産業機器/蓄電システムに最適な、ラピスセミコンダクタのリチウムイオン電池用電池監視LSI

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電子機器保護用部品特集 産業機器/蓄電システムに最適な、ラピスセミコンダクタのリチウムイオン電池用電池監視LSI

はじめに

近年、リチウムイオン電池は小型・軽量化が求められるスマートフォン、ノートPCなどのモバイル機器をはじめとして、使用電圧が高い電動工具やコードレス掃除機等の市場の他、電動自転車を含むLEV(注1)やドローンのような小規模モビリティの動力用途、さらには事業所向け蓄電装置などの産業機器、自動車や電力インフラなどにも用途が広がりつつある。これらはいずれもリチウムイオン電池のエネルギー密度が非常に大きく体積や重量を軽減できることにより利便性や省エネが推進され用途が拡大されているためである。

一方で、リチウムイオン電池は注意しなければならない特性も有している。リチウムイオン電池は、化学反応によりリチウムイオンが電池内で正極と負極の間を移動することで、充電、放電を可能にしている。このため、過充電の状態を継続すると発熱、発火、爆発するといった危険な状態に至る。また、負荷を接続し過放電の状態を継続すると、電池容量の低下や電池寿命を速め、再充電してもすぐに消耗してしまう(図1)。従って、リチウムイオン電池は、常に電池セルの状態をモニタし、過充電、過放電といった状態を回避するための専用の保護回路(電池監視システム:BMS(Battery Management System))が必要となる。その電池監視システムの中心的役割を担うLSIが、電池監視LSIである。

(注1)Light Electric Vehicleの略。電動モーターの駆動力で移動する電動軽車両の総称。

図1:リチウムイオン電池の注意すべき特性
図1:リチウムイオン電池の注意すべき特性

電池監視システムの基本構成とラインアップ

電池監視システムは図2に示す基本構成でリチウムイオン電池を監視し保護している。通常、この監視/保護回路には以下の3つの保護機能が求められる。

(1)過充電、過放電を検出
リチウムイオン電池の各電池セルの電圧測定回路で構成され、各電池セルの電圧値を検出。
(2)過電流を検出
電池パックに流れる回路電流を、電流測定回路で検出。
(3)異常温度を検出
外付けサーミスタを使い、温度測定回路で検出。

リチウムイオン電池や電池監視システムなど部品が搭載された電池パックでは、電池セルが異常な状態になっていないか、電圧/電流/温度を常に検出し、異常の有無を判定している。もしどれか一つでも異常ありと判定されると、充放電制御用スイッチで電流回路を遮断し、電池セルやシステム回路を保護する。

ラピスセミコンダクタの電池監視LSIは、電池監視システムの全機能を持ちマイコン制御不要で単独でリチウムイオン電池を監視/保護するスタンドアロンタイプと、電池監視システムの監視機能に特化して、マイコン制御により高精度、多彩な機能で監視/保護を行うアナログフロントエンドタイプの2種類のラインアップを用意している。

以下にスタンドアロンタイプの電池監視LSIから新商品であるML5245、そしてアナログフロントエンドタイプの電池監視LSIからML5204ML5239について解説する。

図2:電池監視システムの基本構成
図2:電池監視システムの基本構成

電動自転車等に最適でマイコンが不要な電池監視LSI:ML5245

「ML5245」は電動自転車や電動バランス車、電動カートなどのLEVに用いられる電池パック用途に最適なスタンドアロンタイプの13セル対応の電池監視LSIである。以下に示すような電池パックの安全性向上のための様々な機能を搭載している。(図3)

図3:ML5245の特徴
図3:ML5245の特徴

<特徴>

(1)リチウムイオン電池パックの安全性を向上する機能を搭載

従来の電池監視LSIが保有している各セルの過充電/過放電、充放電過電流、ショート電流の検出機能に加え、電池パックの安全性を高める以下の機能を搭載した。これにより、電池パックを構成する周辺回路や部品点数を削減し、小型化・信頼性化を実現することが出来る。

・温度検出機能内蔵
電池セルモジュールに設置された温度センサからモジュール内の温度を直接検出し高温/低温状態を監視保護することが出来る機能を搭載した。これらの検出機能は、マイコンによる制御無しで、充放電用FETのON/OFFを制御することが可能となる。

・充放電用FET過熱防止機能内蔵
電動自転車などでは30A~50Aを超える大電流が電池パック内に流れることがあるため、充放電用FETのボディーダイオード(注2)の過熱対策に、FETの複数並列接続(放熱対策用FET)を実施するため、実装面積、コストが増大していた。「ML5245」は充放電用FETのボディーダイオードに一定量以上の電流が流れるとFETがONする機能を内蔵することで過熱を防止した。

