特集:2012年注目の半導体技術
SiCトレンチMOS搭載 超小型パワーモジュール

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SiCトレンチMOS搭載 超小型パワーモジュール

超小型パワーモジュール開発の背景

近年、急速に発展しているEV/HEV車などに代表されるパワーエレクトロニクスの分野では、更なるハイパワー化や高効率化、小型化が求められている。車載のパワーモジュールや冷却システムの小型化が進めば、自動車内での居住空間が広くとれるなど、私たちの生活をさらに快適にすることができる。このため、パワーエレクトロニクス分野では、より小さなパワーモジュールでより大きな電力を扱えるよう、電力密度を向上することが最重要課題と考えられ、各社で開発が加速している。
ロームでは、これまで開発を進めているSiCデバイスやモジュール技術を用いて電力密度の向上を図っている。従来のSiパワーモジュールでは動作温度は150℃までで、オン抵抗にも限界が見えていたので、チップサイズの小型化は限界まできていると考えられていた。これに対し、ロームはSiCパワーデバイスを用いて200℃以上の高温環境での動作を実現し、チップのオン抵抗を既存のSiデバイスよりも1桁程度低くすることに成功した。このように、ロームではいち早くSiCの特徴に着目し、開発を進めてきた。2010年10月には、世界で初めて225℃の高温で動作するSiCトレンチMOSFETを搭載したモジュールとSiC SBD(ショットキー・バリア・ダイオード)を搭載したモジュールを開発し、モータへ内蔵させて動作を確認した。この高温動作の技術を用いて、パワーモジュールの電力密度の向上を達成してきた。
そして2011年10月、さらなる小型化を目指し、後述する225℃耐熱のトランスファーモールド型のパワーモジュールの開発に成功した。これは従来のSiパワーモジュールと比較して大幅な損失低減や小型化だけでなく、これまでのケース型SiCパワーモジュールと比較して大幅なコストダウンが可能になり、SiCパワーモジュールの普及に大きく貢献する技術である。


SiCパワーデバイスの特徴

図1は各種パワーFETの構造と性能の比較である。SiCパワーFETが、パワーデバイスに要求される全ての性能を満たしていることがわかる。SiCパワーデバイスが高性能な理由は、Siに対し、絶縁破壊電界が約10倍大きいため、同耐圧を得るために必要な耐圧保持層(エピタキシャル層)の不純物濃度を約100倍に、厚さを約1/10にすることができ、パワーデバイスの主抵抗であるエピタキシャル層の抵抗をSiの理論上約1/500程度(キャリア移動度を考慮した場合)に低減することも可能になるからである。
さらに、SiCはバンドギャップがSiの約3倍であること、さらに熱伝導率がSiの約2.5倍であるため、放熱性に優れており、200℃以上の高温動作が可能である。そのため、冷却機構の小型化が期待でき、システムとしてみた場合のメリットは非常に大きいと考えられる。
また、SiCデバイスに期待される耐圧領域(600V以上)のSiデバイスは、バイポーラデバイス(電子と正孔をキャリアとするデバイス)構造のため応答速度が遅いが、SiCデバイスはユニポーラデバイス(電子をキャリアとするデバイス)構造で同耐圧領域をカバーできる。
つまり、Siデバイスよりもより高速なスイッチングが可能なため、大幅なスイッチング損失の低減が期待できる。

