特集:EMC・ノイズ対策部品技術
2波長セルフパルセーションレーザ

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2波長セルフパルセーションレーザ

はじめに

1982年にCD(Compact Disc)プレーヤーが発売されて以来、光ディスクは、DVD(Digital Versatile Disc)、ブルーレイ・ディスク(BD:Blue-ray Disc)へと大容量化が進んできた。この光ディスクから情報を読み出す、または情報を記録するのに必要なものが半導体レーザ(LD:Laser Diode)である。図1に光ディスク及びプリンターへの応用分野を光出力と発振波長マップ上に示す。光出力では再生用低出力LD(5~10mW)から記録用高出力LD(200mW以上)まで、波長帯ではCD用の780nm帯から、DVD用650nm帯、BD用400nm帯など、用途に応じて多種多様なLDが開発、実用化されている。
光ディスク用途以外にも、光の高速性、大容量性、距離伝達性という情報伝送媒体としての高い能力を生かして光通信用にもLDは使用され実用化されている。また、高速化、高精細化が可能であることからレーザプリンター用にも使用されている。その他にも溶接や鉄板の切断などのレーザ加工分野、レーザメスや歯科治療用レーザなどの医療分野、バーコードリーダー、モーションセンサーなどの光センサー分野、ディスプレイ光源用など、LDの応用範囲はますます広がってきている。
今回は、半導体レーザの主要分野である光ディスク用途、その中でもDVD/CD再生用LDに焦点を当て、それらの中で近年低ノイズLDとして注目を浴びているセルフパルセーションLDを紹介する。

[図1]光ディスク用LD アプリケーションマップ

導体レーザの素子構造

図2にファブリペロー型DVD/CDモノリシック2波長LDの素子構造を示す。ファブリペロー型レーザは、2枚の反射鏡とn型及びp型クラッド層に挟まれた活性層で構成される。クラッド層は、活性層よりバンドギャップの大きな材料から成り、キャリア(電子と正孔)をエネルギー的に閉じ込める役割をしている。また、クラッド層は活性層より屈折率が小さい材料でもあるため、光ファイバー同様に光を活性層へ閉じ込める働きも同時に行っている。
一般に、レーザ光の発振波長は活性層に用いる結晶の材料で決まり、CD用の780nm帯赤外LDではAlGaAs(アルミニウム ガリウム ヒ素)、DVD用の650nm帯赤色LDではInGaP(インジウム ガリウム リン)と用途によって異なる材料が用いられている。
基板に垂直方向の活性層やクラッド層は、発振波長や、垂直方向の光閉じ込めの精密な制御を行うために極めて薄い膜厚が求められるため、ナノオーダーでの制御が可能な有機金属気相成長法(MOCVD: Metal Organic Chemical Vapor Deposition)により結晶成長させて作られる。
一方、基板に水平な方向のリッジストライプ構造はミクロンオーダーで制御するフォトリソグラフィープロセスで作られ、電流狭窄と水平方向の光の閉じ込めを行っている。端面はへき開により作製され、原子オーダーで平坦な鏡となっている。ストライプ部に注入された電流によって生じた光が、反射鏡の間を往復する間に増幅することで利得(ゲイン)を得、利得が閾値を超えることでレーザ発振に至る。

[図2]ファブリペロー型 DVD/CD 2波長モノリシックLD の素子構造

上述のようにDVDとCDでは異なる材料のLDが用いられるが、DVD系光ディスク装置では、CDの上位互換性を確保するためにDVD用LDとCD用LDの2つのLDが必要であり、DVD、CD用それぞれのLDを2つ用いた光学系の設計をしていた。この場合、ビーム間隔やビーム出射方向の精度がLDの組立精度で決定され、ビームの精度を確保することが困難であった。そのためビーム精度確保のために多くの光学部品を必要とし、結果光ディスク装置全体でのコストアップにつながってしまうといった問題があった。
この問題を解決したのがモノリシック2波長LDである。ここでは作製方法の詳細は割愛するが、モノリシック2波長LDは、DVD用650nm帯LDとCD用780nm 帯LD を同一GaAs基板上に作り込んだLDである。この場合、同一基板上に2つのLDがフォトリソグラフィー技術を用いて配置されているため高精度で発光点間隔を制御でき、従来の2つの別のLDを使う場合と比べてDVD系光ディスク装置用ピックアップヘッドの設計が大幅に簡略化できる。光ディスク分野では、再生、記録用途共に2波長LDが主流になってきている。


