世界初*、
ノイズ設計フリー車載オペアンプで車載センサアプリケーションのシンプル設計・高信頼化に貢献

*2017年9月ローム調べ

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電波新聞 ハイテクノロジー 自動車電子部品技術技術特集 世界初のノイズ設計フリー車載 オペアンプで車載センサアプリケーションのシンプル設計・高信頼化に貢献

はじめに

近年、世界各国で地球温暖化の原因である二酸化炭素(CO2)排出量規制が定められ、目標達成に向けた取り組みが積極的に執り行われている。特に、自動車分野においては走行中にCO2を排出しないEV(電気自動車)やHEV(ハイブリッド自動車)が注目を集めており、ガソリン自動車からの移行が始まっている。EVやHEVの省エネ性能をさらに高めるため、自動車1台あたりに搭載される電子部品の数はますます増加している。例えば、EVは電動モータのみで動作し、モータへの電流はメインインバータから供給される。メインインバータはバッテリからの直流電源を単に交流電源に変換しているだけではなく、モータを壊さないための安全装置としての役割もあるため、EVでの重要性は高く、搭載される電子部品にも高い信頼性が要求される。高い信頼性が要求されるのはECU(エンジンコントロールユニット)においても同様で、ECUを核にしてセンサからの入力を処理し、パワートレインの制御を行う場合もある。また、利便性の面からも、Bluetooth®によるスマートフォンとの連携、カーナビ、ETC等、搭載機能は従来よりも増えてきている。そのため、電子部品の搭載数は増加し、高密度化が加速している。

しかし、自動車部品の電子化、高密度化が加速したことにより、微小な信号を扱うデバイスにとってノイズ対策が大きな課題となっている。ノイズ特性は設計検証が難しく作り込みが困難である。そのため、設計者の経験と勘に大きく左右され、場合によっては設計→組立→評価を何度も繰り返すことになり、企業としての負担も大きくなる。自動車におけるノイズ対策の重要性はますます高まってきており、今後も高密度化の加速に伴いノイズ特性の良い電子部品の需要が増えていくことが予想できる。

今回は、こうしたニーズに対応するロームの"ノイズ耐量改善"に特化したオペアンプ「BA8290xYxx-Cシリーズ」を紹介する。

BA8290xYxx-Cシリーズは

  • 従来品を凌ぐ圧倒的なノイズ耐量(全周波数帯域で出力電圧変動±1%以下)
  • 世界標準の車載信頼性規格AEC-Q100に対応
  • 長期安定供給可能
  • ユニバーサル品番とピンコンパチ(互換性)
が大きな特長となっている。

 

ロームの独自技術によりオペアンプ本来の特性はそのままに、ノイズ耐量を劇的に改善した本製品は、ノイズ設計の負荷軽減に大きく貢献する。

自動車を取り巻くノイズ環境について

自動車には様々なノイズ源がある(図1)。バッテリやエンジンから出るノイズ、プリント基板上の周辺回路、モータ、インバータ、スイッチング電源等もノイズ源と成り得る。さらには、カーナビやスマートフォン、オーディオ機器等の通信機器は常に電波を発しているため、これらもノイズ源となる。これらのノイズが信号線や電源ラインに侵入することで、場合によってはシステムの誤動作を招くケースもある。自動車の基本性能である「走る」「曲がる」「止まる」に関わる箇所では特に誤動作が許されないため、あらゆる可能性を想定した上でのノイズ対策が設計者に求められる。

図1:自動車におけるノイズ発生源
図1:自動車におけるノイズ発生源

ノイズ対策は大きく2つに分けることができる。1つは、ICが発生するノイズが他の機器に影響を及ぼさないように、発するノイズを抑制するEMI対策、またはエミッション対策である。もう1つは、他の機器が発生したノイズを受けた場合、その影響を最小限に留めるEMS対策、またはイミュニティ対策である。この、「EMI対策」と「EMS対策」を両立させた設計をEMC設計、またはEMC対策と呼ぶ。EMC対策を確認するためのノイズ測定方法については国際規格が定められており、代表的なものがIEC(国際電気標準会議)、CISPR(国際無線障害特別委員会)である。

自動車とオペアンプのノイズ耐量の関連

オペアンプはアナログ電子回路を設計する際には必ずと言っていいほど使用される重要電子部品である。自動車の電子回路においても様々な箇所に搭載されており、主に電圧増幅のために用いられる(図2)。

図2:オペアンプ採用例
図2:オペアンプ採用例

自動車の基幹システムであるECUでの採用例としては、センサ信号増幅である(図3)。自動車には、位置情報、温度、気圧、流量などの様々な必要情報を検知するために多数のセンサが搭載されている。センサで検知した情報を基に、人間の頭脳にあたるMCU(マイコン)で全体を制御し、最適な駆動を促す。しかしセンサ出力は微弱であるため、オペアンプによりセンサ出力を増幅し、MCUが処理可能な電圧レベルに変換する。その他の使用例としては、モータ制御ユニット等で使用されるオペアンプと抵抗を組み合わせた電流検出回路である。これは、電流検出抵抗によって変換された電圧値をオペアンプが増幅することで、MCUが認識できるようにする回路である。

