特集:知っているようで知らなかった「アナログの新常識」 <オペアンプ編>

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アナログの新常識(オペアンプ編)

知れば知るほど奥が深い、面白い。アナログワールドの入り口にあなたをご案内。
今回は、知っているようで知らなかったオペアンプのトレンドと新常識を、ほんの少しだけ。

変わらないもの、変わりゆくもの

アナログICの代表選手と言えば、オペアンプ。 世の中はデジタル全盛でアナログを学ぶ機会は減っていますが、実はオペアンプの需要は着実に増え続けています。 多くのオペアンプの中で定番とも言うべき汎用従来品種も根強く使われており、 供給メーカにとっては主力商品である、というのも意外な事実です。
そのいっぽうで、低消費、低雑音、低オフセット、高速というオペアンプの進化と分化は淀み無く続いています。 低電圧化に沿うようにして入出力フルスイングへと動作範囲も拡大しました。 CMOSオペアンプでは、さらなるローノイズ化等も進行中です。 また、産業機器などでは低電圧化に反してCMOSの高耐圧品のニーズも根強いものがあります。 パッケージなどは実装技術の進化に合わせて大きく変わりました2×3×0.6mm(VSON008)等にまで小型化しています。
最近の話題としては、クルマ向けなどで高信頼グレード品が設定されるようになってきたことが挙げられます。 車載グレード品では、温度保証範囲を一般品よりも拡げたり動作温度範囲内のすべての温度で規格値を保証する 全温度範囲保証を取り入れるほか、車載信頼性試験に耐えうるようにウエハプロセスの改良を行っており、 さらに組立工程で製品のできばえを全数検査するなど車載基準で管理されています。(図1)

図1:オペアンプの進化と分化
図1:オペアンプの進化と分化

定番を覚えて拡張<品種選びのコツ>

オペアンプ設計をマスターする一番の早道は、汎用品の定番とされるデバイスを知り、使い方を覚えることだと言われています。実際にオペアンプが使われる回路の多くは汎用品で十分な動作が得られます。そのうえで、扱う信号の大きさが極めて小さいとか高速である、あるいは低電圧の電源しか使えない、といった場合にバリエーションを探す使い分けがコツです。
近年でのオペアンプの定番といえば、358、2904があります。何れも2回路入りの汎用品でオリジナルはLM358LM2904ですが、これらは共通品番となっていて各社から同等のものが提供されており、ROHMではBA10358BA2904です。(表1)

  BA10358 BA2904
入力オフセット電圧 7mV(Max)
入力バイアス電流 45nA(Typ) 20nA(Typ)
利得帯域幅積 0.5MHz(Typ)
スルーレート 0.2V/μs(Typ)
電源電圧 +3.0V~+32.0V +3.0V~+36.0V
動作温度範囲 -40℃~+85℃ -40℃~+125℃

表1:BA10358/BA2904の主な仕様

ちなみにBA2904BA10358の電気的特性をほぼ踏襲しつつ、耐圧や動作温度範囲などを拡張したものです。 実用のためにはバリエーション毎の代表的品種も定番として併せて覚えるのが有利です。 オフセット電圧など特長とする仕様項目の数値のオーダ(桁)を覚えておくだけでも役に立ちます。(表2)

特長 用途 型番 仕様
ローノイズ オーディオ回路 BA4580R 入力換算ノイズ:5nV/√Hz @1kHz
高速・高耐圧 高速電流検出など BA3472 スルーレート:10V/μs  電源電圧:+3~+36V
低オフセット 高倍率増幅回路 BA8522R 電源電圧:+4~+30Vオフセット電圧:1.5mV
入出力フルスイング 電池駆動機器 BU7262 電源電圧:1.8~5.5V  回路電流:250μA/ch
低消費 電池駆動機器 BU7265 電源電圧:1.8~5.5V  回路電流:0.35μA/ch
高精度 高分解能センサ BD5291 電源電圧:1.7~5.5V  CMRR:70dB(Min)
高速 高速電流検出など BU7485 スルーレート:10V/μs  電源電圧:+3~+5.5V

表2:オペアンプのバリエーションと代表的品種

定番オペアンプについては、実際に使われている回路の部品定数まで含めて覚えるのと同時に何故その値が妥当なのかを考える習慣をつけましょう。 実際に使われる回路は、汎用的な性能要求とトラブルから逃れるための多くの経験、 さらにコストや入手性なども考慮して絞り込まれた言わば「熟れた(こなれた)」回路と部品定数だからです。

定番を知って分かるバリエーションの有り難さ

やがて、定番のオペアンプを使った回路は慣れるにしたがって、 "設計のし易さや使いやすさという意味では必ずしも汎用定番品が優れているというわけではないこと、 さらに、そのためにもバリエーション製品が用意されている"、ということにも気づくはずです。
例えば大定番のBA10358で出力電圧が思っていたよりも高めに出ると言うFAQがあります。 よく調べると単電源で電流シンク(吸い込み)をさせると出力電圧の下限が高くなってしまうトラブルです。 これは、BA10358が持つ出力電流対出力電圧特性に起因する特有の現象であり、他のCMOSオペアンプ等では起こらない問題です。(図2)

