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デバイスサプライヤからソリューションプロバイダへ 開発支援ツールの必要性

03/13/2019

世界的な半導体メーカーは、単なる部品サプライヤから、顧客の要望をくみ取ったソリューションプロバイダへと変貌を遂げつつあります。また、セットメーカーの設計負荷を軽減するため、デバイスのシミュレーションツールやプラットフォーム化も重要視されています。日本の半導体メーカーであるロームもこうした取り組みに力を入れている企業のひとつです。今回は、一例として、SiCパワーデバイスのシミュレーションツールと、センサ開発プラットフォームを紹介します。

 

2018年10月16日~19日に東京で開催されたCEATEC JAPAN 2018のロームブースでは、ソリューション提案の一環として、クルマのモックアップを展示しました。クルマのどこにロームの製品が使われているのかがよくわかるデモンストレーションです。例えば、自動運転に向けたADAS技術の一つとして、クルマの後ろに超音波センサを配置し、人が近づくと超音波センサが人を検出し運転席のLEDが点灯するなど、ロームのデバイスを活用した様々な機能を紹介し、多くの来場者の興味を惹きました。加えて、もうひとつエンジニアの興味を集めていたのが、製品導入までの障壁を下げるシミュレーションツールと開発プラットフォームです。

 

SiC パワーデバイスの特性を正確にシミュレーション

ロームがこれまで世界に先駆けて開発してきたSiCパワーデバイス(以下SiC)は、近年、電気自動車(EV)への応用が活発化しています。車載充電器から始まりモータ用インバータに至るまで搭載箇所が増えています。SiCを採用するメリットは高効率化と小型化です。SiCには電力変換時のスイッチング損失が低いという特長があります。電力を効率良く使うことができるため、充電時間の短縮や航続距離をのばすことができます。また、シリコンのIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)に比べ、高速スイッチングが可能です。これにより、SiCの周辺に使うコイルとコンデンサの体積を小さくできます。実はこれらの受動部品は半導体部分よりも大きな体積を占めているため、インバータ自体を大幅に小型化することができます。

SiCパワーデバイスは本格的な普及期にあるものの、デバイスの特性を最大限に引き出して使うには回路設計が難しいという課題がありました。この課題解決に役立つのが、今回CEATEC JAPANで紹介した、SiC MOSFETの高精度なデバイスモデルの作成技術です。この方法で作成したモデルを用いることで、回路設計に欠かせないスイッチング特性について、実測と非常に近い結果を得ることに成功しています。

写真1. デバイスと共に紹介された新しいSiC MOSFETモデル作成技術

高精度なデバイスモデル作成のため、特に工夫を施した点がデバイスモデル作成の基になる電流-電圧特性の測定です。従来はカーブトレーサーを使って電流-電圧特性を観測していましたが、SiCが活きる高電圧・大電流の領域(例えば600V/100A程度)では、デバイスの自己発熱が問題になり、測定ができませんでした。そこで、発熱を抑えた状態で電流-電圧特性を測定するローム独自の方法を開発し、モデル作成に用いることで、高電圧・大電流領域で実測に近いターンオン波形の解析結果を得ることに成功しました(図2 左図)。一方、精度の高いターンオフ波形(図2 右図)を得るために、SiCのスイッチング特性を決めるもう1つの要素である容量を、トランジスタがオン・オフ両方の状態で測定できる方法を開発し、これを用いてモデルを作成しました。

デバイス以外にも、SiCを高速スイッチングさせた場合に、スイッチング特性に影響を与えるパッケージや実装基板の浮遊容量や寄生インダクタンスを表現するモデルも作成しており、解析結果のさらなる精度向上を実現しています。

さらに、これらのモデルを使うことで、スイッチングで発生するノイズのシミュレーションも可能になります。

図1. SiC MOSFETのスイッチング特性シミュレーションと実測の波形
※本SiC MOSFETモデル作成技術について、詳細はこちらの論文をご覧ください。

こうした様々な工夫を凝らして作成した高精度デバイスモデルを用いた回路シミュレーションが、実際に回路をつくり、評価し、修正するというセットメーカー側の設計工数削減につながります。ロームは精度の高いデバイスモデルを提供することで、スムーズなデバイス導入に貢献し、SiCパワーデバイスのさらなる普及を目指します。

 

センサシステムの開発期間を大幅に削減する開発プラットフォーム

クルマを含め、あらゆるアプリケーションで大量に採用されるセンサでも、同様に開発支援ツールが求められています。冒頭で紹介した超音波センサもその1つですが、アプリケーションで使用するためには、それぞれ特性の違うセンサ素子の信号を、アナログフロントエンド(AFE)と呼ばれる回路を経て、マイコン向けのデジタル信号に変換する必要があります。

しかし、センサ素子に適したAFEの回路仕様を決めるのは大変な作業です。センサ素子の種類だけでなくシステムの仕様も配慮してAFEの設計を行う必要があるため、センサ素子の信号を取り込む計装アンプに加えて、要求されるデータ変換の速度や分解能に対して、それぞれに最適なADコンバータなども準備しなければなりません。このような背景により、どのようなセンサ素子にも対応できるセンサAFEの開発プラットフォームが求められています。

図2. センサ素子の多様性と様々なアプリケーション要求により多様化するセンサシステム

今回CEATEC JAPAN 2018で紹介した、センサAFE用 FlexiblePlatformⓇ(ICの品番はBD40002TL)は、センサ素子の特性やシステムの仕様に幅広く対応するため、計装アンプやオペアンプ、AD/DAコンバータ、コンパレータなどのアナログ回路ブロックのほか、測定結果の平均化処理や温度補正といった数値演算を受け持つマイコンやFPGAなどのデジタル回路ブロックを集積しています。

そして、このプラットフォームは、ロームが提供するGUIツール「RapidMakerⓇ」を使いPC上でICのアナログ回路・デジタル回路をフレキシブルに変更できるため、センサ素子に対してシステムの仕様ごとに変更が必要なAFEを柔軟に実現し、センサシステムを実機評価することができます。従来は、センサ素子とは別々にAFEを開発し、最後に実機評価していたため、手戻りが発生するなどで開発に時間がかかっていましたが、このプラットフォームを利用すれば即座に実機確認ができるため、例えば一年以上かかっていた開発期間を、大幅に短縮することができます。

写真2. CEATEC JAPAN2018で展示したセンサAFE用 FlexiblePlatformⓇ

 

セット設計負荷軽減のため、求められる開発支援ツール

高機能・高性能なセットへの期待が高まるにつれて、半導体メーカーが単に製品を紹介するだけではセットメーカーのエンジニアは興味を抱かない時代になってきました。前年より2.6%多い15万6,063人の来場者数を記録した今回のCEATEC JAPAN 2018でも、昔に比べ、様々な企業が開発ツールやリファレンスデザインなどを数多く展示していたように感じます。今後さらに、今回ご紹介した2つのツールのような開発支援ツールの必要性が、アプリケーション側だけでなく、デバイス側でも高まっていくでしょう。