シングルモードLDとセルフパルセーションLD

図3に、シングルモードLD及びセルフパルセーションLDの特徴を示す。シングルモードLDはCDやDVDなどの光ディスク用ピックアップ向けのLDで主流となっているLDである。シングルモードLDは単一波長で発振し、動作電流が低く高温での動作保証が可能で設計自由度が高いといった長所がある。しかし、LD光を発振させた際に「戻り光」と呼ばれるディスク盤面からの不規則な反射光によりノイズが発生することがあった(図4)。光ディスクではノイズは致命的となるため、重畳ICなどを用いて高周波を重畳させon/offを繰り返し、擬似的に多波長発振させることでノイズを防いでいる。しかし、高周波重畳を行う場合、高周波電流発生回路が装置外部へ高周波電磁波を放射するため電磁障害を起こすという問題が生じるため、電磁波をシールドするなどの不要輻射対策が必要であり、コストアップの要因となっていた。
一方、セルフパルセーションLDとはLD単体で数100 MHz程度の周波数で自励振動(出力on/offを繰り返す)しているLDのことである。セルフパルセーションLDは高温での動作は不適ではあるといった欠点はあるものの、高周波重畳をかけたように波長スペクトル線幅が拡がるため、戻り光ノイズが抑制される。
また、上述の高周波電流発生回路を使って高周波重畳を行なう必要がなく、外部へ放射される高周波電磁波も極めて少ない。これが光ディスク用の低ノイズLDとしてセルフパルセーションLDが注目を集めている理由である。

[図3]シングルモードLDとセルフパルセーションLD
[図4]シングルモードLDの特徴

セルフパルセーションLDの動作原理

セルフパルセーションの動作原理を説明する。図5に示すように、セルフパルセーション動作は、可飽和吸収領域(もう少し光利得〈ゲイン〉が得られればLD発振する領域)を活性層近傍へ設けることで実現できる。
(1)活性層へのキャリア(電流)が注入されていくと活性層の光利得が増える。しかしながら、活性層近傍に可飽和吸収層が存在すると、それが光のロスを生じさせてレーザ発振を生じさせないようにする。さらにキャリアを注入することで、可飽和吸収層での光の吸収が飽和して透明になり、
(2)利得が増えるためLD発振に至るが、
(3)LD発振した際、光がキャリアを一気に消費するため再び可飽和吸収領域が大きくなり、
(4)可飽和吸収層による光吸収によりLD発振が止まってしまう。
しかし、可飽和吸収領域の光吸収によりLD発振できなくなっても、少し時間が経つと再びキャリアが活性層へ注入されるため光利得が増加していく。〈(1)の状態〉
この(1)~(4)の動作を数百MHzの周波数で繰り返し行っているのが、セルフパルセーションLDである。

[図5]セルフパルセーションLDの動作原理

ローム セルフパルセーションLDの特徴

セルフパルセーションLDでは光吸収を必要とするため、動作電流が高くなり高温動作に不適である。また、高温動作時に可飽和吸収層が小さくなり、パルセーション動作しなくなるといった問題があった。これらの問題を解決するために、ロームでは独自特許構造にて低動作電流化と低ノイズ化の両立を実現している。
図6に、電流-光出力曲線の温度依存性を、図7に、コヒーレンシー(これらが大きくなるとノイズ悪化を引き起こす)の温度依存性を示す。他社より動作電流を低減するとともに、温度により急激にコヒーレンシーが悪化するのを防いでいる。


[図6]電流-光出力曲線の温度依存性
[図7]コヒーレンシーの温度依存性

まとめ

今回は半導体レーザの主要分野である光ディスク用途、その中でもDVD/CD 再生用LDに焦点を当てた。まず、2波長セルフパルセーションLDを従来のシングルモードLDと比較しながら紹介し、セルフパルセーションLDが低ノイズLDとして注目されている理由を説明した。次に、セルフパルセーションLDの動作原理を説明した後、最後にローム独自特許構造により開発したセルフパルセーションLDの紹介を行った。
今後は今回紹介したセルフパルセーションLDの他、プリンター用、センサー用途等様々なLD製品のラインナップの充実を図っていく。

 

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