「ソーシャル・デバイス」Special 対談

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「ソーシャル・デバイス」Special 対談

建設業界で進む高度なエネルギー管理、電池不要の無線通信技術が一つの解に

1804年に創業し、200年以上もの長い歴史を誇る大手総合建設会社の清水建設。同社は、エコロジーと非常時の事業継続の両立を目指す独自の新コンセプト「ecoBCP」に基づいた施設・コミュニティ作りに取り組んでいる。 その中心的な役割を担っている同社ecoBCP事業推進室の室長を務める那須原和良氏と、環境発電技術を利用したバッテリーレス無線通信を可能する新技術 「EnOcean(エンオーシャン)」の事業展開を担当するロームの谷内光治氏が、ビルにおけるエネルギー・マネジメントの新しい方向などについて意見を交わした。

星野和哉氏 GEヘルスケア・ジャパン 執行役員 技術本部長
那須原和良氏
清水建設
ecoBCP事業推進室
室長

谷内氏 いまや多くの企業がエコロジーを意識していますが、 BCP(事業継続計画、business continuity plan)とエコロジーを一体にした「ecoBCP」のコンセプトは、とてもユニークではないでしょうか。

那須原氏 ecoBCPを発案したキッカケは、東日本大震災でした。 建築を手掛ける私たちがエコロジーに配慮するのはすでに当たり前のことになっていましたが、BCPも重要だということを改めて感じたわけです。 そこで、非常時に事業や生活を継続させるための機能と、BCPを意識した平常時のエコロジー対策を基本性能として建物に盛り込むというecoBCPのコンセプトが生まれました(図1)。

「ecoBCP」のコンセプト
図1「ecoBCP」のコンセプト

このコンセプトに関する社内の取り組みを統括するために2012年4月に社長直轄の組織として「ecoBCP推進室」を開設しました。 さらにecoBCPの事業化に向けた取り組みを一段と強化するために、2013年5月に「ecoBCP事業推進室」に改称し、現在に至っています。

センサーの技術で社会に貢献

谷内光治氏ローム インキュベーションユニット (兼)デバイスソリューション研究開発ユニット ユニットリーダー
谷内光治氏
ローム
インキュベーションユニット (兼)デバイスソリューション研究開発ユニット

谷内氏 ecoBCPの実現は、社会システムにかかわる大きな課題ですね。 私たちも、革新的な電子デバイスを提供することで社会が直面する数多くの問題の解決に貢献し、これによって成長を図りたいと思っています。

ロームは数多くの電子デバイスを提供していますが、大きく四つの製品カテゴリを、これからの"成長エンジン"として位置づけ、力を入れて展開しています。 つまり、様々な機器のエネルギー効率向上に貢献する「パワー半導体」。省エネに役立つ光源として市場で注目を集めている「LED(発光ダイオード)」。 自然界の様々な情報をデータ化するために欠かせない「センサー」。 四つ目は、「シナジー」と社内で呼んでいますが、従来の枠組みを超えた技術の融合を図ることで生まれる新しいデバイスです。

このうち私が担当しているのは、センサーです。ロームは、様々なセンサーを提供しており、その種類の多さは世界でも随一です。 これらのセンサーと、通信ネットワークやエナジー・ハーベスティング(環境発電)などの最新技術を組み合わせることで、 いろいろな社会問題の解決に向けたソリューションを提供するつもりです。

最近では、エネルギー問題や高齢化に関連する問題を解決するソリューションのプラットフォームとして、 多数のセンサーからネットワークを介して情報を収集するセンサー・ネットワークの技術に期待する住宅・建築業界の皆さんが増えていると聞いています。

那須原氏 建築とエレクトロニクスの技術の関わりは数多くあります。 センサーを応用したシステムを導入する可能性は至るところにあるのではないでしょうか。センサーを使って何をどうつなぐかという問題だけでも、検討するテーマは膨大な数になると思います。

ecoBCPという新しいコンセプトを掲げる私たちは、その実現に役立つ新技術の導入に積極的に取り組んでいます。 実は、2012年5月に竣工した新本社ビルはecoBCPに関連する技術のショールームの役割も担っています。 実際に、センサーとネットワークを利用したエネルギー・マネジメント・システムをはじめ、ecoBCPに役立つ様々な技術を導入しており、それらの事業展開に向けてデータを集めているところです。

2015年にゼロ・カーボンを実現

谷内氏 私たちは、技術をそのまま提供するのではなく、社会が求められている形にして提供することが重要だと考えています。 実際に現場に新技術を導入したうえで、その応用の可能性を検証する取り組みには大変興味があります。

那須原氏 省エネや再生可能エネルギーの利用によって建物で消費するエネルギーを限りなくゼロにした 「ZEB(zero energy building)」を目指す動きが、建設の分野では世界の大きなトレンドになっています。

ZEBの技術開発で一歩リードするために清水建設は、「トップランナー・プロジェクト」を立ち上げ、新本社ビルにおけるCO2排出量削減の具体的なロードマップを策定。 これにもとづいて設計の段階からZEBの実現に向けた様々な取り組みを始めました。

設計に着手した時点で目標にしたのは、CO2排出量を東京都内にあるオフィスビルの2005年の平均値の半分に削減する「ハーフカーボンビル」の実現です(図2)。 この目標を達成するために、様々な新しい技術を採用しました。

清水建設本社ビル
図2 清水建設本社ビル

谷内氏 ビルの省エネを図るためにセンサー・ネットワークの技術を採用する動きは最近活発化しています。 ただし、そのシステムを開発するうえで、いま焦点になっているのは、センサー・ネットワークそのものではなく、それで何をアクチュエートするかという問題ではないでしょうか。

