特集:電源用半導体デバイス技術
SiCパワーデバイス/モジュール

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SiCパワーデバイス/モジュール

はじめに

エネルギーの有効利用への取り組みが広がる中、その一翼を担うデバイスとしてSiC(シリコン・カーバイド)パワーデバイスが注目されている。パワーデバイスとは、インバーターやコンバーターなどの電力変換器に用いられる半導体素子であり、その用途は、電気自動車、ハイブリッド自動車、エアコンなどのインバーター制御、各種汎用モーターなどが挙げられる。現在、その中核を担っているのは、Siのパワーデバイスである。パワーデバイスの性能は、電力変換時の電力損失(素子のオン抵抗に起因する通電損失とスイッチング速度に起因するスイッチング損失の和)が少なく、より高耐圧な素子ほど高性能ということになる。これまでSiパワーデバイスは、低オン抵抗と高耐圧を実現するため、SJ(Super Junction:超接合)構造、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)構造などの様々な技術革新により、Si材料の理論限界を超える性能が得られている。しかし、オン抵抗と耐圧には厳しいトレードオフがあり、さらなるブレークスルーがない限り、現状以上の大幅な特性改善は困難と考えられる。また、近年、システムの冷却機構の小型化などの要求からパワーデバイスの高温動作も求められているが、バンドギャップが1.1eV であるSiで、150℃以上を保証するのは非常に困難である。これらの打開策として、低オン抵抗、高耐圧、高速スイッチング、加えて高温動作も実現できるSiCパワーデバイスに大きな期待が寄せられている。


SiCモジュール

SiCモジュールの応用の1つとして、安川電機が開発したモーター用巻き線切り替えシステム(QMET)用モジュールのモーターへの内蔵が考えられる。モーター内蔵には高温環境動作が必要になる。図1はSiC-DMOSとSi-DMOSのオフ時のリーク電流波形を表している。Siデバイスは、150℃において数uAのリーク電流が生じ、200℃においては、もはや電流を遮断できていないことがわかる。Siはバンドギャップが1.1eVと小さいため、熱的に励起されるキャリアの数が不純物濃度に対し無視できなくなるためである。つまり、P型N型の区別がなくなり、単なる導体となってしまう。このように、現在主流であるSiデバイスモジュールは、モーター内のような高温環境下で、電圧を阻止することが困難である。また、モーター駆動に必要な電流を流すためには、デバイスの総オン抵抗を小さくする必要があるためモジュールが大きくなってしまう。そのため、現在のシステムは図2にあるように、モーターとモジュールは別置きにされており、さらにモーターへ大電流を送るための太い配線も必要なためシステムの容積が大きい。
一方、バンドギャップが3.3eVと広いSiCは200℃においても、熱的に生成されるキャリアの数が少ないため、リーク電流の増加が少なく、高温使用が可能であることがわかる(図1)。また、大幅な低オン抵抗化によるモジュールの小型化が可能なため、モジュールへの内蔵が期待できる。


[図1] Si-DMOSとSiC-DMOSの高温時のオフリーク特性   [図2] SiCモジュール内蔵のイメージ
 

今回、Siデバイスよりも抵抗が低いSiC DMOSよりも、さらに低オン抵抗なSiCトレンチMOSFETを採用することでモジュールサイズを1/3以下にすることに成功し小型化はクリアした(図3)。しかし、従来のモジュール構成材料の耐熱性がないため、モジュールとしての高温動作は困難であった。そこで材料、プロセス、構造を高温動作用に独自に開発し、200℃以上の高温動作モジュールの開発に成功した。図4が試作したモーターに内蔵可能な超小型・高耐熱・高効率600V/1000Aの巻き線切り替えSiCモジュールである。実際にモーターへ内蔵し、モーター駆動に成功した。

