【掲載記事】採用が進むロームのSiCパワーデバイスソリューション

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電波新聞 ハイテクノロジー パワーデバイスと電源技術特集 採用が進むロームのSicパワーデバイスソリューション

はじめに

半導体パワーデバイスは、我々の生活における様々な機器に応用されている。これら機器の更なる省エネルギー化を実現するために、パワーデバイスの技術動向は大いに注目されている。

ロームでは、個別半導体、LSIの開発・製造により培われた技術を応用し、パワーデバイス製品を事業の柱の一つとして注力している。シリコン半導体材料をベースとした高性能IGBTデバイスの製品開発・展開はもちろん、画期的な特性を有したSiC(シリコンカーバイド)半導体を用いたパワーデバイス製品も展開している。加えて総合半導体メーカーとして、制御ICやパワーデバイスとICを複合化したインテリジェントパワーモジュール製品の展開も実現している。以下に、ロームの最新パワーデバイスソリューションを紹介する。

シリコンカーバイド半導体パワーデバイス

SiCパワーデバイス(ケイ素と炭素からなる化合物半導体、炭化ケイ素「シリコンカーバイド」を材料とするパワー半導体)の先進性とすぐれた性能に注目し、長年の研究を経て、ロームは2010年よりSiCショットキーバリアダイオードSiC MOSFET、2012年よりフルSiCパワーモジュール製品を量産開始することで業界をリードしてきた。現在、これらSiCパワーデバイス製品は、産業機器をはじめとし、車載、民生機器など様々なアプリケーションにおいて採用され、その有効性を発揮し省エネルギー化を実現している。

(1)SiCショットキーバリアダイオード

SiCショットキーバリアダイオード(以下、SBD)は、高速リカバリ特性と低順方向電圧特性を有し、高効率電源機器・太陽光のパワーコンディショナーなどで多く使用されているデバイスである。ロームは、AEC-Q101に準拠した車載向けディスクリート製品も2012年より製品展開しており、近年、需要が急増している電気自動車・プラグインハイブリット自動車の車載充電回路に多数のメーカーで採用されている。

さらにロームでは、2016年4月より、第3世代SiCショットキーバリアダイオード製品をリリースした。ロームSiC SBDの特長である低順方向電圧特性を維持したまま、サージ電流耐量を高めることに成功した(図1)。また、高温環境下での特性にも優れ、順方向電圧・リーク電流ともに旧世代品と比べ大幅な改善を実現している(図2)。サーバー・PC等の高効率電源PFC回路での採用が見込まれるが、これらのアプリケーションでは高いサージ電流耐量が求められるケースが多く、市場ニーズに応えた製品といえる。650V耐圧 2A~20A仕様の製品を既にリリースしており、今後1200V耐圧品のラインアップも拡充してゆく。

図1:順方向電圧特性とサージ電流耐量の相関グラフ
図1:順方向電圧特性とサージ電流耐量の相関グラフ

図2:各世代SiC SBDの順方向電圧、リーク電流特性比較
図2:各世代SiC SBDの順方向電圧、リーク電流特性比較

(2)SiC MOSFET

1000Vを超える電圧耐量を持ったスイッチングデバイスにおいて、SiC MOSFETはIGBT製品と比較し、スイッチング損失を大幅に低減できることから、ハイパワーのアプリケーションに最適のデバイスといえる(図3)。ロームでは、2015年より世界で初めてトレンチゲート構造を採用した製品の量産化に成功し、さらに導通損失(オン抵抗)の低い製品をリリースしている。現在、650V、1200V耐圧品をラインアップしている。

図3:Si IGBTとSiC MOSFETのスイッチング損失比較
図3:Si IGBTとSiC MOSFETのスイッチング損失比較

ロームの第3世代トレンチMOSFET構造は、オン抵抗低減に非常に有効であるが、さらにデバイスの長期信頼性を確保することを目的とし、ゲートトレンチ部分に発生する電界を緩和する独自構造を採用している。

トレンチ型SiC MOSFETの「SCT30XXKLシリーズ」および「SCT30XXALシリーズ」は、既に量産化されているプレーナー型のSiC-MOSFETに比べ、同一チップサイズでオン抵抗を50%削減し、あわせてスイッチング性能(入力容量を約35%低減)の向上を実現している(図4)。太陽光発電用パワコンや産業機器向け電源、工業用インバータなど、あらゆる機器の電力損失を大幅に低減する。

