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特集:車載用半導体デバイス技術
超低消費電力の車載用電源IC

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超低消費電力の車載用電源IC

世界の主要自動車メーカーは、環境問題に対応するためにHEV及びEVの開発、投入拡大を計画している。また、今後需要が更に拡大すると予想される新興国向けにコンパクトカー、ローコストカーの開発、投入もそれぞれ計画している。ただし、前述のEVはバッテリやモータを主動力として使用するため、現段階ではまだまだガソリン車に比べ航続距離が短く、普及への課題は多い。
そのため、ヨーロッパでは既に普及している高効率低燃費ディーゼルエンジンをベースとし、そこにハイブリッドシステムを付加したディーゼルハイブリッドでの開発が進められている。
こうした状況下、自動車メーカーから環境配慮の付加価値の取れる高機能な部品の開発要望も出ている。これら自動車メーカーの動向に伴い、これまで同様、車載アプリケーションの多機能化は進められ車載搭載電子部品は年々増加傾向にある。また、それは新興国向けのローコストカー、コンパクトカーであっても同様で、もはや自動車開発にとって電子部品の増加は避けることができない上、これまで以上に製造コストと付加価値を意識した製品が必要になってきている。
今回その車載半導体の中でも車載アプリケーションを動作させるために必要な電源について紹介する。電源ICには大きく分けてシリーズ電源とスイッチング電源の2つがあるが、ローム電源開発は前述の要求に応えるべく、それぞれの電源開発において日々新しい技術に取り組んでいる。
電源ICの高周波数動作化、高効率化といったような基本性能特性の向上はもちろんのこと、市場特有のニーズに応じた電源IC開発を進めている。その大きな要求の一つが「低消費電流化」である。これは市場ニーズの「付加価値」に類する。
今、車載部品搭載数増加に伴い一つひとつの部品に要求される消費電流の低減が急務である。この状況に対し、車載アプリケーションとして低消費化を実現するにあたり、常時動作用の必要最低限の構成にして低消費電力化を実現したりしている。
「電源ICの低消費電力化」は一つひとつの部品の低消費化や上述の常時動作マイコンの電源として低消費化というニーズに応える技術である。

駐車時動作機能例
図1.駐車時動作機能例

エンジン未始動時のバッテリ通電のみの車のスタンバイ状態や駐車時(キーOFF)などに動作する機能では特に低消費が重要になる。エンジン未始動時ではエアコン、パワーウィンドウなどがある。最近では電動パワーステアリング化に伴いエンジン停止時の舵角検知なども搭載されている。駐車時(キーOFF)ではカーナビゲーションシステム、セキュリティシステム、時計などがある(図1)。これら機能のエネルギーはメインバッテリ、蓄電池から供給されることになる。
また、自動車の海外輸出は長期間船舶により輸送されるが、完成車両状態で輸送されるため、バッテリに蓄えられた電気が輸送中徐々に消費され、現地に着いたときにバッテリ上がりを起こしている場合もある。対策として、バッテリを外して輸送する手段が講じられていたりするが、現地到着時の組立て工数の増加となりトータル製造コストが増加する。そのため、車の多機能化に伴いバッテリエネルギー消費を減らすことが急務となっているのである。電源ICの低消費電流化はこれらの対策として有効な手段である(図2)。

車の低消費電流化
図2.車の低消費電流化

回路電流、6μAを実現

シリーズ電源では、2005年からBD393x/394xシリーズという当時世界トップレベルの低消費電流LDOを開発。回路電流30μAと非常に優れたものであり、同時に車載ICとして厳しい条件下での使用にも耐えうる高信頼性を実現したICであった。その後ロームは、シリーズ電源低消費電力化という分野でトップレベルを走っており、今回更なる低消費電流化を実現したBD7xxLxシリーズの開発を行った。車載アプリケーションで要求される消費電流が3分の1以下になってくることもあり、回路電流を従来ICよりも5分の1に低減し6μAを実現した(図3)。これは車載用電源ICにおいて世界でもトップクラスの低消費電流LDOである。

ロームの回路電流の推移
図3.ロームの回路電流の推移

BD7xxLxシリーズは負荷電流が"0"の時の回路電流が少ないだけでなく、出力負荷が流れた際にも、IC自身の回路電流が増加しない。これは他の電源ICと差別化を図っている点でもある。負荷電流に依存する回路電流の増加は負荷電流に比べると少ないものではあるが、自動車で求められる高温環境では回路電流による消費電力が問題となる可能性があり、徹底的に低消費電流化にこだわった。
しかしながら、低消費電流化にはいくつか背反事項も挙げられる。これらの背反事項を解決するためには、ロームが蓄積した技術とその応用が必要であった(図4)。

