ハイレゾ時代に向けたオーディオLSIの品揃えを強化
設計者が音作りに注力できる音質と開発環境を提供

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ハイレゾ時代に向けたオーディオLSIの品揃えを強化
設計者が音作りに注力できる音質と開発環境を提供

サウンドプロセッサに続きオーディオSoCを製品化、D/Aコンバータも開発予定
日経テクノロジーオンライン SPECIAL 掲載記事

ラジカセ、CDコンポやテレビのような従来のAV(Audio-Visual)機器からBluetoothスピーカーやUSB-DACといった最新機器まで幅広い用途に向けたオーディオ用LSIを長年にわたって提供しているローム。同社は、従来よりも高音質のオーディオ機器を実現できるハイレゾ対応オーディオLSIのラインアップ強化に乗り出した。同社が提供する製品の大きな特長は、半導体の製造プロセスを一貫して手掛ける同社ならではの多彩なノウハウを駆使して音質を追求していることと、設計に必要な組み込みソフトウエアやリファレンスデザインが揃っていること。これらによってオーディオ機器設計者は、製品の競争力に磨きをかける「音作り」を一段と強化できる。

オーディオLSI市場におけるロームの歴史は長い。1970年代にオーディオLSIの市場に参入。それ以来、70年代のアナログ・オーディオ、80年代から90年代のCDを中心としたデジタル・オーディオ、さらに2000年代に登場したデータ圧縮技術を利用した圧縮オーディオといったオーディオ業界のトレンドを先取りする形で製品を展開してきた。応用分野は、家庭用機器、車載機器、パソコンや携帯型デジタル・プレーヤなど様々。しかも普及型の製品だけでなくハイエンド機にも搭載されているなど採用されている製品カテゴリの幅も広い。

このようにオーディオLSI市場で多くの実績を積むロームが、2016年ころからハイレゾ対応オーディオLSIの製品展開を加速している。2016年10月にサウンドプロセッサ「BD34704KS2 / BD34705KS2」を発表。2017年2月には立て続けに2品種発表している。一つは、車載機器用サウンドプロセッサ「BD34602FS-M」。もう一つは、オーディオの中枢部の回路を統合したオーディオSoC「BM94803AEKU」である<図1>。これらに続けてハイレゾ対応のD/AコンバータLSI、D級スピーカーアンプなどの新製品も市場に投入する計画だ<図2>。

オーディオの中枢部の回路を統合したオーディオSoC「BM94803A」
図1:オーディオの中枢部の回路を統合したオーディオSoC「BM94803A」
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オーディオ回路の構成
図2:オーディオ回路の構成
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ここにきて同社が、ハイレゾ対応LSIの品揃えを強化している背景には、高音質を重視したオーディオ機器の市場が広がる機運が高まってきたことがある。「2007年にハイレゾ音源の販売が始まると、欧米のオーディオ機器メーカーがこぞって再生機器の製品化を始めました。これを追うかたちで日本でもハイレゾ音源の提供や対応再生機器の製品化が活発化。いまや日本はハイレゾ化のトレンドをリードする市場になっています」(オーディオ&ビジュアル評論家 山之内正氏)。

1. 設計者の腕が生かせる音質を追求

同社が、ハイレゾ対応製品を開発するうえで重視しているのが、原音に忠実な音質である。「オーディオ機器設計者が独自に音質を調整する、いわゆる『音作り』は製品の差別化につながる、もっとも重要な工程の一つです。ロームのハイレゾ対応オーディオLSIは電気的特性が優れているだけでなく、オーディオ設計者の『音作り』を邪魔しない原音に忠実な音質を提供します」(同社 加藤氏)。

このためには優れた電気的特性を追求するだけでなく、聴感評価に基づく「音質設計」が不可欠だと言う。「『透明感』『臨場感』『広がり』『解像度』『定位感』『低音の量感』『歪感』『迫力』など複数の基準で評価しながら音質設計をしています」(同社 佐藤氏)。

音質設計には自由に音質を調整する技術が必要になる。ロームの場合、28種類にもおよぶパラメータを使って音質設計をしている<図3>。具体的には、回路設計、回路のレイアウト、ウエハプロセス、パッケージといった工程のそれぞれで音質に影響を与える複数の調整ポイントがある。材料から組み立てまで半導体の製造工程を一貫して社内で手掛けている世界でも数少ない半導体メーカーの一つである同社ならではの技術といえよう。