[図1] パワーFETの構造と性能の比較

SiCトランジスタの現状

SiCデバイスの性能は、すでにSiデバイスの性能をしのいでおり、回路に組み込んだ場合の損失低減効果も、これまで様々な企業や研究機関により実証されている。SiC-SBDは既に海外メーカーにより製品化されていたが、2010年にロームが国内メーカーで初めて量産を開始した。
近年、SiCデバイス開発の主流であるプレーナー構造SiC-MOSFETは、結晶品質の向上とプロセス技術の成熟により、数十Aの電流容量を有する大面積かつ高性能なデバイスの報告が相次いでいる。 10年以上にわたり実用化への最大の課題の一つとされてきたゲート酸化膜の信頼性にも目処がつき、ロームが世界初となるカスタム品の量産を開始した。
今後のさらなる高性能化に向け、Siの場合と同様にSiCもトレンチゲート構造への移行を進めていく必要がある。トレンチ構造(図2)は、プレーナー構造に比べチャネルの高密度化が可能であり、JFET抵抗も削減できるため、大幅な低オン抵抗化が期待できる。しかしながら、トレンチ構造はトレンチ底部に電界集中し、さらにSiCは内部電界がSiの10倍のため、トレンチ底部の酸化膜の不可逆破壊が生じやすい。ロームはこの課題を克服するため、独自のダブルトレンチ構造(図3)を開発した。
図4はSiCダブルトレンチMOSFETの特性である。チップサイズが1.6mm x 1.6mmと小さいが、規格化オン抵抗はゲート電圧20Vにおいて0.79mΩ・cm2(耐圧 630V)と、世界で初めて1mΩ・cm2の壁を破ることに成功した。現在主流のSi MOSFETの約20分の1の導通損失低減が期待できる(図5)。
今後は、ゲート絶縁膜の信頼性が課題である。トレンチMOSFETは、エッチング面上にゲート絶縁膜を形成するため、エッチングダメージやエッチング面の平坦性がゲート酸化膜の信頼性に与える影響を調査していく必要がある。また、さらなる低オン抵抗化やしきい値電圧の安定性などのため、MOS界面特性改善も重要な課題である。

[図2] トレンチMOSFETの構造 [図3] ダブルトレンチ構造
[図4] SiCダブルトレンチMOSFETの特性とチップ外観 [図5] 従来デバイスとの比較

SiCパワーモジュールの特徴

ロームが開発を進めているSiCパワーモジュールの特徴は、徹底した小型化にある。従来のSiデバイスは、オン抵抗が高いためにチップサイズを大きくする必要があった。さらに150℃までの温度制限が小型化の大きな課題となっていた。SiCパワーデバイスはオン抵抗が小さく、200℃を越える高温環境下でも動作が可能なため、パワーモジュールのサイズを小さくすることが出来る。ロームでは、ケース型に比べて小型化、低コスト化、量産化に有利なトランスファーモールド型の開発を進めてきた。しかし、200℃以上の温度で使用可能な封止樹脂は硬い材料が多く、高温環境下で割れるなどの課題があり、200℃を超える高耐熱のトランスファーモールド型は開発が困難だった。
今回、ロームでは、樹脂の物性値とモジュール構造の最適設計を行うことでこれらの課題を解決した。これにより225℃の耐熱性と小型化を達成し、トランスファーモールド型で225℃での大電力動作を世界で初めて可能にした。開発したモジュールは、6素子搭載で600V/100Aのモジュールである。SiCデバイスを使用した場合でも、150℃までの温度条件では75A程度が限界ではあるが、225℃まで温度を上げられることにより、扱える電流を100Aまで増加させる事が可能になった(写真)。

[写真] 225℃動作可能
トランスファモールドモジュール

SiCデバイスとしての特徴と今回の新パッケージの組み合わせにより、例えば同じ機能を持つ従来のSi-IGBTモジュールと比較した場合、体積比で50分の1の小型化の実現が可能になった。さらに電気的特性面でもフルSiC(トレンチMOSとSBD)化を実現したことにより、スイッチング時間が半分となり、大幅な高速化に成功した。実際のスイッチング波形を見ると、70nsec以下の時間でのスイッチングを達成していること、225℃の高温環境下においても、正常にスイッチングを行っていることが分かる(図6)。

[図6] 開発したモジュールのスイッチング特性

今後の展開

開発したモジュールは、今後も、量産性を高めつつ、信頼性を確立させることで、3~4年後の量産を目指す。

 

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