[図3] SiC DMOSとSiCトレンチMOSFETの構造図
[図4] モーターに内蔵可能な巻き線切り替えSiCモジュール

SiCパワーデバイス

SiCデバイスの性能は、すでにSiデバイスの性能をしのいでおり、回路に組み込んだ場合の損失低減効果も、これまで様々な企業や研究機関により実証されている。SiC-SBD(ショットキー・バリア・ダイオード)は、すでに海外メーカーにより製品化されていたが、昨年ROHMが国内メーカーで初となるSiC-SBDの量産を開始した。 近年、SiCデバイス開発の主流であるプレーナー構造SiC-MOSFETは、結晶品質の向上とプロセス技術の成熟により、数十Aの電流容量を有する大面積かつ高性能なデバイスの報告が相次いでいる。10年以上にわたり実用化への最大の課題の1つとされてきたゲート酸化膜の信頼性に関しては、Si上酸化膜のQBD値(信頼性の指標であり、酸化膜が破壊されるまでに酸化膜に流れる単位面積当たりの電荷量)と同等以上のSiC上酸化膜のQBD値が多数報告されており、実用レベルに近づいてきた。そして、ついにSiC-MOSFETも製品化が始まった。昨年12月にROHMが世界初となるSiC-DMOSのカスタム品の量産を開始した。続いてCreeも販売を開始した。SiC-MOSFETの今後の課題はチャネル移動度である。SiC-MOSFETのチャネル移動度は、現状ではバルク移動度の5%程度の値しか得られておらず、まだ十分向上の余地があると考えられる。チャネル移動度を大幅に向上させることが出来れば、まずデバイスの総抵抗に占める割合が最も大きいチャネル抵抗を低減できる。 次に、ゲート酸化膜を厚くすることができるため、オン時のゲート酸化膜にかかる電界を低くすることができ、信頼性向上につながる。さらに、酸化膜が厚くなると酸化膜容量が低くなるため、充放電時間が短くなりスイッチング速度の向上が望める。このようにチャネル移動度の改善は、オン抵抗以外の性能も大幅に向上させることができるため、今後最も注力すべき課題であるといえる。また、デバイス構造では、今後のさらなる高性能化に向け、Siの場合と同様に、SiCもトレンチゲート構造への移行を進めていく必要がある。トレンチ構造は、プレーナー構造に比べチャネルの高密度化が可能であり、JFET抵抗も削減できるため、大幅な低オン抵抗化が期待できる。
図5は試作したSiCトレンチMOSFETの特性である。チップサイズが0.5mm×0.5mmと小さいが、規格化オン抵抗はゲート電圧20Vにおいて、1.7mΩcm2、耐圧は790Vが得られた。同耐圧クラスのSi SJ MOS、Si IGBT、SiC MOSFETにおいて、世界最小のオン抵抗であり、トレンチ構造による低オン抵抗化を実証した。しかしながら、オフ時絶縁破壊が不可逆であるSiCトレンチMOS構造特有の課題があった。パワーデバイスは比較的高温な環境下で使用されることが想定され、絶縁破壊機構は耐圧が正の温度依存性を示すアバランシェ破壊(可逆破壊)であることが安定動作ために必須である。SiCトレンチMOSFETの実用化には、不可逆破壊の原因であるトレンチ底部絶縁膜破壊を防止し、アバランシェ破壊が得られなければならない。これを実現するため、トレンチ底部を電界緩和する構造を開発し、安定したアバランシェ破壊を得ることに成功した。さらに、実使用上は素子の定格電圧を超えるサージ電圧が素子に印加されることがあり、このとき素子が破壊しないことが要求される。その指標であるアバランシェ耐量試験の結果を図6に示す。アバランシェエネルギーは205mJ(10800 mJ/cm2)と同電流クラスのSiデバイスと同程度の値が得られ、耐久性のあるデバイスの開発に成功した。今後は、ゲート絶縁膜の信頼性が課題である。トレンチMOSFETは、エッチング面上にゲート絶縁膜を形成するため、エッチングダメージやエッチング面の平坦性がゲート酸化膜の信頼性に与える影響を調査していく必要がある。また、さらなる低オン抵抗化やしきい値電圧の安定性などのため、MOS界面特性改善も重要な課題である。


[図5] トレンチMOSFETの特性   [図6] SiCトレンチMOSFETのアバランシェ耐量試験の特性
 

おわりに

今後SiCデバイスが広く用いられるためには、価格をSiデバイス並みに近づけていく必要があるため、価格の大部分を占めているSiC基板の低価格化と、歩留まり向上のための高品質化が必須と考えられる。また、SiCデバイスのメリットを引き出すためには、パッケージ、モジュール技術などの周辺技術の開発をさらに進めていく必要があると考えられる。

 

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