図3:ECUでのオペアンプ採用例
図3:ECUでのオペアンプ採用例

電圧増幅の際に焦点となるのがオペアンプICそのもののノイズ耐量である(図4)。センサ出力の信号線やオペアンプICに外部からノイズが侵入してきたとき、オペアンプICのノイズ耐量が低いとノイズがそのまま増幅される。その結果MCUの誤認識または誤動作を引き起こし、システムの誤動作を招く。しかし、オペアンプICのノイズ耐量が高い場合、ノイズを除去できるためセンサ信号だけを増幅してMCUに送ることで、システムを正常に動作させることが可能となる。そのため、電子部品の高集積化が進むECUやインバータにおいては、ノイズ耐量の高い電子部品が必要とされる傾向がある。

図4:オペアンプのノイズ耐量の違いによるシステム動作への影響
図4:オペアンプのノイズ耐量の違いによるシステム動作への影響

しかし、ノイズ耐量の改善が困難であるのはオペアンプICにおいても同様である。ノイズ対策を行う場合、回路設計はもちろん、素子の配置、電源ライン、グランドラインすべてが抵抗、容量、インダクタンスの成分を持った素子として考えなければならない。最近では高性能な高周波シミュレータの開発も進んでいるが、プロセス固有の寄生容量や寄生インダクタンス等の詳細な特性まで網羅するには至らず、結局は設計者の知識と経験、勘によってノイズ耐量の強弱が決まると言える。これらのことがノイズ設計の難しさに拍車をかけている。

回路、レイアウト、プロセスを一から見直し、圧倒的なノイズ耐量を実現

ロームは2017年9月、EV / HEVなどの基幹システムや車載センサを採用する車載電装システムに向けて、圧倒的なノイズ耐量を実現した車載用グランドセンスオペアンプ「BA8290xYxx-Cシリーズ」(BA82904YF-C / BA82904YFVM-C / BA82902YF-C / BA82902YFV-C)をリリースした。ノイズ耐量を改善するため、広い周波数帯域でノイズをカットできるEMIフィルタ回路を内蔵し、電源ライン、グランドライン、素子の配置等を全面的に見直し、ノイズに強いチップレイアウトに変更、さらにノイズに強い独自のバイポーラプロセスを採用した。回路設計、レイアウト、プロセスの3つの独自アナログ技術を融合することで圧倒的なノイズ耐量を実現している(図5)。

図5:高ノイズ耐量を実現するローム独自のアナログ技術
図5:高ノイズ耐量を実現するローム独自のアナログ技術

車載製品のノイズ評価試験として用いられる「ISO11452-2」準拠の評価試験(200MHz~1GHz範囲での評価)において、出力電圧変動が一般品±3.5% ~ ±10%に対してBA8290xYxx-Cシリーズは全周波数帯域で±1%以下に抑制することに成功した(図6)。

図6:ローム新製品と一般品のノイズ評価比較
図6:ローム新製品と一般品のノイズ評価比較

BA8290xYxx-Cシリーズを用いることで、従来のノイズ対策設計を不要にすることができる。ICのノイズ耐量を補うためには、影響を受けやすい特定周波数帯のノイズを減衰させる外付けフィルタ回路や、オペアンプICをシールド(金属板)で覆う必要があったが、これらが不要となる。よって、ノイズ対策に要する時間やコストを大幅に削減できるメリットがある。

また前述したように、BA8290xYxx-Cシリーズは車載信頼性規格の実質的なスタンダードとなっているAEC-Q100に対応し、長期安定供給を保証、ユニバーサル品と互換性があるため従来品からの置き換えが簡単にできる。電源電圧は3.0~36V。入力オフセット電圧は±2mV(典型値 / 最大値は±6mV)、入力範囲はVEE ~ VCC+1.5V、動作温度範囲は-40℃~+125℃だ。消費電流は2チャンネル品が0.5mA、4チャンネル品が0.7mAとなっている。従来の性能はそのままに、ノイズ耐量のみを改善したBA8290xYxx-Cシリーズは、まさに市場のニーズと合致している。

今後の展開

新規に開発したBA8290xYxx-Cシリーズは高いノイズ耐量と汎用性、自動車産業向けとしての品質と信頼性を備え、長期安定供給が可能な車載用オペアンプICである。既にロームは自動車産業向けの品質マネジメントシステムISO/TS16949も取得しており、車載向けの製品開発に求められる高い品質や温度条件をはじめ、厳しい環境下での使用における信頼性を十分確保している。このことは、超汎用オペアンプとして10年以上続く自動車への納入実績が何よりの証明である。また、ノイズの影響によるシステムの誤動作に悩まされているのは車載分野に特化した話ではない。FA(製造装置)や産業ロボットに代表される産業機器分野や医療分野においても、今後さらなる需要拡大が見込めるため、システム上でノイズによる誤動作が許されない分野での幅広い活躍が予想される。

CO2排出規制によるEV / HEVへの移行推進、さらには自動車の利便性、快適性向上に伴い、自動車部品の電子化・高密度化が加速している。その影響は超汎用オペアンプに特性改善の声が上がるまでになった。今後自動車におけるノイズ対策がより重要になっていくなか、BA8290xYxx-Cシリーズはノイズ設計負担を軽減させる超汎用オペアンプとして、新たなスダンダード製品になることを大いに期待したい。