第2弾 新たな"当たり前"を生み出す
センシング技術に男泣き!

第1回のパワーデバイスに続き、
見ル野氏を男泣きさせたロームのシブすぎ技術とは?
第1回のパワーデバイスに続き、
見ル野氏を男泣きさせたロームのシブすぎ技術とは?

幅広い分野で多彩なラインアップを展開

パワーデバイス、センサ、LSIシナジー、LEDが
ローム成長戦略の4本柱ということで、前回はローム・アポロ株式会社を訪問し、パワーデバイスについて取材させていただきました。
今回は、スマートフォンからデジタルヘルスまで、幅広い分野で多彩なラインアップを展開されているセンサがテーマとうかがい、楽しみにやってきました。

身近なところでは、スマートフォンやデジカメ、テレビゲームのリモコンなどに使われている「加速度センサ」。これは、三次元の傾きや動き、振動、衝撃を検知してさまざまな機能を動作させるものです。
ノートパソコンやスマートフォン、タブレットのカバーなど、開閉する機器のオンオフには「磁気センサ」が使われています。
ここ京都テクノロジーセンターは全館に自社のLED照明が採用されているのですが、さらに、明るさを測定する「照度センサ」と無線通信技術で、外光にあわせて照明を調光できる省エネシステムになっています。

そうした多彩なセンシング技術のなかで、斎藤さんが手がけておられるのがOIS(Optical Image Stabilizer:光学手ブレ補正)制御IC。
デジタルカメラやスマートフォンのカメラなどの手振れ補正をするレンズドライバICとうかがったのですが?

一口に手ブレ補正といっても、世の中には本当に色々な技術があります。
僕達が手がけている技術がどんなものかを体感していただこうと思って、デモ機を持ってきました。
ちょっとこの一眼レフカメラのレンズをのぞいてみてください。
ファインダーの液晶画面がプルプル震えていますが、
シャッターを半押ししていただくとその揺れがピタッと止まるのがわかりますか?

このプルプルしているのが手ブレですか?

そうです。手のブレの影響でカメラが震えて、結果的に映像が震えているんです。
このデモ機では、ポジションセンサの信号を処理して、
1秒間に5万回以上のサイクルでレンズの位置制御を行い、
写像がイメージセンサの同じ位置に当たるように働いて手ブレの影響がなくなるように補正しています。

手の揺れに合わせてICがレンズを制御しているのですね。

これが一般的なデジカメでの光学手ブレ補正の仕組みです。
では今から、この仕組みを超小型化して、スマートフォンに搭載されるカメラモジュールの光学手ブレ補正についてお話したいと思います。
まだワールドワイドでも数機種しか採用していない技術ですが
今後、ほとんどのメーカーが追随してくるだろうと予想しています。

※この対談は2013年7月のものです。

電子手ブレ補正から光学手ブレ補正へ

え?世界で数機種だけ?
僕のこのスマートフォンも撮影した画像を補正してくれていますよね?

電子手ブレ補正というのですが、スマートフォンでは短い露光時間で複数枚連写し、それを後で重ね合わせて画像処理するという技術が使われています。
ずらして重ね合わせることで、せっかくの高画素写真の有効画素が減ってしまい、また、重ねあわせられる枚数が限られているので、露光時間が長い時は適切に補正することが難しいのです。

なるほど。では、斎藤さんが手がけておられる光学手ブレ補正はどのような仕組みになっているのですか?

カメラモジュールの一番手前にレンズがあって、その奥に画像をセンシングするイメージセンサがあります。このセンサは、昔ならフィルムが入る位置に入っていて、光をセンシングして画像に変えます。
光学手ブレ補正機能がないと、1枚の写真を撮っている間にスマートフォンが少しでも傾くと、イメージセンサに入ってきた光が違う場所に到達してしまい、ブレが生じます。
それで、先ほどのようにプルプルしてなかなかフォーカスが合わないという現象が起こります。これを防ぐために角度の回転に合わせて真ん中のレンズを平行方向に動かしてやると、屈折によって光の筋道が前と同じところに到達できるようになります。揺れの情報をもとにレンズを適切に動かし、常に目標物の光が同じポイントに来るように制御することで、ブレのないキレイな写真が撮れる。
これが光学手ブレ補正の技術になります。

どういうビジネスモデルになっているのですか?

