ソーシャル・デバイス Special対談 2016-2

「ソーシャル・デバイス」Special 対談

日経BP社が運営する技術者向け情報サイト「日経テクノロジーオンライン」に、
2016年7月から2017年2月まで掲載したコンテンツを許可を得て転載しています。

※所属・肩書は掲載当時のものです。

高度化するコンシューマ機器開発 マインドを変えて新たな局面へ

電気の普及とともに次々と登場したコンシューマ・エレクトロニクス機器は、人々の暮らしに様々な変化をもたらし、社会に少なからず影響を与えてきた。だが、ここにきて、その開発の現場を取り巻く環境は大きく変わりつつある。その現状や、今後のトレンドなどについて、コンシューマ・エレクトロニクス機器向け半導体デバイスの市場で多くの実績を持つロームで民生・スマートデバイス戦略部 統括課長を務める梅本 清貴氏と、斬新な企画の製品を次々と市場に投入している家電ベンチャー、UPQ(アップ・キュー)の創業者でCEOを務める中澤 優子氏が議論した。

梅本氏

 ロームは、半導体デバイスのメーカーですが、その中で私はAV機器や家電製品、照明器具などのコンシューマ・エレクトロニクス機器に向けた製品の開発と市場開拓を担当しています。具体的には電源用IC、インタフェース用IC、センサなど様々な種類の半導体デバイスを展開しています。

 1958年に抵抗器メーカーとして創業したロームが、半導体デバイスを手掛けるようになったのは1980年代のことです。現在は、産業機器や自動車など幅広い分野に向けて製品を展開していますが、コンシューマ・エレクトロニクス機器の市場は当初から手掛けてきた分野で、いまも当社の売り上げの多くを占める重要な分野です。

 この業界には大手を中心に多くの企業が活躍していますが、その中でUPQは異色の存在ですね。特に会社設立後、最初に発表した製品ラインアップで17種類24製品も揃えたことは業界で注目を集めました。

中澤氏

 最初から一気に24製品も開発したことが話題になりましたが、メーカーで携帯電話の製品企画に携わっていたとき、同時に何機種もの開発プロジェクトを進めていました。そのときと同じペースで、製品を企画していたら、それだけの数になりました。必ずしも最初から数の多さを追求していたわけではありません。2016年2月には第2弾となる新シリーズの製品を発表しており、これまでに市場に投入した製品は、すでに60種類近くになりました。

新たな付加価値の創出が課題に

梅本氏

 製品ラインアップを見るとコンシューマ向けの製品ばかりですが、この分野に特化しているのですか。

中澤氏

 そうですね。家電量販店に行くと機能や性能で特徴を打ち出そうとしている製品が目に付きますが、知恵を絞れば、従来とは違う軸で特徴を出した、もっとおもしろい製品ができると思っています。これを実践するには、どうすればよいかということをいつも考えています。

 実際、これまで製品化した商品は、いままでにない画期的な製品というわけではなく、既存の製品にプラスアルファの工夫を加えてユニークな特徴を打ち出した製品が多いです。ユーザーが周りに自慢したくなるような製品を提供することを目指しています。自分がこだわっているものに対して、周りの人に「何それ!」って言われたら、思わず説明したくなりますよね。そんな製品を作りたいと思っています。

梅本氏

 製品企画のアプローチが独特ですね。AV機器や家電製品の場合、普及率が高まるにつれて製品企画が難しくなってくるのではないでしょうか。

 テレビ、携帯電話、オーディオ、パソコンなどを手掛ける日本のコンシューマ・エレクトロニクス機器メーカーの皆さんは、様々な形で製品を進化させて、消費者に新しい体験やライフスタイルを提供してきました。ロームは、こうしたメーカーの皆さんの取り組みに部品サプライヤとして貢献するように努め、民生機器市場と一緒に成長してきました。具体的には、回路の最適化に貢献するLSI、省電力に貢献する電源IC、小型薄型化に役立つディスクリート製品、付加機能の実現に役立つ各種センサなどを、民生機器メーカーの皆さんの要望に応じて提供してきました。こうして長年にわたって民生機器市場にかかわってきたサプライヤである私たちも、従来のように高い機能や優れた性能をアピールしただけの製品では、なかなか消費者を引き付けることができなくなっていると感じます。

