パワー半導体技術特集
進化するロームの最新パワーデバイス

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電波新聞ハイテクノロジー掲載 進化するロームの最新パワーデバイス

はじめに

電力変換時に用いられる半導体パワーデバイスは、あらゆる機器の省エネルギー化に大きく貢献できるため、今後の技術動向に注目が集まっている。
ロームでは、こうした省エネルギー化の流れに対し、個別半導体、LSIの開発・製造により培われた技術を発展させたパワーデバイス製品の展開に注力している。中でも、シリコン半導体では得られなかった画期的な特性を実現するシリコンカーバイド半導体(SiC半導体)製品においては、業界に先駆けた製品展開を行っている。また、総合半導体部品メーカーの特長を活かし、従来のシリコン半導体製品においても制御LSIとの複合型製品の展開を図っている。以下に、ロームの最新パワーデバイスの紹介を実施する。

シリコンカーバイド半導体製品

SiCパワーデバイスは炭素とケイ素からなる化合物半導体、シリコンカーバイド(炭化ケイ素)を材料として作られるパワー半導体である。その先進性と優れた性能から、長年にわたって「夢のデバイス」として期待を集めてきたSiCパワーデバイスは、産業、車載・鉄道、家庭など、今日様々なアプリケーションに採用・検討されており、機器の省エネルギー化に貢献している。

① ロームのシリコンカーバイト半導体製品

ロームは、SiCパワーデバイスの研究・開発から量産に至るまで、業界をリードしてきた。SiCパワーデバイスの製品ラインアップとその特徴について、簡単に紹介する。

• 「SiCショットキーダイオード」 
低いスイッチング損失、順方向電圧特性を有した製品である(図1)。高効率電源などの機器で数多く使用されている。ロームでは、AEC-Q101に準拠したディスクリート製品もラインアップしており、電気自動車・プラグインハイブリッド自動車の車載充電回路でも国内・国外を問わず多数のメーカーに採用されている。

SiCショットキーダイオードとシリコン製FRDの特性比較(650V/10Aクラス)
図1:SiCショットキーダイオードとシリコン製FRDの特性比較(650V/10Aクラス)

•  「SiC-MOSFET」
1000V超える耐圧のMOSFETデバイスは、シリコン半導体では、十分に低い導通損失のデバイス作製困難であるが、SiC半導体では作製可能である。また、高耐圧のスイッチング素子として広く使用されているシリコン製IGBTと比べ、スイッチング損失が5分の1程度であり、 駆動周波数の高周波化による機器の小型化(フィルタ・冷却機構)や電力変換効率の向上に効果が期待できる(図2)。

Si-IGBTとSiC MOSFETのスイッチング損失比較
図2:Si-IGBTとSiC MOSFETのスイッチング損失比較

•  「SiCパワーモジュール」
ロームでは、パワー素子を全てSiCパワーデバイスで構成した"フルSiC"パワーモジュールを量産している(図3)。

SiCパワーモジュールの外観
図3:SiCパワーモジュールの外観

② さらなる大電流化を実現した1200V/300A"フルSiC"パワーモジュール

ロームでは、1200V/120A・180A製品を2012年より量産している。加えて2015年6月より、新たに1200V/300A製品の量産を実施している。
SiCパワーデバイスの高速スイッチング性能を活かすため、モジュールパッケージ内部の低インダクタンス化は大電流仕様化を実現する上で重要な技術である。ロームでは、内蔵するSiC素子の配置や内部パターンを最適化することで、既に量産していた製品(120A・180A)と比較して内部インダクタンスを半減したモジュールパッケージを開発。300A定格の製品化を実現した。
同等電流定格のIGBTモジュールと比較してスイッチング損失を77%低減することができている。大幅なスイッチング損失低減が望めるため、アプリケーション内の冷却機構の小型化が可能となる。さらに高周波駆動にも適しており、たとえば30kHzのスイッチング周波数でパワーモジュールを使用した場合、IGBTモジュールと比較し、導通損失とスイッチング損失あわせて約60%損失を低減することが可能である(図4)。
より高周波スイッチング動作を行うことで、コイルやキャパシタといった周辺部品の小型化も実現でき、機器の省エネ化はもちろんのこと、小型化にも貢献する。

新製品とIGBTモジュールの損失比較
図4:新製品とIGBTモジュールの損失比較

③ 次世代SiC-MOSFETデバイス

従来から量産していたSiC-MOSFETに比べ、同一素子サイズの場合、導通損失(オン抵抗を約50%削減)低減、 あわせてスイッチング性能(入力容量を約35%低減)の向上を実現している(図5)。