低暗電流化による背反事項
図4.低暗電流化による背反事項

消費電流を抑えるには大抵抗を内蔵しなければならず、従来よりも小型化できないためチップサイズの増加を招き、製造コストが増加してしまう。これはローコスト化にとって大きな障害となってしまう。また、大抵抗を内蔵した場合、外部からのノイズに対する影響を受けやすくなる可能性がある。
また大抵抗でなくとも低消費電流化された電源ICは、その電流値の少なさから外部ノイズの影響をより受けやすくなってしまう。そのためノイズに対しての耐量を確保することもこれまで以上に重要となる。
次に、回路応答性の悪化が挙げられる。回路電流を減らすことは、駆動電流を減らすこととなり回路動作の遅延に直結する。そのためICの入力変動時の出力安定性などが回路動作遅延により、従来よりも悪化してしまう懸念がある。IC起動時の起動遅延時間増加も懸念の一つだ。電源ICの入力端子はバッテリに直結されるが、バッテリ電圧はある程度一定の電圧を保つものの安定した電源装置という位置づけではない。特にエンジン始動時や車の各機能が動作したときのバッテリ電位は変動する。よって入力電圧変動時の出力電圧の安定性は重要な特性である。
高温動作でのリーク電流の影響を受けやすくなることも懸念事項の一つである。リーク電流は微小だが前述の高抵抗が内蔵されているためリーク電流と内蔵抵抗による電圧発生が誤動作を引き起こす可能性が高まる。
ロームの新商品群BD7xxLxシリーズは、これらの背反、懸念に対し、培った低暗電流の回路技術を駆使し、新たな回路を考案したことやレイアウトなどを工夫することにより業界トップの低消費電流化を実現しつつ、従来の電源ICと同などの基本特性を実現した商品開発に成功した。
出力電圧ラインアップは3.3V、5.0Vの2電圧。出力電流能力は用途に応じて200mAと500mAのラインアップを揃える。パッケージはSMDパッケージ、基板の省スペース化に対応するSOP型など、小型パッケージから放熱特性に優れたパッケージまでお客様の使用用途に応じたラインアップを揃えている(図5)。

BD7xxLxシリーズのラインアップ
図5.BD7xxLxシリーズのラインアップ

暗電流20μAのSW電源開発進める

また、スイッチング電源においては、20μAの暗電流を実現するシリーズを現在開発中である。従来のスイッチング電源にある重負荷時に高効率を実現するだけでなく、SLLMTM (Simple Light Load Mode)により軽負荷時にも低消費電流、高効率を実現しており、上記LDO同様暗電流の設計に貢献できるのが特徴である。
スイッチング電源の低暗電流化もLDO同様背反が存在するが、スイッチング電源はそれらに加え回路構成がLDOよりも複雑かつ構成要素が多いことから、ICを駆動する消費電流要素が増加してしまうことや、スイッチング動作しているためスイッチング回路での電力損失を減らすことが一般的に困難だ。
また、過負荷時はこのスイッチング動作により電力損失を抑えることが可能であるが、軽負荷時はその効率の維持が困難である。
本シリーズでは、負荷が少ない場合は自動的にSLLMTMに切り替わる。このSLLMTMでは不要なスイッチングパルスが間引かれ、次のスイッチングが開始するまでの区間は必要最低限の制御回路のみ動作し、他の回路は低い消費電流で待機する。
ロームの車載用スイッチング電源では、このSLLMTM導入により軽負荷時の低消費化を実現し、かつ過負荷時の電力損失も従来と同様の効率も維持した。
スイッチング電源はシリーズ電源に比べその効率の高さから部品搭載数増加に伴う発熱、負荷電流増加などの有効な対策として位置づけられている。シリーズ電源はスイッチング電源に比べ外付け部品が少ない、回路構成がシンプルなどの理由からコスト面で優位であるため、シリーズ電源とスイッチング電源は状況に応じて使い分けられているが、今後スイッチング電源は低消費電源の主流になっていくであろう。
上記を踏まえ、今後の展開として、低消費設計という市場ニーズに対し、回路電流の低減だけでなく、スイッチング電源の電力変換効率向上(90%~)やスイッチング高周波数動作化(2MHz~)による高応答性およびコイル・コンデンサなど搭載部品の小型化などロームの製品ラインアップ充実の開発に力を入れていく。


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