OIS制御ICを作っているローム、イメージセンサを作っている会社、
揺れをセンシングするジャイロセンサを作っている会社、
レンズを駆動する部分を作っているアクチュエータ(作動装置)メーカー。
この4社で共同開発したものをスマートフォンメーカーやスマートフォン用のカメラモジュール(複合部品)を作っているメーカーに提案します。
スマートフォンメーカーに直接プレゼンして価値を認めてもらい、
そこからモジュールメーカーに発注をかけてもらうケースもあります。
これまでに業種の枠を超えて様々なメーカーとパートナーシップを組み、常にディスカッションしながら開発に取り組んできたことで、とてもいい関係が築けています。
ともにモノづくりをする人たちと基礎技術を積み上げてきて、やっとここまでこれたというのが実感です。

開発段階で特に苦労された点を教えてください。

センサ技術で一番大事で、最も苦労するのは、センシングした信号をいかに処理して必要な情報を取り出し、有効な信号に変換するか。これに尽きます。
ジャイロセンサの信号にはノイズなどの不要な信号が多く含まれるので、信号処理を行ってノイズを取り除き、人の手ブレ情報だけを取り出します。
そして、その情報をもとに手ブレ補正できる適切な位置にレンズを動かします。この一連の信号処理をOIS制御ICのなかで1秒間に約56,000回行っています。

それがこの2.5ミリ角のなかに入っているのですね。すごい!

強力な手ブレ補正機能が世界各国で話題に

すでに商品化されているのですか?

グローバルに展開している海外のメーカーで、グローバル機種としては初めてこのモジュールが採用されました。
ほかのスマートフォンよりカメラ機能が優れていることをセールスポイントにしたいと、このレンズドライバICを採用していただき、今は量産されています。
日本では発売されていないのですが、
ワールドワイドでは月100万台近く売れているヒット商品です。

最も大きな特長というか、魅力はどこにありますか?

光の量が少ない部屋のなかや暗いところ、特に夜景がキレイに撮影できます。
光の量が少ないところでいい写真を撮るには、長時間、光を取り込むしかありません。
当然ですが、その間に手が動いてしまうとブレた画像になります。
でも手ブレ補正機能あれば、光を取り込む時間を長くしてもブレずにキレイな写真が撮れます。
それが、カメラに詳しい人に特にうけているようです。

スマートフォンのこんな小さなスペースでカメラのレンズが動いているなんて、ちょっと想像できません。見えにくい技術だけに、そのシブさもひときわです。
今後は他メーカーのスマートフォンにもどんどん採用されていくのでしょうか?

そうなるように今、世界を飛び回っています。
日本の技術者はある程度知っておられるので話が早いのですが、世界的にはまだ「手ブレ補正とは何か」から説明しないといけない段階です。
でも、この海外メーカーは今後もこの技術を搭載し続けると思いますし、いずれ世界中のメーカーへと波及するんじゃないか。
そんな手応えを感じ始めているところです。

そのために乗り越える壁はありますか?

大きさですね。世界統一基準で同じサイズのスマートフォンしか作らないメーカーではすべての部品の大きさが厳密に決められていて、採用してもらうとなると大きさがネックになります。
もちろんICをより小さくする努力はしていますが、このサイズダウンは私たちというよりアクチュエータメーカーの頑張りにかかってくるので難しいところです。

そんななかで、斎藤さんはメーカーをつなぐ
コーディネーター的な役割をされておられる?

そんなカッコいいものではありません。たまたま、各センサの信号を受けてアクチュエータを動かすという中心のところにいるので、すべてをまとめて客先に話をしにいったり、結果としてコーディネーター的な動きをすることが多いだけです。
実際は、各センサの信号をキチンと処理し、正確にレンズを動かすというところを泥臭くやっているだけです。

コミュニケーションとチームワークが肝心

斎藤さんはエンジニアである一方、グループリーダーとしてまとめ役でもあるんですよね。
どんなことを心がけておられますか?

