「ソーシャル・デバイス」Special 対談

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消費を抑えた持続可能な社会へ、高効率化や小型化の技術で貢献

消費を抑えると同時に、あらゆるプロセスで高効率化を追求することで、持続可能な社会を実現すること。世界が直面する大きな課題の一つだ。 こうした課題の解決に、電子デバイスや、これを応用したメカトロニクスの技術が、どのように貢献できるのか。 次世代パワー半導体を積極的に展開するロームでディスクリート・モジュール生産本部 本部長を務める東克己氏と、 メカトロニクスおよび電力変換技術で少子高齢化問題やエネルギー問題の解決に取り組む安川電機 開発研究所 所長の野田幸之輔氏が対談した。

野田氏
野田幸之輔氏
安川電機 執行役員
技術開発本部 開発研究所 所長

安川電機は、創立100周年に当たる2015年に向けた事業の方向性を示した「2015年ビジョン」を2000年から掲げています。 この中で、先進国の少子高齢化や環境エネルギー問題など、いま浮上している地球規模の社会課題の解決に取り組む考えを打ち出しました。 具体的には、「ロボティクスヒューマンアシスト」と「環境エネルギー」といった二つの新たな分野に事業領域を広げ、それらの領域で当社のコア技術を活かしながら社会課題の解決に取り組む考えです。

東氏

ロームは、1958年の創業から一貫して社会に貢献することを強く意識しながら事業に取り組んできました。 創業より掲げる「企業目的」では、つねに品質を第一とし、良い商品を永続かつ大量に供給することで、文化の進歩向上に貢献することをうたっています。

ロームの場合、創業当初の主力製品は抵抗器でしたが、いまでは「パワーデバイス戦略」「オプティカルデバイス戦略」「LSIシナジー戦略」「センサネットワーク戦略」を4つの成長エンジンとして、 次世代製品の開発や新事業の推進など、さまざまな新しいチャレンジを進めています。 社会に貢献するために省エネルギー、小型化、安全、快適などをキーワードにする製品を生み出し、市場に供給し続けることが、私たちの大きなミッションと言うことができます。

コア技術で社会に貢献
東氏

先ほど、紹介していただいた安川電機の新事業領域について教えていただけますか。

野田氏

ロボティクスヒューマンアシスト事業領域では、産業用ロボットの技術をベースに、人と共存し、人の身近で働き、人をアシストするロボットを開発。これによって人に近い分野のロボット市場を創出することを狙っています。 目下のところは、リハビリ・介護を中心としたアシストロボットやバイオメディカル分野向けロボットの事業に力を入れているところです(図1)。

環境エネルギー事業領域では、省エネや、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの有効利用を進めるための電力変換装置を開発。省エネルギーと創エネルギーの両面から事業を推進しています。 これに加えて、環境問題の解決手段のひとつとして、これからの普及が期待されているEV(電気自動車)の駆動システムの開発にも取り組んでいるところです。

これら二つの新事業領域を支えるコア技術となるのは、産業機器の分野で長年培ってきた、サーボ、コントローラ、インバータの技術です。

図1 バイオメディカル分野向けロボット
[図版のクリックで拡大表示]
東氏

半導体製品を提供しているロームは、機器メーカーの皆様のニーズを先取りした製品を、いち早く提供することで、様々な分野における省エネや小型化、省資源の推進に貢献しています。

例えば、電子機器の小型化に欠かせない製品の開発に積極的に取り組んでいます。ローム独自の新工法を用いて小型化を実現し、驚異的な寸法精度を誇る世界最小部品シリーズをRASMID®(ラスミッド)と名付け、 チップサイズ0.4mm×0.2mmのショットキーバリアダイオードや0.3mm×0.15mmのチップ抵抗器などの世界最小サイズを業界でいち早く製品化しています。 こうした部品を採用していただき電子機器を小型化することで、消費者の皆様の利便性を高めると共に電子機器全体で使用する材料を減らすことができます。

SiC(シリコン・カーバイド)という次世代材料を使ったパワー半導体でも、MOSFETやフルSiCパワーモジュールを世界に先駆けて量産するなど業界をリードしています(図2)。 SiCは、Si(シリコン)を使った従来のパワー半導体に比べて、デバイス動作時に発生する電力損失が小さいのが特長です。言い換えれば、電子機器の動作時に発生する消費電力を劇的に抑えられるわけです。 また、SiCは耐熱性にも優れているため、放熱部品の搭載を省けるので機器設計のシンプル化にも貢献します。

図2 次世代材料を使ったパワー半導体
[図版のクリックで拡大表示]
先進技術の普及を加速
野田氏

小型軽量化は、アシストロボットにおいても重要です。小型軽量化によって用途が広がるうえに、使用する材料を減らすことで省資源化にも役立つからです。

省資源や省エネは、いまや一般的に認識されている社会課題です。特に東日本大震災以降、これらの問題を重視する機運は、従来よりもずっと高くなりました。 もう一つの新規事業領域である環境エネルギーに関する技術開発においても重要な課題になっています。ここでは、モーター・ドライバーの開発で培ってきた高効率化の技術やノウハウを活かすつもりです。

東氏
東克己氏
ローム 取締役
ディスクリート・モジュール
生産本部 本部長

高効率化については、今後もやるべきことは多いと思っています。例えば、照明などで省エネに役立っているLEDの発光効率は、まだ高めることができます。 発光効率を高めることができれば一段と省エネを進めることができます。

