特集:SiCパワー・デバイス
量産が本格化するSiCパワー・デバイス
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SiC power device
SiCパワー・デバイスの量産に乗り出す半導体メーカーが、ここにきて相次いでいる。先行したドイツInfineon Technologies社、伊仏合弁のSTMicroelectronics社、米Cree社に続いて、2010年4月に日本企業では初めてロームがSiCパワー・デバイスの一つであるショットキー・バリア・ダイオード(SBD)の出荷を開始。このほか新日本無線、三菱電機も2010年秋からSiC SBDの量産出荷を予定している。 |
SiCパワー・デバイスを製品化する動きが加速しているのは、地球温暖化対策の一環として「省エネ」を進めるために、電気・電子機器における電力損失を抑えることが、機器メーカーの重要な課題の一つとして浮上してきたことがある。SiCパワー・デバイスの基本材料であるSiC(シリコン・カーバイド)は、Si(シリコン)の約10倍と高い絶縁破壊強度、約3倍と広いバンド・ギャップ、約3倍の熱伝導率と優れた特性を備える。このため、従来のSiを使ったパワー・デバイスをSiCパワー・デバイスに置き換えることで、回路で発生する電力損失を大幅に削減できる。 |
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品質向上が製品化を後押し
こうした状況が変わり始めたのは2008年ころからだ。当初問題になっていた「マイクロパイプ(中空貫通欠陥)」と呼ばれる欠陥がほとんど見られない高品質のSiCウエーハを供給できるメーカーが続々と市場に参入。同時に、製造技術が進歩したことで生産時の歩留まりも高まってきた。これとともにSiC SBDの価格が下がりはじめ、いよいよSiCパワー・デバイスの市場が立ち上がる機運が高まってきた。 |
日本の半導体メーカーの中で、いち早くSiCパワー・デバイスの製品化に乗り出したローム。同社は、ショットキー・バリア・ダイオード(SBD)を皮切りにSiCパワー・デバイスの製品展開を積極的に進める考えだ(図1)。 |
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同社が提供するSiCパワー・デバイスの第1弾製品が2010年4月から出荷を始めたSBD「SCS110Aシリーズ」である(図2)。まず最大定格600V(VRM:せん頭逆電圧)の製品を提供。順次品種を増やす予定だ。「汎用品のラインアップを揃えるほか、個々のお客様のニーズに応じたカスタム品を提供する準備も整えています」(同社ディスクリート・モジュール生産本部 SiCチーム チームリーダーの伊野和英氏)。 |
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新たなデバイスが続々と登場
同シリーズの逆回復時間(Trr)は約15nsecと、S(i シリコン)を使った従来のファスト・リカバリ・ダイオード(FRD)の約半分以下である。これによってリカバリ時に生じる損失を約3分の1に低減できる。このため、インバータ回路、コンバータ回路、PFC(力率改善回路)に使われているSi FRDをSiC SBDに置き換えれば、回路の発熱量を格段に抑えられる。そのうえ、SiCは温度に対する特性変化が極めて少ないうえ、高温でも安定して動作するので、Si FRDを使った場合に比べてヒートシンクなど冷却用の周辺部品を小型化できるという利点ももたらす。「これによってシステム・コスト低減を図れる可能性があります」(伊野氏)。 |