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「ソーシャル・デバイス」Special 対談

日経BP社が運営する技術者向け情報サイト「日経テクノロジーオンライン」および「日経xTECH」に、
2017年8月から2018年2月まで掲載したコンテンツを許可を得て転載しています。

※所属・肩書は掲載当時のものです。

「高効率化」への貢献は企業責任 技術者支援と革新技術が大きな力に

温暖化や化石燃料の枯渇などの地球環境問題に対する関心の高まりを背景に、エネルギーや材料の消費を最小限に抑える高効率化が社会の重要な課題として浮上している。こうした課題を解決する技術革新を実現するうえで企業が果たすべき役割やカギとなる技術の動向などについて、エネルギー消費と密接にかかわる自動化技術と技術者教育をグローバルに展開するドイツFesto社で高効率化の取り組みをリードするNico Pastewski氏と、半導体メーカーのロームで革新的なパワーデバイス事業を推進するAly Mashaly氏が議論した。

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Mashaly氏

 近年、地球環境問題が一般的に認識されるようになりました。これとともに、あらゆる分野の企業が「高効率化」の技術を重視するようになったと思います。半導体メーカーのロームも例外ではありません。

 ロームは、1958年に抵抗器メーカーとして創業しました。その後、業容を拡大しながら事業の中心を半導体にシフトし、いまでは売り上げの9割を占めるのは半導体です。LSI、ダイオード、MOSFET、IGBTをはじめとする各種パワーデバイスなど数多くの製品を提供し、高効率化にフォーカスしています。その取り組みの中で当社が最も力を入れているのが、SiC(シリコン・カーバイド)を使ったデバイスの開発です。SiCは、比較的大きな電力を扱うパワーエレクトロニクスの分野で高効率化に大きく貢献することが期待されている次世代半導体材料です。SiCの技術や製品の開発で、ロームは業界をリードしています。

 私は、パワーエレクトロニクスの技術者で、ドイツのデュッセルドルフにあるロームの技術拠点「パワー・ラボ」の責任者を務めています。ここを足場にしてパワーエレクトロニクスに関するシステム・レベルのソリューションをお客様に提供するのが主なミッションです。また、欧州のお客様と日本の開発部門のインタフェース役を担っています。このミッションの中でも高効率化は大きなテーマと捉えています。

Pastewski氏

 Festoも、事業を推進するうえで高効率化を重視しています。Festoは、1925年創業の同族企業で、60年以上にわたって自動化の分野で活躍してきました。最近では、製造業におけるデジタル化のニーズに対応した製品やサービスも展開しており、「革新的な高効率化技術」「人間と機械のコラボレーション」「教育」といった大きく三つのテーマを軸に事業を展開しています。常にサステナビリティを意識する私たちにとって資源消費とコストの抑制は、基本的な課題です。

 当社は、FA(Factory Automation)とPA(Process Automation)の分野に向けて空気圧駆動部品、電動駆動部品、自動化システムなどを提供しています。こうした事業を展開するうえで意識しているのが、社会に対して当社が果たすべき責任です。気象の変化、少子高齢化、天然資源の不足など、様々な社会問題が浮上しています。こうした大きな課題を解決することが私たちの使命だと認識しています。これを実践するために、大きく六つの活動領域(fields of activity)を定めました。その中の一つが、「エネルギーの効率化(Energy Efficiency)」です(図1)。 このほかの活動領域には、「技術教育(Technical Education)」「材料の有効活用(Material Usage)」「環境、エネルギー、建築(Environment, Energy and Construction)」「健康と安全(Health and Safety)」「生涯学習(Lifelong Learning)」があります。

図1 「エネルギーの効率化(Energy Efficiency)」に関するFesto社の取り組みを紹介するショールーム(エスリンゲン,ドイツ)
図1 「エネルギーの効率化(Energy Efficiency)」に関するFesto社の取り組みを紹介するショールーム(エスリンゲン,ドイツ)
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 エネルギーの効率化は、自社の中で進めるだけではありません。提供している製品やソリューションを通じて顧客企業におけるエネルギーの効率化にも貢献するつもりです。グローバルな規模の事業を展開している私たちのお客様は世界各地に広がっています。したがって高効率化に向けた私たちの取り組みは世界全体に役立つと確信しています。

Mashaly氏

 エネルギーの効率化を進めるうえで、エレクトロニクスの役割が、これから一段と重要になるのではないかと思っています。産業用システムや自動車の業界で電動化が進んでいるからです。これとともにエネルギー消費量全体に占める電力の割合が高まっています。この割合が高くなるにつれて、電力をより効率的に利用できるようにする技術の波及効果が大きくなるはずです。

