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ADAS、自動運転、安全を守る自動車のテクノロジーを解説​​​​​​​

08/05/2020

自動車を選ぶ際、あなたは何を基準にするでしょうか。
ブランドやデザイン、乗車人数といった要素はもちろん、最近では、カーナビなどによる運転の「利便性」や、シートヒーターやオーディオなどによる「快適性」も自動車を選ぶ際の判断基準に加わっています。
そして2010年代には、この基準に新たな傾向が見られるようになりました。それが今回紹介する「先進運転支援システム(Advanced Driver-Assistance Systems:以下、ADAS)」や「自動運転システム(Autonomous driving system、AD)」です。
ご存知の方もいるかもしれませんが、実はADASと自動運転システムの間には違いがあります。ここでは、それぞれの定義や技術などに触れながら、安全を守る自動車のテクノロジーを紹介します。

ADAS、自動運転、安全を守る自動車のテクノロジーを解説

ドライバーの安全な運転をアシストするADAS

「ADAS」と「先進運転支援システム」は同じ意味で、どちらも一般的に使われていますが、ADASのほうが見たり聞いたりする機会が多いかもしれません。

ADASが誕生した背景には、事故の防止やドライバーの負担軽減といった安全性の向上を目指す目的があります。

これまで「安全運転」は、ドライバーが道路や周囲の状況を見て、その状況に合わせた判断(運転)をすることで成り立っていました。自動車教習所などで運転時に注意すべきポイントを習いますが、不注意や気の焦り、身体能力や認知機能の低下など、人間のミスにより交通事故は起きてしまいます。実際に、日本での交通事故発生件数は38万1002件(2019年、警察庁調べ)です。この数字は前年よりも約5万件減っているとはいえ、事故が珍しい出来事ではないことを物語っています。

こうした事故に対して従来は、ブレーキを急に強く踏むことで作動するABS(Anti-lock Brake System、アンチロック・ブレーキシステム)や、車に強い衝撃が加わることで作動するエアバッグなど、「何かが起きてから」作動するシステムが主流でした。

対してADASは、ドライバーの安全な運転をアシストする、つまり「何かが起きる前」に作動するシステムです。従来システムとの大きな違いは、プログラムに基づいて自動車およびシステムが自律的に作動する点にあると言えます。

例えば、自動ブレーキです。車体速度と前方の障害物の距離などを計算し、「衝突の危険性がある」と判断される場合はドライバーの操作がなくてもブレーキがかかります。

このように、これまでドライバーだけに委ねられていた安全運転の役割を、技術の進歩によって自動車が一緒に担ってくれるようになってきています。

自動ブレーキだけじゃない、ADASの機能

下の表では、ADASの主な機能をいくつか紹介します。

機能の名称 概要
アダプティブクルーズ
コントロール
車体前方のセンサで前を走る車との車間距離を検知し、アクセルを踏まなく
ても一定に速度をコントロールできる機能。
衝突被害軽減ブレーキ
(自動ブレーキ)
センサやカメラが自動車の周囲にある障害物を検知し、衝突のおそれがある
場合は警告や自動でブレーキ制御を行う機能。
車線逸脱
警報システム
カメラで道路上の車両通行帯やセンターラインを画像解析し、ふらつきなどによって
車線をはみ出した際、ドライバーに警告をだす機能。レーンキープアシストともいう。
駐車支援システム 車体前後左右のレーダーやカメラなどで、
ドライバーに周囲の状況を分かりやすく伝え、駐車時の運転を支援する機能。
パーキングアシストともいう。
照明コントロール 暗所での自動点灯や、ハンドル角度(曲がる方向)や対向車の有無に合わせて、
ヘッドライトの角度調節を自動で行う機能。
ドライバーモニター 運転席のカメラでドライバーの表情を画像解析し、
居眠り運転のおそれがある場合に警告する機能。
カーナビゲーション 目的地までのルート案内のほか、リアルタイムで交通状況などを
ドライバーに知らせる機能。
車車間・路車間
通信システム
ほかの車両や交通規制システムなどと通信し、
カーナビゲーションなどを通じて安全運転のための情報を送受信する機能。

自動ブレーキの普及が進む

ADASには上の表以外の機能もありますが、ここでは代表的な機能を取り上げてみました。これら機能の中でも自動ブレーキは世界的に導入が進められています。2019年6月にスイスのジュネーブで開催された「WP29」では、共同議長国である欧州連合と日本が提案した内容に則って、乗用車における衝突被害軽減ブレーキの国際基準が成立。それ以来、各国で自動ブレーキの義務化が予定されています。

例えば、日本では、世界の中でも比較的早い段階での義務化が始まります。2021年11月以降に発売される新型車種の自動車に対しては、既に自動ブレーキ搭載の義務化が決定しています。また、既存車種の自動車に対しても、2025年12月以降に発売されるものについては、自動ブレーキの搭載が義務づけられることになりました。

他にも、ヨーロッパで実施されている自動車安全テストのユーロNCAPや、米国道路安全保険協会(IIHS)の評価基準でも、最高安全評価を得るためには自動ブレーキの搭載が必須となったほか、2012年にイギリスが保険のレーティングを引き下げたのを皮切りに、先進諸国の多くで自動ブレーキ搭載車への自動車保険料の優遇や割引なども進んでおり、自動ブレーキ義務化の下地が整いつつあります。