図2:[FAQ]定番品を使ったのに出力電圧が設計値より高い

図2:[FAQ] 定番品を使ったのに出力電圧が設計値より高い
(A)に示すようにBA10358は、出力シンク電流が10μA以下の場合には グランドレベルに近い電圧を出力可能ですが、 出力シンク電流がそれ以上流れるとLowレベル出力電圧はGND近傍の電圧を出力できません。
  (A):BA10358の出力シンク電流ー出力電圧特性
  (B):BU2761の特性[比較用]

そういった意味で、オペアンプを含むアナログのICは個々のICが持つ細かな特性とその特性が持つ意味を深く理解する必要があります。 仕様を覚えたり特性を検討したりする際には、必ずデータシートを参照してください。データシートは情報の宝庫です。

情報を読み解く。<設計の勘所>

とはいえ、データシートから特性のより深い意味を読み解け、と言われてもビギナーにとっては雲をつかむような話ですので、具体例としてCMOSの低電圧オペアンプのオフセットとバイアス電流そしてCMRRとの関係を採り上げました。
オペアンプの入力バイアス電流(Ib)の温度変化はCMOSの低電圧オペアンプのほうがバイポーラのオペアンプに比べて大きいためハイインピーダンスの回路を組む際には考慮が必要であることはよく知られています。ちなみに、IbはわずかですがCMV(コモンモード:同相信号電圧)の影響を受けます。(図3)

図3:フルスイングタイプCMOSオペアンプの同相入力電圧対入力バイアス電流特性例
図3:フルスイングタイプCMOSオペアンプの同相入力電圧対入力バイアス電流特性例

通常はあまり問題になりませんが、なかにはCMVによってIbが大きくかつ非連続的に変化するオペアンプもあるので注意が必要です。CMVの変化によるIbの電流変動の影響が出力電圧の不自然な変動として観測されることになります。
オフセットの不自然な変動は、CMVとCMRR(同相信号除去比)にも関係します。一般にCMRRはノイズ対策の観点で捉えられることが多く周波数特性に注目しがちですが、CMVはDCであっても(CMRR分は減衰しますが)信号に加算されて出力に現れます(図4)(青線の傾きがCMRRに相当)。

図4:同相電圧とオフセット変動
図4:同相電圧とオフセット変動

したがってCMRRは誤差の縮小という意味でもできるだけ大きいことが望まれます。さらに付け加えると、一般的にフルスイングタイプのCMOSオペアンプの電圧オフセット変化は一様ではなく、あるレベルでステップ的に変化する"ひずみ"を伴います。これまでのフルスイングタイプのCMOSオペアンプでは入力電圧によって内部回路(PMOSとNMOSの入力差動段)を切り換えているためです。そこで最近では切り換えを行わずにフルスイングさせるのと同時に高いCMRRを実現したオペアンプも登場しています。(コラム参照)

コモンモード電圧によるオフセット変動を解消
BD5291 入力/出力フルスイングの低入力オフセット電圧オペアンプ

電源電圧1.7V で、入/出力ともにフルスイングを実現。DRAMなど低電圧のディジタルデバイスと併せて使う用途に向く。また、バイアス電流が1pA(Typ)と非常に小さくセンサアンプ用途にも最適。

従来のフルスイングCMOSオペアンプは(PMOS/NMOS)二つの入力回路を縦積みにして入力電圧によって経路を切り替えていたが、本品ではディプレションタイプの入力回路のみとすることで切り替わりを無くした。「これによりCMVによる不連続なオフセット変動がなくなったため、70dBの高CMRRを実現。また、段積みされるトランジスタ数の個数が減り回路構成がシンプルになったことで、これまでより低い電源電圧である1.7Vでの動作が可能となり、1.8V電源系での使用時に動作マージンを確保している。」

  • 動作電源電圧範囲(単電源):+1.7V~+5.5V
  • スルーレート:2.5V/μs
  • 動作温度範囲:-40℃~+85℃
  • 同相入力範囲:VSS~VDD
  • 入力オフセット電圧:±2.5mV(Max)
  • 同相信号除去比:70dB(Min)
  • パッケージ:2.90×2.80×1.25mm(SSOP5)
BD5291

決め手は総合力

理解・マスターの度合いに境界や限界が無く無限の可能性があるのもアナログの良いところであり、 アナログの魅力です。その意味では設計者がデバイスと付き合うに際してはメーカの総合力まで考察すべきかもしれません。 例えば、今は回路シミュレータで設計・評価する時代ですから、SPICEモデルの提供があるか、データシートは充実しているか、 といったことも加味すべきです。資料が日本語だとさらに良いですね。 勉強用の資料やセミナーなどサポートの有無もビギナーにとっては意外と大きな差です。
最終的には、組み合わせて使う他のデバイスを含めてメーカを統一できると不測のトラブルや分からないことが発生したとき、 さらに量産時の部品購買などの面でも安心です。

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