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テクノフロンティア技術シンポジウム講師に聞く SiCパワーデバイスの製品化が加速 「MOSFETで世界初の量産を目指す」

ウエーハからデバイスまで一貫生産体制を構築 | 社内に一貫した生産体制を構築 | 業界が目を見張る開発成果が続々 | 
SiC MOSFETで「世界初」を目指す

展示会と並ぶテクノフロンティアのもう一つの大きな見所は併催の技術シンポジウムだ。今回、ここで二人のロームの技術者が演壇に登った。講演テーマはいずれも、いま注目を集める「SiC」。そこで講師の一人に講演内容の重要なポイントについてさらに話を聞いた。

テクノフロンティアは、テーマが異なる複数の展示会を集めて一つにした大型の展示会である。大きな特長の一つは、展示会ごとに関連する技術シンポジウムが、展示会と隣接する会場で開催されることだ。今回ロームは、「モータ技術シンポジウム」と「スイッチング電源技術シンポジウム」で講演を行った。講演テーマは、それぞれ「SiCパワーデバイスの開発の現状」と「SiCパワーデバイスを用いたパワーモジュール」である。どちらも、SiCパワーデバイスに関連する内容だ。
SiCパワーデバイスは、従来のSi半導体を使ったパワーデバイスよりも小型で、導通時のオン抵抗やスイッチング時の損失が小さいため、低消費電力、高効率である。このため、地球温暖化対策に貢献する「エコデバイス」として、電子・電機機器をはじめ自動車などエレクトロニクスに関連する幅広い分野で注目を集めている。
「モータ技術シンポジウム」の講演風景
[図1]「モータ技術シンポジウム」の講演風景
しかもロームは、SiCパワーデバイスの技術開発と実用化では業界をリードする企業の一つとして知られている。このため、SiCパワーデバイスをテーマにした同社の2件の講演は、全シンポジウムを合わせて百数十件にもおよぶ講演の中でも、特に多くの注目を集めていたたようだ(図1)。

ウエーハからデバイスまで一貫生産体制を構築

2件の講演のうち、モータ技術シンポジウムで講師を務めた同社研究開発本部 新材料デバイス研究開発センター リーダー(主任研究員)の三浦峰生氏は、講演の冒頭でSiCパワーデバイスがエレクトロニクスの分野にもたらす利点を解説したうえで、基本となるSiC(シリコン・カーバイド、炭化ケイ素)の半導体材料としての特長を説明。これに次いで、2010年4月から同社が量産を開始したSBD(ショットキー・バリア・ダイオード)の技術を紹介した(図2)。
実はSiC SBDを量産している半導体メーカーは世界でも数社とまだ少ない。日本の半導体メーカーの中では、同社が先駆けである。最初の製品は、定格電圧600Vで定格電流10Aの「SCS110Aシリーズ」だ。「すでに、2005年から先行して開発したデバイスのエンジニアリング・サンプルを提供し、一部のお客様に評価をしていただいていました。
2010年4月から量産を開始したSiCショットキーバリアダイオード「SCS110シリーズ」
[図2]2010年4月から量産を開始した
SiCショットキーバリアダイオード「SCS110シリーズ」
その結果をフィードバックする形で性能や信頼性を高めたのが、今回の製品です。この後、定格電流6A、同20AのSBDを製品化する計画も進めています」(三浦氏)。主な用途はエアコン、薄型テレビなどに搭載される電源のPFC(Power Factor Correction)回路である。「電源のPFC回路に組み込まれているSi ダイオードをSiC SBDに置き換えることによって、家電製品の消費電力を4%も削減できる可能性があります」(三浦氏)。

社内に一貫した生産体制を構築

同社は、SiC SBDの製品化に向けて、ウエーハから組み立てまで一貫した生産体制も整えた。SiCパワーデバイスの基本材料となるSiC基板については、2009年にドイツの大手SiCウエーハ・メーカーのSiCrystal社をローム傘下におさめ、同社から供給を受けるようにした(図3)。「安定して高品質な製品を供給できる体制を構築するには、ウエーハから社内で調達できるようにすることが重要だと考えました。しかも、低コストを追求するうえでも有利です」(三浦氏)。ウエーハにデバイスを作り込む前工程は関連会社のロームアポロ・デバイス、パッケージングなどの後工程はタイのROHM Integrated Systems (Thailand) Co., Ltdが担当する。

