特集:センサ技術
センサ用高出力LD

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センサ用高出力LD

はじめに

半導体レーザ(LD:Laser Diode)は光ディスクの記録再生用の光源として、CD(Compact Disc)用、DVD(Digital Versatile Disc)用、ブルーレイ・ディスク(BD:Blue-ray Disc)用に研究開発が進められてきた。光ディスク用途以外には、主に光通信用、レーザプリンター用のLDが開発され実用化されている。その他には、固体レーザ励起用、加工用、測定器用、医療用、ディスプレイ用、センサ用などにも応用範囲はますます拡大してきている。
センサ用途では、バーコードスキャナー、距離センサ、モーションセンサなどといったセンサに半導体レーザは用いられている。
バーコードスキャナーではLEDなどの光源も使用されているが、赤色レーザを用いてスキャンすることで、スキャン時の視認性を向上させることができ、長い読取距離と広い読取深度を実現できる。
距離センサでは、レーザ光を障害物に照射し、その反射光を検知することで距離を測定する。レーザ光を用いることにより非接触で高精度、高分解能な位置測定が可能なため、車、クレーン、台車、ロボットなど移動体の位置計測や衝突防止、タンク内の液体レベル測定や残量管理、鋼材、木材、石材などの自動寸法測定、紙、鋼板などのロール径、タルミ測定など、産業機器における様々な領域で半導体レーザを用いた距離センサが使用されている。
モーションセンサにおいては、赤外線を使用した深さセンサとカメラを併用した専用センサにより人の動きや画像認識、音声認識を行うといった技術が用いられている。例えば、ゲーム機において、テレビに映し出されたゲーム内の「分身」が、自分の動きと全く同じ動きを即座に再現する、コントローラーを必要としない新たなゲームの操作技術にもモーションセンサが使用される。具体的には、普段生活の中で行っている「手や足を動かす」、「話す」などの動作を行うだけでなく、画面に顔を近づけてユーザーの発するキーワードに反応させたり、更にはユーザーの言葉を理解させてその反応を変えさせることができる。
以上のように、様々なセンサに半導体レーザが使用されているが、本稿ではモーションセンサに用いられる半導体レーザの特徴や主な用途を具体的に挙げて説明する。


半導体レーザの素子構造

図1にファブリペロー型レーザの素子構造を示す。ファブリペロー型レーザは、2枚の反射鏡とn/pクラッド層に挟まれた活性層で構成される。クラッド層は、活性層よりバンドギャップの大きな材料から成り、キャリア(電子と正孔)をエネルギー的に閉じ込める役割をしている。また、クラッド層は活性層より屈折率が小さい材料でもあるため、光ファイバ同様に光を活性層へ閉じ込める働きも同時に行っている。一般に、レーザ光の発振波長は活性層に用いる結晶の材料で決まり、CD用の780nm帯LDではAlGaAs(アルミニウム ガリウム ヒ素)、DVD用の650nm帯LDでは、InGaP(インジウム ガリウム リン)が用いられている。
基板に垂直方向の活性層やクラッド層は、発振波長や、垂直方向の光の閉じ込めの精密な制御を行うため、極めて薄い膜厚が求められる。したがって、ナノオーダーでの制御が可能な有機金属気相成長法(MOCVD: Metal Organic Chemical Vapor Deposition)により結晶成長させて作られる。一方、基板に水平な方向のリッジストライプ構造はミクロンオーダーで制御するフォトリソグラフィープロセスで作られ、電流狭窄と水平方向の光の閉じ込めを行っている。端面はへき開により作製され、原子オーダーで平坦な鏡となっている。ストライプ部に注入された電流によって生じた光が、反射鏡の間を往復する間に増幅することでレーザ発振に至る。

[図1]LD構造図

モーションセンサ用途LDに求められる性能

モーションセンサ用途LDに求められていることとして、(1)1つ目は人の動きを認識するセンサ用途ということから、人の目には完全に見えない赤外の波長帯(820nm帯)で発振すること、(2)2つ目は、要求光出力が連続通電(CW:Continuous Wave)で200mW と、光ディスクで使用される記録(録画)用LD以上の高出力でありながら、再生用低出力LD並みの長寿命が求められることなどが挙げられる。


