ソーシャル・デバイス Special対談 2016-3

「ソーシャル・デバイス」Special 対談

日経BP社が運営する技術者向け情報サイト「日経テクノロジーオンライン」に、
2016年7月から2017年2月まで掲載したコンテンツを許可を得て転載しています。

※所属・肩書は掲載当時のものです。

実行の局面を迎えた産業IoT 既成の枠を超えた連携が必須に

あらゆる分野に着実に広がるIoT(Internet of Things)。中でも動きが活発化しているのが産業分野のIoT。いわゆるIIoT(Industrial IoT)である。すでにIIoTは、実際の現場に実装する取り組みが始まっている。そこで新たな局面を迎えたIIoTの現状と今後などについて、IIoTプラットフォームを展開するGEデジタル リージョナルマネージャの沢近房雄氏と、電子デバイスの領域から産業分野における革新に貢献するロームでモジュール生産本部 センサ商品開発部 通信モジュール開発課 課長を務める小宮邦裕氏が議論した。

小宮氏

 IoTは、あらゆる業界で話題の焦点になっています。IoT自体は、一つの概念を表している言葉にすぎないわけですが、その先に新しいビジネスが生まれる可能性を多くの人たちが感じているからだと思います。目下のところは産業分野のIIoTが盛り上がっていますね。

沢近氏

 IIoTの分野には、非常に大きい市場があるとみています。最近までは、IoTはただ語られているだけのものでしたが、ここにきて実現に向けた取り組みが様々な分野で始まりました。いよいよIoTは新しい局面に突入したといってよいでしょう。中でもIIoTをめぐる動きは、活発化しています。世界各地で国家規模のプロジェクトが立ち上がったことが大きなキッカケだと思います。

 この動きに先行する形でGEデジタルは、IIoTのプラットフォーム「Predix」を展開しています(図1)。これから、このプラットフォーム上で様々なアプリケーションが生まれるでしょう。これまでのIoTは、個々のプラットフォーム上でバラバラに実現していることが多かったと思います。共通のプラットフォーム上で、様々なアプリケーションが稼働するようになると、アプリケーション間のシナジーが生じることが期待できます。そうなると、半導体メーカーの皆さんにとっても、ビジネス拡大のチャンスが生まれそうですね。

図1 GEデジタルが展開するIIoT(Industrial IoT)プラットフォーム「Predix」のコンセプト
図1 GEデジタルが展開するIIoT(Industrial IoT)プラットフォーム「Predix」のコンセプト
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小宮氏

 IIoTの広がりは、半導体メーカーに多くのビジネスチャンスをもたらすのは間違いないです。ただし、従来の取り組みのままでは、そのチャンスを生かしきれないでしょう。市場のダイナミクスが、従来の市場とは異なるからです。これまでのやり方の延長では、この変化に対応できないと思っています。もちろん私たちもすでに動き始めています。

 例えば、従来のように部品単品ではなく、部品を中心にしたアプリケーションの使い方をお客様に提案するようにビジネススタイルを変えつつあります。IIoTの分野では、個々の機器だけでなくシステム全体を視野に入れて開発に取り組んでいるお客様が中心になるからです。

 私の主なミッションは、IoTの通信システムに向けた無線通信モジュールの商品開発ですが、最近まで研究開発部門で、センサネットワークのアプリケーションの開発に取り組んでいました。研究開発部門で、こうしたテーマに取り組んでいるのは、部品単品で提案しても、なかなかお客様に耳を傾けていただけなくなってきたからです。最近は、「この部品どうやって使うの」とか、「もうちょっと具体的に使えるようにして持ってきて」といったご要望をたくさんいただきます。IIoTの市場では、こうしたご要望がさらに増えるとみています。そこで、従来からワンステップアップして、もっとシステムの領域に踏み込んだ提案できるように、開発や販売を強化しているところです。

