特集:自動車用電子部品技術技術
世界初のDC/DCコンバータコア回路技術で欧州HV市場展開拡大へ

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自動車用電子部品技術特集
世界初の
DC/DCコンバータコア回路技術で
欧州HV市場展開拡大へ

2016年10月6日号

1. はじめに

近年、省エネ意識の高まりにより、あらゆる分野で電力変換ロスを低減するための取り組みが進んでいる。また自動車分野においても同様で、ガソリン自動車からLi(リチウム) イオン電池で駆動するHEV(ハイブリッド自動車)やEV(電気自動車)への移行が始まっている。その中でも従来の12Vの電源システムに比べて燃費改善効果が高く、安全性が考慮された48Vの電源システム搭載のマイルドHEVシステムに注目が集まっている。一方、自動車の多機能化が進んでいるため、電子回路ではエネルギー消費低減目的でECU(Electronic Control Unit)を駆動する電圧は低下している。そのため、バッテリからECUへ位置し電圧を変換する電源ICには "48Vで低出力電圧" 動作が必要となる。さらに、ラジオ帯域へのノイズの影響防止、周辺部品小型化のため、2MHz以上の高周波動作も条件となる。
今回はこれら"高入力電圧、低出力電圧、高周波動作"を実現した降圧スイッチングレギュレータBD51180TLの技術紹介をする。

BD51180TLの特長は

  • 2MHz動作下で48V入力から3.3V出力可能
  • 最小パルスON時間20ns
  • 絶対最大定格80V
  • 電流モード制御
  • 放熱性の高いVQFNパッケージ

である。最小パルスON時間20nsという短時間で制御するローム独自の技術を開発したことで降圧比を大幅に向上させ、セカンダリ電源ICが不要となり、各種アプリケーションの高効率化や小型化、設計負荷軽減に大きく貢献することができる。

2. 欧州で普及するマイルドHEVシステム

HEVを実現する1つの方式として、マイルドHEVシステムがある。マイルドHEVシステムの特長の1つとして、従来の12Vの電源システムに比べてCO2削減効果が期待でき、ストロングHEVシステムより低コストで実現できるというメリットがある。この方式は自動車の停止時、発進時等エンジンを駆動するときに小型の電池とモータで補助するシステムであり、欧州が率先して導入を始めている。背景には厳しいCO2規制がある。欧州は2020年にCO2排出量を95g/kmに制限する必要があり、これはアメリカと比べて約30% CO2を削減しなければならない(図1)。そのため自動車の燃費改善は急務であり、欧州の大手自動車企業を中心に実用化が加速している。結果として、2020年には生産台数が約200万台にまで伸びると予想されている。

各国のCO2排出量規制推移と48VマイルドHEV搭載車台数
図1. 各国のCO2排出量規制推移と48VマイルドHEV搭載車台数

3. マイルドHEV市場に提案する新電源構成

マイルドHEVシステムとストロングHEVシステムの大きな差は、モータとそれを駆動するLiイオン電池の大きさにある。マイルドHEVシステムはストロングHEVシステムに比べて、モータと電池をそれぞれ小さくし、機能を削減することで燃費改善を図るシステムと言える。そのため、モータを駆動するバッテリ電圧はストロングHEVシステムの約1/5程度で48V程度である。結果ストロングHEVシステムで必要な電圧変換器は不要になり、バッテリから直接ECUに電力を供給できるメリットがある。しかしECUの駆動電圧の低下に伴い、その中間に位置する電源ICには極めて高い降圧比のスイッチングレギュレータが求められる(図2)。そのため従来の解決方法としては

ストロングHEVシステムと48V化マイルドHEVシステムの比較例
図2. ストロングHEVシステムと48V化マイルドHEVシステムの比較例
  1. 電源ICを2chip構成にして多段階的に電圧を落とす
  2. 動作周波数を数百kHz程度にする

の2つが一般的であった。しかし、1の場合はICと周辺部品が2倍になり実装面積が大きくなる、2の場合は動作周波数が遅いためにコイル等の周辺部品が大きくなり、且つAMラジオ周波数に影響を与えるという課題がある。そこでAMラジオ周波数を超える2MHzの高周波動作下で48V入力から3.3V出力を1chipで降圧できるスイッチングレギュレータの技術開発を行い、今回それに成功した。結果、周辺部品を含め、従来比の50%以上の実装面積削減が可能となった(図3)。