解決手段

(1) の赤外820nmという波長に関しては、活性層にAlGaAsを用いることで実現できる。前述の通り、AlGaAsは一般的に、780nm帯のCD用LDでも用いられている材料であるが、CD用LDとは異なるAl組成を選択することで、820nm帯まで長波長化することができる。
(2) の高出力、高信頼性は、従来の素子構造では実現が困難であった。一般に高出力LDでは光出射端面からの光取り出し効率を大きくするために2つのへき開面(共振器ミラー面)に反射率の異なる誘電体膜を形成する手法が取られている(非対称端面コート法)。端面コートにより、光学破壊(COD:Catastrophic Optical Damage)レベルはノンコートの場合と比較して向上する。図2に端面コートされた素子の電流-光出力曲線を示すが、そのCODレベルはCW 250mW程度であり、要求されるレベルの200mWは満たしている。しかしながら、このCODレベルはCW 200mWという高出力で連続通電させると、結晶が劣化するために通電中に徐々に低下してしまう。一般に、半導体レーザの信頼性の指標としては通電時の動作電流(Iop)が連続駆動試験の開始時の20%上昇するまでの時間を個々の寿命と定義し、Iopの増加率より故障率を推定する。しかしながら、Iop上昇によって寿命に達するよりCODレベル低下の方が大きいため、高出力LDではCOD寿命により素子の寿命が律速される。

[図2]従来構造における電流-光出力曲線

図3に従来構造における通電カーブを示すが、数十時間でCW 200mWの光出力が出せなくなり頓死してしまうことがわかる。このような頓死は通電中に結晶が劣化してCODレベルが低下したことが原因で起こる。
このCODレベル低下は、レーザ端面近傍ではへき開結晶表面に酸素原子などが結合した表面準位が多くバンドギャップ(Eg)が小さくなっており、レーザ光の波長に対して光吸収領域となっていることに起因する。光出力密度が高くなると、端面部分の光吸収領域での局所的発熱が大きくなり温度が上がる。一般に半導体では温度が上がるとバンドギャップが小さくなるため、この局所的発熱により端面部分のバンドギャップは縮小する。その結果、さらにレーザ光の波長に対する吸収係数が大きくなって温度が上昇する、という正帰還がかかる。最終的には、端面近傍の温度は融点まで達してしまい、光学破壊を引き起こす。

[図3]従来構造におけるエージングカーブ

この問題を解決するのが、端面近傍のバンドギャップを拡げて光吸収を起きないようにさせた端面「窓」構造である(図4)。端面「窓」構造では、端面近傍のみにZn(亜鉛)を熱拡散させ、量子井戸構造を無秩序化させることで端面部分のバンドギャップを拡大させる。
図5に、端面「窓」構造における電流-出力曲線を示す。端面「窓」構造LDでは、レーザ光の波長に対して透明になることから、CODレスとなり最大光出力は熱飽和により規定される。さらに、図6に、1000時間までの通電試験結果を示すが、1000時間経っても故障する素子はない。また動作電流(Iop)上昇も見られていない。図7にエージング後の素子で測定した電流-光出力曲線を示すが、通電後にもCODレスであることがわかる。このように端面「窓」構造により高い光出力と、高い信頼性の素子を得ることができた。

[図4][a]従来構造と[b]端面「窓」構造の模式図
[図5]端面「窓」構造における電流-光出力曲線
[図6]端面「窓」構造におけるエージングカーブ
[図7]エージング後の電流-光出力曲線

まとめ

半導体レーザは、現在様々なデバイスに使用され、実用化されている。今回は、これらの中でセンサ用途、特にモーションセンサ用赤外高出力レーザを紹介した。この赤外高出力レーザに求められる性能である、高出力(CW 200mW)、長寿命を満たすための解決手段として、端面「窓」構造が有効であることを挙げ、試作においても確認した。
この赤外高出力レーザでは、人の動きや画像認識、音声認識を行うことができることから、人感センサなどへの応用も可能である。今後はこのような応用にも対応したレーザの開発を引き続き行っていく予定である。


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