DC/DCコンバータなどの電源は用途に合わせて様々な仕様の製品がありますが、その中の一部は、すでに変換効率が90数%にまで達しています。 ところがその一方で、それほど高い変換効率に及んでいないものが少なくありません。このような電源の特性を改善することができれば、社会全体で消費電力を大幅に削減することが可能です。 ここで、私たちが積極的に開発しているSiCを使った次世代パワー半導体が役立ちます。

現状では、次世代材料を使ったパワー半導体を搭載する機器は、Siを使った従来のパワー半導体に比べて高価なことから、まだ一部に留まっています。 しかし、低価格化が進むとともに用途が広がることは間違いありません。ロームでも素材となるウェハの大口径化など、次世代パワー半導体の生産効率を高めるための技術開発や研究を進めています。 近い将来に、次世代パワー半導体が一気に普及すると見ています。

野田氏

新しい技術を導入した当初に、価格が高くなるのは避けられません。ただし、その技術がなくてはならない用途を見つけることができれば、多少高価でもユーザーは購入します。 こうした用途を見つけることで、早期に市場を立ち上げることができるかもしれません。

実際に安川電機は、そのような経験をしています。当社は電動式の製品で産業用ロボットの市場に参入しましたが、その当時の市場では油圧式のロボットが主流でした。 油圧式の装置は、複雑な配管が必要です。しかも、油を使うことから装置周辺がどうしても汚れます。こうした心配がない電動式の方が、油圧式よりも有利なのは明白です。 ところが、当時はまだ制御精度の点で不利だったことや、高額だったことなどから、なかなか電動式のユーザーが増えませんでした。 この状況を変えたのが、自動車部品の溶接に使うアーク溶接ロボットです。ここでは、まず電動式ロボットの採用が始まりました。この工程では、電動式の方が絶対に有利な点が、いくつかあったからです。 ここから電動式ロボットの市場が一気に広がりました。

ユーザーとの連携が普及を加速
東氏

確かに次世代パワー半導体でも同じことが起きるかもしれません。次世代パワー半導体が優れた特長を備えていることは、すでに多くの技術者が知っています。 高価でも次世代パワー半導体にしかできない用途が見つかれば、そこから市場が広がるはずです。需要が増えて生産量が伸びれば、量産効果により製品の価格が下がるでしょう。 それによって、ますます需要が広がるという、よいサイクルに入ることが期待できます。

野田氏

あくまでユーザーの立場ですが、SiCやGaNを使った次世代パワー半導体の研究には安川電機も取り組んでいます。 例えば環境エネルギー領域では、モーター・ドライブ・システムや、再生可能エネルギーを使った発電システムに使うパワー・コンディショナーの高効率化。 EVに搭載する高効率の駆動システムの開発に取り組んでいますが、それらを実現するためのキーデバイスとして次世代パワー半導体を位置付けています。 2011年には、業界に先駆けてSiCを採用した電気自動車用高効率モーター・ドライブ・システム「SiC-QMET」を開発しています。

最先端のデバイスの特長を最大限に引き出し、いち早く使いこなすためには、デバイス・サプライヤの皆さんから一方的に情報をいただくだけでなく、 サプライヤと私たちユーザーの両者で課題を共有し、その解決に一緒に取り組むことが重要だと思っています。 このため、デバイスそのものに関する技術やノウハウに関するレベルアップにも自ら取り組んでいます。

東氏

ロームでは研究開発部門を中心に、パワー半導体の高効率化や小型化など、デバイスの優れた性能を追求しています。 一方で、製品化を担当する部門では、社会課題の解決に貢献する先進的な半導体デバイスを、いち早くお客様に活用していただけるようさまざまなことに取り組んでいます。 例えば、ものづくりのプロセス全体で、無駄を省き、極力シンプルにする工夫を続けているのもその一つです。

最近では研究開発、LSI商品開発、パワー半導体を担当していた部門のそれぞれからメンバーを集めて、IPM(インテリジェント・パワー・モジュール)の開発を担当する新部門を立ち上げました。 パワー半導体とドライバLSIをモジュール化することで、お客様が新しいデバイスを使った回路を効率良く設計できるようになります。 こうした新しい取り組みが生み出す半導体デバイスによって、社会課題の解決に役立つ機会を増やしたいと思っています。

「ソーシャル・デバイス」Special 対談

新しい社会を創る先端技術

2016

社会を変革する自動運転技術 電子デバイスの進化が普及を加速 実行の局面を迎えた産業IoT 既成の枠を超えた連携が必須に 高度化するコンシューマ機器開発 マインドを変えて新たな局面へ 新たな社会を創る新産業革命 高効率化の技術が後押し

最先端技術から見える新しい社会

2015

静かに社会の大変革を引き起こすIoT 果敢な挑戦こそが新市場への扉を開く 産業や暮らしを変えるIoT センシング技術の進化が普及を加速 社会とともに進化する産業用機器 電子デバイスが高度な「省エネ」を実現

明日の社会を創る革新技術

2014

情報通信技術で進化する日本の農業、従来の枠を超えた連携が革新を後押し 消費を抑えた持続可能な社会へ、高効率化や小型化の技術で貢献 ともに進化する自動車とエレクトロニクス、先進技術の融合がもたらす社会革新

技術が拓く新しい社会

2013

社会を意識した取り組みが加速、着実に進むインフラの技術革新 社会との親和性を高めるロボット、パワーデバイスが機動性向上に貢献 建設業界で進む高度なエネルギー管理、電池不要の無線通信技術が一つの解に 世界が直面する課題に挑む医療機器、次世代半導体が技術革新に貢献