IoTを支える無線技術 「Lazurite(ラズライト)」

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電波新聞 IoTを支える無線技術特集 IoTを支える無線技術「Lazurite(ラズライト)」

はじめに

あらゆるものがインターネットにつながるサービスIoT(Internet of Things)が今後、飛躍的に普及するといわれている。無線通信規格Bluetooth® Low Energyによりスマートフォンと連携する活動量計を身に着けて健康管理を行うサービスや、特定の場所に足を運ぶとクーポンがもらえるサービスはすでに導入されており、利用している消費者もいるだろう。これらは活動量計や特定の場所に設置したビーコンという「モノ」がインターネットにつながることでIoTのサービスが実現している。

今後、IoTの中でも飛躍的に普及すると言われているのが農業・インフラ・環境・産業機器などの分野における遠隔モニタリングである。たとえば農業では温度・湿度・日射量を常時計測し、収穫量や収穫日と合わせてデータベース化しておく。こうして蓄積されたデータは、ビックデータとして解析することで収穫日の予測や、収穫日を意図的に調整することで廃棄する野菜の削減が実現できる可能性がある。また、工場では従来から使用していた装置にセンサを接続することで稼働状況を取得することが出来たり、ベテラン技師と若手技師の差を「見える化」したりすることで技術の伝承を円滑に進めることができるようになるだろう。

このような「課題」は現時点で克服する手法が確立していないため、「本当に実現できるのか?」、「導入することで効果があるのか?」といった不安要素がある上に、初期段階から大規模なシステム開発が必要になるため、最初の一歩を踏み出すことができなかった。

そこで、ロームグループのラピスセミコンダクタは、「簡単に使える」、「よく飛ぶ920MHz無線に対応」、「1個から購入、評価が可能」、「ホームページの特設ページに実現方法を公開」、「世界最小クラスの低消費電力」などの特長を持つ、IoTに最適なリファレンスデザイン、Lazuriteシリーズを開発した。(図1)

図1:IoTのリファレンスデザイン Lazuriteシリーズ
図1:IoTのリファレンスデザイン Lazuriteシリーズ
(左)Lazurite Sub-GHz、(中)Lazurite Pi GatewayとRaspberry Pi、(右)Lazurite 920J

遠隔モニタリングの概要とLazuriteの概要

遠隔モニタリングを行うIoTのシステムは、センサノード、ゲートウェイ、クラウドサーバの3つのハードウエアによって実現される。

センサノードは温度・湿度などを測定し無線でデータを送信する機器である。ここで測定されたデータはゲートウェイ(中継機)に集められ、そこから3G、LTE、Wi-Fiなどインターネット網に接続可能な通信手段を介してクラウドサーバに蓄積される。

LazuriteシリーズによるIoTは、Lazurite Sub-GHzとLazurite Pi Gateway、および市販のLinuxコンピュータ Raspberry Piによって実現することができる。Lazurite Sub-GHzはセンサノードに、Lazurite Pi GatewayとRaspberry Piはゲートウェイに最適なシステム構成となっている。(図2)

図2:センサノードのシステム構成
図2:センサノードのシステム構成

センサノードに最適な「Lazurite 920JLazurite Sub-GHz

Lazurite 920JLazurite Sub-GHzは低消費電力、920MHz対応、オープンソースのマイコンボードであり、センサの値を送信するのに最適なマイコンボードである。双方ともほとんど同じシステム構成であるが、Lazurite 920Jはシステムの最適化を実施することで更なる低消費電力化と小型化(SDカードサイズ:24mm x 32mm)を実現した。

双方ともラピスセミコンダクタが開発している世界最小クラスの省電力マイコン「ML620Q504H」を採用することで低消費電力を実現している。このマイコンは太陽電池で動作する時計や電卓などに数多く採用されているマイコンコアを搭載しており、動作中、および停止中の電力が小さくなるように設計されている。

また無線通信についても同社の無線通信LSI「ML7396D」を搭載した技適認証取得済の920MHz特定小電力無線モジュールを採用した。920MHz特定小電力は下表に示す通り消費電力が小さく、通信距離も長いためIoTへの活用が期待されている。この周波数はスマートメータにも採用されている周波数であり、また認証を取得したモジュールであれば免許が無くても使用できる周波数帯のため、幅広い利用が期待されている。(表1)

無線規格 周波数帯 通信距離 伝送速度 消費電流
特定小電力 400MHz帯 数100m ~4.8kbps 数10mA
特定小電力 920MHz帯 数100m ~200kbps 数10mA
ZigBee 2.4GHz帯 数10m ~250kbps 数100mA
無線LAN 2.4GHz帯 数10m ~300Mbps 数100mA

表1 : 国内で利用可能な近距離無線周波数

 

さらに、Lazurite Sub-GHzでは、誰でも簡単にソフトウエアを開発できるように専用のソフトウエア開発環境 LazuriteIDEも提供している。ソフトウエアは、LazuriteIDEをインストールしたパソコンとマイコンボードをUSBケーブルで接続するだけでC言語によってプログラム開発を行うことができる。ソフトウエア開発経験が無い人でもLEDの点滅や無線の動作確認を行うことができるようサンプルプログラムも同梱している。

