは、部品を選ぶ際に音質を最も重視すると言います。ローム製品が、そういったお客様から選ばれ続けるためには、音質設計技術を磨き続けることが非常に重要です。音質責任者の佐藤氏は、音質に影響する新しいパラメータを見つけだすために、常に様々な評価を行っています。そしてその継続的改善プロセスの成果が、お客様に利益をもたらすとロームは考えています。

岡本氏は、世界の中で、特に日本とヨーロッパのオーディオ機器メーカーが音質に対する関心が高いと言います。ロームはシリコンインゴットの引き上げからフォトマスクの製造、パッケージングを自社で行っており、LSIが目標とする音質に合わせて様々なパラメータを変更できる垂直統合型の生産体制を差別化のポイントとしています。この点もお客様が魅力に感じるポイントです。

こうした一貫した生産体制に加え、1人のエンジニアが最初から最後まで製品の生産に携わる、といった製品の一貫開発体制もロームの強みとなっています。一方で、他の企業では、開発工程ごとに専門のエンジニアが業務を分担する水平分業型の開発体制がとられています。
 
「ロームでは、開発を担当するエンジニアが自らヒアリングした顧客の要望や自分たちのアイデアを製品に直接反映させているため、自社製品に誇りをもつことができます。ロームのエンジニアは、商品企画から量産に至るまで全ての工程に責任をもち、また製品についても熟知しているため、知識が豊富な顧客からも頼りにされています。特に我々のチームは、音質についてオーディオ機器メーカーのエンジニアと同じ目線での会話ができるため、他の半導体メーカーにはない強みとなっています。」と岡本氏は説明します。

岡本氏のチームは、音質を継続的に向上させるため、ロームが支援する財団法人ロームミュージックファンデーションロームシアター京都で行われる演奏会にもよく足を運びます。エンジニアがホールの雰囲気やオーケストラの演奏に直に触れることで、競合の半導体メーカーには真似のできないオーディオデバイスが提供できると考えているからです。

ロームのエンジニアは技術だけでなく市場動向も重要視しています。魅力のあるワンストップサービスを提供するため、市場ニーズに合ったデバイスを開発しています。岡本氏のチームでは、デジタルSoCからアナログアンプまで、全てのオーディオデバイスを開発し、チップセットソリューションとして提供しています。そのために、グループや課、さらには部門を越えて協力することが重要です。

「魅力ある提案を行うには、そのお客様の顔を思い浮かべながら、業務を進める事が重要です。お客様やその立場によって、困りごとや求める音質が異なるため、常に相手の期待値とニーズに合うような製品がつくれるように努めています。」と岡本氏は語ります。

こうした良い音づくりに対するロームの取り組みには、アナログ技術が得意なロームだからこそできる職人技がつまっており、国内だけでなく海外でも評価いただけるに違いありません。ロームは、今後も市場に寄り添った製品開発を進め、またより多くの顧客に自社製品を知ってもらうための活動にも力を入れていくでしょう。


コラム:
ロームは5月にドイツミュンヘンで開催されたオーディオ展示会で、最新かつ革新的なオーディオソリューションを展示しました。多くのヨーロッパ顧客が来場し、ロームの高音質オーディオソリューションを体験しました。ロームのオーディオソリューションについて、より詳細な情報はリンクをご覧ください。