那須原氏 その通りだと思います。私たちもセンサー・ネットワークで何ができるかという点に興味があります。 環境技術の粋を結集した新本社ビルには、太陽光発電と蓄電池を商用電力と併用するマイクログリッドや、タスク&アンビエント方式の照明・空調システムをはじめ、最先端の省エネ技術を数多く採用しています。

例えばマイクログリッドは、業務支援システムと連動したBEMS(Building Energy Management System)を核とし、 本社内で消費する電力や太陽光発電量の変動を常時監視し、 太陽光発電による電力を100%消費した上で、同電力が急激に低下した際に蓄電池から必要な電力を供給して商用電力への依存を抑制します。

一方、タスク&アンビエント方式の照明・空調システムは、アンビエント(室内全体)とタスク(個別)の空調・照明により、省エネを図るシステムです。 空調のアンビエントはオフィス全体の室温を調整する天井パネルを利用した輻射空調システムで、タスクは個人の机下に設けた開閉式の給気口、照明の場合は天井のLED照明と机上の照明スタンドとなります。 アンビエントで必要最低限の空調・照明環境を提供し、タスクで個人周りの環境に限って好みに合わせた調整を行うことで省エネを図るわけです。 本社ビルがある地区は、地域冷暖房施設が設置されていますが、 その廃熱をさらに本社ビル内で利用するシステムなど、ビル近隣複数施設での面的熱融通による大きな省エネシステムの開発にも挑戦しています。

谷内氏 成果はいかがでしたか。

那須原氏 様々な取り組みの結果、 2012年の完成時にCO2排出量を2005年の東京都事業所平均に比べて62%も削減という計画を達成できる見込みです。 引き続き運用面を中心にCO2排出量削減に向けた取り組みを進め、2015年までに70%まで削減。 2015年には「ゼロ・カーボン」を実現する考えです。

電池不要の無線スイッチを実現

谷内氏 私たちは省エネに貢献する技術を数多く提供していますが、 いまオフィスビルや産業設備に向けて積極的に展開している技術の一つに、電池不要のセンシング無線通信「EnOcean」があります(図3)。 ドイツのEnOcean社が提唱した技術ですが、身の回りの環境に存在する光や運動などを電力に変換するエナジー・ハーベスティング技術と組み合わせることで画期的なソリューションが実現できます。 ロームは、世界で300社以上の企業、団体が加入し同技術の世界標準化に向けた普及に取り組む非営利団体 「EnOcean Allience」において幹部である「プロモータ」をアジアで唯一務めており、関連製品の開発・販売をスタートさせています。

「EnOcean」の基本システムと応用例
図3 「EnOcean」の基本システムと応用例

例えば、スイッチの動きを利用して電磁誘導の原理で発電し、その微小な電力でスイッチから制御対象へとオン/オフの情報を無線で送信するシステムが実現できます。 無線ならば、配線工事が不要です。しかも電力を供給する必要もありません。これならば、好きなところに手軽にスイッチを設置することができます。

こうして建物の随所にスイッチを設けて、こまめに電子機器を制御することで建物全体の省エネが実現できるでしょう。 配線工事が面倒な既存のビルやスイッチを取り付けるための工事が厳しく規制されている歴史的建造物にも導入しやすいという利点もあります。

すでにEnOceanを利用したシステムは普及が始まっており、欧州を中心に導入事例は30万件を超えています。 例えば、窓の開閉状態を集中管理するシステムに応用した事例があります。窓の開閉レバーの動きで発電し、この電力を使って窓の開閉状態の情報を制御システムに送信します。 このほか、ベッドの中にセンサーを埋め込んで、ベッド上の人の動きを検出し、遠隔地で集中管理するシステムなど、EnOceanの技術を利用した様々なシステムが実用化されています。

那須原氏 配線工事が不要になることで、工事期間を短縮できれば、大幅なコストダウンを図れます。 これは、大きな魅力ですね。さらにEnOceanは、建築業界における別の問題を解決する可能性があります。 住宅やビル内の配線工事を実施する技術者は資格が必要です。 ところが、この資格をもった技術者の数は年々減っており、高齢化も進んでいます。 EnOceanを利用して配線工事が不要になれば、こうした問題を解決できるのではないでしょうか。

谷内氏 なるほど。そんな問題もあったのですね。 私たちの技術に対するニーズが、知らないところに、まだたくさんあると思います。 従来の枠組みにとらわれず、様々な分野や業界の方々と積極的に交流することで、潜在ニーズを掬い上げ、私たちが技術で社会に貢献できる機会をもっと増やしたいですね。

本日は、どうもありがとうございました。

EnOcean製品紹介ページ

「ソーシャル・デバイス」Special 対談

最先端技術から見える新しい社会

2015

静かに社会の大変革を引き起こすIoT 果敢な挑戦こそが新市場への扉を開く 産業や暮らしを変えるIoT センシング技術の進化が普及を加速 社会とともに進化する産業用機器 電子デバイスが高度な「省エネ」を実現

明日の社会を創る革新技術

2014

情報通信技術で進化する日本の農業、従来の枠を超えた連携が革新を後押し 消費を抑えた持続可能な社会へ、高効率化や小型化の技術で貢献 ともに進化する自動車とエレクトロニクス、先進技術の融合がもたらす社会革新

技術が拓く新しい社会

2013

社会を意識した取り組みが加速、着実に進むインフラの技術革新 社会との親和性を高めるロボット、パワーデバイスが機動性向上に貢献 建設業界で進む高度なエネルギー管理、電池不要の無線通信技術が一つの解に 世界が直面する課題に挑む医療機器、次世代半導体が技術革新に貢献