このように、Lazurite Sub-GHzは低消費電力、無線通信に特長があり誰でも開発できるようにしたIoTのセンサノードに最適なマイコンボードといえる。

ゲートウェイに最適な無線モジュール「Lazurite Pi Gateway」

ゲートウェイはセンサノードから送信されてくるデータをインターネット上のサーバに送信してPCやスマートフォンから閲覧できるようにしたり、そのデータを解析して異常や緊急性を要する問題があると判断した場合はメールで管理者に連絡したりする機能を有する。

そのためには、次のような機能が要求される。

  1. 高度な解析を可能とする十分なコンピュータの性能を有していること
  2. センサノードが送信するデータを受け取ることができること
  3. インターネットや3G/LTE回線でインターネット網にアクセスできること

高度な解析をするためのコンピュータというと高額な印象を受けるが、Lazuriteシリーズでは「Raspberry Pi」を採用することでコストパフォーマンスの高いゲートウェイを実現した。Raspberry Piは数千円で購入可能であり、この2-3年で飛躍的に普及したコンピュータである。インターネット上に豊富な技術情報が掲載されているため、安心して使用することができるだろう。Lazurite Pi GatewayはRaspberry Piで920MHz特定小電力無線を行うための無線モジュールであり、これを介してセンサノードからの信号を受け取ることができる。Lazurite Pi Gatewayに対応したソフトウエアはインターネット上からダウンロードすることができ、現在ではC言語、Ruby、Python、Node-REDなど様々な開発言語で920MHz特定小電力無線を利用することができるようになっている。これらの使用方法は、Lazuriteのホームページ上に情報公開をしており、ソフトウエアはすべて無償で使用することができる。(図3)

図3:Lazurite特設ページ
図3:Lazurite特設ページ(http://www.lapis-semi.com/lazurite-jp/

導入事例

続いてLazuriteを使用したIoTの事例を2つ紹介する。

(1)工場モニタリング

機械加工工場では経営改革を推進していくために、その第一歩として工作機械の稼働率をモニタリングしたいと考えていた。検討した結果、工作機械に電流センサ(CTセンサ)を取り付け、電流の流れの有無で装置の稼働状況を判断できることが解ったが、既存の量産品ではシステムが高額な上に単機能という課題があった。そこで、LazuriteとCTセンサでセンサノードを構成、工作機械の電流変動を測定し通信距離に優れる920MHz帯域無線通信によってゲートウェイにデータ送信する工作機械の稼働状況モニタリングシステムを構築いただいた。(図4)工場は一辺が100m弱であったため、920MHz無線に対応したLazuriteであれば単独のゲートウェイで全ての情報を集めることができた。今後は、このシステムに追加する形で環境モニタリングなども追加していく予定である。

図4:工場モニタリング事例構成図
図4:工場モニタリング事例構成図

(2)ウインドサーフィンのモニタリング

ウインドサーフィンは風や海面など自然環境の状態を巧みに操り競技するスポーツである。その競技者の練習ではGPS装置を使い走行状況を確認するトレーニングや動画撮影による指導が行われている。しかし、セール操作は経験値の要素が非常に多く、セーリングスキル修得や競技技術の向上に向けた科学的な分析が課題であった。そこで、多対一の通信を簡単に実現できるLazuriteの特長を生かして、セール(帆)、ボード、競技者の3か所に取り付けたセンサを無線によって同期させながら姿勢情報を記録するシステムを開発した。それぞれ姿勢情報を計算するのに必要な9つのセンサ値(加速度・ジャイロ・地磁気センサ、各3軸)にGPSを加えた合計28個のセンサデータを電池駆動のシステムでSDカードに記録していく事ができる。それらのセンサ情報は無線で送信も可能なため、指導船上のコーチがリアルタイムにモニタリングしながら選手に指示を出すことも可能である。(図5)

図5:ウインドサーフィンのモニタリンク事例構成図
図5:ウインドサーフィンのモニタリンク事例構成図

まとめ

IoTは、モニタリングをすることが目的ではなく、課題解決をするうえでの過程である。先に述べた事例では、経営改革やスポーツの技術向上が目的であり、それを実現するための第一歩が現状把握、すなわちモニタリングである。このモニタリングはシステム開発を伴う為に開発期間を要し、導入コストが高いと第一歩を踏み出すことができない。また、導入したシステムに見直しが発生すると、その時点で導入したシステムはガラクタとなってしまうだろう。

その点、Lazuriteは1個から購入することができるために小規模でスタートすることがでるだけでなく、お客様の課題に併せてシステムを進化させていく事ができるという特徴がある。昨今では複雑な課題が絡み合った問題を解決していく事が求められていることからも、柔軟性の高いLazuriteを活用してお客様の課題解決をサポートし、安心安全な社会や競争力の高い産業の創出に貢献していきたい。