特集:パワー半導体
進化が加速するパワー半導体

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進化が加速するパワー半導体

次世代品とともに技術が進むSiディスクリート製品

一般にパワー半導体とは、インバータやコンバータといった電力変換器のスイッチング回路などに使う半導体素子のことを指す。具体的には、MOSFET、IGBT、(Insulated Gate Bipolar Transistor、絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタ)、FRD(Fast Recovery Diode)やSBD(Schottky Barrier Diode)などのダイオードといったディスクリート・デバイスである。これらのデバイスの用途は、コンシューマ機器、オフィス機器、産業用機器、電力システム、交通システムなど多岐にわたる。
それぞれのデバイスごとに耐圧が十数Vの低耐圧品、数十V~百数十Vの中耐圧品、百数十V~数百Vの高耐圧品など多くの品種が市場に流通しており、用途によって使い分けられている(図A)。例えば、MOSFETの場合、耐圧400V~1000Vの高耐圧品が使われているのは、スイッチング電源、太陽光発電システム、エアコンなどである。同じく高耐圧品と呼ばれている耐圧200V~400V程度のMOSFETは、フラットパネル・ディスプレイの駆動回路や無線通信システムの基地局などに使われている。電子化が加速している自動車の電装品には、耐圧が150V以下の中耐圧品で、100A以上の大電流を扱えるデバイスが使われる。低耐圧品の主な用途は、パソコンや携帯機器などである


[図A] パワー半導体の応用分野(ロームが作成)

高効率化に向けた技術開発が加速

近年、パワー半導体の市場は拡大基調が続いており、今後も成長が期待できる分野として半導体業界では注目を集めている。この背景には、地球温暖化問題に対する関心が高まってきたのを契機に、エレクトロニクス機器における電力損失低減を重視する機運が、消費者とメーカーの双方の間で高まってきたことがある。これを受けて、電力を効率よく利用できるインバータ回路を導入する動きがエアコンなどの家電製品を中心に様々な分野の機器で広がっており、これにともなってパワー半導体の需要が伸びている。しかも、新興国市場で家電製品の市場が急拡大していることから、重要の伸びに一段と拍車がかかる見込みだ。さらに、ここにきて市場に続々と登場している電気自動車やハイブリッド車といった次世代自動車もパワー半導体の需要をけん引する。こうして今後大きな成長が見込めることから、パワー半導体事業を強化する方針を明らかにする半導体メーカーが、このところ相次いでおり、市場で活気が出てくる雰囲気が盛り上がっている。
パワー半導体の市場における製品の競争力の源泉となる重要なポイントが「高効率化」である。つまり、デバイスで発生する電力損失をいかに抑えるかが一つの焦点となっている。そこで注目を集めているのが、SiC(シリコン・カーバイド)やGaN(ガリウム・ナイトライド)といった化合物半導体を利用した次世代パワー半導体である。半導体材料を従来のSiからGaNやSiCに置き換えることによって、デバイスで発生する電力損失を大幅に削減することができるからだ。ただし、GaNを使ったデバイスは、まだ研究開発の段階。SiCパワー半導体については、先行した欧州メーカーに続いて、日本では2010年にロームが先陣を切ってSBDやMOSFETを製品化。さらに複数のメーカーが、これに追随する動きを見せているものの、まだ製品のラインアップは十分とは言い難い。そこで、高効率化に取り組む機器メーカーの要求にこたえるために、一部のパワー半導体メーカーは、従来のSiを使ったパワー半導体の高効率化に向けた技術開発を強化し始めた。ここで先行するメーカーは、効率の向上を図るために、デバイスのプロセスや構造に深く踏み込んだ開発を進めている。



中高耐圧向けSiパワー半導体の展開を加速 主要デバイスを揃えて幅広いニーズを網羅

ロームは、中高耐圧品を中心にSiパワー半導体の製品展開を加速している。「市場拡大の機運が高まっているパワー半導体を、大きな成長エンジンの一つに位置づけています」(同社ディスクリート・モジュール生産本部ディスクリート担当 統括部長 東克己氏)。同社のパワー半導体事業の大きな特長は、MOSFET、FRD、SBD、IGBT、といった主要なデバイスを幅広く自社で手掛けていることだ。しかも、次世代材料のSiCを使ったパワー半導体の製品化でも業界をリード。もう一つの次世代材料GaNの研究にもいち早く着手している。「1社でこれだけ揃えている半導体メーカーは、珍しいのではないでしょうか。この強みを生かしてお客様のニーズに幅広く対応する考えです」(東氏)。

東 克己氏
ローム株式会社
ディスクリート・モジュール生産本部
ディスクリート担当
統括部長

ディープ・トレンチMOSFETを製品化

同社が展開するSiパワー半導体製品の主力製品の一つが、業界トップクラスの低オン抵抗と高速スイッチング特性を実現した高耐圧MOSFET「PrestoMOS^(TM)」である(図1)。


[図1] 高速trr Super Junction MOSFET「PrestoMOS^(TM)」

縦型のpn接合を複数並べることで耐圧を維持しながらオン抵抗を低減できる「スーパージャンクション構造」を採用したデバイスだ。この製品の注目すべき特長は、オン抵抗の低減に貢献するものの逆回復時間(trr)が遅くなるというスーパージャンクション構造の問題を解決していることだ。従来品に比べて逆回復時間を60%も短縮している。これによって逆回復時間に発生する転流損失を抑えるために外付けにしていたFRDを省ける。同社は、さらにオン抵抗の低減を図ったPrestoMOS^(TM)を2011年下期の発売を目指して開発中である(図2)。「縦型p層を一気に形成するディープ・トレンチ技術を採用し、微細化を進めることでオン抵抗を一段と下げます」(東氏)。
同社は、MOSFETで培ったトレンチ構造の技術をSBDにも展開。従来品に比べて格段に高い電流密度を備えたSBDも製品化する。「プレーナ構造からトレンチ構造に変えることで電流密度を大幅に向上させています」(東氏)。



PDPテレビ向けで業界随一のシェア

同社が展開する中高耐圧ディスクリート・パワー半導体の中で、特にユーザーの高い評価を受けている製品の一つがFRDである。「国内外の大手PDPテレビ・メーカーが当社のFRDを採用して下さり、この分野では圧倒的なシェアを握っています」(東氏)。同社は、FRDの品種展開を進め、インバータ回路向けや電源回路向けの市場を開拓する考えだ。「このためのカギは雑音低減による高効率化です。この要求にこたえるために、pn接合とショットキー接合を組み合わせたJBS(junction barrier Schottky)構造を採用した品種を現在開発中です」(東氏)。
IGBTについても新しい市場に向けた製品を開発中である。「業界では後発ですが、すでに次世代自動車向けなど最先端の要求に対応したデバイスの開発を進めています」(東氏)。2013年以降になると実際に同社のIGBTを搭載した自動車が市場に出る見込みだ。こうしたIGBTに求められる要件はやはり低損失。これを実現するための重要な技術の一つが、ウエーハの薄化である。「約100μmと薄いウエーハを使った中耐圧IGBTの製品化を進めています。さらなる低損失を実現するため100μmを切る薄いウエーハを使ったデバイスの開発にも挑戦します」(東氏)。


[図2] 低オン抵抗を目指して「Multi Epi」から「Deep Trench」へと進化


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