 最近では、多くのコンシューマ・エレクトロニクス機器メーカーの皆さんが、新機軸の付加価値を消費者に提供するために、商品企画で様々な工夫をしておられます。

中澤氏

 そうですね。確かに昔のように大きなブームの中で、複数のメーカーが同じような製品を発売して、シェア争いをしても十分な売り上げを確保するのが難しくなりました。このためでしょうか。小規模で小回りがきくベンチャー企業と組んで、小ロットの製品を素早く市場に投入して利益を上げる。こうしたアプローチを始める大手企業も出てきました。

梅本氏

 大手企業の皆さんがベンチャー企業のユニークな技術や発想に注目しているのは、従来の取り組みや技術の延長で新たな製品の付加価値を創出するのが難しくなっているからだと思います。私たちも、こうした市場の変化を受けて、従来のようにお客様の要望に応じて開発した製品を供給するビジネスモデルから、市場のニーズを先取りして製品を開発し、機器メーカーの皆さんに提案するビジネスモデルにも拡張を進めているところです。その一つの取り組みとして、アグレッシブに製品開発を続ける海外メーカーやスタートアップ企業との協業を模索しています。

 UPQは家電製品の市場では後発。しかも競合する企業は、多くの開発リソースを抱える大手企業ばかりです。このような市場に参入するにあたって、製品企画ではどのような工夫をされたのでしょうか。

ポイントは「意外といい」

中澤氏
図1 SIMロックフリーのスマートフォン「UPQ Phone A01」
図1 SIMロックフリーのスマートフォン「UPQ Phone A01」
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 例えば最初の製品ラインアップにあったスマートフォンでは、低価格でかっこいい製品を目指しました(図1)。この製品の企画を始めたころ、すでにSIMロックフリーの携帯電話が市場に出ており、いわゆる「格安SIM」のサービスも始まっていました。格安SIMの普及をリードするのは初めてスマートフォンを買い与えられる中学生など若い人が中心になるだろうと思ったのですが、市場を見ると若い人が喜ぶようなかっこいいSIMロックフリー対応の携帯電話がなかなか見当たりませんでした。

 そこで、若いユーザーが手を出しやすいローエンドのゾーンで、店頭で思わず手に取ってしまうようなかっこいい製品を作ることにしました。そのゾーンならば、安価だという理由で製品に興味を持ってもらえるので、認知度が低いブランドの製品でも競争に加われる。さらに、ユーザーに「安いけど意外にいい」と思ってもらえれば、先行するメーカーと市場で互角に戦えると考えました。ここで「意外といい」というのが重要なポイントです。期待値が低い製品で「意外といい」と思わせることができれば、それで消費者の心をつかめます。

 この製品では販売価格のターゲットを1万5000円と安価に設定。価格を抑えるために機能やスペックを絞り込み、スマートな外観の製品にしました。

梅本氏

 確かに意表を突くことによって相手の関心を引き付けることができます。製品をアピールするうえで効果的な手法ですね。スマートフォンのほかにも、ディスプレイ、ヘッドフォン、スマート電球、充電機能を搭載したスーツケースやバッグ、タッチキーボードなどの周辺機器など多彩な製品を開発されていますね。

中澤氏

 多くの製品は、スマートフォンの要素技術を切り出し、それを核に企画したものです。つまり、フラットパネル・ディスプレイ、オーディオ、LED、通信、2次電池といったスマートフォンの技術がベースになっています。もともと携帯電話の製品企画にかかわりたくて大学卒業後、携帯電話メーカーに就職し、そこでは製品企画のプロジェクトリーダを担当していました。このとき開発部門の技術者の人たちと頻繁にやりとりしていたおかげで、スマートフォンに関する様々な要素技術を学ぶことができました。こうして蓄積した知識やノウハウを活用しています。

最終製品を意識して新技術を提案

梅本氏

 要素技術を起点に新しい製品企画が生まれることは多いと思います。斬新な製品企画の実現に挑む機器メーカーの皆さんに貢献できるように、部品メーカーである私たちから積極的に新しい技術を紹介するように務めています。