・放電用FET強制OFF機能内蔵
リチウムイオン電池パック以外のシステムに異常が発生した場合には、電池パックを安全に停止する必要がある。これに対し、電池パック外部のマイコンなどから信号入力させ、放電制御用 FETを強制的にOFFさせる機能を追加した。

・セル電圧読み出し機能搭載
各セルの電圧を出力する機能を搭載しており、外部マイコンを活用して本LSIからの各セルの出力電圧値を利用し、電池パックの残量の算出や、各セルの寿命の予測が可能となる。

(2)パワーダウン時の低消費電流

当社の他の電池監視LSIと同様にパワーダウン時の消費電流で業界最小の0.1μA(typ.)を実現している。これにより、電池パック保管時の電流損失を最低限にとどめ、長期間の電池パック保管が可能となる。
(注2) ボディ―ダイオード:MOS-FETのソース-ドレイン間に生成される寄生ダイオードのこと。N-MOSの場合はソースからドレインに、P-MOSではその逆方向に電流が流れるように生成される。

電動工具、ドローン等に最適な電池監視LSI:ML5204

「ML5204」は電動工具、ドローン等の小型システムに最適な5セル対応のアナログフロントエンドタイプの電池監視LSIである。過充電/過放電の検出結果をマイコンに通知することで、マイコンによる充放電用FETの制御を可能にしている。

<特徴>

(1)大過充電検出機能を搭載

過充電検出機能の他に大過充電検出機能を搭載しており、過充電検出電圧を超えてさらにセル電圧が上昇している異常状態をとらえて信号を出力することによりヒューズ回路などに通知することで、異常な過充電を瞬時に停止することができ、システムの安全性をより向上することができる。(図4)

図4:ML5204の大過充電検出機能
図4:ML5204の大過充電検出機能

(2)セルバランススイッチを内蔵

セルバランススイッチを内蔵することで、外部のセルバランス回路を不要にして回路面積を削減することを可能にしている。

(3)ウェイクアップ機能を搭載

一定以上の放電電流が流れたことを検出し割込み信号を出力することによりマイコンを起動させる。充電器を取り外した状態での消費電流を最小化するために、使用していない時はマイコンを休止させ、放電電流が流れた場合にのみマイコンを動作させることにより、電池の消耗を最小限に減らすことが可能となる。

家庭用・事業用蓄電装置に最適な電池監視LSI:ML5239

「ML5239」は家庭用の小型蓄電装置から太陽光発電システム、大型店舗やビルなどの事業者向けの蓄電装置に最適な16セル対応の電池監視LSIであり、多段直列接続機能を搭載することで、多直・高電圧なリチウムイオン電池監視システムに対応すると共に、マイコンによる制御により高精度の制御を柔軟に行うことができるアナログフロントエンドタイプの電池監視LSIである

<特徴>

(1)16セル対応で多段接続可能

業界最大クラスの16セルに対応しており、さらに多段接続が可能であり、大規模蓄電システムの高電圧システムを構築することが出来る。例えば64セル直列(約250V)の高電圧システムを構築する際にも4個の電池監視LSIを使用するだけで十分であり、低コストで信頼性の高い高電圧システムを構築することが可能となる。(図5)

図5:ML5239の特徴
図5:ML5239の特徴

(2)パワーダウン時の消費電流低減

パワーダウン時の消費電流を極限まで小さく(0.1μA@typ.)したことで、システムの低消費電力化を実現することが可能。特に、監視インターバルの長いシステムで効力を発揮する。

(3)機能安全の向上

セル電圧測定端子とリチウム電池間の接続の断線/ショートを検出する診断機能を持ち、外部のマイコンから診断の開始と診断結果の読み出しを行うことで電圧測定の確からしさを向上させることが可能となる。

(4)A/Dコンバータを搭載

測定値は内蔵A/Dコンバータによりデジタル化され、SPIにより外部のマイコンに送信される。シンプルでノイズの影響を受けにくい電池監視システムを構成することが可能。

最後に

リチウムイオン電池の技術的な発展により応用範囲が拡大されているが、今後は車載向けと同様に、監視するLSIの劣化/故障を検知して管理システム上で安全に停止させる機能安全の要求が大きくなってくるであろうと考えている。
ラピスセミコンダクタではこれらの産業機器市場をターゲットに、ラピスセミコンダクタが得意とするミックスドシグナル回路とオリジナルの高耐圧プロセスを活用し、お客様のアプリケーションに最適な電池監視LSIのラインアップをさらに充実させるとともに、電池監視システムに最適な機能安全の実現に貢献していく。