 例えば、一般的な電力システムでは、電圧を変換するDC/DC変換や、直流と交流を変換するAC/DC変換の技術が随所に使われています。これらの回路の変換効率は、最近では85%〜95%まで向上していますが、それでも平均して約10%の電力損失が発生しているわけです。人々のあらゆる生活シーンに変換回路は偏在しており、失われているエネルギー量の10%という数字は非常に大きいといえるでしょう。

図2 高効率化に貢献するSiCウエハ
図2 高効率化に貢献するSiCウエハ
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 当社が力をいれているSiCパワーデバイスは、この問題の解決に貢献する技術として様々な分野で採用が進んでいます(図2)。例えば、太陽光発電システムのパワーコンディショナーや家庭用エアコンなどです。

 SiCを使ったパワーデバイスは、Si(シリコン)を使った従来のパワーデバイスに比べて、素子内部で発生する電力損失が小さいのが特長です。このSiCデバイスの優れた特性を追求することで、99%と限りなく理想に近い高効率の変換回路を実現できる可能性もあります。しかも発熱量が小さいので、放熱部品を小型化できます。つまり、実装する機器の小型化を進めるうえでも有利です。

Pastewski氏

 一つひとつの機器やシステムで削減できるエネルギー量がわずかだったとしても、自動車や産業機器のように広く普及しているならば社会全体で大きな効果が得られるはずです。半導体デバイスは、すでに膨大な数の機器に組み込まれています。社会全体の高効率化を進めるうえで半導体デバイスの技術が担う役割は、かなり重要だと言えるでしょう。

Mashaly氏

 現在、電気自動車におけるイノベーションの試金石として、完全電気駆動の車両による自動車レース「フォーミュラE」が自動車メーカーやサプライヤから大きく注目を集めていますが、これをご覧いただくとSiCパワーデバイスの可能性を感じていただけるかもしれません(図3)。実はオフィシャル・テクノロジー・パートナーとしてロームは、Venturi フォーミュラEチームにSiCパワーデバイスを提供しています。2016年のシーズン3に投入した同チームの車両に搭載されているインバータには、私たちが開発したSiCダイオードが組み込まれています。シーズン2で使用していたインバータと比較して効率が1.7%改善、2kgの小型化を達成しました。さらに放熱系の小型・軽量化によりインバータの冷却部分の体積は30%小型化しています。来年のシーズン4では、MOSFETも含めたフルSiCモジュールを提供し、さらにSiC化を進めることでインバータの小型軽量化を図る予定です。

図3 電気自動車の世界最高峰レース「フォーミュラE」の車両とロームのSiCパワーデバイスを搭載した同車両のインバータ
図3 電気自動車の世界最高峰レース「フォーミュラE」の車両とロームのSiCパワーデバイスを搭載した同車両のインバータ
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 レースカーに使われているので特殊な技術のように思われるかもしれませんが、フォーミュラEに展開したSiCパワーデバイスの技術は、そのまま市販の電気自動車(EV)に適用できます。このようなSiCパワーデバイスをはじめとするエレクトロニクスの技術を足掛かりに、ロームは社会全体の高効率化を後押しするつもりです。

Pastewski氏

 先ほどお話ししたようにFestoも、事業を通じて世界全体におけるエネルギーの効率化に貢献する考えです。このために私たちの事業を支えるバリューチェーン全体にかかわる数多くの活動を展開しています。国内にとどまらず、欧州規模やグローバル規模の活動も展開中です。

 数多くの取り組みの基本となっているのが自社内の活動です。例えば、ドイツのScharnhausenにある当社の生産拠点では生産システムにおけるエネルギー効率の「見える化」を進めています。数台の装置から始めましたが、いまでは全ての装置のエネルギー効率がモニタリングできるようになっています。この活動を通じて、装置を高効率で稼働させるための様々な知見を得ることができました。こうした知見は、製造部門だけでなく、製品開発部門とも共有し、私たちの製品に反映しています。つまり、自社内の取り組みの成果が、お客様の生産設備のエネルギー効率向上にも役立つわけです。

 実際、当社の製品ラインアップの中には、生産現場で使われている装置の省エネに役立つ機器が数多くあります。「見える化」のシステムに向けた製品も揃えています。IoT(Internet of Things)の概念に基づいたマシンモニタリングシステムに関連する製品も新たに発表したところです。こうしたデジタル化の技術は私たちが長年手掛けている空気圧駆動機器に革新的な進化をもたらす可能性があります。例えば、インテリジェント・モジュール「MSE6-E2M」は、生産設備における圧縮空気の消費量を制御すると同時に「見える化」する装置です。デジタル時代の空気圧駆動部品とも言える革新的な製品「Festo Motion Terminal」は、様々な省エネ機能がソフトウェアで実装できるようになっています。こうした製品は高効率な自動化装置の普及を加速するでしょう。

