「ソーシャル・デバイス」Special 対談

日経BP社が運営する技術者向け情報サイト「日経テクノロジーオンライン」に、
2015年7月から2016年2月まで掲載したコンテンツを許可を得て転載しています。

社会とともに進化する産業用機器、電子デバイスが高度な「省エネ」を実現

エネルギーを効率良く利用し、無駄なエネルギーの消費を抑える「省エネ」。いまや社会全体が直面する大きな課題の一つとして認識されるようになった。こうした中、比較的大きなエネルギーを消費する産業用機器の分野では、省エネ問題にどのように取り組んでいるのか。そこで、どのような技術が求められているのか。門形五面加工機など大型工作機械を手掛ける三菱重工工作機械 取締役の三宅哲也氏と、高効率の半導体デバイスを手掛けるローム 研究開発部 部長の中村孝氏が議論した。

中村氏

 昨今、地球温暖化や資源の枯渇などをはじめ、さまざまな問題に直面しています。特に、世界的に「エネルギー問題」に対する課題解決が急務となっています。ロームでは民生機器から自動車や産業機器といった、幅広い分野のお客様に製品を提供し、永年にわたり省エネ、小型化に貢献してきましたが、近年その要求がますます高まっていると感じています。

三宅氏
三宅哲也氏
三菱重工工作機械 取締役

 工作機械の業界でも、製品を開発するうえで省エネは重要なポイントだと、ほとんどのメーカーが認識しているはずです。ただし、これは最近のことではありません。少なくとも10年以上前から省エネを重視していたと思います。実際、そのころに比べると最近の工作機械の消費電力は格段に小さくなっています。

 工作機械メーカーが、いち早く省エネに力を入れてきたのは、省エネによってランニング・コストの削減などユーザーのメリットを提供できるからです。つまり、省エネの取り組みが製品の付加価値につながっているのです。例えば、消費電力が小さい工作機械を選択すればユーザーは、電力を契約するときのアンペア数を小さくして支払う電気代を削減できます。特に規模が小さい企業では、こうしたコスト削減のメリットが大きいのではないでしょうか。

中村氏

 民生機器の業界でも、かなり前から省エネは重要な課題の一つでしたが、その理由は機器を小型にしたり、電池の駆動時間を延ばしたりといった、商品の機能や性能を高めることが求められているからです。

 半導体メーカーであるロームは、こうした社会課題を解決するために省エネに向けた取り組みの幅を広げています。例えば、低消費電力を追求したLSIやディスクリート部品の性能アップを追及し、今までのシリコンから劇的な省エネが可能となる次世代材料と呼ばれているSiC(シリコンカーバイド)使った高効率のパワー半導体も展開しています(図1)。さらに、自動車や産業機器の分野では、社会への影響を意識して消費電力の削減そのものを重視し、センサー・デバイスや制御システムを組み合わせて消費電力を低減するトータルソリューションの提案にも力を入れています。

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図1 SiCパワー半導体

適応制御で大幅な省エネを実現

中村氏

 工作機械における具体的な省エネの取り組みを教えていただけますか。

三宅氏

 主力製品の一つである門形五面加工機の事例を紹介しましょう。門形五面加工機は、作業台に設置された大型の箱物の金属部品を加工する装置です。2014年に発表した最新機「MVR-Exシリーズ」では、省エネのための工夫を随所に採り入れました(図2)。その結果、消費電力量を削減することができ、弊社の試算では従来機に比べCO2排出量を約5トン/年削減しています。

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図2 三菱重工工作機械の門形五面加工機「MVR-Exシリーズ」

 門形五面加工機の場合、主に電力を消費するのは、油圧を発生させるユニット、回転工具を動かすスピンドル・サーボ、三相モーターです。これらが省エネ対策の中心ということになります。実際にMVR-Exシリーズで採用した省エネ対策の一つが、油圧ユニットのアイドリングストップです。従来は、可動部が動いていようがいまいが油圧ユニットを常時稼働させていました。MVR-Exシリーズでは、必要なときだけ油圧ユニットを動かすようにしました。これによって、約1トン/年のCO2排出量を削減できました。