プラットフォーム化で市場が活発化

沢近氏
沢近 房雄氏
沢近 房雄氏
GEデジタル
リージョナルマネージャ
 

 半導体メーカーの皆さんが期待している通り、IIoTのアプリケーションを開発する動きは、これから急速に活発化すると思います。その背景には、プラットフォームをベースにIIoTのアプリケーションを開発する流れがはっきりしてきたこと。さらに、IIoTのプラットフォームを提供するベンダーが次々と出てきたことがあります。

 最初に発表した3年前の時点でPredixは、おそらくIIoT分野では唯一のプラットフォームだったと思います。ところが、いまでは多くの企業がこの領域に参入してきました。アプリケーションを開発する皆さんは、この中からどれか一つではなく、状況に応じて複数のプラットフォームを選択するとみています。それと同時に、自社のアプリケーションを、各プラットフォームにポーティング(移植)する動きがこれから始まるでしょう。これによって、市場が広がるからです。プラットフォーム上での選択肢が増えるのでエンド・ユーザーにとっても、これは有利だと思います。

小宮氏

 プラットフォームの考えが普及することで、従来のアプリケーション以外で電子デバイスの新しい需要が生まれる可能性があります。つまり、過去に導入した機器やシステムも、新しいプラットフォーム上に載せたいというニーズです。例えば、FA(Factory Automation)の分野です。ものづくりの現場にある多くの製造装置や加工装置の中には、10〜20年と長い期間にわたって使われている装置がたくさんあります。その多くは新しいIIoTアプリケーションでは、簡単に対応できないと考えられます。しかしながら、本当に監視したいのは、古い装置だったりするのです。IIoTプラットフォームを利用して、工程ライン全体を最適化したいと考えるユーザーにとっては、こうした機器のIIoT化が問題になるでしょう。私たちは、こうした方々のために、後付け可能なセンサや、それらを結ぶ無線ネットワークなど、お客様に必要なソリューションを提案しているところです。

沢近氏

 確かに産業分野は、既存のシステムに対しても新しい技術が普及しやすい状況かもしれません。プラットフォーム化が進むということは、それに関連する技術のオープン化が進むということですが、産業分野では、オープン規格の産業用ネットワークや、ソフトウエアの実行モジュール間でのデータ通信の標準規格のOPC(OLE for Process Control)などが普及しており、オープン化が進む環境がある程度整っています。

社内の連携で縮まる顧客との距離

小宮氏
小宮 邦裕氏
小宮 邦裕氏
ローム
モジュール生産本部
センサ商品開発部
通信モジュール開発課 課長

 産業用の中でも製造業に向けた製品や技術については、その利点を自社で実証できるというのは有利だと思います。私たち自身も製造業の一員です。しかも当社の場合は、材料からデバイスまで社内で一貫して手掛けており、生産に関する技術やノウハウを蓄積しています。つまり強力なものづくりの現場が社内にあるので、IIoT向けの製品や技術に関しては、自社の製造現場で使ってみて、反応を確かめることができます。

 実際に、IoTというキーワードを軸に、これまで別々に業務を行っていた部署間での交流が進み新たな製品開発へのフィードバックが生まれています。そして社内の製造部門でヒアリングした話を持ち出すと、お客様の同意や共感が得られることも多く、お客様との距離がぐっと縮まったように思います。

沢近氏

 そういった意味では、IoTというキーワードはすごく強力だと思います。かつては部署ごとにオペレーションの最適化を図っている企業が多かったと思いますが、IoTという言葉の登場を契機に、全体の最適化を前提にオペレーションに関する議論を進める企業が増えたのではないでしょうか。

 この点については私たちも重視しており、Predixの導入に先駆けてお客様とともに「ワークアウト」という作業を実施しています。いままでバラバラに動いていた部署の方々に私たちが中心となって集まっていただき、私たちも交えて議論を重ね、これから解決すべき課題を明確にする作業です。せっかく大金を投資するのですから、最大限の投資効果を得ていただきたいと思っています。ワークアウトは、そのための重要な取り組みの一つです。