Mashaly氏

 ロームの生産現場でも同様の活動をしています。当社は、素材から半導体デバイス、モジュールまで一貫して自社で手掛けている世界でも珍しい半導体メーカーです。このため生産拠点を日本国内だけでなく海外にも展開しています。また約36社ある関連会社の多くも生産会社です。いずれの工場でも、高効率の製造装置を導入するなど省エネを追求しています。ここで得られる多くの知見は、半導体デバイスや、それらを基にしたソリューションの開発に役立っています。垂直統合生産体制を保有することで、自社工場の問題点を掘り起こした際の着眼点や、問題点を解決するためのアプローチが、そのままお客様の問題解決に役立つからです。自社の経験を基にお客様に先回りする形で問題を提起し、そのソリューションを提案することもできます。いま半導体メーカーに求められているのは、優れた特性の半導体デバイスを提供することだけではありません。お客様が抱えている課題を解決するソリューションを求められています。この要求に応えるうえで、自社工場や研究開発センターでの取り組みが大きな力になります。

 また、的確なソリューションを提供するには、お客様のサポート体制の整備も欠かせません。ロームは、エネルギーの効率化にまつわる顧客サポートを強化するために2017年9月にドイツのデュッセルドルフにある研究開発拠点に新たに「パワー・ラボ」を開設しました。パワーデバイスの評価に必要な最新鋭の計測およびシミュレーションの環境を整え、本社がある日本国内のお客様と同じレベルの技術サポートを提供します。

Pastewski氏

 確かに技術者のサポートは重要だと思います。高効率でサステナブルな社会を実現するための大きなカギの一つを握るのはエンジニアの知識だからです。大きな社会革新を実現する過程で、数多くの技術が劇的に変化するはずです。これにともなって多くの技術者が新しいスキルを求められるでしょう。技術教育はFestoの重要な活動領域の一つです。このため技術者のスキルアップを積極的に支援しています。例えば、製造業のデジタル化を見据えて、サイバーフィジカルシステムに関連する実践的なトレーニングを実施する技術教育プログラムをいち早く立ち上げました。こうして技術や製品の開発だけでなく、教育の面からも、高効率社会の実現を支援するつもりです。

Mashaly氏

 私が深くかかわっているパワーエレクトロニクスの分野では、すでに革新的な変化が始まっています。先ほど紹介したSiCをはじめとするワイドギャップ半導体の技術がまさにその一例です。高耐圧でも低いオン抵抗を維持し、高周波での動作が可能。しかも、デバイス自身も高温に耐えうるなど優れた特徴を備えています。比較的新しい技術ですが、ロームはこの分野の技術のリードする企業として市場で高く認知されています。

 ワイドギャップ半導体が様々な機器に実装されて、社会全体におけるエネルギーの効率化が進む過程で様々な問題が浮上するでしょう。次世代パワーデバイスの分野で世界をリードするロームは、技術の動向を先読みし、今後直面する問題の解決に向けた取り組みに率先して着手することで、高効率な社会の早期実現に貢献するつもりです。

 本日はありがとうございました。

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「ソーシャル・デバイス」Special 対談

 

2017

電動化の先に見えるクルマの未来 本質的な進化が技術をリード 「高効率化」への貢献は企業責任 技術者支援と革新技術が大きな力に 製造業の新たな時代を拓くIoT 革新技術が自動化とITの融合を加速

新しい社会を創る先端技術

2016

社会を変革する自動運転技術 電子デバイスの進化が普及を加速 実行の局面を迎えた産業IoT 既成の枠を超えた連携が必須に 高度化するコンシューマ機器開発 マインドを変えて新たな局面へ 新たな社会を創る新産業革命 高効率化の技術が後押し

最先端技術から見える新しい社会

2015

静かに社会の大変革を引き起こすIoT 果敢な挑戦こそが新市場への扉を開く 産業や暮らしを変えるIoT センシング技術の進化が普及を加速

明日の社会を創る革新技術

2014

情報通信技術で進化する日本の農業、従来の枠を超えた連携が革新を後押し 消費を抑えた持続可能な社会へ、高効率化や小型化の技術で貢献 ともに進化する自動車とエレクトロニクス、先進技術の融合がもたらす社会革新

技術が拓く新しい社会

2013

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