現在の構成と新構成の比較
図3. 現在の構成と新構成の比較

4. 新構成を可能にする要素技術

降圧スイッチングレギュレータは矩形波をコイル、コンデンサで平滑化して出力電圧を生成する。その矩形波の幅(以下SWパルス幅)は入力電圧、出力電圧、周波数の関数になっていて、
VIN∙tON∙f=VOUT (VIN: 入力電圧、VOUT: 出力電圧、f: 動作周波数、tON: SWパルス幅)
の関係式で与えられる。そのため、入力電圧が高く、出力電圧が低く、周波数が高い場合はSWパルス幅を細くする技術が必要である。
また外付け部品の削減、設計容易化の面から制御方式として電流モード制御が一般的であるが、電流モード制御はコイルに発生する電流をIC内にフィードバックして制御するため、細いパルス制御は極めて困難である。その理由は2つある。1つ目はノイズの起因によるものである。具体的には、電流モードの検出方法は一般にSW端子に発生する順方向降下電圧からS1電流を検出するが、SW波形の立ち上がり時においてリンギングが発生するため、このノイズが原因で検出回路にはマスク時間が必要となる(図4)。

ノイズによる回路遅延
図4. ノイズによる回路遅延

電流検出はそのマスク時間後の検出になるため、SWパルス幅を細くすることは困難になる。2つ目は回路遅延の起因によるものである。電流検出後S1をOFFするためには多くのアナログ回路を動作させなければならない。そこには遅延時間が必ず発生するため、その分SWパルス幅は太くなる。上記2つの理由から、従来品では120ns程度のSWパルス幅が限界であった。さらに、電流モード制御は入力電圧、出力電流を変化させても電源ICの伝達特性に変化がないことが特長である。しかし、従来品の場合は細いSWパルス幅になると電流検出ができずに伝達特性に乱れが生じ、それが原因で外付け部品の増加につながる場合があった。
48VマイルドHEV市場において、Liバッテリの最大動作電圧は60Vに達する可能性がある。3.3V出力、周波数2MHzの動作を想定すると、SWパルス幅30ns未満の高速制御が必要となり劇的なSWパルス幅の短縮をする必要があった。そこで、ローム独自の電流検出回路を用い、ローム製の80V BCDプロセスを採用することで上記課題を解決し、従来比1/6のSWパルス幅20nsの制御を実現した。その結果、入力動作最大電圧は従来の12Vから約5倍高い65Vまで可能となった(図5)。

BD51180TLの特長
図5. BD51180TLの特長

また、今回の細いSWパルス幅でも電流検出可能な方式を用いることで、外付け部品2点だけで幅広い入力電圧、出力電流に対応した伝達特性の実現が可能となった(図6)。

電流モードによる位相補償の簡略化
図6. 電流モードによる位相補償の簡略化

5. 産業機器分野や既存の車載分野にも展開

入力電圧が高く、出力電圧が低いアプリケーションは車載分野に特化した話ではない。建設機器や基地局に代表される産業機器分野においても入力電圧24Vor36Vor48V、出力電圧3.3Vor5Vの構成が多数存在し、本技術を展開することが可能である。2MHzの高周波動作を実現したことで周辺部品の小型化に貢献でき、車載分野と同様のメリットが期待できる。また、ガソリン自動車の12Vバッテリシステムに代表されるように既存の車載市場においても本技術を展開可能である。48Vバッテリシステムと同様に、自動車の多機能化に伴い画像処理などを制御するDDRの動作電圧は低下し1V程度になっている。そのため、入力電圧12V、出力電圧1V、動作周波数2MHzの場合、SWパルス幅を40ns程度まで細くする必要があり、現在は降圧比が大きいために2段構成をとることが多い。しかし本技術を使用すれば、1段で12Vから1Vを出力することが可能になる。

6. まとめ

今回開発したBD51180TLは、
① 2MHz動作下で48V入力から3.3V出力可能
② 最小SWON時間20ns
③ 絶対最大定格80V
④ 電流モード制御
⑤ 放熱性の高いVQFNパッケージ
という特徴を持っており、車載市場から産業機器市場におけるまで幅広く展開できる電源ICである。特に48Vバッテリシステムの導入が進む欧州の車載市場においては高い貢献度が期待され、欧州での車載部品事業を拡大させる戦略商品として市場投入していく。またBD51180TLに使われているDC/DCコンバータコア回路技術は、この1製品にとどまらずロームのキーテクノロジーとなっていくことが期待されている。今後アナログパワー技術を駆使した高効率・高性能な電源技術の開発を加速し、社会の省エネ化に貢献していく。

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