材料から組み立てまでの各工程で28のパラメータを調整できる
図3:材料から組み立てまでの各工程で28のパラメータを調整できる
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2.「音質設計」でハイレゾの特性を最大限に

音質設計技術を本格的に展開した製品が、2016年に発表したサウンドプロセッサ「BD34704KS2/BD34705KS2」である。音声データをアナログ信号に変換するD/Aコンバータの後段に配置するLSIだ。主に音量調整や信号経路の切り替えなどの機能を提供する。このLSIには、ハイレゾの特性を最大限に生かすための音質設計が随所に施されている。

例えば、音量調整回路に使われている抵抗素子の低域ノイズを従来品の約10分の1に低減。これによって小音量時の臨場感を向上した。半導体チップとリードフレーム(端子)を接続するボンディングワイヤーの素材にはAu(金)やCu(銅)があるが、サウンドプロセッサで目指す音質を実現するために視聴によりAuを選択した。「これによって原音が持つ弦楽器の音の艶を表現できました」(佐藤氏)。このほかにも、電源とグラウンドの共通インピーダンスの排除やLSIに集積したトランジスタのレイアウトの最適化などによって聴感上の音質を改善した。言うまでもなくこうした技術は、続いて登場した車載機器用サウンドプロセッサ「BD34602FS-M」にも適用されている。

3.リファレンスデザインで効率設計を支援

サウンドプロセッサの後に発表されたオーディオSoC「BM94803AEKU」には、システム制御マイコンを中心に、従来は別々のLSIとして機器に組み込まれていた、SDカードやUSBメモリなど外部記憶メディアとのインタフェース回路、音質調整用のサウンドプロセッサ、CDメディアからデータを読み出す「CD-DSP」、SDRAMなどが実装されている。ここで見逃せないのが、機能を統合しただけでなく独自の付加機能も実装されている点だ。その一つが、キズが入ってしまったCDや、普通では認識しにくい規格外のUSBメモリに記録された音声データを滑らかに再生できるようにする機能だ。「この機能は20年以上にわたって蓄積した経験やノウハウを基に実現したものです」(同社 岡本氏)。

この製品について設計者が注目すべきもう一つのポイントは、開発の効率化に貢献する環境が揃っていることだ。これを積極的に活用して開発時間を短縮すれば、製品の付加価値につながる音作りに十分な時間を費やすことができる。例えば、USB Audio Class 2.0(Asynchronous Device)対応ソフトウエア、USB-DACに必要なWindows PC用のASIO2.3対応USBドライバ、Windows/Mac PC用の再生アプリケーションなど、オーディオSoCの機能や性能を最大限に引き出せるソフトウエアが、あらかじめ用意されている。これらのソフトウエアを利用することで、接続に関連する複雑なソフトウエア開発などにかかる工数を大幅に削減できる。

さらに同社は、このオーディオSoCを中心に、アンプやCDドライバなどロームのオーディオ関連デバイスと周辺アプリケーションを実装したリファレンスデザインも業界で初めて提供する<図4>。様々な機能の動作を実機で即座に確認できるので、リファレンスデザインをベースに多機能なオーディオ機器でも効率良く開発することができる。

ハイレゾ対応オーディオSoCを中心に多数の機能を実装したオーディオリファレンスデザイン

図4:ハイレゾ対応オーディオSoCを中心に多数の機能を実装したオーディオリファレンスデザイン
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高音質を追求したオーディオ機器が多くの消費者から支持を受けるなど、高音質を重視する機運は市場に着実に広がっている。こうした中で、さらなる音質の向上と「音作り」による製品の差別化に取り組むオーディオ機器設計者は増えているはずだ。しかも、その多くは市場の動きに的確に追従するために製品開発の効率化を迫られている。こうしたオーディオ機器設計者にとって、優れた素材であると同時に充実した開発支援環境も揃っているロームのハイレゾ対応オーディオLSIは、強力な味方と言えそうだ。

※日経BP社が運営する技術者向け情報サイト「日経テクノロジーオンライン SPECIAL」に、2017年3月22日から2017年4月21日まで掲載したコンテンツを許可を得て転載しています。