図4:同一チップサイズでのトレンチ型SiC MOSFETとプレーナー型SiC MOSFETのオン抵抗・入力容量性能比較
図4:同一チップサイズでのトレンチ型SiC MOSFETとプレーナー型SiC MOSFETのオン抵抗・入力容量性能比較

また1700V耐圧のSiC MOSFETも既に展開済みで、制御用ICとスイッチングデバイスを組み合わせたソリューション提案を行い、産業機器向けに採用が進んでいる(図5)。

図5:1700V SiC MOSFET製品と制御ICのソリューション提案
図5:1700V SiC MOSFET製品と制御ICのソリューション提案

1500V以上の耐電圧性能を有したシリコンデバイスとSiCデバイスの規格化オン抵抗(デバイス単位面積あたりのMOSFET駆動時における抵抗値、低いほど良い)を比較した場合、約100分の1の規格化オン抵抗を実現することが可能となる(図6)。オン抵抗が大幅に低減されたことにより発熱が抑えられ、結果ヒートシンクなどの冷却器の小型化を実現することができた。システムとして全体コストの削減に貢献することで、主に産業機器向けの補機電源などで採用が加速的に進んでいる。

図6:1500V耐圧におけるSi MOSFET とSiC MOSFETの規格化オン抵抗の比較
図6:1500V耐圧におけるSi MOSFET とSiC MOSFETの規格化オン抵抗の比較

(3)フルSiCパワーモジュール

フルSiCパワーモジュールとは上記で紹介したSiCショットキーバリアダイオード、SiC MOSFETを使用したパワーモジュール製品である。同等定格電流のIGBTモジュール製品と比較し、高周波駆動を可能にすることで大幅なスイッチング損失低減を実現している。

今年、ロームは産業機器用の電源、太陽光発電パワーコンディショナーやUPS等のインバータ、コンバータ向けに1200V 400A、600A定格のフルSiCパワーモジュール「BSM400D12P3G002」、「BSM600D12P3G001」を開発した。一般的な同等電流定格のIGBTモジュールと比べ、スイッチング損失を64%低減することに成功した。(チップ温度150℃時)また、高周波駆動による周辺受動部品の小型化はもちろんのこと、スイッチング損失の低減効果が大きくなるため、冷却システムなどの小型化にも寄与する。例えば、損失シミュレーションに基づく試算において、同等電流定格のIGBTモジュールと比較した場合、SiCモジュールの使用により水冷ヒートシンクを88%小型化※することを確認している(図7)。

図7:同等電流定格のSi IGBTモジュールとSiCモジュールを比較した損失シミュレーション結果
図7:同等電流定格のSi IGBTモジュールとSiCモジュールを比較した損失シミュレーション結果

これまで、ハーフブリッジタイプの製品を展開してきたが、さらにチョッパタイプの製品ラインアップも拡充している(図8)。

図8:フルSiCパワーモジュールのパッケージ外観と内部回路構成
図8:フルSiCパワーモジュールのパッケージ外観と内部回路構成

アプリケーション例

SiCデバイスはこれまで、太陽光のパワーコンディショナーや車載用充電器などで使用されてきたが、最近では、EV(Electric Vehicle:電気自動車)車のパワートレイン部での活用も期待されている。ロームは、昨年FIAフォーミュラE選手権に参戦するヴェンチュリー・フォーミュラEチーム(Venturi Formula E Team)と3年間のテクノロジー・パートナーシップを結び、マシン駆動の中核を担うインバータ部分にSiCショットキーバリアダイオードを提供した。これにより、シーズン2で使用していたインバータと比較して効率が1.7%改善、2kgの小型化を達成した。さらに放熱系の小型・軽量化によりインバータの体積は30%小型化しており、今後はSiC MOSFETの搭載を予定している(図9)。

図9:フォーミュラ EにおけるSiCパワーモジュールの進化
図9:フォーミュラ EにおけるSiCパワーモジュールの進化

SiC パワートランジスタは、産機・パワーコンディショナー用のコンバータやインバータに加え、パルス電源や誘導加熱装置でも採用が始まっている。SiC の材料特性から見ると、EVだけでなく電鉄のモータインバータや充電系統、電力インフラなど幅広い分野への参入が期待され、実用化に向けた評価が開始されている(図10)。

図10:SiCパワーデバイスのターゲット市場
図10:SiCパワーデバイスのターゲット市場

最後に

総合半導体メーカーとして、パワーデバイス製品の充実(Si・SiC共に)を図るとともに、最適な駆動用ICやそれらを組み合わせたインテリジェントパワーモジュール製品を展開することで、さらなるアプリケーションの省エネルギー化を図り、社会に貢献してゆく。