 また、工具を動かす主軸の温度が加工時に上昇するのを防ぐために冷却システムを設けておりますが、そのオイル・クーラーの駆動装置にもアイドリングストップを導入しました。従来は主軸の動いているときは、ずっと稼働していましたが、MVR-Exシリーズでは、主軸の温度などをモニタしながら、必要なときだけオイル・クーラーが稼働するようにしました。これによって、約2.4トン/年のCO2排出量を削減できると試算しています。

社会課題の根本的対策に役立つパワー半導体

中村氏
中村孝氏
ローム 研究開発部 部長

 電気を上手に使う、つまり無駄に電力を消費しないようにするために役立つデバイスを、私たちは数多く提供しています。中でも、省エネに大きく貢献するのがパワー半導体です。パワー半導体を使用し、エネルギーの利用効率を改善することで、社会全体の省エネに大きく貢献できると考えています。

 電気を利用するとき、機器やシステムによって交流/直流や電圧、さらに交流ならば周波数など電気の形態を変える必要があります。すでに現在の技術で、1回ごとの変換効率は90%前後まできており、電力変換によって発生するロスはわずかなように見えます。ところが、発電所で生まれた電力が変電所を通って工場などに送られ、私たちが実際に使用する機器に供給されるまでに何回も変換回路を通らなければなりません。その変換の度に変換ロスが発生します。そのため、結局発電所で発生した電力の半分程度しか利用されていないと言われています。

 パワー半導体は、こうした電力変換時に発生するロスを大幅に低減するのに非常に有効です。特にロームでは、次世代材料SiCを使用したパワー半導体において、2010年に世界で初めてSiC-MOSFETの量産化を開始するなど業界に先駆けた製品開発を行っています。従来のSiパワー半導体に比べて格段に効率があがるため、Siパワー半導体を全てSiCパワー半導体に置き換えた場合の省エネ効果は、日本国内だけで原発数基分に相当するとの試算もでています。さらにロームは世界で初めてトレンチ構造を採用したSiC-MOSFETを開発し、さらなる性能アップを図っています。またウエハの6インチ化もスタートし、優れた部品を多量に供給できる体制も整ってきました。

 皆さんが手掛けていらっしゃる工作機械においても、パワー半導体が役立つ機会が、今後ますます増えるのではないでしょうか。

設計者の領域に踏み込む提案が重要に

三宅氏

 おっしゃる通り、工作機械におけるエレクトロニクスの役割はこれからますます大きくなると思います。実は、私は電子技術者で制御回路など工作機械のエレクトロニクス領域の開発を担当してきました。入社した当時の工作機械は、システムの大部分を機構系が占めており、エレクトロニクスの領域は一部にすぎませんでした。最近では、随所に電子制御の技術が採り入れられるようになり、入社当時に比べてエレクトロニクスの割合が増えました。同時にソフトウエアの役割も増えています。

 この傾向は、今後も続くはずです。現状の工作機械では油圧機構が随所に使われていますが、その効率化のために油圧ユニットに使われているモーターの駆動回路にインバータを導入する動きが始まっています。最終的には油圧機構がモーター駆動になると見ています。そうなると、工作機械でパワー半導体が使われる数がぐっと増えるでしょう。

中村氏

 パワーデバイスの用途が広がるにつれて、お客様のニーズを的確に把握することがますます重要になると思っています。これまでデバイス・メーカーは、個々のデバイスの特定のスペックを追求しがちでした。優れた性能や機能を追求することは重要ですが、必ずしもお客様がそれを望んでいるとは限りません。ロームでは、お客様の用途に応じた機能や性能を備えた製品をタイムリに提供するために、お客様との共同開発にも積極的に取り組んでいます。SiCパワーデバイス半導体においても、代替えとしてではなく、"Siパワー半導体が使えない分野"でも新しい提案をはじめました。