 最近おすすめしているのが、情報機器と周辺機器を接続するインタフェースUSBの最新規格「USB Power Delivery(USB PD)」です(図2)。USB PDは、1ポートのUSB端子で最大100Wもの給電をすることができます。ノートPCやテレビなど大電力が必要な機器にもUSB端子から給電することができ、USB PDに統一することで、あらゆる機器で共用できる汎用ACアダプタを実現することもできます。そうなれば出張や旅行の際に、何種類ものACアダプタを携帯せずに済みます。また、供給電力が格段に増えたことで、スマートフォンやタブレットなど従来機器では充電時間が4倍以上短くなるという利点もあります。ロームは、このUSB PDのインタフェース回路に実装する、電力受給電コントローラIC「BM92TxxMWVシリーズ」を提供しています。

図2 USB Power Delivery(PD)が電源の概念を変える
図2 USB Power Delivery(PD)が電源の概念を変える
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中澤氏

 LSIの特長や機能は、技術者の方でないと、なかなか分からないと思いますが。

梅本氏

 こうした新しい製品や技術を、できるだけ多くの皆さんに活用していただけるようにアピールの仕方も工夫しています。つまり、従来のように個々の部品の機能や仕様を伝えるだけではなく、お客様が抱える課題を解決する具体的なソリューションの形になるように、部品の使い方や必要な周辺回路の情報も併せて提供しています。

 その一例が、設計者の皆さんに評価キットとして提供している「センサメダル」と呼んでいるモジュールです。直径33mmの円形プリント基板に気圧センサ、地磁気センサIC、加速度センサ、ローパワーマイコン、Bluetooth通信モジュールなどを実装したものです。デモンストレーションの際には、実際にメダル状の筐体に収めています。センサメダルは、内蔵した通信モジュールを介してタブレットPCやスマートフォンとつなぐことができます(図3)。あとはタブレットPCにプログラムを組み込むだけで、複数の内蔵センサが出力するデータを利用した様々なアプリケーションの開発を効率よく実現できます。この仕組みを使って、センサの機能を評価していただけるのと同時に、試作システムの開発に手間をかけずにアプリケーションを検討していただけます。

図3 センサメダルをベースにした応用システムの開発例
図3 センサメダルをベースにした応用システムの開発例
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中澤氏

 少し大きめな腕時計のようにも見えますね。なぜメダルの形にしたのですか。

梅本氏

 ご指摘のように、ウエアラブル機器への展開を意識して、この形にしました。

図4 中澤氏にロームのセンサメダルを紹介する梅本氏
図4 中澤氏にロームのセンサメダルを紹介する梅本氏
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 センサメダルと同じコンセプトで、ワイヤレス給電のシステムの開発支援ツールも提供しています。「WPC Qi規格ミディアムパワー」の認証取得済みリファレンスボード「BD57020MWV-EVK-001」(送電側)と「BD57015GWL-EVK-001」(受電側)です。両ボードには、ロームが開発したワイヤレス給電制御ICなどが搭載されています。送電側ボードと受電側ボードをそろえることでWPC Qi規格ミディアムパワーに準拠したワイヤレス給電を簡単に実現することができます(図4)。

 ワイヤレス給電は、この技術を利用することで電源コードを使わないで電源を供給したり、充電したりできます。これによって機器の使い勝手は格段に向上するでしょう。すでに、ワイヤレス給電は実用化されている技術ですが、従来の規格では扱える電力が5W以下でした。新規格のミディアムパワーでは約15Wまでの電力を扱えます。これによって一段と用途が広がるでしょう。これらの技術がもたらす数々の利点が、新しい製品企画にもつながる可能性があります。

ベンチャーでなくても斬新な企画は実現できる

中澤氏

 いまや主なコンシューマ・エレクトロニクス機器の市場では、買い替えや買い増しの需要がかなりの部分を占めています。しかも、品質が向上してなかなか壊れないので、やむを得ず買い替えなければならない事態に消費者はなかなか直面しなくなりました。そうなると、コンシューマ・エレクトロニクス機器を購入する動機や選択の仕方は、嗜好品を購入する場合に近くなるのではないでしょうか。嗜好品として製品を捉えると、製品に対する消費者のこだわりを喚起するような工夫が重要になると思います。