シンポジウムの講演では触れなかったが、同社のSiC SBDには、低コスト化を意識して開発した独自技術も盛り込まれている。「SiC SBDの内部で発生する電界集中を抑えるためにガードリンク層を設けます。
この層を作るプロセスでは従来1700℃程度の高温の熱処理が必要でしたが、1000℃程度の熱処理で済む新しいプロセスを独自に開発しました」(三浦氏)。熱処理の温度を下げたことによって、従来のSi半導体向けに開発した熱処理装置が、そのまま流用できるようになった。新たに専用装置を開発しなくて済んだことで、製造コストの上昇を防ぐことができた。
]SiCパワーデバイスだけで構成した
[図3]SiCrystal社のウエーハ

業界が目を見張る開発成果が続々

同社が、業界でいち早くSiC SBDを製品化できた背景には、約10年前からSiCパワー半導体の開発に力を入れてきたことがある。「従来から、低耐圧~中耐圧のパワーデバイスは提供していましたが、高耐圧のカテゴリの製品は持っていませんでした。そこで、この領域への市場参入を目論んだ際に、次世代の技術と言われていたSiCパワー半導体に注目しました。この時点では、業界で先行していたわけではありません。むしろ、後発でした」(三浦氏)。だが、同社は数年前から業界の注目を集める成果を次々と発表している。
例えば、2008年4月に、日産自動車と共同で開発した新構造のSiCダイオードを発表している。日産自動車が開発した「HJD(ヘテロジャンクションダイオード)」構造を採用しており、従来のSiC SBDに比べて約10倍と高いアバランシェ耐量を備える。
さらに2008年9月には本田技術研究所と共同で、世界で初めてSiCパワーデバイスだけで構成した1200V・230Aのハイパワー・インバータ・モジュールを発表している(図4)。 1相のコンバータ回路と3相のインバータ回路を一つのパッケージに収めたモジュールで、ここにSiC SBDが使われている。

]SiCパワーデバイスだけで構成した
[図4]SiCパワーデバイスだけで構成した
ハイパワー・インバータ・モジュール

SiC MOSFETで「世界初」を目指す

三浦氏の講演の後半では、SiC MOSFETについて言及した。SiC MOSFETについては、半導体メーカーだけでなく電機メーカーや自動車メーカーなど日米欧の様々なメーカーが開発に取り組んでいる。電源をはじめ、電力システムに使うパワーコンバータやインバータ、ハイブリッド車および電機自動車といった次世代自動車など幅広い用途でニーズがあるからだ。例えば、家電製品に使われている従来のIGBTに置き換えることで、省エネを一段と進めることができる。しかも高効率化によって回路の発熱を抑えることも可能だ。「インバータやコンバータ・モジュールの小型化にも貢献します」(三浦氏)。ただし、現状ではSiC MOSFETは製品化された実績はない。いずれのメーカーも研究開発の段階である。「チャネル抵抗が大きいなど、いくつかの課題が残っていることから、まだ製品化には至っていません」(三浦氏)。
ロームは、SiC MOSFETの開発においてもめざましい成果を数多く発表している。その一つが、2007年に発表したトレンチ構造を備えたSiC MOSFETである(図5)。3mm□と小型のチップで100A以上のドレイン電流を出力できる。前述の本田技術研究所と共同で開発したハイパワー・インバータ・モジュールにも自社で開発したSiC MOSFETが搭載されている。
こうして多くの実績を重ねている同社は、近くSiC MOSFETの製品化にも乗り出す考えだ。定格電圧600Vで定格電流が5Aあるいは10Aのプレーナ型DMOS FETから量産を始める。続いて定格電流20Aのデバイスも製品化する予定だ。「SiC SBDの製品化では他社の後塵を拝しましたが、SiC MOSFETでは世界初の量産開始を目指します」(三浦氏)。
トレンチ構造を備えたSiC MOSFET トレンチ構造を備えたSiC MOSFET 三浦峰生氏
[図5]トレンチ構造を備えたSiC MOSFET 三浦峰生氏 
ローム 研究開発本部
新材料デバイス研究開発センター
リーダー(主任研究員)