本当にカッコいいことは何もしていないんですよ。
この技術自体がかなりニッチというか、日本にしかなかったもので、だからこそ、世界中のスマートフォンに関わるメーカーからロームが注目されることになったのです。今、前を走らせてもらっているおかげでお声がけいただく機会も多く、世界中を飛び回っています。
そうすると技術を追求する時間が少なくなってジレンマを感じるというか、そういう苦しさはありますね。

どのようなチーム編成なのでしょうか?

アナログの専門家、ロジックの専門家、CPUのプログラムの専門家が僕の下にいて、僕と同じようにシステムを全体からみてまとめるもの、アクチュエータメーカーからきた仕様に基づいてサーボ設計を担当するものといった役割分担です。
それをグループリーダーとしてまとめています。

チームをうまく動かしていくコツはありますか?

何かあったらすぐにしゃべります。うるさいくらい、しゃべっています。
中国、韓国、台湾といった海外のデザインセンターとも仕事をしていて、そこにはユーザーから目的や意図が全くわからず、ボリュームと納期だけはすさまじい問合せや要望が来ることも多いので、何かあったらすぐに会議をします。
メールが来た瞬間に関係者をつかまえてテレビ会議をして、ユーザーの本当の要求をききとって対応します。

光学手ブレ補正付きがスマートフォンのスタンダードに

それにしても、これだけ小さいものを作ったというのに、まず驚きます。
そして、各種センサやアクチュエータといった周辺のアナログ的なものをうまく処理し、製品化に持ち込んだのがスゴイと思います。
この技術は、これからどんどんスマートフォンに入っていくでしょうね。

時間はかかると思いますが、いつかきっと、当たり前の技術になると思います。

私もそう思いました。
スマホに手ブレ補正機能が入っているのが当たり前。
でもそうなる前は、メーカーは「入ってますよ」とアピールするでしょうね。

今、採用いただいているメーカーのホームページでも、
「初めて光学手振れ補正をスマートフォンに入れて、その結果、こんなにキレイに写真が撮れています」と大々的にアピールされています。

使っている人たちにとっては当たり前なんだけど、
作っている人の苦労は当たり前じゃない。
その苦労が見えて泣けてきます。

ええ、そうなんです。
手ブレ補正が入ると止まって当たり前と思われがちですが、
非常に繊細なジャイロセンサとうまくつきあいながら、
この複雑な仕様をまとめるのは本当に大変でした。

でも、その苦労を超える喜びもある。

数年がかりで開発に取り組んでやっと製品化され、最終的にスマートフォンとしてカタチになり、世界中の多くの方に「スマートフォンでこんなにキレイな写真が撮れる」と喜んでもらっている。そこに一番、やりがいを感じています。
僕のこれからの夢は、誰にでもいい写真が確率よく撮れる手ブレ補正を、できるだけ多くのスマートフォンにいれることです。
たとえば子どもの笑顔って一瞬じゃないですか。
その時にブレていたらすごく悲しい。それを一枚でも多く、僕らの技術でブレない写真にできたらうれしいですね。その人数や、世界で撮られる枚数を増やしたい。
それが今やっている仕事の一番の夢であり、目標です。

エンドユーザーは全然気づいていないんだけど、いつのまにか、
ものすごくきれいな写真がスマートフォンで撮れるようになっていたという感じ?

ええ。
まさにそれが、今、目指しているところです。

仕事のサブカメラとしてスマートフォンを使う人も増えるでしょうね。
いずれにせよ、ロームのセンシング技術がスマートフォンのカメラ機能を飛躍的に伸ばし、近い将来、光学手ブレ補正付きがスマートフォンの"当たり前"になるのは間違いないでしょう。

プロフィール

理工系漫画家。1971年生まれ。
92年に本工学院専門学校メカトロニクス科卒業。
半導体製造装置やアミューズメントゲーム機などの設計開発の会社に勤務した後、漫画家としてデビュー。
代表作に『東京フローチャート』(小学館)『工場虫』『シブすぎ技術に男泣き!①②③』(中経出版)、
『ロッカク』(アスキー・メディアワークス)ほか。

2002年ローム株式会社入社。
LSI商品開発本部センサチーム センサリンク2G グループリーダー。

※掲載内容は2013年時点の情報です。