次世代SiC-MOSFETデバイスのオン抵抗、入力容量特性
図5:次世代SiC-MOSFETデバイスのオン抵抗、入力容量特性

SiC-MOSFETにおいて、トレンチ構造の採用はオン抵抗低減に有効であるという理由から注目されていたが、デバイスの長期信頼性を確保するためゲート(電圧印加の有無によりMOSFET素子のスイッチングON/OFFを制御する部位)部分に発生する電界を緩和する構造の確立が必要であった。ゲート部位のみをトレンチ構造化した場合に、ゲート構造底部に電界が集中しデバイスの信頼性確保が困難であったためである。ロームでは独自構造を採用することで、ゲート構造底部の電界集中を緩和することができ、トレンチ構造を採用したSiC-MOSFETの量産化に成功した(図6)。

ロームの次世代SiC-MOSFET素子構造
図6:ロームの次世代SiC-MOSFET素子構造

量産化に成功したトレンチ構造採用のSiC-MOSFET素子を使用したフルSiCパワーモジュールをまず製品化している。1200V/180A定格、内部回路がハーフブリッジ構成をした製品である。同等定格のシリコンIGBTパワーモジュール製品と比較した場合はもちろん、従来から量産していた1200V/180AのSiC-MOSFETモジュールと比較し、スイッチング損失を大幅に低減している(図7)。

スイッチング損失比較
図7:スイッチング損失比較

今後は、650V・1200V定格の製品展開をディスクリートパッケージにて予定している。より大電流定格の製品を展開予定である。

ロームのインテリジェントパワーモジュール製品

デバイス特性の優位性から注目を浴びるSiCパワーデバイスと比較し、価格面で優位であるシリコンパワーデバイス製品の市場規模は依然として大きい。ロームでは、シリコン半導体を用いたパワーデバイス開発にも注力している。IGBTやMOSFETといった個別半導体、LSIのみならず、パワー素子と制御ICの複合化製品の展開を行うなど、総合半導体部品メーカーとしての総合力を発揮した製品展開を進めている。以下に簡単に製品を紹介する。

① IGBTインテリジェントパワーモジュール(IGBT-IPM)

電力消費低減を行うため、機器のインバータ化は様々なモータアプリケーションで適用されている。これらのインバータ機器で数多く採用されている製品が、IGBTパワー素子とそれらを制御するIC、周辺回路が1パッケージ化したパワーモジュール製品(IPM:インテリジェントパワーモジュール)である。ロームでは自社製のシリコンIGBTデバイスを搭載し、量産を実施している(図8)。

ロームのIGBT-IPM(MOS-IPM)構成
図8:ロームのIGBT-IPM(MOS-IPM)構成

② MOSインテリジェントパワーモジュール(MOS-IPM)

近年、白物家電においては、特に省エネルギー志向が強くなっている。使用実態に近いエネルギー消費効率を示すAPF(Annual Performance Factor)を表記する傾向にあり、電力負荷の大きい機器起動時や定格条件だけでなく、負荷の小さい定常運転時における省エネ化の動きが高まっている。
ロームでは、IGBT-IPMのみならず、自社製の低オン抵抗「PrestoMOSTM」を搭載し、さらに独自のLSI制御技術を導入したMOS-IPM製品を2015年8月より量産開始している。

•  大電流対応を可能にしたPrestoMOSTM採用
一般的にMOSFETは高速スイッチングや低電流域での導通損失の低さといったメリットがあり、機器の定常運転時の低消費電力化に効果がある。従来のMOSFETでは難しかった大電流化を可能とする自社製PrestoMOSTMの採用により、導通損失を大幅に低減し、IPMの製品化を実現している。

•  ローム独自の回路技術を搭載したゲートドライバIC
ロームでは独自のゲートドライブ回路を導入することで、IPM製品のさらなる高効率化を実現している。例えば、高電圧での高速スイッチング動作に発生しやすいとされるMOSFETの誤動作を防止する回路を導入することで高速スイッチング動作を可能にし、スイッチング損失の低減を図っている。さらに、スイッチング時に発生するノイズにも配慮し、トレードオフとなるスイッチング損失と発生ノイズの最適化を図り、PrestoMOSTMの性能を余すことなく最大限に発揮できるゲートドライブを実現している。
これらの特長により、ローム製MOS-IPM製品は、IGBT-IPM製品と比較し、低電流動作条件下において、大幅な損失低減を実現している。業界トップクラスの消費電力で、アプリケーション全体の省エネ化に貢献する(図9)。

MOS-IPMとIGBT-IPMの損失比較
図9:MOS-IPMとIGBT-IPMの損失比較

最後に

さらなる省エネルギー化を実現するため、既に実用化の進むSiCパワーデバイスにおいては、さらに技術革新を進めていく。また、シリコン半導体分野においても製品ラインアップの充実を図るとともに、制御LSIを含めた複合型製品の展開を積極的に展開する。
今後もロームは、省エネルギー化で社会に貢献していくデバイス開発を進めていく。

関連情報

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