小宮氏

 先ほど実証用試作機の話をしましたが、様々なアプローチで議論できる人たちが協力して問題を解決するという意味では、ワークアウトの手法に似ているように思います。

 実証用試作機を開発する目的は自社のデバイスの優位性をアピールするだけでなく、お客様のニーズを明確にするためでもあります。製品について教えてほしいと問い合わせを受けた時点で、具体的に必要な機能や技術が固まっていないお客様が少なくありません。こうしたお客様に、「センサとして必要な測定精度や、測定回数はどうしますか」と質問すると、「いや、ちょっと分からないんだ」と言われてしまうわけです。こうした場合に、実証用試作機を提供します。場合によっては、お客様の実際の現場や機器に実装することもあります。動いている実証用試作機を見ると、「これが見たかった」「この機能が欲しかった」という具体的なニーズがお客様から引き出せることもあります。

業界を超えた連携が加速

沢近氏

 社内だけでなく企業間の連携も必要です。先ほど申し上げたようにPredixというプラットフォームを実現し、そこに私たちが培ってきたアプリケーションを移植する作業を進めていますが、それで網羅できる市場のニーズはごく一部にすぎません。このため、システムインテグレータやデベロッパーと呼ばれている国内外の多くの企業の皆さんと積極的に提携を進めています。

 私たちのミッションとして重要なのは、多くの企業が集まってシステム構築をしやすいようなプラットフォームを提供することだと思っています。

 さらにもう一つ重要なのは、システムインテグレータやデベロッパーの皆さんをはじめ、IIoTシステムの構築に必要な技術やデバイスを提供してくださった皆さんのそれぞれの収益に貢献することです。Predixには、デベロッパーの方が開発して出店したソフトウエアをユーザーの方が使用されとき、その使用料をデベロッパーの方へお支払いするための課金システムが組み込まれています。つまり、IIoTシステムにかかわる全員が収益を上げられるエコシステムのようなものを実現できるようにしました。この仕組みを利用する登録デベロッパーの数は、世界全体ですでに8500人(2016年5月現在)を超えています。

小宮氏

 部品メーカーやデバイスメーカーにとっては、推し進めたい考え方です。ビジネスにかかわるすべてのメーカーの収益が適正でないと、将来にわたるビジネス拡大は望めません。私たちがIIoT向けに展開しているのは、主にセンサと無線通信モジュールです。具体的には、モーション・センサや環境センサなど数多くの種類のセンシング・デバイスに、無線通信モジュールを組み合わせたソリューションを提案しているところです。

 無線通信モジュールについては、Wi-Fiに比べて消費電力が小さく通信距離が長いサブギガヘルツ帯の無線通信規格「Wi-SUN」に対応した製品を積極的に展開しています。業界でいち早く、同規格の認証を取得して、お客様が扱いやすいように国内電波法の認証を取得したうえで提供しています。組み込み用に小型化を追求した面実装タイプ、ゲートウェイなど既存の機器に後付けできるUSBドングルタイプなど、用途に合わせた製品をそろえています。

 目下のところは主に、HEMS機器への搭載や産業用機器のモニタリングなどの用途を狙っています。

 また、電池レスで駆動するユニークな、超低消費電力の無線方式を採用した、「EnOcean通信モジュール」を使った提案も実施しています(図2)。運用まで考慮したソリューションにおいては、センサノードへの電源供給の問題があります。センサ設置時の配線の問題や、電池駆動機器の場合は電池交換の手間が膨大になるという問題も生じます。これらの問題を解決する電池レスの無線センサシステムの普及とともに、設置されるセンサノードの数がより増えることを期待しています。

 システムにおいては末端にあるセンサや無線デバイスですが、このような特長が、システム全体の特色になりえるものと考えています。プラットフォームベンダーの皆様に、私たちの部品の良さをもっと知ってもらって、より良いプラットフォームに仕上げてもらいたいと思っています。