 大手メーカーがその気になれば、私たちのようなベンチャー企業と同じように、開発者のこだわりを生かした製品を作ることはできるのではないでしょうか。大手企業ならば、社内に技術のリソースが潤沢にあります。そのうえ社員は収入が保証されているので、安心して事業に取り組めます。これらの点は、ベンチャー企業よりも有利です。

梅本氏

 確かにそうかもしれません。しかし、当社もそのような面があると思っていますが、長い時間の中で培われた社内のマインドを大きく転換するには時間がかかるかもしれません。

中澤氏

 私たちと同じようなベンチャー企業と同じような考えを持つ人は、大手メーカーの中にもたくさんいると思います。最近、UPQの取り組みについて、多くの皆さんの前で話をさせていただく機会が増えているのですが、そこに集まってくださる方々の中に、大手メーカーに勤務する40代や50代の方々が数多くいらっしゃいます。その方々とお話をさせていただくと、私たちと同じ思いを持っていらっしゃる方が少なくないことが分かります。例えば、自分自身が強い愛着を感じる製品を開発したいと思っている人たちの声をよく聞きます。こうした方々が集まれば、大手企業もベンチャー企業と同じ発想で、こだわりを生かした企画の製品を実現できるのではないかと思います。

梅本氏

 特定の技術に強くこだわると同時に、それをベースにした革新的な製品を実現したいと思っている技術者は業界の中で少なくなったように見えます。しかし、実際に社内外の多くの技術者の方々と交流していると、そのような技術者に出会います。そのような人は確実に存在しているのです。新しい技術を開発するだけでなく、これを効果的にアピールして、彼らのような技術者を刺激したいと思っています。

 ローム社内でも、一人ひとりのエンジニアが相当な知恵を絞って日々開発に取り組んでいます。その中から、こだわりや強い思いを持って開発に取り組んでいるエンジニアを発掘して、その人たちとともにビジネスを創っていくことが私の大きな使命の一つだと思っています。こうした私たちの思いと、ユーザーである機器設計者の皆さんや消費者の方々との思いが共鳴し、そこで生まれるシナジー効果によってコンシューマ・エレクトロニクス機器の市場の発展に貢献したいと思っています。

ソーシャル・デバイス Special対談 サイドナビ

「ソーシャル・デバイス」Special 対談

2017

電動化の先に見えるクルマの未来 本質的な進化が技術をリード 「高効率化」への貢献は企業責任 技術者支援と革新技術が大きな力に 製造業の新たな時代を拓くIoT 革新技術が自動化とITの融合を加速

新しい社会を創る先端技術

2016

社会を変革する自動運転技術 電子デバイスの進化が普及を加速 実行の局面を迎えた産業IoT 既成の枠を超えた連携が必須に 高度化するコンシューマ機器開発 マインドを変えて新たな局面へ 新たな社会を創る新産業革命 高効率化の技術が後押し

最先端技術から見える新しい社会

2015

静かに社会の大変革を引き起こすIoT 果敢な挑戦こそが新市場への扉を開く 産業や暮らしを変えるIoT センシング技術の進化が普及を加速 社会とともに進化する産業用機器 電子デバイスが高度な「省エネ」を実現

明日の社会を創る革新技術

2014

情報通信技術で進化する日本の農業、従来の枠を超えた連携が革新を後押し 消費を抑えた持続可能な社会へ、高効率化や小型化の技術で貢献 ともに進化する自動車とエレクトロニクス、先進技術の融合がもたらす社会革新

技術が拓く新しい社会

2013

社会を意識した取り組みが加速、着実に進むインフラの技術革新 社会との親和性を高めるロボット、パワーデバイスが機動性向上に貢献 建設業界で進む高度なエネルギー管理、電池不要の無線通信技術が一つの解に 世界が直面する課題に挑む医療機器、次世代半導体が技術革新に貢献