特集:センサー技術
ウェアラブル脈波センサーの研究開発

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ウェアラブル脈波センサーの研究開発

はじめに

ロームでは、半世紀以上にわたる半導体メーカーとして培ってきた技術とノウハウを礎に、様々なセンサー製品の開発を行ってきている。その中でも今回は健康分野におけるセンシングソリューションとして、ウェアラブル脈波センサーの開発状況について紹介する。


ウェアラブル脈波センサーの開発

健康志向が高まる昨今、ひとりひとりが健康管理を行うセルフヘルスケアの時代が到来すると言われている。現在ロームでは、安全にまた手軽に非侵襲にて、正確に計測ができる生体センサーの開発を目指し、ウェアラブル脈波センサーの研究開発を行っている(写真)。
ウェアラブル脈波センサーの測定方法は、半導体技術の一つである光センシング技術を用いて【脈波】の計測を行うものである。この光センシング技術は、光源であるLEDを生体内に向けて照射し、受光部となるPhoto-diode又はPhoto-Transistorを用いて、生体内を透過又は反射した光を計測するものである(図1)。

[写真] ウェアラブル脈波センサ [図1] 光センシング原理

ウェアラブル脈波センサーに採用する光センサーは、皮膚への装着性や負荷を考慮し、反射型光センサーを選定している。この反射型光センサーは、光源であるLEDと受光部であるPhoto-Transistorを同一平面上に配置した表面実装型の反射型光センサーであり、新たに脈波計測用に開発し採用している。
この反射型光センサーによる脈波計測では、皮膚表面にセンサーを配置し、光源であるLEDを生体内に向けて発光しその反射光を受光する。生体内に向けて入射された光は、皮膚表面で反射される光、生体を透過する光、及び生体内で吸収される光に分類される。
生体内に照射された光は、皮膚・脂肪・骨・血液などにより吸収されるが、この内、皮膚・脂肪・骨での光吸収は一定値を示し、時系列の吸収量が変化することはない。一方、血液に関しては、大きく分類すると動脈血と静脈血に分かれるが、動脈血は心臓からの拍動に伴い血流量が変化する。動脈血中には酸素化ヘモグロビンが存在し、入射光を吸収する特性(吸光度特性)がある為、時系列に反射光量をセンシングすることにより脈波形を取得することができる。


ウェアラブル脈波センサー技術開発状況

ロームが目指す脈波センサーは、日常生活中における健康分野への活用である。
その為、医療用途向けに製品化されている脈波センサーの仕様では、指先(又は耳朶)にセンサーを挟み計測を行う方法となる。この方法は装着負荷が大きいことや、計測環境も室内環境下での安静状態での脈波計測に限定されてしまい、日常生活活動中での脈波計測が困難な状況である。
この日常活動中の脈波計測の実現と装着負荷低減に向けた技術開発として、
1.脈波センサー専用反射型光センサーの開発
2.体動ノイズ除去信号処理回路の考案
3.手首での安定した脈波計測
の開発を進めている。
脈波センサー専用反射型光センサーは、主に脈波センサーの感度向上を目的に、光源には緑色LEDを、受光部にはPhoto-Transistorを採用している。
また、この反射型センサーは表面実装型である為、皮膚表面に貼り付けやすく、計測部位の自由度が高く、指先はもとより手首付近でも脈波計測することが可能である。
光センシングの要となるこの脈波センサー専用反射型光センサーを用いることにより、高感度計測の実現によるS/Nの向上や、低消費電力駆動に寄与している。
体動ノイズ除去信号処理回路については、主に被測定者の活動中に伴うノイズ信号を除去する回路である。脈波から得られる脈拍周期は、約0.7~3.0Hzである為、脈拍周波数帯域外の信号成分を低減する脈波計測専用のフィルター回路を考案し採用している。但し、人の活動周波数帯も数Hz帯域である為、信号処理回路のみでは全ての体動ノイズ信号を除去することはできない課題が残る。
手首での脈波計測については、装着負荷低減を目的に開発を行っている。
手首付近での脈波感度特性はあまり高くないが、脈波専用光センサーを用いることにより、現在手首部での脈波計測を実現している。
日常活動中の脈波計測の実現に向けて、これらの技術を結集した結果、現在Wrist(リスト:手首)型脈波センサーにおいて、室内環境下の歩行動作状態で、安定した脈波計測を実現している(図2)。

[図2] Wrist型脈波センサ 測定波形

こちらの図(図3)は、胸ベルト装着型心拍計で計測した心拍数とWrist型脈波センサーにて計測した脈拍数との比較図であり、座位→歩行(6km/h)→座位一連の活動において、相関性があることが確認できている。
今後は、Jogging/Running動作対応を目指すと共に、屋外環境下での安定した脈波計測の実現に向けて、技術課題に取り組んで行く。

[図3] Wrist型脈波センサ及び心拍計にるハートレート計測比較結果

脈波センサーの活用例

脈波センサーより計測された脈波データからは、【脈拍数】や脈拍変動解析より得られる【自律神経の活性度】の算出、また波形解析を行うことにより加速度脈波と呼ばれる解析方法がある。
脈波の解析項目から得られる生体情報から、その人の体の状態や変化を確認することができ、その人の運動能力や緊張状態の把握、自律神経に属する交感神経及び副交感神経の活性度を推察することが可能になり、様々な健康分野への応用と日々のセルフヘルスケアへの活用が期待される。
日常生活中の計測を実現できれば、従来の一回計測の<点データ>から、連続計測の<線データ>を得ることが可能になり、日々の健康管理における体の状態変化について、無線通信を使いスマートフォンやパソコンなどにリアルタイムで観測することで可能にあり、早期に生体の情報変化(予兆)を捕えること可能になることが期待される。
また脈波の解析項目結果からは、エンターティメント分野への応用として、ゲーム機や音楽機器への応用も考えられる。
ゲーム機への応用としては、対戦型ゲームや心理ゲームなどゲームの臨場感の盛り上げなどに活用可能である。また音楽機器への応用としては、音楽のリズムと生体リズムとの融合による心地よい音楽の提供や活動リズムに合わせた音楽提供など、様々なシーンでの活用が考えられる。


最後に

脈波計測は生体情報の重要な指標の一つであるが、健康分野での活用はあまり進んでいない状況である。
活用が進まない理由の一つに、有効なセンサーデバイスが存在しない点が挙げられる。
屋外環境下での活動中の脈波計測を実現する為には、技術面での大きな課題を克服する必要がある。
我々はこの課題を直視し、課題克服に向けた技術開発を押し進めていく。脈波というこの有意義な情報を、いつでも・どこでも手軽に非侵襲にて正確に計測ができるセンサーデバイスの開発を行い、健康分野に役立てることができるセンサーデバイスの早期実用化を目指す。

 

 

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