 たとえば、加速器やプラズマ発生装置、レーザー加工機などで採用されている高電圧を必要とするパルス発生器です。こうした高電圧機器では、従来スイッチ素子として真空管やSiパワー半導体が使用されていましたが、ロームのSiCパワー半導体を採用することで、従来品では達成できなかった性能を有するパルス発生器を非常に小さな装置サイズで実現することができます。

 このように、お客様のアプリケーションについてよく勉強し、デバイス・メーカーがお客様の領域に踏み込んだ提案することも、省エネのような社会全体にかかわる課題を解決するうえで重要ではないかと思っています。

三宅氏

 工作機械設計者がデバイスの最新情報をつぶさに収集することは、なかなか難しいことです。新しい技術を採り入れるキッカケが生まれず、従来のデバイスや技術を、そのまま使い続けたりすることになりかねません。技術革新を生むためにも、デバイス・メーカーの方から積極的にアプリケーションに踏み込んだ提案をしていただけるのは有り難いですね。

サプライヤ、メーカー、ユーザーが連携

中村氏

 工作機械をはじめとする産業用機器は、製造業の基盤を支える重要な役割を担っています。省エネに限らず社会的な課題に直面する機会も多いのではないでしょうか。

三宅氏

 そうですね。例えば、工業先進国を中心に顕在化している高齢化の問題を意識するようになりました。実際、日本の製造業では、現場で働く中堅の人材が不足する一方で高齢者が増えています。このため高齢のベテラン技術者と経験の浅い若手技術者が現場を支えているという企業が少なくありません。私たちは現場の皆さんが使いやすい機器を開発することに力を入れていますが、こうした現場の状況を前提とすると、その取り組みは難しくなります。ベテランと若手では、使いやすさについて求めることが変わるからです。使いやすくするためのアプローチも違うでしょう。それらを両立させることは簡単ではありません。

 もう一つ、製造現場における安全に対する概念が変わって来たことで装置の安全対策についても新たな取り組みの必要性を感じています。従来は、生産現場で使う装置の周辺で危険なところは安全柵を設けて人を近づけないようにするのが一般的な考え方でした。最近では人と機械が共存する環境がもとめられるようになりました。こうなると工作機械など生産にかかわる装置の設計は大きく変わる可能性があります。

中村氏

 皆さんが抱える問題が高度化するにつれて解決するための「壁」はますます高くなりますね。その壁を越えるために、部品・部材を提供するサプライヤ、機器メーカー、そしてユーザーの皆さんが密接に連携しながら取り組むことが、ますます重要になるかもしれません。今後ともよろしくお願いします。

「ソーシャル・デバイス」Special 対談

新しい社会を創る先端技術

2016

社会を変革する自動運転技術 電子デバイスの進化が普及を加速 実行の局面を迎えた産業IoT 既成の枠を超えた連携が必須に 高度化するコンシューマ機器開発 マインドを変えて新たな局面へ 新たな社会を創る新産業革命 高効率化の技術が後押し

最先端技術から見える新しい社会

2015

静かに社会の大変革を引き起こすIoT 果敢な挑戦こそが新市場への扉を開く 産業や暮らしを変えるIoT センシング技術の進化が普及を加速 社会とともに進化する産業用機器 電子デバイスが高度な「省エネ」を実現

明日の社会を創る革新技術

2014

情報通信技術で進化する日本の農業、従来の枠を超えた連携が革新を後押し 消費を抑えた持続可能な社会へ、高効率化や小型化の技術で貢献 ともに進化する自動車とエレクトロニクス、先進技術の融合がもたらす社会革新

技術が拓く新しい社会

2013

社会を意識した取り組みが加速、着実に進むインフラの技術革新 社会との親和性を高めるロボット、パワーデバイスが機動性向上に貢献 建設業界で進む高度なエネルギー管理、電池不要の無線通信技術が一つの解に 世界が直面する課題に挑む医療機器、次世代半導体が技術革新に貢献