自動ブレーキの主な試験方法

自動車メーカーが進めるADAS技術開発

各種ADAS機能は、前述した自動ブレーキのように世界基準が設けられたものをのぞいて、自動車メーカーがそれぞれ開発を進めています。

また、どの機能を標準的に、もしくはオプションとして搭載するかも異なります。中には、メーカー独自の名称をつけたパッケージにすることで、安全性能をブランドイメージとして訴求している自動車メーカーもあります。

ADASの延長線にある自動運転

ADASはこれまで、しばしば「自動運転」に近いような表現で登場していました。しかしここまで紹介したような機能は、「運転をアシストする」システムであり、「自動で運転をしてくれる」システムではありません。実際に、ADAS搭載車が自動運転システム搭載車と勘違いされることも多いようで、自動車メーカーに対してADAS搭載車に「自動運転」という言葉を使用せず、「運転支援」と表現するように求めた国もあるほどです。

では、ADASと自動運転はどのような関係性にあるのでしょうか。技術的には、ADASの延長に自動運転があり、0~5のレベルによってそれぞれの機能を定義しています。

このレベル分けはアメリカ合衆国の運輸省が発表したSAE(Society of Automotive Engineers)の定義がベースとなっています。下の図で、ADASと自動運転の違いについて簡単に説明します。

ADASと自動運転の違いについて

ADASと自動運転の境界線はレベル2と3

この定義ではレベル1~2をADAS、レベル3~5を自動運転と分類されています。ADASと自動運転の境界はレベル2「部分的運転自動化」とレベル3「条件付き運転自動化」の間にありますが、この違いについて少し見てみましょう。

ポイントになるのは、「状況を判断して自動車を動かす主体は誰か」ということです。

「自動車を動かす主体」には、道路をはじめとする状況を見るなど、安全に運転するための「情報を得ること」と「情報にもとづいて運転すること」が求められます。

レベル2では、運転中に情報収集・判断・実行をする主体はドライバー、つまり人間です。あくまでシステムはドライバーの手助けをするために判断材料や操作の手伝いを提供する立ち位置です。

一方、レベル3の場合は、各種センサやカメラなどによる情報収集だけでなく、その情報にもとづいた判断・実行もシステムが主体になって行います。ただし、レベル3では、基本的にはシステムが運転を行いますが、技術の関係などでドライバーが介入する必要のある状況や、システムの故障などで何かあった際の対応については、人間がサポートする点には注意が必要です。

安全性こそが技術開発には欠かせない

ADASや自動運転に限らず、新しい技術の導入には必ず不安や懸念がつきまといます。特に自動車の場合は、一つのミスが人命にかかわる交通事故につながる可能性も大きく、より安全性が必要とされる分野です。そのため、ここで紹介したADASの機能ひとつをとっても、確実に、かつ安定的に作動することが求められます。

その土台として、例えば車載のセンサやカメラだけでなく、搭載される小さな電子部品のひとつひとつにまで高い品質が求められます。

安全性こそが技術開発には欠かせない

一方で、いかに高品質のシステムや電子部品であっても、故障や不具合が起こらない保証はありません。使用条件の変化や経年劣化など、常にリスクは付きまといます。

そうした安全に対する品質を考えるときのキーワードが「機能安全」です。これは、「安全を確保する機能を導入して、リスクを許容できるレベルに落とし込む」という考え方で、万が一何らかのシステムや電子部品に故障があっても重大な事故を起こさないようにすることを指します。

自動車向けの機能安全規格「ISO 26262」

ADASや自動運転で、安全性をさらに向上するためには、機能安全のアプローチは欠かせないものです。このため、自動車向けには、機能安全規格が策定されています。それが車載電子制御の機能安全に関する国際規格「ISO 26262」です。

このISO 26262には、用語集から機能安全の管理にはじまり、コンセプトフェーズ、システムレベルにおける製品開発、半導体ガイドラインなど、自動車の機能安全に関する決まり事が12項目に分かれて詳細に記されています。

自動車事故の未然防止に貢献するローム

ロームは、安全に対する機能安全の重要性を理解しており、2018年にドイツの第三者認証機関であるテュフ ラインランド(TÜV Rheinland)より、半導体メーカーの中ではいち早くISO 26262の開発プロセス認証を取得しました。これは、同規格での最高レベルの安全度水準となる「ASIL-D」まで対応可能だと認められたことを意味しています。

また、ロームは業界に先駆けて2017年より機能安全に対応した高精細液晶パネル用チップセットの提供を、2019年には業界初の自己診断機能を内蔵した電源監視ICの提供を開始するなど、ADASの本格化に伴い重要になっている「機能安全」をサポートする取り組みを進めています。

●高精細液晶パネル用チップセット

高精細液晶パネルを駆動するゲートドライバ、ソースドライバ、タイミングコントローラ (T-CON)、それらを最適に動作させるパワーマネジメントIC(PMIC)、ガンマ補正ICで構成される、このチップセットの特長は、液晶パネルの不具合や各ICに想定される故障モードを相互に検出するための機能が盛り込まれていることです。システムに不具合が起きた際に、従来は画面がフリーズして大事故につながる可能性があったのに対して、このチップセットは機能安全に対応し、運転者が異常に気付くような機能を持たせることで、スピードメーターやサイドミラーの液晶パネル化で懸念される重大な事故の未然防止に貢献します。

高精細液晶パネル用チップセット

ロームでは創業以来掲げる「品質第一」の企業目的のもと製品開発を行うことで、高いレベルでの品質が求められる自動車分野に対してもその強みを発揮しています。

リンク先:
より安心・安全な自動車に 電子部品の機能安全に向けたロームのとりくみ
https://www.rohm.co.jp/blog/-/blog/id/6458532