図2 バッテリーレスのIoTエッジデバイスを実現できる小電力無線通信技術「EnOcean」
図2 バッテリーレスのIoTエッジデバイスを実現できる小電力無線通信技術「EnOcean」
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EnOceanは、極めて小さな電力しか必要としないので、身の回りの環境に存在する光や運動などを電力に変換するエナジー・ハーベスティング技術や超小型発電機と組み合わせることで、バッテリーを搭載していないエッジデバイスから様々な情報を無線で伝送するシステムを実現できる。

沢近氏

 プラットフォームベンダーにアピールする場合は、プラットフォーム上で動作させるために必要なソフトウエアなどもセットにして提供していただけると、プラットフォーム側からアプローチしやすくなりますね。あるいは、標準規格に対応したインタフェースが組み込まれた形で提供していただくのもいいかと思います。

 もう一つお願いしたいのは、エンド・ユーザーの皆さんに、多くの選択肢を提供することです。品ぞろえを見せるということではなく、デバイス・レベルで対応できるソリューションの選択肢です。例えば、単一のセンサでは解決できない課題も、複数のセンサを使えば解決できるかもしれません。この場合は、複数のセンサをフィールドで統合するシステムや通信システムも、お客様は必要になるはずです。こうした周辺のアイデアも提供するようにすると効果的ではないでしょうか。

小宮氏

 デバイスメーカーの場合、従来はデバイス単品の機能や性能をアピールしがちでした。IIoTの分野に向けてデバイスをどのような形で紹介するかというのは、重要な課題です。

 先ほど、IoTの概念が登場したことで、これまで別々だった社内組織の連携が進むようになったという話がありました。同じようにシステムの上位の方とデバイス側の間で共通の話題ができたわけですから、これから両者の交流が進むことを期待しています。

 実際、システムの上位の方とお話しする機会は増えていますが、業界が変わると、考え方や使っている言葉さえも違ってきます。当初は聞き慣れない用語が多くて、とまどうことも多かったのですが、具体的な課題解決に向かって議論ができるようになってきました。こうしてIIoTのシステム構築にかかわるステークホルダーの皆さんとうまくコミュニケーションがとれるようになると、市場のニーズを的確に把握できるようになり、これによって私たちのデバイスの付加価値を高めることができるようになるでしょう。ぜひ、期待していてください。

ソーシャル・デバイス Special対談 サイドナビ

「ソーシャル・デバイス」Special 対談

2017

電動化の先に見えるクルマの未来 本質的な進化が技術をリード 「高効率化」への貢献は企業責任 技術者支援と革新技術が大きな力に 製造業の新たな時代を拓くIoT 革新技術が自動化とITの融合を加速

新しい社会を創る先端技術

2016

社会を変革する自動運転技術 電子デバイスの進化が普及を加速 実行の局面を迎えた産業IoT 既成の枠を超えた連携が必須に 高度化するコンシューマ機器開発 マインドを変えて新たな局面へ 新たな社会を創る新産業革命 高効率化の技術が後押し

最先端技術から見える新しい社会

2015

静かに社会の大変革を引き起こすIoT 果敢な挑戦こそが新市場への扉を開く 産業や暮らしを変えるIoT センシング技術の進化が普及を加速 社会とともに進化する産業用機器 電子デバイスが高度な「省エネ」を実現

明日の社会を創る革新技術

2014

情報通信技術で進化する日本の農業、従来の枠を超えた連携が革新を後押し 消費を抑えた持続可能な社会へ、高効率化や小型化の技術で貢献 ともに進化する自動車とエレクトロニクス、先進技術の融合がもたらす社会革新

技術が拓く新しい社会

2013

社会を意識した取り組みが加速、着実に進むインフラの技術革新 社会との親和性を高めるロボット、パワーデバイスが機動性向上に貢献 建設業界で進む高度なエネルギー管理、電池不要の無線通信技術が一つの解に 世界が直面する課題に挑む医療機器、次世代半導体が技術革新に貢献